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「エネルギー:課題、選択、技術」と題するこの世論調査は、欧州連合(EU)のおよそ16,000市民(15歳以上)にインタビューをしたEurobarometer 57.0に基づいて作成された。調査は研究総局の科学と社会活動の支援の下に行われ、目的はエネルギー関連の問題、科学的、技術的面と将来の見とおしを含めて、公衆の意見の明瞭な像を得ることにあった。したがって、質問は将来の認識に関するものである。インタビューは
表1に示す15カ国で2002年2月23日〜4月29日の間に実施された。以下の表で、ドイツとあるのは統一ドイツ、連合王国はイギリスと北アイルランドである。また、欧州連合(EU)の値は人口(
表1)を荷重とした平均である。
1.EUのエネルギー
全体としてEU市民は、エネルギー消費の全体的な構造についてむしろ漠然とした考えを持ち、輸送に使用するエネルギー量を過小評価している。北ヨーロッパの若干の国、デンマークとオランダでは人々は、エネルギー使用の実態に幾分近いエネルギー構造の考えを持つ(
表2)。
10人の回答者のほぼ9人は、
地球温暖化と気候変化が早急な対策を必要とする重大な問題であると考えている。
EUにおいて異なるエネルギー源の利用に関する一般的な認識は実情にかなり近い、しかし、各国での特定の状況に関する情報が欠落しているのは明らかである。
教育のレベルと社会的な背景は、環境問題の認識とそれへの対応に決定的な役割を演じている。
(1)エネルギー消費の増加は、EU市民によって認められた
10人のEU市民のうち9人(86%)は、エネルギー使用が彼ら自身の国で増えていることを正しく認識している(
表3)。彼らはまた、EU全体としてエネルギー使用が増加していると信じている(79%)。
エネルギーを節約するという低コストの対策は、回答者の80%に受け入れられた。殆どすべての人(85%)は、自動車によるエネルギー消費は原油からつくられる燃料の消費に依存している。
(2)市民自身の国のエネルギー使用の構造についてのEU市民の知識
平均して、異なったエネルギーが使用されている割合に関する回答は多少なりとも、実際の状況に対応している(
表4-1)。原子力の場合は、事実は全体の10%に過ぎないのに、調査対象者の32%がたくさん使われていると考えている(
表4-2)。
各メンバー国間でのこの認識の変動は、質問される人の教育レベルまたは社会的な状態によるものではない。
(3)家庭の電気消費への態度
ほぼ3分の2(61%)が家庭で使われている電気の量を知ることは重要だと考えている。68%が彼らの家が昨年電気をどのくらい使ったかについて、おおよそ知っていると感じている。
(4)EU市民は、地球温暖化と気候変化に応じて早急な対策をとることを望んでいる
殆ど10人中9人(88%)が地球温暖化と気候変動は早急な対策を必要とする重大問題と考えている。回答者の75%は化石燃料(石炭、石油、ガス等)が気候変動にかなり寄与しているという意見を持っている。しかし、回答者のほぼ半分(47%)は原子力エネルギーが気候変動にかなり寄与している(27%は反対意見)と考えている。殆ど4分の3(74%)が交通・輸送手段である自動車は気候変動にかなりの責任があると考えている。
2.情報
ヨーロッパ人の大部分は、具体的な問題(エネルギー節約)と代替エネルギーに関する情報を得たいと思っている。85%は、彼らがEUのエネルギー関連の研究開発を知らないと認めている。
(1)大部分は情報を求めている
質問「貴方は次ぎのどれをもっと知りたいか」に対する最も多い回答は(複数の回答可)第1が、実用的な課題の、家庭のエネルギーを節約する方法(53%)、次いでもっと複雑な課題、家庭で
再生可能エネルギー源を使う方法(42%)、続いて、ガソリンやディーゼル油に代替するエネルギー(39%)、
原子力発電所の安全(36%)、新しい形式のエネルギーの選択肢の見通し(27%)、エネルギー関連の研究開発におけるEUの活動(23%)、最後に、仕事でエネルギーを節約する方法(13%)(
表5)。
(2)EUのエネルギー関連の研究開発活動
全体としてEU市民の85%が、EUのエネルギー関連の研究開発活動を知っていないことを認めている。彼らが多少なりとも知っている(あるいは、興味を持っている)分野は、わずかに再生可能エネルギー源(9%)とクリーンな自動車エンジンなど(7%)である(
表6)。オランダの顕著な例外は別として、参加国の間でこれらの割合に殆ど変化はなかった。
エネルギー問題と関連した技術に関する情報の主な出処は、テレビ(80%)、新聞(47%)、ラジオ(27%)である。インターネットは、回答者の10%に過ぎなかった(
表7)。
3.将来の認識
EUのエネルギーの輸入依存は、現実の問題として認識されている。そのために、ヨーロッパ人は新しいエネルギー源の研究と、エネルギー節減型の政策の両方によって、回答が見付けられるよう望んでいる。エネルギー政策に関する限り、環境の保護と消費者のために低価格を維持することはEU市民のための最優先事項である(
表8)。
再生型エネルギー源の利点については、回答者の大多数が最少の出費、環境に最善、最後に効率として認識されている。
ヨーロッパ人が今から20〜50年間のエネルギーの選択肢に関して持つ見解は、彼らが好む再生型エネルギーの採用で影響される。大多数は、多様なエネルギー源を使うことがまだ必要であろうと考えるが、エネルギーを
核融合から作り出すことに対するヨーロッパの公衆の態度の分析については、質問の冒頭に掲げた核融合の解説が一般の方々には難しいと思われるにも拘わらず、そして、ヨーロッパの社会の大多数(賛成59%、反対6%)がその可能性を確認するのにもっと多くの研究が必要と信じていることを示している。(
表9)。
安全性に関しては
原子力発電所に対する膨大な要求がある。次に食物の安全、労働の安全、産業の安全である。逆説的であるが、公衆は生涯コストが最小で人的危害と物的
損害を殆ど及ぼしていない原子力発電にもっと公共の政策的対策を要求している一方で、多くの損害を与えている交通事故に殆ど対策を要求していない(
表10)。
エネルギーに関連した研究に関する限り、EU市民は環境保護について重要な成果があることを期待し、再生型エネルギー源と参照して、クリーンな自動車エンジンなどに関してもっと多くの対策を望んでいる(
表5)。
(1)エネルギーに関する政府の優先順位
エネルギーに関する政府の3つの優先順位から選ぶ(2つの回答が可能)インタビューでは、最も多い選択は、環境と公衆衛生の保護(72%)、第2は消費者のための低価格、最後が中断されないエネルギー供給(30%)であった。しかし、EU内で回答にかなりの変動がある。
(2)将来のエネルギー源
市民は、3つの基準、価格、効率、環境保護に基づいて、50年間に亘って、どのエネルギー源が最善か尋ねた。
価格:再生可能エネルギーと信じている。教育水準が再生可能エネルギー源と核融合の割合を増やす傾向がある。
効率(役に立つエネルギーの最大量):EU市民は、あまり確信がないが、または程度は少ないが、再生可能エネルギー(27%)を選んでいる。ついで、核融合は第2位(22%)で、天然ガス(20%)、水力(17%)、
核分裂(17%)と続く。
環境の保護:大多数の人は、新しい再生型エネルギー源(太陽その他:67%)を選ぶ。次に在来の再生型エネルギー源(水力等:38%)、天然ガスは第3の位置(10%)にある。
(3)エネルギー源の組合せの方へ進むことか
大多数は、20年間のEUのエネルギー需要は、「1種類のエネルギー源 」(5%)よりは、「エネルギー源の混合」によって満たされる(81%)と考えている。
(4)安全対策に関するEU政府の3つの優先事項はなにか
極めて少ない例外はあるが、原子力安全がヨーロッパでは一番関心がある。逆に交通事故は、比較して言うと最も重要性の低い問題であり、EU全体として19%のスコアと考えられている(
表10)。
(5)エネルギー関連の研究
エネルギーに関連した研究に関して、EUがもっと研究を進めて欲しい2つの分野は、再生可能エネルギー源(69%)、クリーンな自動車エンジン(電気自動車を含む)(51%)、ついで核融合が続き(21%)、在来エネルギー源は遥かに遅れている。
新しいエネルギー源と輸送の浄化手段は、スウェーデン、オランダ、デンマークで一番多く選ばれているが、ヨーロッパ全体で非常に広いコンセンサスがある。
原子力研究を続ける主な理由は、原子力発電所の安全改善(48%)、次いで廃棄物処分の安全改善である(43%)。
4.行動と政策
EU市民の大多数は、エネルギー節約に最も大きい影響を持つのは産業の行動と考えている。EU市民はまた、産業に対するもっと厳しい規則と調査を望んでいる。
エネルギー節約対策に関して、公衆は個人に義務を課さないような対策を好んでいる。しかし、4分の1は車とビルの断熱への厳しい規制を受け入れるであろう。エネルギーを節約する方法を実践しているかどうかEU市民に対して8つの節約方法のうちから2つを選択させる設問を行った。北に位置する国ほど節約実施の評点は平均値に比べて顕著に高いことが示された。
個人がエネルギーを節約するためにやることは、国から国、社会的及び文化的背景によって変化する。エネルギーを節約しないEU市民は少数派に過ぎない、しかし、EU市民がエネルギー節約で一番多やることは、家庭の消費を節約する設計(冷暖房、照明、断熱)である(
表11-1、
表11-2)。ヨーロッパ人の約3分の2が将来もっとやりたいと思っているが、今度も輸送よりは家庭中心である。
調査は、このように消費者の間の、特に北ヨーロッパの回答者の3分の1が再生型エネルギーにもっと支出することに同意しているように、グリーンエネルギー市場の緊急性を明らかにし確認するものとなっている。同じ割合で回答者は、新しい装置や機器を買うときは使うエネルギーの量に注意を払うといっている。
ヨーロッパ人の多数はエネルギー部門の計画や建設プロジェクトに、特に地域の計画に関する限り、参画することを望んでいる。
<図/表>
<関連タイトル>
欧州連合市民と放射性廃棄物 (10-05-04-01)
米原子力エネルギー協会(NEI)の世論調査(2003年5月) (10-05-04-03)
米原子力エネルギー協会(NEI)の世論調査(2004年10月) (10-05-04-04)
<参考文献>
(1) Eurobarometer,Energy:Issues, Options and Technologies Science and Society,
(2) 日本原子力産業会議:原産新聞、2003年3月27日版、第3面