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<概要>
 わが国においてもエネルギー・環境問題は、人類の生存問題として統合的に捉えるようになってきた。これに伴い、従来の知識注入型の教育を脱却して、この問題に相応しい学習方法が模索されている。現在の教育システムの中でも、各教科の関連を図った学習を展開することは可能で、「ディベート」などによって、統合的時間の活用を図るなどが考えられている。中学においては、環境問題についての課題の総合学習、クロスカリキユラムによる学習、等が行われている。米国や英国では、次世代科学教育が重視されており、「エネルギーと環境」問題も、この文脈に沿って進められている。広大な国土、豊富な地下資源を有するオーストラリアにおいても、活発な省エネルギー教育活動が展開されている。
<更新年月>
2004年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.わが国におけるエネルギー・環境教育の課題と現状
 石油危機に際しての学校や社会での対応には、例えば、石油の可採年数(確認埋蔵量を生産量で除したもの)や物不足とその確保方策の情報など一過性情報の流通とそれに基づく危機感の醸成があった。このような対症療法的対処方針の普及伝達では、大局観を持たないため、不確実な情報を流通させるようになり、パニックを招来する。エネルギー問題と環境問題は、共に人間活動に不可分の問題で、現在の科学技術、社会・経済システムでは対処し得ない新しい問題を提起する。また、人間は抽象や観念の世界でなく、将来にわたって、地球という現実の生態系の中で生活しなければならない。エネルギー・環境問題は、人類の生存の問題として捉えることが求められている。
 わが国の学校では、ゴミ問題の学習は最も広く取り組まれ、環境教育の具体例といえるほどの広がりをみせている。しかし、ゴミのリサイクルは生産および消費のいわば後始末であり万能ではなく、対症療法に過ぎない。廃棄物に関しては、発生量を減らす、再利用する、リサイクルする、の三つの取り組みがある。発生量を減らす、再利用する、は人間の生き様に関係したことで、もっと踏み込んだ取り組みが求められている。
 従来、学校教育では、評価の決まらない事柄、すなわち唯一の正解のない事柄は扱うべきではないとの考えが主流を占め、エネルギー・環境問題は扱いにくい問題であった。学校で用いられてきた「討論」法は、生徒の提示する多様な意見を、教師が「まとめる」のが一般的であった(もちろん次なる課題設定すなわち分らないことの発見も併せて取り組まれてきた)。最近、始まった「ディベート(debate)」は、テーマ(論題)に対する賛否それぞれの立場から、一定のルールにしたがって論述を行わせ、(論述者の人格を離れた)論旨を聴衆に理解させる場である。審査員により論述の優劣判定はあるが、その教育的な意義は物事を多角的に見る能力を養い、考え方の妥当性を吟味すること、説得的な表現力を習得することなどにあり、「ディベート」各学校における生徒の実態に応じたものとして運用されているという。
 エネルギー・環境問題は複数の教科に関連した問題であるから、その教育には教科間の連携プレイを必要とする。単一の教科の学習を中心とする現在のカリキュラムを改善する必要がある。現行制度でも、各教科の中にエネルギー・環境に関する事項が散在しているから、各教科の関連を図った学習を展開する試みがないわけではない。しかし、各学校が直面する教育課題が環境教育に優先するとの認識のもとでは、組織的に環境教育に取り組むことは難しい。これまでエネルギー・環境教育、消費者教育などの教科にまたがる教育課題については、ほぼ次の3つの形態が論議されてきた。
(1)ゆるい関連型:
 現行の制度のもとで各教科等の「関連」を図る(文部省「環境教育指導資料」参照)。
(2)クロス・カリキュラム型:
 (1)を一歩進め、教科にまたがる学習の目指す能力・態度、カリキュラムの構成要素、教材例などを明示したいわば「関連強化型」。
(3)合科または統合型:
 いくつかの関連教科を統合して新教科を設定するもの。
(4)「総合的な時間」の活用
 「21世紀を展望したわが国の教育のあり方について」の第15期中央教育審議会(中教審)第一次答申(1996年7月19日)の提案にある。これは教科、領域の仕切りにこだわらず「横断的・総合的な」学習に取り組む授業時間で、「国際理解教育、情報教育、環境教育」などが例示されている。ただし新しい教科の時間ではない。これは「学び」とは学びがいのあることを求めることから「自分探しの旅」だとする考えに立脚して、これからの児童生徒に一層求められる問題解決的な学習能力を培っていくためのものといえる。

2.エネルギー・環境教育の現状
a)中学におけるエネルギー・環境教育の現状
 中学校の教育全体の中で、エネルギー・環境教育は、各教科、道徳、特別活動に分散されている。教科としては、主に国語、社会、理科、保健、技術・家庭で扱われている。エネルギー・環境学習は総合的なアプローチを必要とするが、教科の担当者が違うため、うまく関連・総合されにくい。エネルギー・環境教育の全体目標とカリキュラムを中心に教育が行われている学校は少ない。しかし、前述の中教審第一次答申前の中間まとめで総合的学習の必要性が挙げられ、そのテーマの一つとして「エネルギー・環境」が示されてから、教科・領域を超えた、総合的なアプローチを試みる実践例が増えてきている。
 家庭や地域・社会と連携しながら、学校ではどのようなエネルギー・環境教育を進めていったらよいか。そのカリキュラムのアウトラインの例を表1に示す。この例では、「環境問題についての課題総合学習」で、各教科で学習したことを応用・総合して発展的な学習を、生徒が主体的に行うようにしている。未来の世界・地球を担っていく生徒にとって、問題を自らの手で解決していく能力をつけるのは重要であると考えられている。
b)環境問題についての課題の総合学習の例
 この例では、「水」は人間生活に重要な物質であるとともに、科学的な学習の基本となる概念・法則を学ぶことができるからとして、中学1年生の学習を「水」でスタートし、中学3年生の最後は、「エネルギーと環境(ミニ卒論)」でしめくくる。義務教育最後に当たる中学3年生に「エネルギーと環境についての興味・関心をもち、生涯にわたって自分の問題として捉えられるような基盤をつくる」ためとしている。
 「エネルギーと環境(ミニ卒論)」ではまず、「エネルギーと環境について知る、考える」学習を表2に示すように展開する。
 学習内容は理科にこだわらず、社会、技術・家庭、保健なども含めて考える。例えば上述の(4)では、昔の家電製品について家の人に聞くことによって、現在の生活は便利だが、いかに多くのエネルギーを消費する生活に変わってきたかを実感させる。一方では、技術革新によって、どのように省エネルギーの努カがなされているか、身近な電卓や家電製品を例に話し合う。そこで、省エネルギーのアイデアを互いに発表し、今自分達でできることを考えるとともに、「真に豊かな生活とは何か」を考えさせる。
 これらの学習をもとに、解決へ向けて自ら一歩を踏み出し、行動するために、課題学習「ミニ卒論」に取り組ませる。エネルギーと環境に関する問題の中で、生徒自身が興味・関心の課題を追究することにし、追究する方法とし、単に本を調べてまとめるだけでなく、見学やインタビュー、アンケート調査、観察・実験、製作など、体験を伴った方法を組み合わせて、主体的な学習ができるように促す。生徒が設定した課題を表3に、その追究方法の一部を表4に示す。
 「ミニ卒論」は、授業中や休日、家庭学習日に取り組むようにする。
 このような学習について、9割以上の生徒がプラスの評価をしている。一方、ちょうど高校受験の時期にあたって落ちついて学習できなかった生徒もあったことは、今後の課題として残った。
c)クロスカリキュラムの例
 いくつかの教科で関連させながら一つのテーマを学習すれば、より深い学習ができると考えられるが。現実にそれぞれの教科の担当者が学習内容の分担や関連性を相談したり、進度を調整したりすることが難しい。しかし、最近では少しずつクロスカリキュラムによる実験が試みられるようになってきた。
 3年生で試みられた社会と理科の二教科によるクロスカリキュラム「電気と私達の生活」の例を示す。
 理科では、発電の原理(電磁誘導)を学習するが、詳しい発電や送電の方法については学習しない。生活を便利にするために電気を消費していくと、環境に対してまずいことになると生徒はうすうす感じていても、問題解決のためにどうすればよいのか、わからないのが現状であろう。これらの問題は、科学的、技術的、経済的、政治的、社会的等、様々な視点から掘り下げ、さらに自分の生き方にも踏み込んで学習する必要がある。社会と理科で内容の関連を考え、表5のように分担をして指導する。
 社会と理科でクロスカリキュラムを組んで学習したことについて、58%の生徒は互いに関連させて学習できたとしている。一方、「関連できなかった」10%と「どちらともいえない」32%の生徒からは、「理科は理科、社会は社会という枠をどうしても感じてしまう」等の意見が出され、今後の課題である。

3.米国と英国のエネルギー教育
 欧米では、ここ20年来、次世代層の科学・技術教育を重視しており、1990年代には教育基準を作成している。エネルギー・環境教育も、その文脈の上で進められている。
 米国は、次世代の科学技術教育に国を上げて取り組んでいる。米国教育界は次世代の生産性を確保するためには、サイエンスの教育が重要であるというので、早くから取り組んでいる。
 全米学術会議(National Academy)傘下の全米研究審議会(National Research Council)は、科学教育の基準を検討し、1995年迄に原案を作成し、1996年に公布した。「次世代の米国民の活動と繁栄に科学は欠かせないという考え方に沿って、科学教育基準(National Science Standards:NSS)にしたがった科学教育を進めている(表6参照)。
 米国では、エネルギー教育の中心は、エネルギー省で、「サイエンス、数学と技術の教育を進展させることはエネルギー省の重要な使命である。」といっている。「Energy,Science,and Technology Information」はエネルギー省の科学・技術情報室(Office of Energy,Science,and Technology)へのリンクで、マンハッタンプロジェクト以来今日までのエネルギー、サイエンス、技術開発の豊富な情報にアクセスできる。「Education Web Sites at DOE Labs and Facilities」(表7参照)は、エネルギー省が1983年以来進める、傘下の研究所のサイエンス教育活動とサイエンス教育のための資料センターのウェブサイトで、1万件を超える情報が蓄積されている。関連タイトルを参照されたい。
 英国では、1988年の教育改革法(Education Reform Act)に基づいて、ナショナル・カリキュラム(National Curriculum:NC)が設定されている。 1988年の教育改革法と1997年の教育法(Education Act)は、すべての学校に、以下のようなカリキュラムを生徒に用意するよう要求している。調和が取れて広い基礎に立ち、生徒の精神的、道徳的、文化的、知的かつ肉体的発育を促進し、大人の人生の機会、責任、経験のための準備をさせる。加えて、宗教教育、性教育を含める。NCは義務教育学校の生徒のために最低限の教育の権利を定めるもので、これは学校の全教科課程を構成するものではなく、学校はその特殊な必要と環境を反映して、その全課程をつくる裁量権がある。NCは5-16歳のすべての生徒に適用される。サイエンスは数学とともに必須課目である。
 NCの中で、エネルギーは、例えば、「地球とその先」>「エネルギー資源とエネルギー伝達」中で、多様なエネルギー資源他、7教科に亘って扱われている。
 米国と同様、多くの国、民間の教育支援活動がある。関連タイトルを参照されたい。

4.オーストラリアの児童向け省エネルギー教育
 オーストラリアは広大な国土、豊富な地下資源を有する国であるが、活発な省エネルギー活動が展開されている。最近この国の工業エネルギー省(Department of Primary lndustries and Energy:DPIE)では正規の学校教育に取り入れることを目的として省エネルギー教材を製作した。教材は9歳から11歳までの児童を対象としたものである。省エネルギーに関するDPIEの出版物を表8に示す。
 DPIEは1991年に表8(4)の「The Energy Guide」を出版、全世帯に配布した。このガイドブックは家庭における省エネルギーの方法を具体的に示したもので、さらにこの内容を児童に理解させるためにビデオ「Saving Hieronymusキット」を作成した。これには、1)ビデオ、2)授業手引、3)Wall Chart、4)ゴム印、5)参考文献”The Energy Guide”が含まれている。キットの柱はビデオで、沼地のほとりに住むサム少年の物語である。授業手引はビデオの内容に関連する教材である。表9に示すように3グループに分け合計16の課題で構成されている。この教材は美術、保健、算数、社会と環境、英語、英語以外の言語、科学、技術の8科目で単独に、または組み合わせて使用することができるが、特に社会と環境、科学、技術の授業で使用するのが適している。
 各課題は(1)課題解決のための予備知識、(2)基礎事項の解説、(3)実験演習問題で構成されている。宿題も出される。優れた宿題、作業にはGood Workと刻まれたゴム印が押される(図1)。
<図/表>
表1 環境教育カリキュラムのアウトライン
表1  環境教育カリキュラムのアウトライン
表2 エネルギー総合学習
表2  エネルギー総合学習
表3 課題学習で生徒が設定した課題
表3  課題学習で生徒が設定した課題
表4 課題学習の追求方法
表4  課題学習の追求方法
表5 クロスカリキュラム分担の例
表5  クロスカリキュラム分担の例
表6 等級K-5〜8の教科基準
表6  等級K-5〜8の教科基準
表7 教育プログラムのある研究所/施設のURL
表7  教育プログラムのある研究所/施設のURL
表8 オーストラリアDPIEの省エネルギー関係出版物
表8  オーストラリアDPIEの省エネルギー関係出版物
表9 オーストラリアにおける省エネルギー教材の授業手引きの中の課題
表9  オーストラリアにおける省エネルギー教材の授業手引きの中の課題
図1 Good Workと刻まれたゴム印
図1  Good Workと刻まれたゴム印

<関連タイトル>
省エネルギー推進のための普及、広報活動 (01-06-04-01)
中学・高校の原子力・放射線の教育 (10-08-02-01)
IT技術を用いた放射線オンライン教材 (10-08-02-04)
原子力教育における教員研修 (10-08-02-05)
米国の科学教育プログラムとその背景 (10-08-03-01)

<参考文献>
(1)柿沼 利昭:わが国におけるエネルギー・環境教育の課題、省エネルギー 平成9年4月号(第49巻 第5号)、省エネルギーセンター(1997年4月)、p18-21
(2)佐々木和枝:中学におけるエネルギー・環境教育、省エネルギー 平成9年4月号(第49巻、第5号)、省エネルギーセンター(1997年4月)、p21-26
(3)Carsten Hennies:ドイツに見るエネルギー・環境教育、省エネルギー 平成9年4月号(第49巻、第5号)、省エネルギーセンター(1997年4月)、p27-29
(4)山本 格:オーストラリアにおける児童向け省エネルギー教育、省エネルギー 平成9年4月号(第49巻、第5号)、省エネルギーセンター(1997年4月)、p30-34
(5)日本原子力文化振興財団:欧州「エネルギーと環境」教育事情調査団報告書、(1992年3月)
(6)日本原子力文化振興財団:日本とヨーロッパ「エネルギーと環境」に関する高校生の意識調査報告書、(1993年4月)
(7)次世代に原子力はどのように伝えられているか 若年層への広報活動の現状と将来、日本原子力学会誌、37(5)、p.375(1995)
(8)文部省:中教審第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育のあり方」,(1999年1月アクセス)
(9)文部省:中教審第二次答申「21世紀を展望した我が国の教育のあり方」, (1999年1月アクセス)
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