<本文>
1.α壊変
α壊変は原子番号Z、質量数Aの原子核がα粒子を放出して原子番号Z-2、質量数A-4の原子核に変わる過程をいう。言いかえれば、
陽子2個、
中性子2個からできているα粒子が飛び出していったあとには、陽子が2個減って、原子番号が2だけ小さい原子核が残る。また、中性子も2個減るので質量数は合計で4だけ減少する。1909年ラザフォード(Ernest Rutherford)とロイズ(Thomas Royds)は、α粒子がヘリウム(
4He)原子核であることを証明した。
半減期はそれぞれの
核種に特有で、短いものは
214Po →
210Pbの1.64×10
−4秒、長いものは
238U →
234Thの4.47×10
+9年など様々である。
2.α壊変のエネルギー
α壊変が起こるために必要なエネルギーの条件は、
\[
Q=[M_{Z,N}−(M_{Z-2,N-2}+M_{2,2})] c^{2}>0\tag{1}
\]
である。ここで、\(M_{Z,N}、M_{Z-2,N-2}、M_{2,2}\)は、親核、娘核、α粒子のそれぞれの質量数で、\(c\)は光の速度である。\(Q\)はこの壊変によって解放されるエネルギーで、
壊変エネルギーといい、α粒子及び反跳された娘核の運動エネルギーの和、
\[
Q=(\frac{1}{2})・M_{2,2}v^{2}+(\frac{1}{2})・M_{Z-2,N-2}V^{2}\tag{2}
\]
に等しい。ここで、vはα粒子の速度、Vは
娘核種の速度である。下式の運動量保存則
\[
M_{2,2}v=M_{Z-2,N-2}V\tag{3}
\]
を用いて、\((2)\)式を解けば、α粒子の運動エネルギーE
αは、
\[
E\alpha=(\frac{1}{2})・M_{2,2} v^{2}=\frac{Q}{[\frac{1+M_{2,2}}{M_{Z-2,N-2}}]}\tag{4}
\]
で与えられる。
α壊変をする核種の質量数\(M_{Z,N}\)は、一般にα粒子の質量数\(M_{2,2}=4\)に比べて極めて大きいので、\((4)\)式の\(\frac{M_{2,2}}{M_{Z-2,N-2}}<<1\)となり、\(Q\)は殆どα粒子の運動エネルギーに等しくなる。すなわち、α壊変の場合、α粒子のエネルギーは一定である(β壊変の場合には、
電子と
ニュートリノが放射されるため、両粒子とも放出エネルギーは均一ではない)。
図1 は
210Poから放射されるα粒子の飛跡をウイルソン(C.T.R,Wilson)の霧箱で撮影したものである。気体中の飛跡の長さがだいたい同じであるのはエネルギーが均一であることを示している。この距離のことを
飛程という。α粒子の空気中の飛程(R cm)とエネルギー(E
α MeV)との間には、
\[
R=aE\alpha^\frac{3}{2}\tag{5}
\]
の関係がある。したがって、空気中の飛程がわかれば、α粒子のエネルギーを推定できる。また逆に、α粒子のエネルギーが測定できれば、その空気中での飛程がわかる。
ある場合には、1種類のエネルギーのα粒子だけでなく、2種またはそれ以上の種類のエネルギーを持ったα粒子を放出する核種がある。
表1は
228Thの娘核
212Biが
208Tlにα壊変するときに放出されるα粒子のエネルギースペクトルを示したものである。これは娘核(
212Bi)が直ちに基底状態(
208Tl)に移らず、種々の励起状態に遷移し、そのエネルギー準位に対応したエネルギーを放出するためである。この場合Qがそれだけ小さくなり、α粒子のエネルギーも小さくなる。この時α壊変に続いて
γ線の放射が起こる。放出されるγ線のエネルギーはQの小さくなった分に等しい。
3.飛程と壊変定数(ガイガー・ヌッタルの法則)
212Poから放出されるα粒子の飛程は約8.6cm、
232Thのそれは約2.8cmである。α壊変の半減期は、前者が3.04×10
−7秒、後者が1.41×10
+10年である。ガイガーとヌッタルは、α粒子の飛程が長いほどα壊変の半減期は短いという実験的事実に着目し、1911年に飛程(R)とと壊変定数(λ)に関する多くの測定値を整理し、次式の関係式を導いた。
\[
\log\lambda=a・\log{R}+b\tag{6}
\]
ここでaおよびbはと壊変系列によってきまる定数である。\(\lambda\)は\(\lambda=\frac{(ln2)}{T}\)なる式で半減期(T)と関係している。\((6)\)式をガイガー・ヌッタル(Geiger-Nuttall)の法則という。
飛程はα粒子のエネルギーが高いほど長い。したがって、α粒子のエネルギーが高いほど壊変定数が大きいといえる。これは大きいエネルギーを持ったα粒子は原子核から飛び出す力が大きいし、また核内での振動回数も多いので、核外に飛び出す機会が大きくなると解釈できる。
α粒子が核の中から外へ出るには、Z>82の核については20MeV以上の高さの
クーロン障壁を通らなければならない。このことはエネルギーが数MeVのα粒子にとっては、古典力学的には不可能であると考えられた。1928年、ガモフ(George Gamow)等は、障壁の中をα粒子がしみ出すいわゆる
トンネル効果という概念を導入し、量子力学的取扱いによってこれを解釈した。
<図/表>
<関連タイトル>
半減期 (08-01-01-04)
β壊変 (08-01-01-06)
<参考文献>
(1) フェルミ著、小林稔等訳;原子核物理、物理学叢書、吉岡書店、(1966)
(2) 岩波 理化学事典(第4版)、岩波書店、(1987)
(3) 石森富太郎編;原子炉工学講座I,原子核工学基礎、培風館、(1972)
(4) 菊池正士他;原子核物理概論・中性子、共立出版、(1958)