<大項目> 原子力の行政・制度・政策
<中項目> 原子力行政開発政策
<小項目> 研究開発の進め方
<タイトル>
放射線利用の新たな展開について (10-02-02-04)

<概要>
 放射線利用は、昭和62年策定された「原子力開発利用長期計画」に従い、放射性同位体(RI)および放射線のトレーサー技術や新しいビームの発生・利用技術を活用し、医療、農林水産業、工業などの幅広い分野における利用を促進し、国民生活の向上等に貢献するとともに、今後とも長期的視点に立って計画的かつ総合的に推進する必要があることから、原子力委員会放射線利用専門部会は、各機関で実施されている放射線利用の進展状況を調査し、平成5年6月「放射線利用の新たな展開について」を策定した。その後の放射線利用の新たな動向についても原子力研究開発利用基本計画などの情報を基に記す。
<更新年月>
2007年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 放射線は、医療、工業、農業などの分野で身近な国民生活や産業活動に広く利用されており、放射線利用が科学技術の発展や国民生活の向上に役立っているにもかかわらず、その多くは一般国民に知られていない。そのため、放射線利用に伴う便益、放射線の持つ特性、放射線の人体への影響などに対する国民の正確な理解を促すことが今後の放射線利用の普及にとって重要である。
1.放射性同位体および放射線発生装置の利用状況
 RIおよび放射線発生装置の使用事業所数は、放射線障害防止法のもとで、幅広い分野の利用促進を背景に1970年代から着実に増加した後、1990年代に入るとRI使用許可・届出事業所数いずれも頭打ちになり、1999年以降は減少の傾向にある。医療機関における体内診断用(インビボ放射性医薬品としての99mTcの使用量や計測器、非破壊検査装置、医療用治療装置、滅菌の線源として利用される137Cs、60Coなどの核種の使用量も同様の傾向を辿っている。また、医療施設などの整備と装置の大型化、性能向上の著しい放射線発生装置は、がん治療などの医療機関や大学、研究機関、民間企業に幅広く普及し、年々増加傾向にある。

2.放射線利用の現状と今後
 放射線はこれまで、医療、農業、工業、科学技術・学術、その他の分野で適切な安全管理の下で利用されてきており、社会に大きな効用をもたらしている。今後とも厳格な安全管理体制の下で、効果的で効率的な利用に向けての努力がなされることが期待されている。
2.1 実用化の現状および今後の進め方
(1)医療分野
 医療分野においては、放射線の透過性を応用した診断と、がん治療を目的とした治療の両面で利用が推進している。特に、臓器形態診断としてのX線CTや臓器・組織代謝および機能の画像診断としてのインビボ検査、酸素免疫測定法などのインビトロ検査などの診断技術および測定結果のコンピュータ画像処理装置SPECTやPETも実用段階に達している。また、平成2年12月に公表された「人体投与の際の安全指針」の下で、放射線照射や体内投与などのがん治療が実用化し、年間、国内におけるがん患者数の約3割が放射線治療を受けていると予想されるほか、術者の放射線防護の立場に立った遠隔照射治療装置が普及している。放射線医学の研究開発成果に基づく患者の負担が少ない放射線治療についての情報が医療や医学教育の現場において広く共有・教育され、適正な放射線治療が普及していくよう、所要の措置を講じるべきである。
 「医療分野における放射線利用」として、国内の病院における病気の診断機器類保有状況と重粒子線がん治療の進展と今後の展開について図1に示す。
(2)農業水産分野
 農業水産分野においては、品種改良でγ線照射とバイオテクノロジーを組合わせる手法や突然変異を誘発するイオンビーム照射が利用され、害虫駆除としては、沖縄県および鹿児島県庵美諸島においてγ線照射による不妊虫放飼法によりウリミバエの根絶が達成されている。また、法的許可の下、馬鈴薯などの発芽防止、熟度遅延、殺菌、殺虫、長期保存などの目的で食品照射が行われている。特に、香辛料、乾燥野菜、ハーブの放射線照射は、48か国で許可され、29か国で実用化されている。今後、検知技術の開発、国民の理解の増進、開発途上国への技術協力を進めることが肝要である。
 「農業分野の利用の現状」として、食品照射、害虫防除、放射線育種について図2に示す。
(3)工業分野
 工業分野においては、放射線の透過性を利用した非破壊検査装置などの計測・検査技術、電線の被覆材などで活用している放射線相互作用を利用した耐熱、強度、耐磨耗性などに優れた新しい材料を開発している。また、各種高分子材料の改良などに利用される電子加速器の普及も急速に進んでいるほか、放射線架橋を利用した有機高分子材料の開発が推進している。さらに、γ線および電子線照射による医療用具の殺菌処理に利用されている。放射線による新材料の創製技術や新しい加工技術・測定技術などの研究開発成果が産業界で効果的に活用されるよう、これらを周知する活動を強化することが重要である。
 「工業分野の主な放射線利用」として、半導体の製造、ラジアルタイヤの製造、電池用隔膜の製造などについて図3に示す。
(4)科学技術・学術分野
 放射線は基礎研究や様々な科学技術活動を支える優れた道具として重要であり、引き続きわが国の科学技術や学術水準の向上に資する活動において積極的に利用されるべきである。量子ビームテクノロジーは、今後、ナノテクノロジーやライフサイエンスなど先端かつ重要な科学技術・学術分野から、医療・農業・工業などの幅広い産業までを支えていくことが期待されている。
 「科学技術・学術分野における放射線利用」として、新機能材料研究開発を促すイオン照射研究施設や原子力分野技術を結集した大型放射光施設(SPring-8)の稼動、リングサイクロトロンおよび重イオン科学用加速器整備の推進により、量子ビームテクノロジーが基礎研究や多くの科学技術によって支えられる技術であることを図4に示す。
(5)その他の分野
 農業分野の利用活動のうち放射線育種については、国民生活の水準向上や産業振興に寄与できる品種の作出を目指し、不妊虫放餌法による害虫防除などについては、害虫根絶や侵入の防止を目指し技術開発を推進することが重要である。
2.2 放射線利用の普及促進のための方策
 放射線利用の普及促進のためには、社会の理解が得られる領域で、放射線の特徴を生かした研究開発に取り組むべきであり、近年生活者の立場を重視した、健康の維持・増進を図る医療面や生活環境の向上を目指して活用していくとともに、研究成果を民間や地方へ積極的に技術移転するなど普及促進を図ることが重要である。放射線利用の分野においても、放射線の発生から利用までの至るところで様々な改良や革新の可能性が提起されており、その実現は学術の進歩や産業の振興をもたらすので、今後とも多様な研究開発を進めていくことが適切である。

3.放射線利用の国民生活への貢献
 今後、放射線利用による効率的で負担の少ない医療の重要性が高まると予想される。また、世界的な人口増加に対応して、食糧増産や食品保存のための放射線利用の必要性が高まると考えられる。さらに、社会のニーズに応える新素材や新しい製造プロセスの開発・利用など、産業の様々な場面で放射線利用の拡大が期待される。国民生活への貢献における放射線利用の拡がりの全容を図5に示す。
 医療分野では、粒子線治療として生物効果が高く放射性抵抗性がん治療としての熱中性子線治療、患部に集中照射が可能で深部臓器への有効である陽電子線治療、臨床試験が実施されていて、正常組織への影響が小さく、集中照射が可能、放射線感受性の低い悪性腫瘍に有効である重粒子線等治療等の研究段階から臨床試験の実施に移っている。また、粒子線治療装置の小型化や遠隔操作式密封小線源治療(RALS)、放射線源の粒状、針状などの多様化、血液製剤等の137Cs線源による放射線滅菌、早期がん発見手段として有効である3次元X線CTなどが積極的に進められている。粒子線を含む放射線を用いた診断、治療のさらなる高度化を進めるとともに、診断治療における健常組織への被ばく線量の低減化、新しい医療用線源や放射性薬剤の開発による診断適用範囲の拡充などの研究開発を産学官が協力して行うことが重要である。
 食品分野においては、食品照射は、衛生的な食品を安定に供給し、腐敗による食料の損失を防ぐ殺菌技術の有力な選択肢の一つである。消費者による自由な選択を尊重し、食品照射と他の殺菌技術の手法とを比較し、必要性や安全性についての分かり易い情報提供を行うことが必要である。
 農業、工業、環境保全への利用においては、食料の安定供給や環境保全に役立つ植物の放射線育種、先端的な新素材および資源確保に役立つ新材料の創製、電子線照射による石炭排煙処理および都市ごみ燃焼排煙処理のパイロット試験の実施、地下水汚染等の原因となる有害物質である有機塩素系化合物などの除去する環境保全技術の開発などを進めることが重要である。

4.放射線利用分野における国際貢献
 近年、近隣アジア諸国等においては、生活向上の観点から、放射線利用への関心が強く、技術的基盤の充実、人材の養成等を目的とした我が国の協力が強く望まれ、また、先端的な研究分野においては、先進国との研究協力が進められており、基礎研究分野における国際貢献の積極的な推進が望ましい。
4.1 国際協力の現状
 わが国の途上国への協力としては、「アジア地域原子力協力国際会議」の下での協力活動、IAEA/RCAへの協力、環境、医学、農業面からの近隣アジア地域を中心とした二国間協力、原子力研究交流制度に基づく協力により、知識や技術の交流、共同研究開発および開発途上国地域における放射線利用を支援するための取組みを行っている。また、先進国への協力としては、重イオン科学、イオンビーム利用、中性子利用、排煙放射線処理等に関する共同研究実施するとともに、OECD-IEAおよびIAEAなどの国際機関の活動に参加するなどにより、協力を推進している。
4.2 国際貢献に向けた協力のあり方
 途上国協力としては、相手国のニーズおよび実情を踏まえた、開発段階に応じたきめ細かな協力体制が必要であるが、特に、放射線利用技術の定着の観点から、周辺技術を含めた技術協力や安全規制体系の整備、利用周辺環境の整備、研究指導者の長期派遣要請への対応、人材養成への協力体制等を積極的に推進している。また、現代のように、国際社会において国境を越えての人・組織の競争と協調が日常化している状況においては、相互に利益を追求する観点から協力作業や共同作業、そして国境を越えたネットワークの形成が進められている。
<図/表>
図1 医療分野における放射線利用
図2 農業分野の利用の現状
図3 工業分野における放射線利用
図4 科学技術・学術分野における放射線利用
図5 放射線利用の拡がり

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<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)総論 (10-01-05-01)
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)
平成18年度原子力研究開発利用基本計画(1) (10-02-01-16)
平成18年度原子力研究開発利用基本計画(2) (10-02-01-17)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力局(編集):原子力委員会月報 通巻第442号(第38巻第6号)大蔵省印刷局(1993年9月)
(2)科学技術庁原子力局(監修):原子力ポケットブック1994年版、(社)日本原子力産業会議(1994年3月)
(3)原子力委員会:放射線利用の拡がり、長計第5分科会資料 資料放第1-2-3号、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/housyasen/siryo/housya01/siryo2_3.htm
(4)原子力委員会:原子力政策大綱、原子力委員会決定(平成17年10月11日)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/tyoki/taikou/kettei/siryo1-3.pdf
(5)林徹:食品照射の現状、RADIOISOTOPES、Vol.56(2007)、p.533-541、日本アイソトープ協会
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