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<概要>
 1994年に策定された原子力開発利用長期計画で、青少年に対する原子力の正確な知識の普及がとりわけ重要であると謳っている。現在の学習指導要領によると、環境教育やエネルギー・原子力の教育は重視されており、これらの教育は理科と社会科で扱われている。米国や英国では1990年代約10年をかけて科学教育の基準を作成し、これに沿って、科学教育が行われ、科学教育への全国民の参加を求めている。エネルギーに関する教育もこの基準にしたがって、計測できる実態として教えられている。最近、文部科学省では学力向上のためのプロジェクトが進められており、科学もこの中で扱われている。経済産業省ではエネルギー・環境教育用の情報センターを開設している。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 1994年6月24日に策定された「原子力開発利用長期計画」の中では、国民の理解の増進と情報の公開について述べ、国民が原子力について判断する基礎となる情報を適時、的確に提供していくことが重要としている。この中で、将来のことを考えると、青少年に対する原子力の正確な知識の普及がとりわけ重要であるといっている。正確な知識の普及という点では、この問題は、教育と密接に関係しており、学校教育でエネルギーや原子力がどのように扱われているかについて現状を整理してみた。
1.わが国の現状
1.1 教育課程
 1991〜1992年にかけて発表された現在の学習指導要領によると、環境教育を強力に進める中で、環境教育やエネルギー・原子力の教育は従来より重視されており、これらは理科と社会科で扱われている。
1.1.1 小学校での教育
 小学校教育においては、「自然に親しみ、観察・実験などを行い、問題解決の能力と自然を愛する心情を育てるとともに自然の事物・現象についての理解を図り、科学的な見方や考え方を養う」を理科の目標としている。第3学年から、理科の内容は、生物とその環境、物質とエネルギー、地球と宇宙の3つの領域に区分されている。エネルギーという用語は単に理科の内容区分として用いられているだけである。物理的・化学的内容は物質とエネルギーとの関係で扱うが、エネルギー概念を教えるということではない。エネルギー問題は、社会科の中で、エネルギーに関連して発生した廃棄物の対策が、地域住民の健康な生活の維持向上、すなわち、環境保全活動に役だっていることを理解させることを目的としている。
1.1.2 中学校理科の目標と内容
 中学校理科では「自然に対する関心を高め、観察、実験などを行い。科学的に調べる能力と態度を育てるとともに、自然の事物・現象についての理解を深め、科学的な見方や考え方を養うこと」を全体の目標とし、以下のように定めている。
[第1分野]
 第1分野の内容は、以下のように区分されている。
(1)身の回りの物質とその変化、(2)身の回りの物理現象、(3)化学変化と分子、(4)電流、(5)化学変化とイオン、(6)運動とエネルギー
 このうち、(6)のなかで、「日常生活では、科学技術の成果としてさまざまな素材やエネルギーが利用されていることを知ること」とされており、原子力発電火力発電の相違点と類似点に触れるようになっている。
[第2分野]
 この分野では、生物とそれを取り巻く自然の事物・現象を扱い、第1分野と同様の目標を掲げている。
 第2分野の内容は、以下のとおりである。
(1)植物の生活と種類、(2)地球と太陽系、(3)動物の生活と種類、(4)天気とその変化、(5)生物のつながり、(6)大地の変化と地球
 このうち、(6)の中で、「人間が利用している資源やエネルギーには、天然資源、水力、火力、原子力などがあることについて認識を深めること」としており、資源の有限性と資源の有効利用を理解させるようになっている。
1.1.3 高等学校の理科の目標と内容
 高等学校では、エネルギーと環境問題は、世界史B、地理A、現代社会、政治・経済、総合理科、物理1A、物理1B、地学1Aで扱われている。世界史Bの「科学技術と現代文明」では、原子力を含む現代の科学技術の人類への寄与と課題に触れ、人類の生存と環境、世界と安全などについて考察させる。地理Aでは、「地球的課題の出現とその要因」で、環境・資源・エネルギー、人口、食料等の動向に着目させ、現代社会は地球的課題を多く抱えていることを理解させ、各国の取り組みとともに国際協力が必要なことを理解させる。現代社会では、「環境と生活」の中で、環境と生活との関わりについて考えさせる。政治・経済では、「現代経済と福祉の向上」の中で、食料と農業、資源・エネルギー、環境保全と公害防止について考察させる。
 総合理科は、自然環境の調査などを中心に自然に対する総合的な見方や考え方を養う科目であり、大項目として「人間と自然」という環境問題が単元となっている。放射能及び原子力の利用とその安全性の問題に触れることとして、原子力の有用性と放射性廃棄物の処理等、人体への影響に十分配慮することを扱うよう求めている。
 物理1Aでは、将来必ずしも理科系に進学しない生徒が履修することを想定し、将来の市民としての科学的な素養を身につけさせるため、5つの科目がある。そのうちの2科目として「エネルギーと熱」、「情報処理」を必須科目としている。地学1Aは、暦、自然災害、資源調査、環境保全など日常生活に関連した内容で構成されている。さらに核物質の役割とその安全性を扱っている。物理1Bは、旧教育課程の物理と内容的には変わらないが、従来知識偏重に流れていた傾向を是正している。「放射能」では、放射能及び原子力の利用とその安全性の問題に触れている。
 この新しい教育課程では、(1)問題解決能力、(2)数理的能力、(3)情報処理能力、(4)コミュニケーション能力、(5)環境を評価する能力
を育てていくことが重要であるとしている。
2.海外と日本のエネルギー教育
2.1 米国と英国のエネルギー教育
 欧米では、ここ20年来、次世代層の科学・技術教育を重視しており、エネルギー・環境教育も、その文脈の上で進められている。
 米国は、次世代の科学技術教育に国を挙げて取り組んでいる。米国教育界は次世代の生産性を確保するためには、サイエンスの教育が重要であるというので、早くから取り組んでいる。
 全米学術会議(National Academy)傘下の全米研究審議会(National Research Council)は、科学教育の基準を検討し、1995年迄に原案を作成し、1996年に公布した。「次世代の米国民の活動と繁栄に科学は欠かせないという考え方に沿って、科学教育基準(National Science Standards:NSS)にしたがった科学教育を進めている。
 科学は、「科学の概念と過程の統合」、「探求としての科学」、「物質の科学」、「生命科学」、「地球と宇宙の科学」、「科学と技術」、「個人と社会の繁栄の科学」、「科学の歴史と性質」の8教科からなっている。
 例えば、「物質の科学」の中のエネルギーの移動では、「エネルギーは多くの物質の特性で、熱、光、電気、機械の運動、音、原子核及び化学的性質と関連している。エネルギーはさまざまな方法で移動する。」ことを理解させ、熱、光、電気回路、化学及び原子核反応のエネルギー移動の仕方を、具体的なものとして理解させ、最後に、「太陽は地表の変化をもたらすエネルギーの主な源である」を理解させることとなっている。
 米国では、エネルギー教育の中心は、エネルギー省で、「サイエンス、数学と技術の教育を進展させることはエネルギー省の重要な使命である」といっている。「Energy, Science, and Technology Information」はエネルギー省の科学・技術情報室( Office of Energy, Science, and Technology)へのリンクで、マンハッタンプロジェクト以来今日までのエネルギー、サイエンス、技術開発の豊富な情報にアクセスできる。「Education Web Sites at DOE Labs and Facilities」は、エネルギー省が1983年以来進める、傘下の研究所のサイエンス教育活動とサイエンス教育のための資料センターのウェブサイトである。必ずしも、エネルギーに限っているわけではなく、地質時代、原子、化学、環境問題なども含んでいる。多くの国、民間の教育支援活動がエネルギー省の教育プログラムと連携を保っている。関連タイトルを参照されたい。
 英国では、1988年の教育改革法(Education Reform Act)に基づいて、ナショナル・カリキュラム(National Curriculum:NC)が設定されている。 1988年の教育改革法と1997年の教育法(Education Act)は、すべての学校に、以下のようなカリキュラムを生徒に用意するよう要求している。調和が取れて広い基礎に立ち、生徒の精神的、道徳的、文化的、知的かつ肉体的発育を促進し、大人の人生の機会、責任、経験のための準備をさせる。加えて、宗教教育、性教育を含める。NCは義務教育学校の生徒のために最低限の教育の権利を定めるもので、これは学校の全教科課程を構成するものではなく、学校はその特殊な必要と環境を反映して、その全課程をつくる裁量権がある。NCは5−16歳のすべての生徒に適用される。サイエンスは数学とともに必須課目である。
 NCの中で、エネルギーは、例えば、「地球とその先」>「エネルギー資源とエネルギー伝達」中で、多様なエネルギー資源他、7教科に亘って扱われている。
 米国と同様、多くの国、民間の教育支援活動がある。関連タイトルを参照されたい。
2.2 日本のエネルギー教育
 わが国では初等・中等教育段階において、エネルギーを系統化した教科は学校教育の中にはない。高等学校ではごく少数(1割程度)の生徒が選択によって、原子カエネルギーに関わる教材を学び、諸々のエネルギーの基礎原理を学習することができる(表1)。しかし、社会科・理科等4教科でエネルギーの事項が、教える側の便宜に従って、相互の関連なく扱われており、エネルギーについて価値概念を形成するには不充分である。エネルギー教育を進める上で、学校には、教材・資料が不足しており、電力会社などに頼っているのが現状である。このため、学生の大多数はエネルギーについて、学校で系統的に学ぶことなく、社会に出てしまう。関連タイトルを参照されたい。
(1)文部科学省の教育支援プロジェクト
 文部科学省には科学技術教育と標榜したプロジェクトは見当たらない。一般的に学力向上を目標にしたプロジェクトは幾つかある。
・学力向上フロンティア事業
 全国47地域(各都道府県)において、「学力向上フロンティアスクール」を核として、児童生徒の指導の充実のための実践研究を推進し、「確かな学力」の向上の実現を目指す事業。教育技術がテーマである。
・「理科大好きスクール」事業
 文部科学省と都道府県教育委員会との連携・協力の下、理科教育の充実を図る取組を実施し、学校教育における科学技術・理科教育の推進を図る。
・2003年度スーパーサイエンスハイスクール
 2002年度から,科学技術・理科,数学教育を重点的に行う高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」として26校指定し,理数系教育に関する教育課程の改善に資する研究開発を行っている。
・教育情報ナショナルセンター
 わが国における教育・学習に関する情報ネットワークの中心的役割を果たす目的で造られている。インターネット上にある日本の教育・学習に関するあらゆる情報を収集し、体系的に整理しようとしている。
(2)資源エネルギー庁が進めるエネルギー教育のプロジェクト
 表2は、将来、エネルギーを利用し、そのエネルギー源の選択を担う中心的な世代である児童・生徒が、エネルギーを取り巻く諸情勢に関する正確な知識と科学的知見を深め、エネルギー問題に対する総合的な見方・考え方を育成し、自ら考え、判断する力を身につけることができるよう支援することを目的として作られている。
 この表に掲載されているページは、エネルギー・環境情報センターにリンクされていている。このセンターは資源エネルギー庁がバックアップするセンターで、次の活動をしている。
 ・児童・生徒用補助教材、教師用指導資料の作成
 ・各種イベントの実施
 ・情報誌の発行
 ・ライブラリーの設置
 米国エネルギー省のEducation Web Sitesのように発展することが期待されている。
<図/表>
表1 「学習指導要領」におけるエネルギー教育の内容(主なもの)
表1  「学習指導要領」におけるエネルギー教育の内容(主なもの)
表2 エネルギー教育への取り組み
表2  エネルギー教育への取り組み

<関連タイトル>
中学・高校の原子力・放射線の教育 (10-08-02-01)
IT技術を用いた放射線オンライン教材 (10-08-02-04)
原子力教育における教員研修 (10-08-02-05)
米国の科学教育プログラムとその背景 (10-08-03-01)

<参考文献>
(1)江田 稔:文部省の学習指導要領におけるエネルギー・原子力の扱いの視点、エネルギーレビュー(1995年3月)、p.4
(2)松本 勝信(編著)、山極 隆(監):大学・現職教育テキスト 理科教育法、三晃書房(1993年1月)、p.10?11
(3)恩藤 知典:エネルギー・原子力学習の実態と問題点,エネルギーレビュー(1995年3月)、p.7
(4)松浦 辰男:高等学校教科書(理科 社会科)の原子力の扱い、エネルギーレビュー(1995年3月)、p.14
(5)日本原子力文化振興財団:欧州「エネルギーと環境」教育事情調査団報告書(1992年3月)
(6)日本原子力文化振興財団:日本とヨーロッパ「エネルギーと環境」に関する高校生の意識調査報告書(1993年4月)
(7)次世代に原子力はどのように伝えられているか 若年層への広報活動の現状と将来、日本原子力学会誌、37(5)、p.375(1995)
(8)工藤 和彦:エネルギー・環境教育と原子力、日本原子力学会誌、40(1)、p.1(1998)
(9)教育情報ナショナルセンター(NICER):
(10)文部科学省:生涯学習・学校教育,小・中・高校教育に関すること,学力向上アクションプラン,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/actionplan/index.htm
(11)文部科学省:平成15年度スーパーサイエンスハイスクールについて
(12)資源エネルギー庁:施策情報、その他、エネルギー教育に関する支援策
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