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エネルギーと環境問題についての青少年の教育、とりわけ学校教育における取り組みは、重要な問題である。とくに初等中等教育においては、この問題に関する学習の機会をすべての生徒に与える必要がある。しかし現状では、学校のカリキュラムにおいても、教育内容においても、著しく対応が遅れており、生徒に対して十分な情報提供と教育が行われているとはいいがたい。
日本原子力文化振興財団は、1993年4月に日本とヨーロッパ6カ国(イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、スイスおよび旧チェコスロバキア)における「エネルギーと環境」に関する高校生の意識調査結果をとりまとめた。それによれば、日本の高校生は、ヨーロッパ諸国の高校生に比べて、「エネルギーと環境」に関する意識が低く、かつ、その知識も不十分であることが明らかになった。この傾向は、財団が1997年度、日本の高校生を対象に実施した意識調査結果によっても再確認されている。
1998年度は、「エネルギーと環境」に関する中学生の意識の実態を把握し、今後の学校教育の内容やカリキュラムの改善策について、教育関係者に働きかけていくための基礎的資料を作成することを目的にして、中学生を対象に「エネルギーと環境」に関する意識調査を実施している。
1.調査の方法と内容
学校の選定は、全国から人口100万人以上、30万人以上、10万人以上、10万人未満および原子力立地点の5つの区分に応じて、対象地域を選び、
表1 (1)対象地域と学校数及び回答者の内訳に示すように学校数(90校)を配分してある。
調査は、各中学校(調査協力校)の担当教論の協力を得て、授業の中で1学級35名(平均)の生徒に回答してもらう方法で行った。
この意識調査では、中学生がエネルギーや環境問題について考えるとき、どのような関心、情報源、知識をもっているか、それが行動、態度などに対して、どのような影響を与えているか、その関連を調べることを主眼とし、全部で14項目の質問項目が設定されている。これらの質問項目の関連は、
表2 に示されるとおりである。
依頼した90校の中学校(調査協力校)のすべてから回答が寄せられ、回答者の総数は、3,229名であった。回答者の学年別、性別の内訳は、
表1(2)に示すとおりである。
2.調査結果の概要
(1) 環境問題に対する関心
身近な環境問題である「家庭からのゴミ」から地球規模の環境問題である「
地球温暖化」など7つの項目を示し、この中から関心をもっているものを3つまで選ばせている。
図1 に示すように、「地球温暖化」を上げる生徒が67.1%で最も多く、以下、「川や海の水のよごれ」、「開発による自然破壊」、「自動車の排気ガス」、「
酸性雨」、「家庭からのゴミ」、「工場からの煙やゴミ」という順である。
中学生は「家庭からゴミ」のように身近な環境問題に高い関心を示すというより、「地球温暖化」のように地球規模の環境問題や「川や海の水のよごれ」、「開発による自然破壊」に高い関心を示しているといえよう。
性別でみると、「地球温暖化」や「川や海の水のよごれ」については、あまり大きな差はなかったが、「家庭からのゴミ」や「開発による自然破壊」については、男性よりも女性の方が高く、逆に「自動車の排気ガス」や「酸性雨」については、女性よりも男性の方が高くなっている。どちらかといえば男性は社会的な問題に関心をもち、女性は身近な問題に関心をもっているといえよう。
学年別にみると、「開発による自然破壊」については、学年が上がるにつれて高くなっているが、「酸性雨」については、学年が上がるにつれて低くなっている。
(2) エネルギーや環境問題に関する情報源
「学校の授業」、「博物館・科学館・展示館」、「雑誌・週刊誌」、「パソコン通信・インターネット」、「テレビ・ラジオ」、「友人・知り合いの人」、「新聞」、「家族」、「パンフレット」、「本」の10項目を示して、この中から、情報源として1番多いものと2番目に多いものを2つ選ばせている。
図2 に示すように、「テレビ・ラジオ」をあげた生徒が70.3%で最も高く、以下、「学校の授業」、「新聞」、「本」などという順になっている。このあと、「家族」、「博物館・科学館・展示館」、「雑誌・週刊誌」、「パンフレット」、「パソコン通信・インターネット」、「友人・知り合いの人」が続いているが、これらは10%以下の低い数値である。
生徒の情報源が「学校の授業」より「テレビ・ラジオ」などマスメディアによるものが多いことに注目する必要がある。
性別でみれば、「学校の授業」と「家族」では、女性の方が高く、「新聞」と「本」では逆に男性の方が高くなっている。特に「学校の授業」では、女性48.8%に対して、男性40.9%であり、女性が7.9%も高くなっている。
学年別にみれば、「テレビ・ラジオ」については、学年が上がるにつれて高くなっているが、「家族」については、高学年になるほど低くなるという傾向がみられる。
(3) リサイクルや省エネルギーの行動
表3 の8項目に対して、「よくしている」と「たまにしている」の合計では、上記の1番目から5番目までが省エネルギー関係と情報収集の意欲とで占められ、リサイクル関係は6番目以下となっている。省エネルギー関係の行動が屋内にあるのに、リサイクル関係の行動は屋外であることによると思われる。
項目の中で「よくしている」と答えた人を性別でみると、「新聞紙・雑誌・ビン・缶などのリサイクル」、「牛乳パック・トレー・ペットボトルなどのリサイクル」、「部屋の電気をこまめに消す」などでは、男性より女性の方が高く、逆に「テレビや新聞等のニュースをよく見る」、「フリーマーケットやリサイクルショップの利用」、「テレビやステレオの主電源を消す」などでは、女性より男性の方が高くなっている。
また学年別にみると、「牛乳パック・トレー・ペットボトルのリサイクル」、「フリーマーケットやリサイクルショップの利用」、「部屋の電気をこまめに消す」、「水を流しっぱなしにしない」、「テレビや新聞等のニュースをよく見る」などの項目では、総じて1年が高く、3年が低いという結果になっている。
(4) 電気の使用量や節約に関する意識
・電気の使用量に関する意識
ふだんの生活で使っている電気の量について、「とても多い」、「やや多い」、「普通」、「やや少ない」、「とても少ない」の5つの選択肢の中から1つを選んで回答を求めた。
図3 に示すように、「とても多い」と答える生徒は16.4%にすぎなかったが、「やや多い」38.4%、「普通」31.3%、「やや少ない」3.9%、「とても少ない」1.0%という順であった。このうち、「とても」と「やや」を足して「多い」が54.8%、「少ない」が4.9%となり、全体の半数以上の生徒が「多い」と感じていることがわかるが、「普通」と感じている生徒も多い。
「多い」と答えている生徒を性別に見ると、男性より女性の方が高く、また、学年別に見ると、1年より2年、3年と学年が上がるにつれて高くなる。
・電気の節約に関する意識
図4 は、電気の使用量に関連して、3つの選択肢を示し、その中から1つを選んでもらったものである。「できるだけムダ使いしないようにしている」と答えた生徒は65.9%と多かったが、「あまり気にしていない」と答えた生徒は27.1%である。一方、「いつも節電に心掛けている」と答えた生徒はわずか6.8%であった。電気の使用量や節約について、あまり切実感をもっていないことを伺わせる。
女性が男性に比べて節約意識が高いことが示されている。これは女性が家庭内のことに係わる割合が高いからであろう。
(5) 発電方法に関する知識
理科の領域から、発電方法に関する知識について、「
水力発電」、「
火力発電」、「
原子力発電」、「地熱発電」、「太陽光発電」、「
風力発電」、「ゴミ発電」のうち「現在最も多い発電方法」、「将来最も多くなる発電方法」、「二酸化炭素が多く出る発電方法」、「自転車の電灯と同じ原理の発電方法」の4つの事項について質問したものである。
・現在最も多い発電方法
図5 に示すように、「原子力発電」と答える生徒が43.5%でもっとも多く、以下、「火力発電」、「水力発電」という順であった。「わからない」と答える生徒も12.6%いた。この質問に対する正解は「火力発電」であり、全体の28.6%しか正確に答えられなかった。これ以外では、「ゴミ発電」が3.1%、「太陽光発電」が1.9%などの順になっているが、これらは4%以下の低い値である。
・将来最も多くなる発電方法
図6 に示すように、「原子力発電」と答える生徒がが33.1%で最も多く、以下、「太陽光発電」22.3%、「ゴミ発電」18.5%などという順であったが、「わからない」と答える生徒も15.8%いた。
「原子力発電」と答えた生徒を性別でみると、男性の方が9.5%も高く、また学年別では、学年が上がるにつれて高くなることがわかる。また「わからない」と答える生徒を性別でみると、男性に比べて女性が高く、学年別では1年より3年の方が低くなるという傾向が出ている。
・二酸化炭素を多く出す発電方法
発電のときに、地球温暖化の原因の一つといわれる二酸化炭素が多く出るのは、前述の7つのどの発電方法だと思うかと質問したものである。
図7 に示すように、「火力発電」と答える生徒が53.2%で最も多く、以下、「ゴミ発電」16.1%、「原子力発電」11.4%などという順になっている。ここでも「わからない」と答える生徒が14.5%いた。
正解である「火力発電」と答えた生徒は、男性が女性より19.3%も多く、また、学年が上がるにつれて、その正解率も高くなることがわかる。
・自転車の電灯と同じ原理の発電方法
この質問は電磁誘導と発電のしくみが関連した知識になっているかどうかを確認するためのものである。「水力発電」、「火力発電」、「原子力発電」、「地熱発電」、「風力発電」、「ゴミ発電」の6つが正解である。
図8 に示すように、「風力発電」と「水力発電」が非常に高い回答率を示している。これは風力発電と水力発電が回転をイメージしやすいためと考えられる。これに続いて、「火力発電」、「原子力発電」、「地熱発電」、「ゴミ発電」という結果になっている。なお「太陽光発電」と答える生徒が21.9%いるのをはじめ、「わからない」と答える生徒が17.8%いる。
(6) 原子力発電に対する態度
日本の原子力発電についてどのようにしていくべきかとの質問に対して、
図9 に示すように、「今より減らしていく」と答える生徒が41.7%で最も多く、次いで「現状のまま維持する」23.9%、「今より増やしていく」11.3%、「わからない」22.6%という順であった。
男性と女性ではかなり大きな差があり、男性の方が原子力発電について、好意的であり、女性の方が原子力発電に消極的であることがわかる。「わからない」と態度を保留した生徒は、女性の方が男性より高くなっている。また、学年が上がるにつれて、原子力発電について好意的になっていくことがわかる。
(7) 石油に関する知識
・石油の輸入依存度
日本で1年間に使われる石油のうち、どれくらいが外国から輸入されているかという質問では、
図10 に示すように、正解である「100%ちかく」と答えた生徒が53.9%で最も多く、次に「75%ぐらい」、「50%ぐらい」と続き、「25%ぐらい」が1.4%という順であった。
男性の方が女性より14.1%も正解率が高く、また学年別にみると、学年が上がるにつれて正解率が高くなっている。
・石油資源の残存年数
世界で毎年今と同じように石油を使うとして、地球にあと何年分くらいの石油が残っているかという質問では、
図11 に示すように、「50年ぐらい」と答えた生徒が56.6%で最も多く、次いで「10年ぐらい」「100年以上」という順であった。
(8) 授業方法に関する現状と期待
資源エネルギー問題や環境問題について学ぶ時、現状に比べると、
図12 に示すように「ビデオの視聴」と「課題学習」以外では、「将来受けてみたい授業方法」の方が高く、「野外調査」、「実習・実験」、「施設見学」、「インターネット」等、実体験への期待が非常に高くなっている。
(9) 今後の課題
本調査研究では、今後取り組むべき課題として、エネルギーと環境に関する良質な教材の開発、進歩の早いエネルギーと環境分野の教育に携わる教員の研究制度の充実、学校教育の閉鎖性を改め専門家派遣、施設見学等の新しい方法を導入すること等も提案している。
<図/表>
<関連タイトル>
エネルギー・原子力に関する世論調査(1994年)「エネルギー・環境問題(1)」 (10-05-01-04)
エネルギー・原子力に関する世論調査(1994年)「エネルギー・環境問題(2)」 (10-05-01-05)
中学・高校の原子力・放射線の教育 (10-08-02-01)
エネルギー・環境に関する教育 (10-08-02-02)
電力各社のエネルギー環境教育支援活動 (10-08-02-03)
<参考文献>
(1) (財)日本原子力文化振興財団:「エネルギーと環境」に関する中学生の意識調査報告書、(1999年4月)
(2) 小佐古 敏荘:中学生の意識調査に見るエネルギーと環境教育、エネルギーレビュー、19(9),p.48-53(1999)