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<概要>
 (財)日本原子力文化振興財団は、高レベル廃棄物の処分に関して、2001年度に「高レベル放射性廃棄物に関する意識調査委員会」を設けて、国民の意識調査を企画・実施し、調査結果の分析・検討を行っている。高レベル放射性廃棄物についての国民の意識や認識を示すものとして紹介する。21世紀のわが国のエネルギー問題としては、「地球温暖化対策・環境対策」を重要な問題として捉えている(81.2%)。高レベル放射性廃棄物の処分方法の認知度は38.3%と4割以下。放射性廃棄物への関心度は全体の約8割である。放射性廃棄物・放射線について認知度の高い分野は、「放射性廃棄物」そのものがトップで71.5%。原子力や高レベル放射性廃棄物に関する広報や教育の必要性については、全体の5割が「絶対必要」と回答している。高レベル廃棄物やその処分についての不安感は、「地下水が汚染される恐れはないか」(86.9%)がトップ。以下、「後世代に放射性廃棄物の処分問題を残さないか」(84.3%)、「何百、何千年と放射線を出し続けることについて」(83.4%)と続く。
<更新年月>
2003年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 (財)日本原子力文化振興財団は、高レベル廃棄物の処分に関して、2000年5月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が成立し、2000年10月に実施主体である原子力発電環境整備機構が発足したのを受けて、2001年度に「高レベル放射性廃棄物に関する意識調査委員会」を設けて、国民の意識調査の企画及び実施、調査結果の分析・検討を行った。
2.調査の企画と実施
2.1 調査の目的
 原子力の利用は、発電のみならず放射線の医療や産業への利用など幅広い分野で国民生活の大きな支えとなっている。最近では地球環境に対しても、二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー源であることから、その拡大利用が望まれている。しかしながら、原子力発電の新規立地、軽水炉における混合酸化物燃料の利用、高レベル放射性廃棄物の処分、使用済燃料中間貯蔵などについて、国民の理解は必ずしも十分であるとは言えず、これらの諸問題を円滑に解決し、推進していくために取り組むべき課題は多い。特に高レベル放射性廃棄物の処分については、その処分地の選定など計画の進展が待たれている。また、1999年のJCO臨界事故の発生によって、原子力開発に対する国民の信頼は著しく失墜し、原子力技術のみならず開発のあり方についても根本的な問いかけがなされるに至った。今日の原子力開発をめぐるかつてない危機的な状況を冷静に分析し、原子力に対する信頼回復のための活動が急務である。そのためには、国民の意識について調査を実施し分析することによって、原子力に対する信頼の回復と理解促進のために、より有効な方策を検討する必要があると思われる。本調査では核燃料サイクルの現状を調査しつつ、高レベル放射性廃棄物処分に関する国民の意識を探ることを目的として実施した。
2.2 調査の企画
2.2.1 調査の企画
 本調査実施にあたり、有識者からなる「高レベル放射性廃棄物に関する意識調査委員会」を設置し、同委員会において調査の企画、調査票の作成および調査結果の分析などを行なった。意識調査は、日本原子力文化振興財団が実施した。
2.3 調査の方法と内容
2.3.1 調査方法
 本意識調査では、全国の20歳〜69歳の男女を対象に訪問面接調査を実施した。対象者の抽出方法は以下のとおりである。
(1)全国の自治体を自治体コードで分類し、人口構成に応じて50地点抽出できるようにインターバル(抽出間隔)と、スタート番号(ランダムに発生)を設定した。(確率比例系統抽出)インターバルは次の式で求めた。

  インターバル=各層の人口合計/50(抽出するべき地点数)

(2)(1)で設定したインターバルとスタート番号で50地点を抽出した(表1 調査対象地点を参照)。
(3)抽出した地点内で、スタート地点が(2)で決まるので、周辺を等間隔(5軒おき)に住宅地図から20世帯を抽出し、対象世帯とした。
(4)あらかじめ対象世帯へ依頼状を送付し、後日調査員が訪問し調査を実施した。訪問した際に、対象世帯から対象者を割り当て抽出した。対象者の割り当ては、性・年代別にモデルケースを設定し、各地点ごとに調整した。なお、対象世帯の中で、性・年代別の対象者が見つからなかった場合は、周辺の世帯に調査を依頼した。各地点ごとの性・年代別のモデルケースは性・年代別(例えば、男性20代、男性30代)に各一人ずつ、合計10人である。
2.3.2 調査期間
 2001年11月16日(金)〜12月10日(月)
2.3.3 調査.内容
 本意識調査では、エネルギー問題への関心、原子力に対する意識および居住地域周辺への原子力関連施設の有無による、高レベル放射性廃棄物の処分に対する意識の違いを探るため、調査内容を次のとおり設定した。
(1)エネルギー資源に関する関心と意識
(2)原子力に関する関心と必要性・不安な点
(3)原子力関連施設の立地場所に対する認識
(4)高レベル放射性廃棄物に関する認知、意識および不安な点
(5)高レベル放射性廃棄物および処分に関する情報源と情報のニーズ
(6)原子カやエネルギーに関する広報や教育の必要性と形態のニーズ
2.3.4 回収結果
 本意識調査を実施した結果、1,000人の調査対象者のうち、548人から回答を得た。(回収率54.8%)
 上記調査のうち、エネルギー資源及び放射性廃棄物、高レベル放射性廃棄物等に関る結果の要点を示す。
(1)21世紀のわが国のエネルギー問題として重要な事柄(表2
 Q1-3.21世紀のわが国のエネルギー問題として重要と思われるものを、3つ選んでください。
 日本における問題としては、「地球温暖化対策・環境対策」(81.2%)がトップ。特に20代では9割が『重要な問題』として捉えている。以下、「代替エネルギーの開発」(69.5%)、「省エネルギーの推進」(66.8%)と続き、わが国のエネルギー資源の乏しさを補う動きに関心が高いことがわかる。
(2)放射性廃棄物への関心度(表3
 Q3-2.放射性廃棄物およびその処分について関心がありますか。(単一回答)
 放射性廃棄物への関心度は全体の約8割で、「まったく関心がない」は全体の2.9%にとどまる。属性別でみると、20代は関心の低さが目立ち、「関心がない」を合計すると3割を超える。逆に、最も関心が高い世代は40代(87.7%)。また「かなり関心がある」の割合は、年代が高くなるほど増加傾向にある。
(3)放射性廃棄物・放射線について認知度の高い分野(表4
 Q3-5.放射性廃棄物および放射線について、以下の項目をご存知でしたか。(単一回答)
 認知度の高い分野は、「放射性廃棄物」そのものがトップで71.5%。以下、「放射線を利用するガン治療」(70.3%)、「ラドン温泉」(56.0%)、「レントゲン撮影の仕組み」(51.5%)と続き、医療分野の項目が目立つ。その他の項目についての認知度は2〜3割となっている。「ガラス固化体」(11.3%)や「高レベル放射性廃棄物と低レベル放射性廃棄物の違い」(21.7%)については、認知度は低い。
(4)高レベル放射性廃棄物の処理方法の認知度(表5
 Q4-1.この日本の政策(*)について、ご存知でしたか。(単一回答)
 処分方法についての認知度は38.3%と4割以下。「よく知っている」人は1割にとどまり、全体の6割が処理方法についての認識がないのがわかる。年齢が高くなるほど認知度は高くなる傾向にあるが、60代でも認知度合計は5割以下。20代では半数近くが「まったく知らなかった」と回答している。
(*)現在の日本の政策では、原子力発電所から出る使用済み燃料は再処理し、利用可能な成分(ウランプルトニウム)を取り出し、リサイクル(再利用)すると同時に、残りの成分(「高レベル放射性廃棄物」と呼ぶ)は高温で溶けたガラスと練り混ぜて溶かし、ステンレスの容器に入れて冷却し、固めることになっている。その後30〜50年間にわたって冷却のため貯蔵し、最終的には地下300メートル以上の深いところに処分する(「地層処分」と呼ぶ)ことに決められている。
(5)高レベル廃棄物やその処分についての不安感(表6
 Q4-4.高レベル放射性廃棄物やその処分についてあなたが感じたことをうかがいます。(単一回答)
 回答者が懸念している事柄は、「地下水が汚染される恐れはないか」(86.9%)がトップ。以下、「後世代に放射性廃棄物の処分問題を残さないか」(84.3%)、「何百、何千年と放射線を出し続けることについて」(83.4%)と続く。これらの上位項目は「かなり不安に感じる」の回答が4割以上と高いのが目立つ。それ以外の各項目に対しても、不安は比較的大きく(30%程度)、放射性廃棄物・放射線に対する不安は多岐にわたることが明らかになった。
(6)原子力や高レベル放射性廃棄物に関する広報や教育の必要性(表7
 Q5-2.原子力や高レベル放射性廃棄物に関する広報や教育について、必要だと思いますか。(単一回答)
 広報については、全体の5割が「絶対必要」と回答しているほか、「どちらかといえば必要」まで含めると96.5%と、ほぼ全員が「必要」と感じている。各属性とも、約半数が「絶対必要」と回答している中で、女性や20代ではその意識が低いのが目立つ。
<図/表>
表1 調査対象地点
表1  調査対象地点
表2 21世紀のわが国のエネルギー問題として重要と思われるもの
表2  21世紀のわが国のエネルギー問題として重要と思われるもの
表3 放射性廃棄物およびその処分について関心がありますか
表3  放射性廃棄物およびその処分について関心がありますか
表4 放射性廃棄物・放射線について認知度の高い分野
表4  放射性廃棄物・放射線について認知度の高い分野
表5 高レベル放射性廃棄物の処理方法の認知度
表5  高レベル放射性廃棄物の処理方法の認知度
表6 高レベル廃棄物やその処分についての不安感
表6  高レベル廃棄物やその処分についての不安感
表7 原子力や高レベル放射性廃棄物に関する広報や教育の必要性
表7  原子力や高レベル放射性廃棄物に関する広報や教育の必要性

<関連タイトル>
原子力発電の事故・事件と社会の受け止め方 (10-05-01-16)
リスク認知における専門家と一般市民の差 (10-05-01-17)
欧州連合市民と放射性廃棄物 (10-05-04-01)
欧州連合市民とエネルギー問題 (10-05-04-02)
中学・高校の原子力・放射線の教育 (10-08-02-01)

<参考文献>
(1)(財)日本原子力文化振興財団:高レベル放射性廃棄物に関する意識調査報告書(2002年2月)
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