<本文>
1.作業者の防護
放射線防護の方法は、放射線業務従事者(以下、「作業者」という)の防護と一般公衆の防護とでは基本的に方策が異なる。作業者の場合には個人管理が行われ、適切な作業環境管理のもとで外部被ばく線量・内部被ばく線量の測定(あるいは算定)による実効線量限度(決められた5年間の平均が20mSv、1年については50mSvを超えないこと)以下であることの確認と定期的な健康診断の実施によって、放射線の
確率的影響(がん誘発、遺伝疾患誘発)の発生が制限される。放射線の非確率的(確定的)影響の発生を防止するためには、
水晶体、皮膚、手先及び足先におのおの150mSv、500mSv、500mSvの等価線量の年限度が設けられ、実効線量の限度を細くして適用される。
被ばく線量管理の対象となる作業者は、放射性同位元素等の取り扱い作業等を行うために
管理区域に立ち入る者である。ただし、見学者等で一時的に立ち入る者で作業者でない場合には、外部被ばくについて1センチメートル線量当量が100μSvを超えるおそれがなく、内部被ばくについては
放射性物質の
吸入・摂取による実効線量が100μSvを超えるおそれがないならば被ばく線量の測定を免除される場合がある。
作業者の被ばく線量管理の方法は、外部被ばく線量に関しては、1センチメートル線量当量、70マイクロメートル線量当量(皮膚)をそれぞれ個人モニタ(蛍光ガラス線量計、TLD等)を用いて測定することになっており、管理区域に立ち入っている期間中は連続して測定する。なお、水晶体の等価線量は、1センチメートル線量当量または70マイクロメートル線量当量の内適切な方をとる。測定部位は、原則として男性は胸部、女性は腹部である。
内部被ばく線量に関しては、放射性物質を吸入・摂取した場合には即座に、また放射性物質を吸入・摂取するおそれのある場所へ立入る場合には、男性の場合は3月を超えない期間毎に、女性(妊娠不能と診断された者を除く)は、1月を超えない期間毎に体内放射能量を測定しなければならない。その測定・評価方法としては、ホールボディカウンタによる全身直接計測のほかに、バイオアッセイ法、さらには空気中放射能濃度からの計算による算定によるものがある。内部被ばくによる線量は、評価・推定した摂取量(Bq)に実効線量係数(mSv/Bq)を乗じて求めることになる。実効線量は摂取したすべての
核種について合計して求め、等価線量は、同じ組織について合算する。そして両線量とも、外部被ばく線量と合計することになる。
年実効線量限度は、放射線被ばくによる確率的影響の
リスク低減を、年等価線量限度は、放射線被ばくによる非確率的(確定的)影響の防止を目的として定められている。
作業者に対して実施される健康診断は、放射性同位元素等による
放射線障害防止法では、はじめて管理区域に立ち入る前及び立ち入った後は1年、電離放射線障害防止規則(電離則)では半年、を超えない期間毎に実施される(ただし、前年度の実効線量が5mSvを超えず、当該年度の実効線量が5mSvを超えるおそれがない者については除外される)。
これらの個人管理は、作業者に対して実施される。その理由としては、(a)作業者が一般公衆と比較して放射線を被ばくする可能性が大きいこと、(b)他の一般的な職業と同じように放射線被ばくによるリスクも職業上のリスクとして労働衛生上の管理対象となること、(c)労働者の放射線障害防止対策は、労働契約上発生する使用者(事業者)の義務であること(電離放射線障害防止規則)、が挙げられる。
しかし、個人管理はあくまで事後に線量限度(
表1-1、
表1-2)を超える被ばくの有無を確認し、適切な措置を遅滞なく講じることが主な目的であり、積極的に作業者の被ばくを低減するためには、管理区域における作業環境管理が適切に計画・実施されなければならない。
管理区域内における作業環境管理は、(a)線量率の測定管理、(b)表面密度の測定管理、(c)空気中放射能濃度の測定管理を柱としている。測定場所は、管理区域内でもっとも線量率が高くなるおそれのある場所や汚染が発生するおそれのある場所が複数選ばれる。測定回数は、放射線作業を開始する前に一回、作業開始後は、非密封放射性同位元素を取り扱う作業の場合は、1月を超えない作業期間ごとに一回、密封放射性同位元素及び放射線発生装置を取り扱う作業の場合には、使用方法に変更がなければ6月を超えない期間毎に一回行うことが必要とされる。管理区域内の空気中放射能濃度や表面密度の測定も、
線源を使用する度に行われるだけでなく、定期的に実施される。管理区域から環境へ排気・排水する場合には、排気・排水口における排気・排水中放射能濃度が排気・排水の都度、または連続して測定される。
2.一般公衆の防護
一般公衆の場合には、公衆のうける放射線の危険性は、公衆がさらされている他のあらゆる危険要因のうちのほんの一部であり、したがって、公衆が日常生活で放射線以外の危険性をどのように容認しているのかということと比較して、公衆に容認されうる線量限度(
表2)を定めることが合理的であるとの考え方から、
遺伝的影響(遺伝有意線量)に対する配慮などもあって作業者よりも厳しい年実効線量限度(1mSv/年)がICRPより勧告されている。
一般公衆の放射線防護は、事業所境界における充分な環境管理(空間線量率、排気・排水中放射能濃度)によって担保されなければならない。このため、事業所の責任に於て行われる事業所境界あるいは管理区域境界における環境管理は、公衆に対する放射線防護を放出源において担保するため計画・実行されている。つまり、事業所境界あるいは管理区域境界において空間線量率および排気・排水中放射能濃度を適切に管理することがすなわち、一般公衆の被ばく線量低減(放射線防護)対策となる。これに対して、自治体などの監視機関が行う広範囲な
環境モニタリングは、(a)施設周辺環境の自然放射能(線)の変動を把握する、(b)事業所の責任で行われている事業所境界の環境管理の妥当性を監視して一般公衆の放射線防護が担保されていることを確認することをその目的としている。公的監視機関の実施した環境管理(環境放射線モニタリング)結果は、公的刊行物やweb情報として一般公衆に入手可能となっている。
<図/表>
<関連タイトル>
ICRPによって提案されている放射線防護の基本的考え方 (09-04-01-05)
作業環境管理と個人管理 (09-04-01-10)
放射線防護の対象(平常時/事故時) (09-04-01-15)
放射線防護の責任 (09-04-01-16)
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)
<参考文献>
(1)日本アイソトープ協会(編):アイソトープ法令集、放射線障害防止法関係法令、2001年版(2001年1月)
(2)「放射線の防護」丸善、(1978)
(3)吉澤康雄(著):「放射線健康管理学」、東京大学出版会、(1984)
(4)吉沢康雄(著):「放射線管理のやり方・考え方」、東京大学出版会、(1978)
(5)ICRP Publication 26,Pergamon Press,(1977)
(6)辻本 忠、草間朋子(著):「放射線防護の基礎 第3版」日刊工業新聞社、(2001年3月)