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<概要>
 「周辺環境モニタリング」は、原子力発電所、再処理施設等の原子力施設周辺の放射線量率および土壌、陸水、農作物等の放射能濃度を測定し、評価することである。
 周辺環境モニタリングには、平常時のモニタリングと緊急時のモニタリングがある。地方公共団体は施設周辺環境の住民の健康と安全を直接守る立場から周辺環境モニタリングを実施し、原子力施設の設置者は施設からの放射性物質放出管理、施設管理などの立場から実施している。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 「周辺環境モニタリング」は、原子力発電所、再処理施設等の施設周辺の放射線量率、ならびに土壌、陸水などの放射能濃度を測定、評価することを意味し、「環境放射線モニタリング」、「環境モニタリング」とも呼ばれている。ここでは、簡略して「モニタリング」という。モニタリングは、平常時のモニタリングと緊急時のモニタリングに分けられる。
 原子力安全委員会は、モニタリングの技術水準の向上および斉一化を図るため、「環境放射線モニタリング指針」(平成元年決定、平成20年改定)を取りまとめ、モニタリング計画の立案、実施および線量評価について基本的方法を示している。地方公共団体(原子力施設の立地道府県)および原子力施設の設置者(以下「設置者」)はこの指針にもとづき、モニタリングを実施している。
(1)平常時のモニタリングの目的
 原子力施設周辺の平常時のモニタリングは、地方公共団体が施設周辺の住民の健康と安全を直接守る立場から行い、また、設置者が施設からの放射性物質の放出に伴う周辺環境への影響を評価し、放出管理、施設管理などに反映する立場から実施している。しかし、モニタリングの実施内容は、両者とも本質的に異なるものではなく、その密度や重点の置きかたが異なるだけである。モニタリングは地域全体として、整合性がとられ、地方公共団体と設置者との間で、地域の実情に応じて役割分担が決められ、地域の環境モニタリング計画が作成されている。
 モニタリングの基本目標は、原子力施設周辺の公衆の健康と安全を守るため、環境における原子力施設に起因する放射線による線量が、年線量限度(実効線量について1mSv/年)を十分下回っていることを確認することにある。
 具体的には、a)周辺住民等の線量を推定および評価すること、b)環境における放射性物質の蓄積状況を把握すること、c)原子力施設からの予期しない放射性物質又は放射線の放出による周辺環境への影響評価に資すること、d)異常事態又は緊急事態が発生した場合に、平常時のモニタリングを強化又は緊急時モニタリングへの移行を迅速にできるよう、平常時からこれらの事態を見据えた環境放射線モニタリングの実施体制を整備しておくことである。
(2)平常時モニタリング計画
 平常時のモニタリング計画は、施設の操業の段階に応じて、a)操業前のモニタリング、b)操業時のモニタリングの二つに分けられる。
 操業前のモニタリングは以下を目的として行う。a)決定核種、決定経路等に関する情報を得て、操業開始後のモニタリング計画の立案、線量評価に資すること。b)操業時のモニタリングを解釈、支援するために、操業前の環境の空間放射線および環境試料中の放射能のバックグラウンドとその特性を把握し、操業開始後の比較に資すること。c)操業開始後のモニタリング方法と手順を試行的に実施し、必要な技術に習熟すること。
 原子力発電所などの建設にあたっては、操業の1年以上前から調査を行い、以下の諸点について留意する。a)操業開始後に測定を予定している地点の空間放射線。b)風向、風速、降水量、気温等の気象要素。c)大気中の浮遊塵に含まれる放射性核種の放射能、d)土壌、海底土、現地で生産される主な食品、水、生物等の試料を採取し、核種を分析。また、原子力施設周辺の人口分布、気象要素、食品の流通経路、食品の採取状況等のデータを集め、採取すべき試料の種類、採取地点等の選定に役立てる。
 操業時のモニタリングでは、敷地境界の近傍および人口の集中した地点にモニタリングポストあるいはモニタリングステーションを配置して空間線量率が連続して監視され、さらに多くの地点に積算線量計(熱ルミネセンス線量計)を一様に配置し、積算線量が測定される。
 また、原子力施設から放出される放射性核種は環境中に拡散し、その一部はいろいろな経路により人に被ばくをもたらす可能性がある。そこで、この経路に沿って人の被ばくに直接関係のある環境試料(空気、土壌、葉菜、牛乳、海底土、海産物など)を採取されするとともに、人の被ばくに直接関係がなくても、放射性核種の分布、蓄積状況などの把握に役立つ環境試料も採取し、これら試料中の放射能が測定される。環境試料のうち生物を指標生物と呼び、松葉、よもぎ、ホンダワラなどが選ばれる。
 モニタリング計画の策定、モニタリング結果の解釈と評価のために、風向、風速等の気象要素の連続観測も行われ、地域の気象特性を把握して、モニタリング結果が解釈され、環境線量が評価される。
 原子力発電所の周辺環境の代表的なモニタリング調査内容を表1に示す。
(3)平常時モニタリング結果の評価
 モニタリング結果は、原子力発電所の立地県などでは、県等に環境監視のための委員会を設置し、検討、評価される。結果は、a)試料採取方法・処理方法、放射線測定器の性能、測定方法等の条件の変化、b)降雨、降雪、雷雨、積雪等の気象要因および地理・地形等の自然条件の変化、c)核爆発実験等の影響、d)医療・産業用の放射性同位元素等の影響、e)原子力施設の運転状況の変化などによって変動する。その変動幅を「平常時の変動幅」と呼んでいる。平常時の変動幅は、多くの測定結果を統計処理して算出される。検討、評価は、平常時の変動幅を基準にして行われ、平常時の変動幅を外れているときには、その原因が調査される。
 線量の推定・評価は、通常、1年間の外部被ばくによる線量と1年間の飲食物等の摂取からの内部被ばくによる預託線量を別々に算定し、その結果を総合して求められる。この場合、前者については積算線量計等のデータから算定し、後者については飲食物等の中の主要放射性核種の濃度と摂取量等に基づいて算定する。
(4)平常時モニタリングの強化
 平常時モニタリングの強化は、原子力施設において異常事態が発生した場合に、周辺住民等および周辺環境への影響の有無又はその大きさを迅速に把握するとともに、異常事態の原因およびその様態を明らかにすることにより、緊急時モニタリングに備えることを目的とする。
 平常時モニタリングの強化にあたっては、発生した異常状態に応じて、以下の内容のうちから必要なものを選択して行う。
1)モニタリングポスト等による空間放射線量率の監視強化
 原子力施設周辺に設置されているモニタリングポスト等のデータの収集時間間隔を短くし、得られた連続記録の監視を頻繁に行い、空間放射線量率の分布および経時的変化を把握する。
2)大気中の放射性物質の監視強化
 モニタリングステーションに備えたダストモニタ等の測定結果の監視を頻繁に行うとともに、ろ紙等の交換期間を短縮する。通報された施設内の状況から必要があると判断される場合には、放射性ヨウ素を対象とした採取を開始する。
3)気象観測の監視強化
 モニタリングステーション、原子力施設等に備えた放出高さの気象観測機器による測定記録の監視を頻繁にするとともに、周辺の気象台との連絡を密にし、気象情報を収集する。
4)積算線量の監視強化
 必要に応じて、モニタリングポイント等の積算線量計の追加、交換を実施する。追加した積算線量計により、適切な時期に異常事態発生後の積算線量を求める。
5)移動サーベイの実施
 必要に応じて、可搬型測定器を用いた空間放射線量率の測定等を実施する。その際、モニタリング車等を利用することも有効である。
(5)緊急時モニタリング
 緊急時モニタリングは、原子力施設において緊急事態が発生した場合に、避難、飲食物摂取制限等の放射線防護対策に必要な情報を収集し、原子力施設に起因する放射性物質又は放射線の周辺住民等への影響の評価に資することを目的とする。
 原子力緊急事態が発生した場合には、直ちに緊急時モニタリングの体制が組織され実施に移すことができるようになっていることが極めて重要である。このため、あらかじめ緊急時モニタリング計画を立案し、(a)緊急時モニタリング体制の整備、(b)緊急時モニタリング用資機材の整備、(c)緊急時モニタリングの実施方法等について定めた緊急時モニタリングマニュアルを作成しておく。
 緊急時モニタリングは、原子力緊急事態の発生時に迅速に行う第1段階の緊急時モニタリング(以下「第1段階モニタリング」)と、周辺環境に対する全般的影響を評価する第2段階の緊急時モニタリング(以下「第2段階モニタリング」)からなる。
 第1段階モニタリングは、原子力緊急事態の発生直後から速やかに開始されるべきものであり、この結果は、放出源の情報、気象情報およびSPEEDIネットワークシステム等から得られる情報とともに、予測線量の推定に用いられ、これに基づいて防護対策に関する判断がなされることとなる。したがってこの段階においては何よりも迅速性が必要であり、第2段階で行われる測定ほど精度は要求されない。
 第2段階モニタリングは、事故状態の予測が確実になり、放射性物質又は放射線の放出が減少してきた段階において開始される。同モニタリングについては、第1段階モニタリングに必要な迅速性よりも正確さが重要となり、周辺住民等の実際の線量の評価と環境中に放出された放射性物質又は放射線の状況の把握に必要な情報の収集活動を行う。緊急時モニタリングの詳細は、ATOMICAデータ「緊急時環境放射線モニタリング(09-04-08-04)」、「緊急時環境放射線モニタリング指針(11-03-06-02)」などに解説されている。
(前回更新:2004年3月)
<図/表>
表1 代表的なモニタリングの調査内容
表1  代表的なモニタリングの調査内容

<関連タイトル>
環境放射線の測定法 (09-01-05-03)
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)
環境試料モニタリング (09-04-08-03)
緊急時環境放射線モニタリング (09-04-08-04)
気象観測 (09-04-08-05)
緊急時環境線量情報予測システム(SPEEDI) (09-03-03-01)
環境集中監視システム (09-04-03-15)
フォールアウト (09-01-01-05)
預託線量 (09-04-02-09)
緊急時環境放射線モニタリング指針(2013年改正以前) (11-03-06-02)

<参考文献>
(1)原子力安全委員会、環境放射線モニタリング指針(平成20年3月)
(2)原子力安全委員会事務局(監修):原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社(2008)
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