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<概要>
 放射線防護の責任は、法的および行政的には事業者(各施設、事業所の管理者)および監督官庁(国)にあり、実務的には各施設、事業所の放射線取扱主任者等にある。事業者責任が十全に果たされていることを社会的に担保するために、国及び地方自治体等が監督責任・監視責任を負う。許可制を採用している放射線障害防止法の基本的精神として放射線防護の最終的な責任は国(監督官庁)が負うことになる。
<更新年月>
2004年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.放射線防護の実務的責任と最終的責任
 放射線障害の防止に関する法律では、各放射線施設(事業所)は、放射線や放射性物質を利用する場合には、「使用の許可」を監督官庁に求めるための申請を行う必要があり、新規に利用する場合には、国の定めた資格である放射線取扱主任者免状を所持するものを各施設の放射線取扱主任者として選任して併せて申請しなければならないことになっている。
 申請の内容は監督官庁(文部科学省)によって厳しく審査され、放射線防護対策(しゃへい等)、放射線(放射能)の管理対策(保管等)、個人管理(被ばく線量管理、健康管理等)、環境管理(放射線測定、汚染測定、管理)、施設外環境管理(排気・排水中放射能濃度管理等)について法律の規定を満たしているかどうかチェックされる。
 施設の運用が監督官庁によって許可された後は、選任された放射線取扱主任者は事業所責任者を補佐し、放射線防護に関する指示、監督の責任を負う。すなわち放射線取扱主任者は、監督官庁に提出した許可条件等の内容を遵守して放射線防護・管理に関する実務的な運用、すなわち1)被ばく線量管理、2)健康管理、3)排気・排水等の放射能濃度管理、4)施設周辺モニタリング等、一連の放射線防護・管理業務の運営に責任を持つと共に、放射線(放射能)に関する測定記録、作業者の個人管理記録をすべて記帳・保管しなければならない。これらの放射線管理記録は、監督官庁が不定期に行う立入検査において放射線防護・管理が当該施設(事業所)で適切に運用されているかどうかが調査される。
 しかしながら、法的な意味での「放射線防護の責任」は、(1)放射線防護施設・設備・装備の十全な確保、(2)教育訓練や習熟練度の強化等による放射線業務従事者の資質向上、(3)放射線作業の管理・運営、(4)排気・排水等施設外へ放出される放射性物質の継続的監視、(5)異常時・緊急時における適切な対処と事後対策(情報公開を含む)、のいずれかが事業者(事業所責任者)によって適切に履行されなかった場合に発生する事業者責任である。
 さらに、各事業所の放射線防護の責任が十全に果たされていることを社会的に担保するために、国及び地方自治体等の責任において監督・監視がなされる。これらの実体的な法的責任は、放射線業務従事者の放射線被ばく事故や放射性物質の環境放出事故等が起こった場合に発生する。放射線障害防止法は罰則規定を伴う法規制であるから、この場合の放射線防護の責任は、法的な刑事責任のことである。
 第一義的には、実務的な責任者として各事業所の放射線取扱主任者がこれを負うことになるが、(1)実際と大幅に異なる虚偽の届出を故意に行うことによって不当な認可を受けていた場合、(2)通常から著しく逸脱した運用が故意になされていた場合など放射性取扱主任者の「個人的資質」に帰する場合を除けば、放射線取扱主任者の責任能力の範囲を超えている。特に放射線被ばく事故等の場合は、被災者の労働補償問題等の労働法上の責任も発生するため、各事業者(及び国)が労働契約上発生する責任も併せて負わなければならない。放射線取扱主任者(あるいは事業者)の怠慢あるいは故意による著しい違反が原因で生じた事故を除き、放射線防護の「最終的な(社会的)責任」は国(監督官庁)が負うというのが、許可制を採用している放射線障害防止法の基本的精神である。
 実際に事故が発生した場合の放射線防護の責任の所在と有無は、それぞれの事故に対する調査・検分に基づく司法判断に任されることになる。原子炉施設等の場合には、原子炉等規制法という法律によって原子炉等の保全と安全が担保され、原子炉主任技術者が選任されて原子炉等の運転に責任を負うことになり、許可申請を審査する監督官庁(実用発電用原子炉については経済産業省)は、放射線障害防止法における監督官庁(文部科学省)とは異なるため、原子炉事故等における被ばく事故の責任の所在は、放射線防護においてどこまでの事故が想定されていたか、実際に発生した原子炉事故等が事前に予測できたかどうかによって司法判断されることになる。

2.放射線防護(保健物理)学と放射線防護・管理の実務
 放射線防護・管理に関する基礎的な研究は、放射線防護(保健物理)学と呼ばれている。その範囲は、線量計測・遮へいといった物理・工学分野から放射線生物学、遺伝学といった生物・医学分野まで多岐に及ぶ。関連学会には日本保健物理学会、日本放射線影響学会、日本医学放射線学会、日本核医学会、日本放射線技術学会、日本原子力学会等がある。
 放射線防護学は、放射線防護・管理の実務と不即不離に放射線防護・管理上必要な技術の開発・向上を目指すものである。放射線防護の責任者(実務的には放射線取扱主任者であり、最終的には施設(事業所)責任者及び監督官庁(国、地方自治体)である)と放射線防護・管理対象集団(放射線業務従事者及び施設周辺の一般公衆)との間には、管理される側と管理する側という側面があり、両者の信頼関係を築くためには、第三者的な放射線防護の専門家の存在が不可欠である。科学的な事実のみに基づいて、的確な判断を下すだけでなく、それを的確に伝達(コミュニケート)できる能力が放射線防護学の専門家には求められる。これが、実務をベースにしている放射線防護学の特徴であり、近年、放射線防護学研究者の責任として重視されつつある。特に、放射線防護の計画・運用において、防護の最適化が要求されるようになり、放射線防護の合理性に関する充分な説明が求められているなかで、放射線防護学専門家の責任はますます重くなってきている。
<関連タイトル>
ICRPによって提案されている放射線防護の基本的考え方 (09-04-01-05)
作業環境管理と個人管理 (09-04-01-10)
放射線防護の3原則 (09-04-01-09)
放射線防護の対象(平常時/事故時) (09-04-01-15)

<参考文献>
(1)放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律
(2)「放射線の防護」丸善、1978
(3)「放射線健康管理学」吉澤康雄著、東京大学出版会、1984
(4)「放射線防護の基礎」第3版、辻本 忠、草間朋子共著、日刊工業新聞社、2001
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