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<概要>
 ラジオアイソトープの崩壊エネルギーをエネルギー変換器で電気エネルギーに変える一次電池のことを原子力電池(atomic battery,nuclear battery,isotope battery:アイソトープ電池)またはラジオアイソトープ熱源あるいはラジオアイソトープ発電器(RPG,radioisotopic powered generator)とも言う。用いられたラジオアイソトープは、開発当初144Ce、242Cm、90Srなどであったが、最近ではそのほとんどが238Puである。1960年代始めに宇宙での利用が開始され、1970年代後半には本格的な数百W級の発電器(MHW-RTG:Multi Hundred Watt-Radioisotope Thermoelectric Generator)が開発され、1980年代には汎用型熱源(GPHS-RTG:General Purpose Heat Source-RTG)としてさらに大きな電力のものが開発され、太陽電池が利用できない深宇宙におけるエネルギー供給源として、アイソトープ電池は今では不可欠の電源となっている。
<更新年月>
2002年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子力電池の原理
 ラジオアイソトープ(放射性同位元素)から崩壊に伴って放出されるα線アルファ線)やβ線(ベータ線)のもつエネルギーは、物質に吸収される際、熱エネルギーに変換する。保温材を用いてこの熱エネルギーを閉じ込めると高い温度が得られる。熱電変換素子を用い、この高温と外気温との温度差を利用して熱起電力により電池の働きをさせる。この方式を「熱電変換」方式と呼ぶ。
 他に熱イオン変換方式と呼ばれるものもあるが、実際に利用されているのは熱電変換方式(熱電式)だけである。 図1 に熱電式アイソトープ発電器の原理を、 図2 に電池の構造を示した。
2.ラジオアイソトープの種類
 α線は簡単に遮蔽することができるため、現在は238Puが利用されている。238Puはα線を放射し、X線(エックス線)やγ線ガンマ線)がきわめて少ないこと、また、半減期が87.74年と長いことから、小型で寿命の長い原子力電池を作ることができる。
  表1 に示すように、244Cm(半減期:18.10年)等のα放射体90Sr(半減期:28.79年)等のβ放射体も利用することが可能であるが、β線が吸収される時に制動放射(阻止X線)が放出され、このX線を遮蔽するための遮蔽体の重量が大となる。また、60Coはβ線と同時にγ線を放出し、232U(半減期:68.9年)はα線と同時にγ線を放出するので、やはりγ線を遮蔽するための遮蔽体の重量が大となる。α線やβ線のような粒子線は簡単に遮蔽することができるが、X線やγ線のような電磁波は透過力が大きいので、厚い鉄や鉛のような金属で遮蔽する必要がある。
3.利用例
3.1 宇宙探査機用RI発電器
 実用あるいは試作された原子力電池の例を 表2 に示す。1961年に打ち上げられた航行衛星に搭載されたSNAP-3Bは、238Puを燃料とし、2.1kgの重量で2.7Wの電力を1年以上供給し続けたのが、これが宇宙における利用の最初である。現在では、238Pu(半減期:87.7年)は1W/30Ci(1,110GBq)の熱出力が得られるが、数W−数百Wの電気出力をもつ原子力電池として宇宙探査用の人工衛星に搭載されている。1978年に地球を周回する人工衛星が大気圏に突入して燃え尽きる際に238Puが広い地域を汚染する事故があったが、その後改良が加えられて、現在では厳格な安全基準のもとに衛星に搭載する電源として重要な役割を担っている。
 RI発電器の主構造は、 図3 に示すように、丈夫な被覆をつけたラジオアイソトープ(238Pu)を含む熱源、Si-Ge熱電変換素子および熱電変換素子に温度差を与えるための放熱器から成る。構造は、中心部に強い衝撃に耐える外皮に護られた18個のモジュールが並び、10.7kgの酸化プルトニウム(238Pu)ペレットから4500Wもの電力が供給できる。太陽電池が作動しないような月の夜の部分でも、あるいは宇宙の果てにおいても原子力電池は正常に作動するので、現在では必要不可欠の電源として活躍している。
 アポロ12号に搭載された原子力電池は、月の表面に設置されて地震観測用の電源として用いられた。その他、火星ロボット探査船、木星、土星およびさらにより遠方の惑星に至る深宇宙探査機用の電源として用いられている。1996年秋に打ち上げられ、翌年の7月に火星に着陸した「パスファインダー」には、238Puの2.6gが、電源の供給ではなく、1Wの熱源として搭載された。さらに、1997年の秋に打ち上げられた土星周回衛星を探査するカッシーニ計画では、探査機「ホイヘンス」に図3に示した構造の原子力電池が3台搭載されている。
3.2 心臓ペースメーカー等の電源
 238Puをエネルギー源とする小出力の原子力電池は、かつて心臓ペースメーカーの電源として実用化されたことがある。体内に埋め込む心臓ペースメーカーの電池を定期的に交換することは、その都度手術を必要とし、また、費用も莫大になるが、原子力電池の利用により患者の負担が軽減されるので、欧米ではかなりの数の患者に用いられたことがある。その後寿命の長いリチウム電池が開発されたために、原子力電池は用いられなくなった。
 浮遊標識灯台や無人気象観測装置の電源としても原子力電池の利用が試験されたが、いずれも実用化されなかった。地上用の原子力電池に用いるアイソトープとしては90Srなどが使われた。
 わが国では、過去に熱源として90Srを輸入して試作はしたものの、本格的な開発には至っていない。
4.用語
 [原子力電池(原子電池、アイソトープ電池、アイソトープ発電器、RI発電器、放射線電池)]
 半減期の長いアイソトープの崩壊エネルギーを直接電気に変換するか、あるいは発熱から電気に変換する電池。とくに熱から電気に変換する装置をRPG(Radioisotopic Powered Generator:アイソトープ発電器)とよび、そのなかで熱電素子を用いるものをRTG(Radioisotope Thermoelectric Generator)と呼んでいる。
<図/表>
表1 熱源として使用できるアイソトープの特性
表1  熱源として使用できるアイソトープの特性
表2 実用あるいは試作された原子電池の例
表2  実用あるいは試作された原子電池の例
図1 熱電式原子電池の原理
図1  熱電式原子電池の原理
図2 熱電式原子電池の構造(
図2  熱電式原子電池の構造(
図3 汎用型熱源であるラジオアイソトープ発電器の構造図および探査機への適用例
図3  汎用型熱源であるラジオアイソトープ発電器の構造図および探査機への適用例

<関連タイトル>
α壊変 (08-01-01-05)
β壊変 (08-01-01-06)
放射性同位元素 (08-01-03-03)
RIの物理的作用・効果を利用した製品 (08-04-03-05)

<参考文献>
(1) 小林昌敏:放射線の工業利用、幸書房(1977)
(2) Joseph A.Angelo,Jr.Ph.D.,David Buden:Space Nuclear Power,ORBIT BOOK COMPANY,INC.(1985)
(3) 安田秀志、滝塚貴和:特集「宇宙でいかに原子力を使うか」、エネルギーレビュー、13(2)、p14-18(1993)
(4) Allen Zeyher:Mars probe gets an assist from nuclear science,Nuclear News,40(10),p48-50(1997)
(5) Allen Zeyher:Cassini launch delayed while protesters mobilize,Nuclear News,40(12),p47-52(1997)
(6) アイソトープ協会(編):アイソトープ便覧 改定3版、丸善(1995.4)
(7) G.L.Bennett:Power Sources for the Galileo and Ulysses Missions,NASA-SP-6101-18(1994)
(8) J.C.McCoy:An Overview of the Radioisotopic Thermoelectric Generator Transportation System Program,WHC-SA-2975(1995)
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