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<概要>
 核医学検査には、患者の体内に放射性医薬品を投与し、画像を得るインビボ核医学検査と、患者から採取した血液や尿などの試料中のホルモンなどの微量な物質を放射性の試薬によって調べるインビトロ核医学検査の2つがある。インビボ核医学検査は年間約200万件近く行われているが、患者の被ばく線量は多くても10数mSv(ミリシーベルト)程度と、X線検査による患者の被ばく線量とだいたい同じ程度であり、脱毛、白血球の減少などの急性放射線影響が生じることはない。がんや遺伝的影響については、発生の可能性はゼロではないが、一人の個人にとってはほとんど問題にならないレベルである。
近年、18F-18FDG(フロロデオキシグルコース)を投与する全身PET(ポジトロン断層撮影法)によるがんの検査が急増しており、その被ばくは今後の課題である。一方、インビトロ核医学検査では、患者が被ばくすることはない。
<更新年月>
2007年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.核医学診断とは
 核医学診断(Diagnostic Nuclear Medicine)には、(1)患者の体内に放射性医薬品(放射性核種を含む薬剤)を投与し、シンチカメラ(図1参照)や全身用PET(陽電子断層撮影装置)などの装置で臓器や組織の形態や機能を検査するインビボ(in vivo:生体内)核医学検査と(2)患者から採取した血液や尿などの試料と、放射性核種を含む試薬を混ぜて、その中に含まれるホルモンなどの微量な物質を調べるインビトロ(in vitro:生体外)核医学検査の2つがある。
 インビトロ核医学検査では、患者自身に放射性医薬品が投与されるわけではないので、患者は全く被ばくしない。一方、インビボ核医学検査では、体内に投与された放射性医薬品から放出される放射線によって、患者の被ばくが生じる。患者の被ばくが問題となるのはインビボ核医学検査だけである。
2.インビボ核医学検査の特徴
 インビボ核医学検査のために患者に投与された放射性医薬品は、2つの理由で体内からなくなっていく。一つは、放射性医薬品に含まれる放射性核種自身が自然に減衰していく性質であり、インビボ核医学検査では減衰が特に早い放射性核種が用いられている。現在もっとも多く用いられている放射性核種は99mTc(テクネチウム99m)であり、約6時間ごとに強さが半分になっていく(放出される放射線の量が半分になる:半減期)。最新のPET法(ポジトロン断層法)で用いられる15O(酸素15)に至っては2分間で半分になってしまう。また、腫瘍診断に高い臨床的有用性が認められているFDG(18Fフルオロデオキシグルコース)-PETで用いられる18Fは半減期が110分である。このように、インビボ核医学検査で用いられる放射性核種は、どれも検査後しばらくすれば体内からなくなってしまう。もう一つは、代謝による体外への排泄である。体内に投与された放射性医薬品の一部は、体内の臓器や組織に蓄積するが、大部分は尿、汗、呼気、便などの中に排泄されていく。
3.インビボ核医学検査による患者の線量
 わが国では、現在年間約200万件のインビボ核医学検査が行われている。患者が受ける線量は、放射性医薬品の種類や量、すなわち検査の種類によって異なる。表1には、比較的多く使われている放射性医薬品を用いた検査の際の患者の線量を示す。患者の線量は、多くても10数mSv程度であり、X線検査による患者の被ばく線量とだいたい同じと言える。
 このように、インビボ核医学検査によって患者は被ばくするが、急性の放射線影響のしきい線量を超えることはないので、脱毛、白血球の減少や胃腸管障害などの急性放射線影響が生じることはない。がんや遺伝的影響については、発生の可能性は全くゼロではないが、一人一人の患者が心配しなくて済むようなレベルである。なお、核医学診断に使用する主なラジオアイソトープ表2に示す通りである。
 しかし、近年、急速に拡大している18FFDG検査では、健康な成人を対象とするがん検診が含まれており、とくに全身用のPET/CTを用いる検査の被ばく線量が注目される。成人では18Fによる内部被ばくとCTの外部被ばくの両者が合計されることになり、15mSv程度の実効線量となり、今後、若い年齢層での利益リスク分析が不可欠となる。核医学検査が広く検診に用いられるのはFDG-PETが初めてであり、今後の研究が必要である。最新の全国調査の結果が文献(7)に掲載されている。
(前回更新:2001年2月)
<図/表>
表1 核医学検査の際の患者の被ばく線量
表1  核医学検査の際の患者の被ばく線量
表2 核医学診断に使用する主なラジオアイソトープ
表2  核医学診断に使用する主なラジオアイソトープ
図1 シンチレーションカメラの構造と撮影原理
図1  シンチレーションカメラの構造と撮影原理

<関連タイトル>
放射性同位元素 (08-01-03-03)
放射線利用の概要 (08-01-04-01)
診断用医療放射線と人体影響 (09-03-04-01)
治療用医療放射線と人体影響 (09-03-04-02)

<参考文献>
(1)草間朋子、太田勝正、小西恵美子(著):「医療のための放射線防護」(改訂版)、真興交易医書出版部(1992)
(2)日本医学放射線学会、日本アイソトープ協会(編):「放射線診療における被曝の管理」(改訂3版)、日本アイソトープ協会(1987)
(3)日本アイソトープ協会(編):核医学における患者の防護(ICRP Publlcation 52)、日本アイソトープ協会(1990)
(4)小西淳二(編著)、鳥塚莞爾(監修):核医学ハンドブック、金芳社(1999)
(5)利波紀久、久保敦司(編著)、久田欣(監修):最新臨床核医学(改訂3版)、金原出版(1999)
(6)有水昇(監)、高島力、増田康治、佐々木康人(編):標準放射線医学 第5版、医学書院(1999年12月)
(7)南本亮吾、千田道雄、宇野公一、陣之内正史、飯沼武ほか:FDG-PETがん検診の実態と成績−全国調査に基づく検討−、核医学 44巻、2号、105-124(2007年6月)
(8)(財)日本原子力文化振興財団:放射線のはなし
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