<大項目> 放射線影響と放射線防護
<中項目> 環境中の放射能
<小項目> 環境放射線による被ばくおよびその評価
<タイトル>
世界における人工放射線による放射線被ばく (09-01-05-07)

<概要>
 環境中の人工放射線(能)の主な起源として大気圏核実験、原子力発電に伴う核燃料サイクル、放射性同位元素の利用および原子力事故などがある。今までに行われた全ての核実験に起因する集団実効線量は地球全体でみて2230万人・シーベルト(以下、人Svと記す)、核燃料サイクルからの放射能に起因する集団実効線量(過去分を含む)は10万人Sv、チェルノブイリ原子力発電所事故による集団実効線量は60万人Svと推定されている。
<更新年月>
2004年08月   

<本文>
 環境中において人工放射線による被ばく源として主に寄与するものに、大気圏核実験により生成され環境中へ移行した放射能(フォールアウト放射能)、原子力発電に伴う核燃料サイクルの各段階で環境に放出された放射能、放射性同位元素の利用、原子力事故などがある。その他、核兵器製造、地下核実験、アイソトープ電池を使った人工衛星の事故、夜光時計、煙探知器等の微量放射線を放出する一般消費材、また、医療用や研究用の放射線利用施設からの漏洩放射線もある。
 世界的規模で線量評価を行った国連科学委員会の報告書「放射線の線源と影響」に基づき、これらの人工放射能からの被ばく線量推定値を示す。表1に、国連科学委員会によって行われた主要な人工放射線源による世界の集団実効線量の推定値を示す。
1.核実験に起因する放射能による被ばく
 フォールアウト放射能を生みだす大気中核実験は、1945年から1980年の間に行われた。このうち1954年から1958年、1961年から1962年には大規模な核実験が行われた。
 フォールアウト放射能は、空中に浮遊している場合は主として吸入により、地表面に沈着した場合は放出される放射線からの直接の体外照射により、また、食物摂取をとおし体内に取り込まれることにより、人間に被ばくをもたらす。
 国連科学委員会の報告書では、主要な核種について、生成量の推定、環境中と体内での移行モデルの作成、上記の被ばく経路毎の線量評価モデルの作成により、人間集団全体が受ける線量を推定している。図1にフォールアウト放射能から全世界の人間集団が受けた平均年集団線量、ならびに、各年に行なわれた核実験に起因する集団線量預託(*1)を示す。この図から、フォールアウト放射能の人間への影響は、おもに1961年から1962年に行なわれた核爆発によるものであることがわかる。
 1963年には核実験に起因する平均年線量は、自然放射線からの線量の約7%に達したが、1966年には2%に減少し、1980年以後には1%以下となった。1980年以後は大気圏内核実験は行われていないため、フォールアウトによる年線量は年々減少している。
 フォールアウト放射能から人間が受ける線量には地域差がある。被ばく線量は、核実験が最も頻繁に行なわれた北半球の温暖地域で最も高い。南半球の温暖地域での線量預託は、北半球の温暖地域のそれの約70%である。また、実験場近辺で局所的に小さな集団に高い線量を与えたこともあった。
 線量に寄与する核種は、重要なものから14C、137Cs、95Zr、90Sr、106Ru、144Ce、3Hの順である。このうち現在残っている核種は、14C、137Cs、90Sr、3Hの4種類である。表2に主なフォールアウト核種からの集団線量当量預託の内訳を示す。半減期の長い14Cの寄与が大きいことが分かる。239Pu、240Pu、241Am等の長半減期核種からの線量当量預託は全体の0.1%に過ぎない。
 今まで行われた核実験全体に起因する1人当たりの平均年間実効線量は、北半球中緯度地帯で3580μSv、南半球地帯で2720μSv、世界人口で平均して3.5mSvと見積られている。これは、現在の人口が自然放射能(ラドンを除く)から受ける線量の3年分強に相当する。
2.原子力発電に起因する放射能による被ばく
 1989年末には、26ケ国で426基の原子力発電所が稼働し、設備容量318GW、電気エネルギーは212GW年に達した。原子力発電に伴う核燃料サイクルの各段階で環境中に放出された放射能からの線量評価が、国連科学委員会により行われている。
 この線量評価には、採鉱、精練から、再処理、廃棄物処理までの核燃料サイクルのほとんどの過程が考慮されている。ただし、高レベル廃棄物と、中レベル廃棄物の一部はこの評価に含まれない。燃料サイクルの各段階で、現在稼働している施設の典型的モデルを作成し、計算により単位発電量当りの集団線量を推定している。これに世界の総発電量を乗じて加算して、原子力発電全体に起因する集団線量が得られる。被ばく経路は基本的にフォールアウト放射能と同じものを考えている。表3に燃料サイクルの各段階において放出された放射性核種から受ける単位発電量(GW年)当たりの世界平均の集団実効線量(人Sv)を示す。
 ほとんどの放射性放出物は、半減期が短かったり、移動しにくい性質をもつため、施設から1000km以内の地域に短期間に影響を与えるだけである。しかし、14C、3H等、全世界的な規模で拡散し、長期にわたり線量に寄与すると考えられる核種もいくつかある。また、採鉱、精練等により生ずる尾鉱からは、半永久的に気体状の222Rnが放出される。地域的な被ばくには、採鉱に伴う空気浮遊性排出物と原子炉からの気体放出が主に寄与する。
 表3の後段における採鉱と製錬尾鉱からの集団実効線量は、半永久的に放出される222Rnによる線量預託を1万年という長い期間にわたる評価を行っているため大きな値となるが、適当な処置を施して222Rnの放出を抑えることで大幅に低減できる可能性がある。
 原子炉運転が開始されてから1989年までの全期間に原子炉運転に伴って放出された放射性核種による世界全体の集団実効線量を年次別にまとめたものを表4に示す。1989年には275人Svであるが、全期間では3700人Sv近くなっている。
3.原子力事故に伴う公衆の被ばく(表1参照)
 放射性核種を環境に放出するような事故はこれまで数件発生している。その中で最大規模の事故はチェルノブイリ原子力発電所(旧ソ連)の事故である。この事故では、爆発と火災を引き起こし、放射性ガスと粒子が環境に放出された。主要な放射性核種は131Iと137Cs、134Csである。これらによる世界の集団実効線量は約60万人Svと推定された。そのうちの40%は旧ソ連内の住民が受け、57%がヨーロッパで、残り3%が北半球の他の国で受けてものと推定されている。
 スリーマイルアイランド原子力発電所(アメリカ)の事故では、環境へ放出された放射性核種は比較的少量で、133Xeを主とする希ガス(370PBq)と131I(550GBq)であった。これらによる集団実効線量は40人Svと推定された。
 その他に再評価されたものとして、ウィンズケール原子炉(イギリス)の事故による2000人Sv、キシュテム(旧ソ連)の事故による2500人Svなどがある。
4.その他の放射線源からの被ばく(表1参照)
 核兵器製造や地下核実験に伴う放射性核種の放出についても多少明らかにされており、それらによる集団実効線量が、それぞれ、10000人Sv、200人Svと推定されている。
 電源として、アイソトープ電池(プルトニウム238)を搭載した人工衛星の大気圏への再突入に伴う集団実効線量も推定されており、スナップ9A、コスモス954について、それぞれ2100人Sv、20人Svとされている。
 さらに、夜光時計や静電防止装置、煙探知器等、一般消費材のなかにも放射線を放出する性質を持つものがある。これらの場合、線源が密閉されているため使用者に対しては外部被ばくのみが問題となが、製造過程では内部被ばくも問題となる。医療や研究の目的で用いられる加速器や原子炉等の放射線利用施設からも、極めて少量の放射線、放射能が漏洩し、施設近傍での被ばくの原因となる。加速器では漏洩放射線による外部被ばくが考えられる。実験用原子炉からは少量の放射能が放出され、発電用原子炉と同様の被ばくを与える。

[用語解説]
(*1)集団線量預託:一つの行為(原子力発電、再処理、核燃料サイクルなど)によって、ある集団に内部被ばくが生じるとき、その集団が将来の幾世代にもわたって受ける線量の、一人当たりの内部被ばく線量である。預託実効線量(一個人が一生涯の間に受ける内部被ばく線量)とは異なる量である。
<図/表>
表1 放出された放射性核種と人為的環境放射線源からの集団実効線量の推定
表2 大気圏核実験で生成された放射性核種による実効線量預託
表3 核燃料サイクルからの排出物中に放出された放射性核種から公衆の構成員への規格化集団実効線量
表4 世界全体の原子力発電所から放出された放射性核種からの集団実効線量
図1 大気圏内核爆発からの集団線量の経時変化

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<関連タイトル>
内部被ばく (09-01-05-02)
世界における自然放射線による放射線被ばく (09-01-05-05)
人工放射線による被ばく (09-01-05-06)
人工放射能の発見 (16-02-01-05)
放射線による外部被ばく (09-01-05-01)

<参考文献>
(1)放射線医学総合研究所(監訳):国連科学委員会報告「放射線の線源と影響」、1993年版、(株)実業公報社(1995)
(2)原子放射線の影響に関する国連科学委員会(編)、放射線医学総合研究所(監訳):放射線の線源と影響、原子放射線の影響に関する国連科学委員会の総会に対する2000年報告書、上下巻、実業公報社(2002年3月)
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