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<概要>
 原子力開発利用基本計画は、原子力開発利用を計画的かつ効率的に推進させることを目的として毎年度策定される計画であり、原子力委員会が平成12年(2000年)11月に決定した「原子力の研究、開発および利用に関する長期計画」(以下、「長期計画」という。)において示された基本方針を具体化するための現実に即した実施計画といえる。本計画は、原子力委員会及び原子力安全委員会がそれぞれの所掌に応じて策定する計画であり、内閣総理大臣が決定する。
 長期計画で掲げている6つの項目(国民・社会と原子力の調和、原子力発電核燃料サイクル、原子力科学技術の多様な展開、国民生活に貢献する放射線利用、国際社会と原子力の調和、原子力の研究、開発及び利用の推進基盤)の分類に従って、長期計画の概要とこれに対応する平成15年度の取組について以下に記述する。
<更新年月>
2004年04月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
(1)原子力長期計画とその具体化に向けた取組
 国内にエネルギー資源が乏しく、そのほとんどを海外からの輸入に依存するわが国にとって、供給安定性に優れた原子力発電と永続的かつ安定的に燃料の自給を可能とする核燃料サイクルは、その導入・確立が切望されてきた。加えて、近年、地球温暖化問題への関心が高まり、京都議定書に見られるように、国際的にも、化石燃料への依存を低減させる必要に強く迫られており、原子力の重要性はますます高まりつつある。
 また、原子力は、加速器等を通じて、生命科学やナノ技術などの先端研究開発の発展に欠かせない技術基盤となっているとともに、放射線利用により、様々な産業分野や国民生活の向上に貢献している。
 このような背景の下に、原子力委員会は、わが国の21世紀に向けた原子力研究開発利用の全体像と長期展望を示すため、2000年11月24日に9回目となる「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」(以下、「長期計画」という。)を策定した。
(2)原子力をめぐる国内外の情勢
 2001年12月19日に、中央省庁等改革に続く行政改革の一環として、「特殊法人等整理合理化計画」が閣議決定され、その中で、日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構について、その廃止・統合及び独立行政法人化が決められ、現在、両法人において、研究開発、業務運営等の効率化を目指した先行的な取組が開始されている。
 核融合については、ITER計画が進められており、ITER共同実施に関する政府間協議が2001年11月に開始され、サイト選定に向けたサイト共同評価や、共同実施協定等についての協議が進められている。わが国は2002年5月に、国際協力によってITER計画を推進することを基本方針とし、国内候補地を青森県六ヶ所村とすることを閣議了解し、6月の政府間協議においてわが国の候補地として提案した。
 安全確保、原子力防災については、ウラン加工工場臨界事故(JCO事故)を踏まえて対策が図られたところであるが、2002年の不正問題の反省から、原子炉等規制法及び電気事業法の一部改正による検査の拡充や維持基準の導入などの実効性向上のための対策がとられている。
 国外においては、米国カリフォルニアの電力危機を背景に、電力の安定供給への不安や温室効果ガス削減の観点から、原子力のメリットが再認識された。欧州において、原子力発電の段階的廃止を決定している国があるが、一方で、原子力発電所の増設に踏み切った国もあり、原子力の推進へ向けた動きが見られる。
 このような状況を踏まえた上で、平成15年度計画(表1)を取りまとめた。長期計画で掲げている6つの項目(1.国民・社会と原子力の調和、2.原子力発電と核燃料サイクル、3.原子力科学技術の多様な展開、4.国民生活に貢献する放射線利用、5.国際社会と原子力の調和、6.原子力の研究、開発及び利用の推進基盤)の分類に従って行い、長期計画の概要とこれに対応する平成15年度の取組(表2〜表7に記載)について以下に記述する。なお、具体的な施策を示す各項目の予算表及び予算総表等は割愛する。

2.長期計画の概要
2.1 国民・社会と原子力の調和
(1)安全確保と防災(表2-1(1)参照)
(安全確保の取組)
 国は、国民の生命と財産を守る観点から、厳格な安全規制を行う責務を有している。行政庁は、JCO事故を踏まえて強化された原子炉等規制法に基づき事業者の保安規定の遵守状況の検査等を行う。原子力安全委員会は、設置許可後の行政庁による規制状況を調査により把握、確認するなど安全規制の強化を図る。
(原子力防災の取組)
 安全確保のためにいかなる取組がなされても、事故発生の可能性を100%排除することはできないとの前提に立って、事故が発生した場合の周辺住民等の生命、健康等への被害を最小限度に抑えるための災害対策が整備されていなければならない。
(2)情報公開と情報提供(表2-2(2)参照)
(情報公開の在り方)
 国民の必要とする情報について、明確な情報開示の基準の下、通常時、事故時を問わず、適時、的確かつ信頼性の高い情報公開を行うことが必要である。
(情報提供の在り方)
 国民の原子力に対する理解促進を目指す情報提供に当たって、タイムリーであり、専門家でなくとも分かりやすく、情報の受け手側の多様なニーズを踏まえることが必要である。加えて、事故時においては迅速な情報提供が重要である。
(3)原子力に関する教育(表2-2(3)参照)
 国民一人一人がエネルギーや原子力について考え、判断するための環境を整えることが重要である。原子力に関する教育では、エネルギー教育や環境教育の一環として、また、科学技術、放射線等の観点から、体系的かつ総合的にとらえることが重要である。
(4)立地地域との共生(表2-2(4)参照)
 立地を契機として次の発展を目指すという視点から地域の新たな発展の方向を有効かつ積極的に支援するような振興策を検討することが重要である。
2.2 原子力発電と核燃料サイクル
 原子力発電は、既に国内総発電電力量の3分の1を超える電力を供給し、わが国のエネルギー自給率の向上及びエネルギーの安定供給に貢献するとともに、二酸化炭素排出量の低減に大きく寄与しており、引き続き基幹電源に位置付け、最大限に活用していく。
 核燃料サイクル技術は、供給安定性等に優れている原子力発電の特性を技術的に向上させ、長期にわたるエネルギー供給を可能にする技術である。国内で実用化することでわが国のエネルギー供給システムに対する貢献を一層確かにする。また、国民の理解を得つつ、使用済燃料再処理し回収されるプルトニウム、ウラン等を有効利用していく。
 高速増殖炉サイクル技術は、ウランの利用効率を飛躍的に高めることができ、高レベル放射性廃棄物中に長期的に残留する放射能を少なくする可能性を有していることから、将来の有力な技術的選択肢として位置付け、適時適切な評価の下にその研究開発を着実に進める。
(1)原子力発電の着実な展開(表3-1(1)参照)
 安全規制に関しては、国はリスク評価技術の進歩を踏まえ、効果的かつ効率的な安全規制について絶えず検討して、実現を図っていく。また、原子力発電が今後とも引き続き期待される役割を果たしていくために、新しい価値観や環境制約の出現に備えた技術開発に取り組む。
(2)核燃料サイクル事業(表3-1(2)参照)
 わが国のウラン濃縮技術を国際競争力のあるものにするため研究開発を推進する。プルサーマルは、ウラン資源の有効利用を図る技術であるとともに、原子力発電に係る燃料供給の代替方式であり、計画を着実に推進していくことは適切である。また、国内MOX 燃料加工事業が早期に産業として定着するよう努力する。
(3)放射性廃棄物の処理及び処分(表3-2(3)参照)
 a)地層処分を行う廃棄物
(高レベル放射性廃棄物)
 国は最終処分の政策的位置付けや安全性の確保のための取組を明確にし、関係住民の理解を得るよう努めるとともに、地域共生方策に関する制度や体制の整備などを行う。また、最終処分の安全規制、安全評価のために必要な研究開発や深地層の科学的研究等の基盤的な研究開発及び地層処分技術の信頼性向上に関する技術開発を進める。
(高レベル放射性廃棄物以外の放射性廃棄物)
 地層処分が必要な放射性廃棄物は、その性状の多様性を踏まえた処理及び処分に関する技術の研究開発を発生者等が密接に協力しながら推進する。
(分離変換技術)
 高レベル放射性廃棄物に含まれる長半減期の放射性物質を短半減期の、あるいは放射性でない安定な物質に分離変換する技術の研究開発は、定期的に評価を行いつつ進める。
 b)管理処分を行う廃棄物
 既にコンクリートピットへの処分が進められている原子力発電所から発生する廃棄物以外の低レベル放射性廃棄物については、今後処分の実現に向けた具体的な取組を進める。(原子力施設廃止措置
 設置者の責任において、安全確保を大前提に地域社会の理解と支援を得つつ進める。
(廃棄物の発生量低減と有効利用の推進)
 廃棄物については発生量低減や有効利用が必要であり、そのための研究開発を積極的に推進していく。放射能の濃度がクリアランスレベル以下の廃棄物については、放射性物質として扱う必要がないので、合理的に達成できる限りにおいてリサイクルしていく。
(4)高速増殖炉サイクル技術の研究開発(表3-2(4)参照)
 発電プラントとしての信頼性実証とその運転経験を通じたナトリウム取扱技術の確立という「もんじゅ」の所期の目的達成に優先して取り組む。ついで、「実用化戦略調査研究」を推進する。
2.3 原子力科学技術の多様な展開(表4参照)
 原子力科学技術は、知的好奇心に基づく基礎研究と、経済、社会や生活者のニーズに対応した応用目的を有する研究開発の二つの側面がある。加速器や高出力レーザーは、物質の究極の構成要素や自然の法則を探ったり、生命科学や物質・材料系科学技術等の様々な科学技術分野の発展を支えるものである。一方、核融合や革新的な原子炉の研究開発は、将来のエネルギー安定供給の選択肢を与え、経済、社会のニーズに応えるものである。
2.4 国民生活に貢献する放射線利用(表5参照)
 放射線は、取扱を誤れば健康に影響を及ぼす危険な道具であるが、管理しながら使うことで社会に多くの便益をもたらし、活力を与える。情報の提供と積極的な情報公開により国民の理解を得ながら、今後も医療、工業、農業等の幅広い分野で活用できるように、研究開発を進めつつ放射線利用の普及を図っていくことが重要である。また、国民に放射線利用や放射線についての正しい知識をもってもらうための努力が必要である。
2.5 国際社会と原子力の調和(表6参照)
 原子力を将来とも重要なエネルギーの選択肢として利用し、人類共通の知的資産の創出に貢献していくためには、原子力を取り巻く様々な国際的課題に対する適切な取組が極めて重要である。その際、相手国のニーズあるいは国際機関等からの要請に応じて受動的に対応するだけでなく、より主体的に、より能動的に取り組む。
 また、核不拡散の国際的課題に関して、核不拡散体制の維持は安全確保とともに極めて重要であり、国際原子力機関(IAEA)による包括的保障措置等の枠組みの維持に加え、わが国のもつ原子力平和利用技術と人的能力をもって、核不拡散体制の強化に主体的に取り組む。
2.6 原子力の研究、開発及び利用の推進基盤(表7参照)
 安全の確保を図りつつ原子力利用を進めていくためには、これらを支える優秀な人材の育成・確保は重要な課題である。また、人材養成の中核的機関である大学は、国際的視点を含めながら、研究開発機関、民間事業者等と連携しつつ、多様かつ有能な人材養成に取り組むことが必要である。
<図/表>
表1 平成15年度原子力研究開発利用基本計画書目次
表1  平成15年度原子力研究開発利用基本計画書目次
表2-1 平成15年度の取組、国民・社会と原子力の調和(1/2)
表2-1  平成15年度の取組、国民・社会と原子力の調和(1/2)
表2-2 平成15年度の取組、国民・社会と原子力の調和(2/2)
表2-2  平成15年度の取組、国民・社会と原子力の調和(2/2)
表3-1 平成15年度の取組、原子力発電と核燃料サイクル(1/2)
表3-1  平成15年度の取組、原子力発電と核燃料サイクル(1/2)
表3-2 平成15年度の取組、原子力発電と核燃料サイクル(2/2)
表3-2  平成15年度の取組、原子力発電と核燃料サイクル(2/2)
表4 平成15年度の取組、原子力科学技術の多様な展開
表4  平成15年度の取組、原子力科学技術の多様な展開
表5 平成15年度の取組、国民生活に貢献する放射線利用
表5  平成15年度の取組、国民生活に貢献する放射線利用
表6 平成15年度の取組、国際社会と原子力の調和
表6  平成15年度の取組、国際社会と原子力の調和
表7 平成15年度の取組、原子力の研究、開発及び利用の推進基盤
表7  平成15年度の取組、原子力の研究、開発及び利用の推進基盤

<関連タイトル>
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)総論 (10-01-05-03)
原子力開発利用長期計画(平成12年策定)各論 (10-01-05-04)
平成14年度原子力研究開発利用基本計画 (10-02-01-12)

<参考文献>
(1)原子力委員会:平成15年度 原子力研究、開発及び利用に関する計画(2003年4月)
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