<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 わが国では初等・中等教育段階において、エネルギーを系統的に教える教科は学校教育の中にはない。高等学校ではごく少数(1割程度)の生徒が、選択によって原子力エネルギーに関わる教材を学び、諸々のエネルギーの基礎原理を学習することができる。しかし、エネルギーの事項は、教える側の便宜に従って、社会科・理科等4教科で相互の関連なく取り扱われており、エネルギーについて価値概念を形成するには不充分である。エネルギー教育を進める上で、学校には、教材・資料が不足しており、電力会社などに頼っているのが現状である。電力各社は原子力に対する国民の理解・関心が薄いのを危惧して、早くから原子力の啓蒙活動に力を入れ、その一環として次世代層教育支援活動を進めている。
<更新年月>
2003年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 わが国では初等・中等教育段階において、エネルギーを系統的に教える教科は学校教育の中にはない。高等学校ではごく少数(1割程度)の生徒が、選択によって原子力エネルギーに関わる教材を学び、諸々のエネルギーの基礎原理を学習することができる(表1)。しかし、エネルギーの事項は、教える側の便宜に従って、社会科・理科等4教科で相互の関連なく扱われており、エネルギーについて価値概念を形成するには不充分である。エネルギー教育を進める上で、学校には、教材・資料が不足しており、電力会社などに頼っているのが現状である。このため、学生の大多数はエネルギーについて、学校で系統的に学ぶことなく、社会に出てしまう。
 また、わが国のこれまでの科学技術教育では、数学との連携が薄く、エネルギーの定量的な取り扱いも教えないから、学生はエネルギー問題を表面的にしか理解できず、情緒的な議論に終始してしまう。欧米では、ここ20年来、次世代層の科学・技術教育を重視しており、エネルギー・環境教育も、その文脈の上で進められている。
2.電力各社のエネルギー・環境教育支援活動
 電力各社は原子力に対する国民の理解・関心が薄いのを危惧して、早くから原子力の啓蒙活動に力を入れ、いろいろの施策を進めてきている。2002年5月、刈羽村における住民投票の結果、プルサーマル反対が全投票の過半数を占め、6月に予定されていた東京電力柏崎刈羽発電所におけるMOX燃料装荷は延期を余儀なくされた。この事態を受け、6月には、プルサーマル推進体制の整備を図るため、国が「プルサーマル連絡協議会」を設置したのに続き、電力9社と日本原電、電源開発、日本原燃の12社の社長で構成する「プルサーマル推進連絡協議会」が電気事業達合会に設置され、電力各社にも推進組織が設けられ、電力会社が一丸となってプルサーマル推進に取り組む体制を整えた。地域住民および一般国民の原子力・プルサーマルに対する理解に向けて、(1)原子力施設見学会の強化、(2)双方向対話活動の強化、(3)次世代層教育支援活動の強化−などの方針を打ち出し、具体的な取り組みを開始した。以下では電力会社の次世代層のエネルギー教育支援活動について概観する。
 これらの支援活動は、エネルギー問題や環境問題を解決するための解答は見つかっていないけれども、地球の将来を考えたとき、答えが無いからと言ってこの問題を避けて通ることはできない。どのように対処して行けばよいのだろうか。地球に暮らすわれわれ一人一人が、エネルギー問題や環境問題とはどのようなものであるのかを理解し、この問題と自分たちの生活との関係を認識して「環境への影響がなるべく少なくなるエネルギーの上手な使い方」や「使っていればいつかは必ずなくなるエネルギーを大切に使う方法」などについて、科学的に<考え>、解決策を<発見>して、<行動>に移していくことであると思われる。
 このエネルギー教育支援活動のねらいは、未来を担う子どもたちがエネルギーに関する様々な情報と出会うことによって、エネルギーを身近なものとして感じ、エネルギー問題や環境問題を解決するために自分は何ができるのかを考えることができる様にすることである、との立場に立っている。
 電力各社のエネルギー教育支援活動の内容には以下のものがある。
 教師に対する支援活動、児童・生徒に対する支援活動、体験学習、パンフレット・教材の作成と配布、施設見学、子供向けホームページ、論文・作文コンクール、エネルギー出前講座、科学新聞、ビデオの作成・貸出、データファイル、バーチャル見学、体験ツアー、環境教育研修会、カリキュラム用教材の作成。
 各社についてみると、
・日本原電では、地域における教育支援に積極的に取り組んでおり、福井新聞の主催、日本原電の協賛で毎年開催している「福井県小・中学生科学アカデミー賞」には、昨年、県内から2万1000点を超える理科研究作品が寄せられた。そして、その一環として東大名誉教授の竹内均氏を招いてサマースクールを開催した。そのほか、地元教育関係者との連携を図るとともに、社員が出向いての出前授業や原子力施設見学会を実施している。また、ホームページ「キッズコンテンツ」、CD−ROM、ビデオの作成を行い、青少年への原子力の知識普及に努めている(図1)。一方、茨城県からの受託事業として、茨城原子力協議会と茨城県教育委員会が共催する「原子力教員セミナー」に協力している。このセミナーは、原子力施設が立地する東海村、大洗町と隣接する22市町村の教育長、小中学校の校長、教頭、教員のほか、高校教員、特殊学校教員を対象として、原子力に対する正しい知識の普及を図るとともに、児童生徒への普及を促進するため、毎年実施している。日程は1日で、発電所見学も含めた実体験型カリキュラムとなっているのが特徴である。その内容は、同社総合研修センターの研修用設備を活用した体験研修で、原子炉シミュレーターによる原子炉運転体験、放射線の測定体験、発電所の非破壊検査の体験のほか、原子力施設の事故と防災対策などの説明である。教員自身の体験とそこで考えたことが学校現場でリアルに生かされることを期待している。
・北海道電力では、発電所見学会の実施に加え、エネルギー広報車「エネゴン」を利用して学校の授業や父兄などが実施する勉強会に社員講師を派遣、エネルギー・環境をテーマとした出前授業を実施している。遊び感覚で学べるような器材を多数搭載しており、どこでも電気・エネルギーについて実体験を通して理解を深めることができる。自分の手で電気をつくって遊ぶゲームや、放射線測定器で身の回りの放射線量を計ってみるなど、手軽に発電や放射線の勉強をすることができる。北電ホームページに子供向けに「みんなでチャレンジ、エネルギーアイランド」を開設している。そのほか、エネルギーや電気についてわかりやすく説明したビデオ・教材、パンフレットの作成、貸し出しを行うほか、放射線測定器の貸し出しなども行っている(図2)。
・東北電力では、将来を担う子どもたちにエネルギーや環境について身近に考え、理解してもらうため、エネルギーの出前講座や夏休みなど休日を利用した科学実験教室や工作教室などを実施している。出前講座は、小・中・高校を対象に、社員が学校などを訪問し、実験・工作教室、エネルギー講座を担当する。また、小・中学生の職場訪問を積極的に受け入れ、各事業所においてそれぞれの業務・施設・設備などについて紹介、説明を行っている。夏休みなど休日には、科学実験や工作教室、親子施設見学会を実施。加えて、子供たちの科学全般に対する興味や夢を膨らませられるよう、「なぜなぜ科学しんぶん」を発行し、管内の全小学校に配布している。ホームページ「なぜなぜネットによる科学学習情報などの提供も行っている。「なぜなぜネット」には、3月末から新コーナー「エネルギーWEB」が開設され、エネルギーを通して将来の生活や社会のありようについて一緒に考える材料が詰まっており、大人でも考えさせられる内容である(図3)。
・東京電力は、従来から学校教育を積極的に支援している。全店で実施している「エネルギー講座」は、昨年は2286回開催し、12万2658人の児童生徒が参加した。同講座では学校のリクエストに応じて、社員講師が出向き、エネルギー、環境などの授業を行っている。また、社会科授業の一環として施設見学も長年積極的に受け入れている。学校でのパソコン授業が普及したのに対応して、CD−ROM教材も制作した。その他、ポケット版のエネルギー小冊子を制作したり、子供向け科学マガジン(季刊)を発行している。さらに、新しい取り組みとして、学校の「総合的な学習の時間」に向けて、カリキュラムの導入支援も実施、「サイエンスグランプリ」、「ジュニアサイエンスアカデミー」、「いきいきわくわく科学賞」などの各種科学イベントも開催している。インターネットの活用も盛んで、東京電力のホームページでは、エネルギーに関する知識普及を目的に子供向けのコーナー、一般向けのコーナー、大学生向けのコーナーといったように対象別のコンテンツを設けている(図4)。なかでも、技術開発本部が提供する、主として大学生対象の「インターネット電力講座」は、同社独自のもので、内容が非常に濃い。ここでは、電力事業における主にハード面の詳細な解説が行われている。
・中部電力では、「総合的な学習の時間」にエネルギー・環境教育を実施する学校に対して、社員講師の派遣や電力施設の見学受け入れなどで、積極的に協力していくことにしており、営業所やインターネットなどによって、PRを行っている。ホームページには、子ども向け学習コーナー「キッズワンダーランド」を開設(図5)。コーナーが豊富で、解説にもいろいろおもしろい工夫を凝らしている。創立50周年記念事業の一環として設立した「財団法人・ちゅうでん教育振興財団」では、多様な教育助成を行っている。
・北陸電力では、従来から次世代層を対象とした科学イベントを活発に展開している。次世代層を対象に富山市内に設けたエネルギー科学館「ワンダー・ラボ」では、毎週のように科学実験工作教室を開催している。毎週テーマを変えており科学実験のほか、七宝焼きやガラス細工の教室なども実施している。また、スペシャルイベントの「科学まつり」などには、全国各地で活躍する実験名人と呼ばれる講師を招き、子供たちに科学実験や科学を応用した作品づくりを通して科学のおもしろさを体験させている。また、「アリス館志賀」では同様の科学イベントがしばしば行われている。ホームページに次世代向けの学習コーナーを設けている(図6)。ホームページ上の「エネルギー・環境学習塾」では、図表・統計資料などを使い、エネルギー・環境について解説している。
・関西電力では、小・中学校とのエネルギー教育での連携・支援活動の歴史は古いが、このところ一段と充実強化している。昨年4月から今年2月末における社員による出前教室や見学会の実施回数は約970回、児童・生徒数で約4万6000人に及んだ。また、2002年度から実施される「総合的な学習の時間」に合わせて、関連会社の原子力安全システム研究所と共同で、エネルギー・環境教育のカリキュラムを構築したり、教材の作成に取り組んでいる(図7)。
・中国電力では、小・中・高校や大学へのエネルギー教育支援活動を、出前授業や施設見学会、教材の制作・配布などによって推進している。これに加えて、今年度から導入が始まる「総合的な学習の時間」を活用した環境・エネルギー教育において、課題発見や調べ学習に役立つ教材づくりなど、教育支援活動を開始している。すでに中学生を対象とした系統だった学習カリキュラム、ビデオなどの補助教材も作成した(図8)。
・四国電力では、次世代層および教育関係者を対象に、エネルギー資源、地球環境、経済性などを理解してもらうため、各支店に「エネルギー広報促進担当」を配置し、エネルギー教育を推進している。主な活動として、2002年度から小・中学校で本格的に導入される「総合的な学習の時間」へのエネルギー教育の普及活動、さらには学校教育において各種模型や資料を活用したエネルギー授業を展開している。1998年度からは教育関係者を対象とした「四国フォーラム」を開催。エネルギー・環境教育の事例発表や「総合的な学習」の趣旨などについて、学校教諭に講演をしてもらうことでエネルギー・環境教育の導入を積極的に支援している(図9)。
・九州電力では、次世代層へのエネルギー教育支援活動として、小・中学生を対象とした科学実験講座を開催している(2001年4ヶ月月間で8回、約2,300人対象)。生徒・児童および教育関係者だけを対象とした見学会やエネルギー関係講座・講演会も実施。生徒・児童対象の見学会動員数は同約11,800人、エネルギー講座・講演会は同129回で約8,600人に上っている。今後、エネルギーや環境問題に関するビデオ教材などを制作し、学校訪問も行う予定という(図10)。
3.エネルギー・環境教育改善の動き
 これからの学校教育のあり方として、中央教育審議会の答申を受けて、横断的・総合的指導のための「総合的な学習の時間」が設定され、「生きる力」を育成することを基本に新たな方針が出された。これにより、小・中学校は2002年から、高等学校は2003年から、新たな教育方針での教育がなされることになった。そこでは、今までの教育システムの“先生が教えるというかたち”から“子供たちが自分たちで考え、そして行動するかたち”に変わるように指導することが示されている。そして、この方向に沿ったエネルギー・環境教育支援活動が、電力中央研究所などで始まっている。しかし、科学・技術全般にわたる教育を視野に入れた支援活動にはまだ至っていない。
<図/表>
表1 「学校指導要領」におけるエネルギー教育の内容(主なもの)
表1  「学校指導要領」におけるエネルギー教育の内容(主なもの)
図1 日本原子力発電「子供のひろば」
図1  日本原子力発電「子供のひろば」
図2 北海道電力「エネルギー・環境教育のお手伝い 」
図2  北海道電力「エネルギー・環境教育のお手伝い 」
図3 東北電力「なぜなぜネット」
図3  東北電力「なぜなぜネット」
図4 東京電力「環境・エネルギー学習支援のとりくみ 」
図4  東京電力「環境・エネルギー学習支援のとりくみ 」
図5 中部電力「学校の先生方へのご案内」
図5  中部電力「学校の先生方へのご案内」
図6 北陸電力「先生・生徒へのお手伝い」
図6  北陸電力「先生・生徒へのお手伝い」
図7 関西電力「なるほどキッズボックス」
図7  関西電力「なるほどキッズボックス」
図8 中国電力「原子力探検隊」
図8  中国電力「原子力探検隊」
図9 四国電力「エネルギー教室」
図9  四国電力「エネルギー教室」
図10 九州電力「エネカンBOX」
図10  九州電力「エネカンBOX」

<関連タイトル>
中学・高校の原子力・放射線の教育 (10-08-02-01)
エネルギー・環境に関する教育 (10-08-02-02)

<参考文献>
(1) 広瀬 正美:望まれる専門教科の創設 エネルギーレビュー 2000年11月号、p.4−7
(2) 秦 健吾:教育現場からの声—小・中学校におけるエネルギー教育の現状— エネルギー・資源 Vol.20 No.3 (1999),p.239−242
(3) 宮田 光男:教育現場からの声—教科書に見る高等学校におけるエネルギー教育の現状 エネルギー・資源 Vol.20 No.3 (1999),p.243−247
(4) 大浦 宗敏:電力関連のエネルギ教育への取組 エネルギー・資源 Vol.20 No.3 (1999),p.265−268
(5) 中岡 章:子供達のエネルギー・環境教育に役立ちたい−電力中央研究所の教育支援活動 ENERGY 2002−4(2002),p.118−121
(6) 日本原子力発電:こどものひろば、www.japc.co.jp/kids/index.htm
(7) 北海道電力:エネルギー・環境教育のお手伝い、www.hepco.co.jp/hotline/ene−kyouiku.html
(8) 東北電力:なぜなぜネット、www.tohoku−epco.co.jp/new_naze/index.html
(9) 東京電力:環境・エネルギー学習支援のとりくみ、www.tepco.co.jp/environment/pw/index−j.html
(10)中部電力:学校の先生方へのご案内、www.chuden.co.jp/kids/teacher/index.html
(11)北陸電力:先生・生徒へのお手伝い、www.rikuden.co.jp/otetudai/index.html
(12)関西電力:なるほどキッズボックス、www.kepco.co.jp/kids/index.html
(13)中国電力:原子力探検隊、www.energia.co.jp/energiaj/personal/tanken.html
(14)四国電力:エネルギー教室、www.yonden.co.jp/energy/school/index.htm
(15)九州電力:エネカンBOX、www.kyuden.co.jp/life/event/enekanbox/Ene−kan/enebox0309/index.html
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ