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<概要>
 原子力委員会は、昭和57年策定した原子力開発利用長期計画(以下「57長計」という)を改定し、57長計以後の原子力開発利用の進展と原子力を巡る情勢の変化を踏まえ、新たな時代環境に適応した原子力開発利用の在り方と目指すべき方向を示すべく、新しい長期計画(62長計)を策定した(長計は5年ごと策定)。本文にその要約を示す。
 今後の原子力開発利用においては、エネルギー政策における国際的視野及びエネルギー供給における原子力の役割の見直しの必要性、チェルノブイル発電所事故による安全確保の重要性の再認識等の原子力を巡る情勢の変化を踏まえ、核燃料所要量の見直し、原子力発電体系全体の安全性・信頼性・経済性の向上、核燃料サイクル事業化の推進、高速増殖炉によるプルトニウム利用の推進等の課題に対処する必要がある。また、なお未開発の領域に挑戦し、原子力の新たな可能性を追求することが期待されている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 以下、要約を示す。
第1章 原子力開発利用の意義
(1) 原子力開発利用の今日的意義
 原子力は、放射性物質の適切な閉じ込め或いは隔離を基本とする最高度の安全管理を必要とするが、経済性、供給安定性等に優れたエネルギー源であり、また地球環境保全、世界的エネルギー需給(ひいては世界的政情)の安定化の観点からも原子力開発利用の意義は大きい。また、原子力は核融合等新しい技術や知識を創出してきたが、さらに量子レベルでの原理・現象を工学的利用する「量子工学」とも呼ぶべき技術分野が生まれつつある。このように原子力は、科学技術面からみた意義も大きい。
(2) 原子力開発利用の基本方針
 原子力開発利用は以上のような意義を有するので、これを今後とも着実に推進していくこととするが、その際「平和利用の堅持」と「安全の確保」を大前提とする。

第2章 原子力開発利用の基本目標
(1) 基軸エネルギーとしての確立
 原子力を我が国のエネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する基軸エネルギーとして位置づけ、その安全性、信頼性、経済性などの質の向上を重視して開発を進めていく。
(2) 創造的科学技術の育成
 今後は原子力研究開発の特質を踏まえ、創造型研究開発を指向し、ニーズの多様化・高度化に対応していくと共に、他の科学分野との連携・交流に努めることにより、次代の創造的な科学技術の育成を図っていく。
(3) 国際社会への貢献
 (a)創造型研究開発を推進し、新しい技術や知識を創出し、世界共通の利益を追求する。(b)各国が共通して推進している大型研究開発プロジェクトにおいて国際協力の可能性を追求し、研究開発資源の国際的活用を進める。(c)国際的な原子力安全の確保に貢献すること等により原子力平和利用推進のための国際環境の整備に努める、という3点を基本目標として我が国の国際対応を主体的・能動的に推進する。
(4) 基本目標達成のための要件
 原子力開発利用を巡る内外の諸情勢が変動する中で、上記の基本目標を目指し原子力開発利用の進展を期すためには、(a)自主性を確保しつつ、国内に確固たる技術的基盤を構築すること、(b)資金の確保・有効利用及び人材の確保・育成に配慮しつつ、原子力開発利用を計画的に進めること、(c)創造型研究開発の推進に当たり、産学官の連携、研究評価機能の充実等により、効果的な実施に努めること、(d)国際協力等の推進に当たっては、そのフィージビリティの検討を踏まえ、効果的・効率的な推進に努めること、(e)原子力開発利用に対する社会的信頼性を高め、内外の理解を得ていくこと、が必要である。

第3章 原子力開発利用推進上の重要課題
(1) 安全性の一層の向上
 引き続き安全確保に万全を期すために、安全確保対策の一層の充実、世界的な安全確保のための国際協力の推進に努める。また、(a)発電設備容量の拡大、軽水炉技術の高度化、設備の経年変化と廃止措置、(b)核燃料サイクル事業の本格化、(c)新型動力炉開発の推進等の新たな展開に当たっても安全確保に万全を期す。
(2) 原子力発電の基本路線の着実な推進
 使用済み燃料は再処理し、プルトニウム及び回収ウランを利用する「再処理−リサイクル路線」を基本とする。プルトニウムの利用形態については「軽水炉から高速増殖炉へ」の炉型戦略を基本とする。
 軽水炉は今後とも原子力発電の主流を占めると予想されるため、軽水炉技術の高度化、高転換軽水炉、固有の安全性等基礎・基盤に立ち返った研究開発を推進する。
 軽水炉による原子力発電の自主性向上を図るとともに、将来の高速増殖炉を中心とするプルトニウム利用体系への基盤形成のため、核燃料サイクルの確立を図る。また、高速増殖炉の実用化には今後相当期間を要すると考えられるため、プルトニウム利用に向けては段階的な展開を図る。
(3) 原子力の創造的・革新的領域における研究開発の推進
 原子力の研究開発においては、科学技術全般への波及効果が期待される創造的・革新的領域を重視し、基礎研究、基盤技術開発及び先導的プロジェクト等を他分野における研究開発との連携・交流を図りつつ行う。
(4) 主体的な国際対応の展開
 原子力分野における我が国の国際貢献の要請の高まりに応え、核不拡散との両立を図ると共に、安全確保の重要性を認識しつつ、主体的・能動的な国際対応を展開していく。
(5) 原子力開発利用の基盤強化
 長期的視点に立って技術的基盤の確立を図って行くためには、産学官の密接な連携・協力が極めて重要である。こうした観点から、今後我が国における研究開発体制の整備及び原子力産業の基盤強化を図る。
(6) 国民の理解と協力
 今後の原子力開発利用を円滑に進めて行くためには、国民の理解と協力が重要である。特にチェルノブイル事故により原子力の安全性に対する信頼感が損なわれたこともあって、国民の間には、なお原子力を巡り様々な意見があることを十分認識する必要がある。
 なお、長期計画はほぼ5年に一度策定され、次の長期計画である「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」は1994年6月に策定されている。
<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(昭和62年策定)各論 (10-01-05-02)

<参考文献>
(1)原子力委員会:原子力開発利用長期計画,原子力委員会(1987)
(2)科学技術庁原子力局監修:原子力ポケットブック1991年版、日本原子力産業会議(1991)
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