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<概要>
 わが国において早期に建設された原子力発電所は運転を開始してからすでに30年を経るものがあり、将来的に進展していく高経年化について関心が高まっている。原子力安全委員会は、関西電力(株)美浜発電所2号機蒸気発生器伝熱管破損事故から得られた教訓事項等の中でこれら高経年化対策の必要性を指摘した。経済産業省では平成8年(1996年)4月に「高経年化に関する基本的な考え方」を取りまとめ、原子力安全委員会ではこれを妥当と認めるとともに、これを定期安全レビューに有効に組込んで評価することを推奨した。経済産業省は「実用発電原子炉の設置、運転等に関する規則」において「原子炉施設の定期的な評価」を義務づけ、高経年化に伴う原子力発電所の安全確保を進めている。また、平成16年8月に発生した関西電力(株)美浜発電所3号機二次系配管破損事故の経緯を踏まえ、総合資源エネルギー調査会原子炉安全・保安部会において、改めて事業者の経年化対策の実効性検証と国の対応の必要事項などの検討が行われている。

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足したため、本データに記載されている原子力安全性・信頼性確保に関する考え方や具体的な高経年化対策についても見直しや追加が行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会および原子力安全・保安院は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
2007年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.高経年化対応の経緯
 原子力発電所の設備・機器は経年変化により劣化することが設計段階から考えられ、定期検査の実施と部品などの交換や原子炉圧力容器については試験片の設置・監視などによってプラントの健全性が確保されている。しかし、わが国において早期に建設された原子力発電所は運転を開始してからすでに30年を経るものがあり、将来的に進展していく高経年化について関心が高まっている。
 高経年化について、原子力安全委員会は、平成3年(1991年)に関西電力(株)美浜発電所2号機蒸気発生器伝熱管破損事故から得られた教訓事項等(平成4年3月原子力委員会決定)の中でこれら高経年化対策の必要性を指摘した。。(注:原子力安全委員会は原子力安全・保安院とともに2012年9月18日に廃止され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。)
 このような状況を踏まえ、通商産業省(現経済産業省)は、今後も長期間原子力発電の主流を担っていくものと考えられる軽水炉を対象とし、高経年化した原子力発電所の健全性をどのように評価するか、高経年化にどう対応していくか等について検討を行い、平成8年(1996年)4月に報告書「高経年化に関する基本的な考え方」をまとめた。
 原子力安全委員会は、原子炉安全総合検討会において上記の報告書の確認を行い、その内容が妥当であるとの結論を示した報告書「発電用軽水型原子炉施設の高経年化対策について」を取りまとめた。その内容については一般の意見を募集し、寄せられた意見等についての検討を行ったのち、平成10年(1998年)11月に原子力安全委員会はこれを了承・決定した。この中で、上記「考え方」を定期安全レビューに有効に組込んで評価することを推奨した。
 これを受けて経済産業省は高経年化対応に対する法令化を図るため、「実用発電原子炉の設置、運転等に関する規則」(昭和53年通商産業省令第77号)を改正(第15条の2および第16条)し、平成15年(2003年)10月から「原子炉施設の定期的な評価」を義務づけ、順次各プラントの安全レビューを進めている。
 その後、原子力安全・保安院は、平成16年(2004年)8月に発生した関西電力(株)美浜発電所3号機二次系配管破損事故の経緯を踏まえ、総合資源エネルギー調査会原子炉安全・保安部会において、改めて事業者の経年化対策の実効性検証と国の対応の必要事項などの検討が行われ、「実用発電用原子炉施設における高経年化対策の充実」とする報告書(平成17年8月)を取りまとめている。
 なお、わが国の原子力発電所の運転経過年数は図1に示すとおりである。

2.高経年化に関する基本的な考え方(平成8年、通商産業省報告)
 本報告書の内容の概要は以下のとおりである。
(1)原子力発電所の高経年化の現状
 これまでのトラブル発生傾向を見ると、図2に示すように、トラブルの件数はプラント基数の増加にもかかわらず近年減少傾向にある。原子力発電導入初期においては、プラント設計において知見が及ばなかったことに加え運転経験が蓄積されていなかったことからいわゆる初期故障が多かった。しかし、その後は運転経験が反映されて、設計的な改善が新設プラントに限らず既設プラントに対しても加えられ、また品質管理の向上およびきめ細かい運転・保守管理の徹底によって信頼性がより一層向上しているものと考えられる。
 また、運転年数と年間トラブルの1基当たりの発生件数を比較すると、図3に示すように、運転年数の増加に比例してトラブルが多くなるという傾向は見られず、初期故障として初期10年位の間にトラブルが多く発生しているものの、高経年化が進展して設備の信頼性が低下しているとは考えられない。
(2)高経年化に関する技術評価
 わが国の原子力発電所のうち運転年数の長い原子力発電所(敦賀1号、美浜1号、福島第一1号)を対象に、定期検査等の保全活動が原子力発電所の高経年化に有効かどうかを検討した。
 検討は、図4に示す原子力発電所の主要な機器を選定し、疲労、腐食等の経年変化事象の発生・進展の可能性があるか、運転期間中の健全性に対し十分な裕度を有するか、それらに対する定期検査等の保全活動が有効か、などについて評価を行った。この結果以下のような結論を得ている。
− 現状の設備保全の継続および点検・検査の充実により、今後、原子力発電所が高経年化しても安全に運転を継続することは可能であると考えられること
− 点検・検査の充実が必要となる項目が抽出され、今後、運転開始後ある時期を経た発電所から見直しを実施することが適切であること
− 評価は主要な機器で行っているが、基本的な考え方は他の機器についても適用可能であること
− 適切な管理を行っていけば、経年変化事象が耐震性に及ぼす影響は問題となるものではないこと
(3)高経年化に関する具体的対策
 技術評価結果をもとに、高経年化に対応した定期検査、基準、自主保安等のあり方について取りまとめている。なお、高経年化への具体的施策を展開する時期としては、運転開始後30年を目安とし、運転年数が長いプラントは、そのための準備を行っていくことが必要としている。
− 定期検査等の高度化の方向
・高経年化した原子力発電所についての国の定期検査や電気事業者の自主点検の項目の追加、内容等の見直しを行うこと
・高経年化に至っていない原子力発電所についても、点検項目や点検間隔等について検討し、安全規制等の高度化を図ること
・将来的には、一定の期間が経過してから点検等を行う「時間計画保全」から、経年変化傾向等の監視の結果から点検等を行う「状態監視保全」に移行していくこと
− 構造基準等の整備
・経年変化による強度等の変化に対応した構造基準の整備、ならびにそれが今後の技術の進歩に的確に対応していけるものとすること
・具体的には、検査方法、検査結果の評価手法および補修方法の策定を、米国の基準も参考にしながら検討していくこと
− 自主保安のあり方
・電気事業者においては、各炉毎にプラント全体で主要な機器の健全性に関する技術評価を実施し、これに基づく適切な保全を行っていく必要があること
・将来的には、健全性に関する技術評価を、原子力発電所の長期保全計画や定期安全レビューの検討等と組み合わせて、全運転期間を通した総合的な設備管理方策の仕組みの確立を図ること
(4)高経年化に対応した技術開発
 より信頼性の高い管理を行うため、表1に示すように、今後も国、電気事業者等において充実すべき技術開発課題が抽出された。抽出された技術開発課題は大きく分類すると検査・モニタリング技術、補修・取替技術、経年変化評価技術の開発に整理される。

3.発電用軽水型原子炉施設の高経年化対策(平成10年11月、原子力安全委員会決定)
 本決定は、上記の報告書をうけて、原子力安全委員会は原子炉安全総合検討会においての報告書内容の確認を行い、その内容が妥当であるとの結論を示したものである。原子炉安全総合検討会での確認内容については意見を募集し、寄せられた意見等についての検討を行ったのち、平成10年(1998年)11月に原子力安全委員会はこれを了承・決定した。
 とくに、長期間運転時の保全活動に寄与するためにも、設計時からの各種の技術情報の管理・継承を継続することの重要性を指摘するとともに、電気事業者がほぼ10年毎に行う定期安全レビューの有効性を認め、今後の高経年化活動をより計画的・体系的に行うために、上記[考え方]を高経年化を迎える原子力発電所の定期安全レビューに有効に組込んで評価することを推奨した。

4.定期安全レビューと法定義務化
 原子力施設では年1回の定期検査に加え、事業者は10年を超えない期間ごとに保安活動の実施状況や内外の技術的知見の反映状況の調査・分析、さらには確率論的安全評価を用いて総括し、必要な安全性向上措置を抽出・実施する「定期安全レビュー」が実施されている。
 定期安全レビューは平成4年(1992年)から実施されているが、平成8年(1996年)に取りまとめられた「高経年化に関する基本的な考え方」を受け評価内容等の充実が図られている。また、これらの活動について法令上の位置づけを明確にするため、「実用発電原子炉の設置、運転等に関する規則」(昭和53年通商産業省令第77号)の第15条の2(原子炉施設の定期的な評価)としてその実施(10年を超えない期間ごとの再評価を含む)の義務規定を整備するとともに、第16条(保安規定)に追加規定し、「原子炉施設の定期的な評価」が保安規定の要求事項とされている。
 原子力発電所における高年化対策を含む保守管理の流れを図5に、定期安全レビュー実施項目と内容を表2に示す。
 なお、経済産業省ではこれまでに以下のプラントの定期安全レビューを行っている。
○平成11年2月公表(同日、原子力安全委員会報告)
 ・日本原子力発電株式会社 敦賀発電所1号機
 ・東京電力株式会社 福島第一原子力発電所1号機
 ・関西電力株式会社 美浜発電所1号機
○平成13年6月公表(同日、原子力安全委員会報告)
 ・東京電力株式会社 福島第一原子力発電所2号機
 ・関西電力株式会社 美浜発電所2号機
○平成16年3月公表(同日、原子力安全委員会報告)
 ・関西電力株式会社 高浜発電所1号機
 ・関西電力株式会社 高浜発電所2号機
 ・中国電力株式会社 島根原子力発電所1号機
 ・九州電力株式会社 玄海原子力発電所1号機
5.報告書「実用発電用原子炉施設における高経年化対策の充実」(平成17年8月、経済産業省原子力安全・保安院)について
 原子力安全・保安院は、平成16年(2004年)8月に発生した関西電力(株)美浜発電所3号機二次系配管破損事故の経緯を踏まえ、総合資源エネルギー調査会原子炉安全・保安部会において、改めて事業者の経年化対策の実効性の検証と国の対応の必要事項などの検討を行なった。
 本報告においては、これまでの高経年化対策の検証と課題の摘出、高経年化対策の充実のための新たな施策について検討されている。とくに高経年化対策の充実については、透明性・実効性の確保、技術情報基盤の整備、企業文化・組織風土の劣化防止および技術力の維持・向上、高年化対策に関する説明責任の着実な履行、について言及されている。
(前回更新:1999年12月)
<図/表>
表1 技術開発課題の例
表1  技術開発課題の例
表2 定期安全レビュー実施項目と内容
表2  定期安全レビュー実施項目と内容
図1 日本における原子力発電所の運転経過年数
図1  日本における原子力発電所の運転経過年数
図2 原子力発電所の年度別事故・故障報告件数
図2  原子力発電所の年度別事故・故障報告件数
図3 原子力発電所の運転開始後経年度別事故・故障報告件数
図3  原子力発電所の運転開始後経年度別事故・故障報告件数
図4 原子力発電所の高経年化評価対象機器
図4  原子力発電所の高経年化評価対象機器
図5 原子力発電所における高年化対策を含む保守管理の流れ
図5  原子力発電所における高年化対策を含む保守管理の流れ

<関連タイトル>
原子力発電所の高経年化対策の現状 (02-02-03-18)
原子力発電所の高経年化技術評価等報告書に対する技術審査の概要 (02-02-03-20)
原子力発電施設の高経年化対策と関連研究 (06-01-01-12)

<参考文献>
(1)通商産業省:高経年化に関する基本的な考え方(平成8年4月)
(2)原子力安全委員会:発電用軽水型原子炉施設の高経年化対策について(平成10年11月)
(3)原子力安全・保安院:実用発電用原子炉施設における高経年化対策の充実について(平成17年8月)
(4)科学技術庁原子力安全局:原子力安全委員会月報、通巻211号、大蔵省印刷局(1996年8月26日)、p.40
(5)原子力安全・保安院:原子力の安全>運転段階の安全規制>高経年化対策
(6)資源エネルギー庁公益事業部原子力発電安全管理課(編):平成11年度(平成10年度実績)原子力発電所運転管理年報、火力原子力発電協会(1999.10)、p.142-143、p.154-155
(7)通産省資源エネルギー庁:原子力発電所の高経年化対策−軽水炉の超寿命化への取組み、原子力eye、45(5)、10(1999年5月)
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