<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線利用の基礎
<小項目> 放射線源
<タイトル>
トリチウム取扱施設 (08-01-03-09)

<概要>
 核融合研究を遂行するためには、トリチウムを大量に取り扱う必要がある。大量のトリチウムを取り扱う場合は、作業者の被ばく防止と環境への放出低減化を目的として多重隔壁格納を考慮した施設が必要である。通常、その施設の設計・運転には、「閉込め」、「回収・保管及び貯蔵」、「被ばく防護」の考え方・基準がある。「閉込め」では、第1次隔壁は実験装置とし、第2次隔壁はグローブボックス、第3次隔壁は操作室とする。また、トリチウム除去システムも設置されている。「回収・保管及び貯蔵」では、透過・漏洩を防止するための保管装置、貯蔵施設が必要となり、「被ばく防護」では、モニタリング防護具を完備している。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
 現在想定されている核融合炉は、重水素とトリチウムの核融合反応で発生する中性子及びα粒子の運動エネルギーをブランケット及びダイバータと呼ばれる機器を通して熱に変換し、この熱を冷却材に移して外部に取り出し利用しようとするものである。核融合炉システムにおいて、トリチウムは燃料として利用されるので、大量のトリチウムが必要となる。なお、トリチウムは、Liに中性子を当てて製造することができ、低エネルギーのβ線を放出する放射性同位元素で、少量の取扱いの場合では密封状態で遮へいすることができ、また、例え外部被ばくがあっても皮膚のみにとどまるので、重大な障害が発生する恐れはほとんどない。
 近年、核融合研究を遂行するために、トリチウムを大量に取り扱う場合が多くなった。そこでトリチウム大量取扱施設の設計・建設・運転等においては、下記に示す種々の配慮がなされている。例えば、ガス状トリチウムの場合、金属をも透過する性質があるので、その密封性を十分考慮する必要があり、また、他の物質と反応しやすい性質や引火性を有するなど、その物理的、化学的特性が他の放射性同位元素とは異なることにも注意が払われている。
 そこで、大量の非密封トリチウム(年間予定使用数量が37ペタベクレル(1015Bq)[1MCi]以上であって1日最大使用数量が37テラベクレル(1012Bq)[1kCi]以上を考える)を取り扱う施設に関しては、その設計・運転に、「閉込め」、「回収・保管及び貯蔵」、「被ばく防護」の考え方・基準が次のように採られている。
1.閉込め
(1)作業者の被ばく防止と環境への放出低減化を目的として多重隔壁格納の概念により閉込めを行う。
 第1次格納系には、実験装置、トリチウム貯蔵保管装置等があり、第2次格納系にはグローブボックス、セル、フード等があり、第3次格納系には、空気浄化設備等を含む操作室がある。また、施設を放射性物質が全く無いコールド区域、混入の恐れがあるセミホット区域、放射性物質を取り扱うホット区域に区分する。さらに施設内の空気の流れが、コールド区域からホット区域へ、第3次格納系から第1次格納系へ適切に向かうように給排気系の気圧バランスをとっている。
(2)第1次格納系の設計・製作に当たっては、トリチウムに対する漏洩・透過防止対策を講ずる。
 イ.漏洩量を極力抑えるために、出来るだけ溶接構造にする。
 ロ.回転部を有する機器類には、軸封対策を施し、漏洩量の低減化をはかる。
 ハ.ポンプ類には、原則としてトリチウムが直接潤滑油と接触しない構造のものを選定する。
(3)第1次格納系及び第2次格納系の排気系統には、必要に応じて、トリチウム除去設備を設ける。
 第1次格納系(実験装置等)の運転前後には、系内の真空排気操作を行う。その際に排出ガス中に含まれるトリチウムを除去する。なお、トリチウムを除去する方式には、触媒酸化・水分吸着法、金属ゲッター法、低温吸着法等がある。
 また、第1次格納系から第2次格納系へ漏洩したトリチウムに対して引火を防止するために、必要に応じて第2次格納系内は不活性ガス雰囲気とする。
(4)第3次格納系は、気密性、換気等に十分考慮する。
 第3次格納系の留意事項を次に示す。
 イ.気密性の高い扉、窓を採用する。
 ロ.各種配管の壁、床、天井部への貫通部については気密性を確保する。
 ハ.壁、床、天井の仕上げ材にはトリチウムが浸透しにくいものを選定する。
2.回収・保管及び貯蔵
 実験使用後のトリチウムは、装置から回収し、使用前の保管系又は廃棄前の保管系に移送し、その施設内に一時的に保管又は貯蔵する。
 保管・貯蔵は、ガス状トリチウムは、ボンベ・活性金属ベッド等に、水分子状トリチウムを使用する場合にはモレキュラベッド・アンプル等に行う。
 保管装置は他の部分に比べて大量のトリチウムが保持されるので、透過・漏洩を防止するための適切な素材の選定、逆流防止弁及びパージタンク等の取付が必要である。
3.被ばく防護
 作業者の内部被ばくを防護するためには、下記の事項等について考慮している。
 1)閉込めが確実に維持されていることを確認するために、作業室等の空気汚染モニタリングを行う。
 2)作業者の個人内部被ばくモニタリングを行う。
 3)補修作業等により、室内トリチウム濃度が上昇する場合は、トリチウムに対する適切な防護具・呼吸保護具を用いる。なお、水蒸気トリチウム雰囲気下で、検査、修理等の作業を行う場合は、送風マスク、ビニール・アノラック、エアライン・スーツ等を着用する。
 図1に大量トリチウム取扱施設における閉じ込めのための「多重隔壁格納」の概念及び放出低減のための「トリチウム格納・除去」の概念を示す。また、表1に主要なトリチウム取扱施設の閉じ込め概念を整理した。多重の考え方や適用範囲に多少差異があるがITER国際熱核融合実験炉)を含めほぼ同様である。
 具体的なトリチウム取扱施設として、高濃度かつ大量トリチウムの安全取扱いに関わる基礎的及び応用的な研究を実施するために、1980年代の初頭に富山大学トリチウム科学センター(HRC)及び日本原子力研究所(原研、現(独)日本原子力研究開発機構)トリチウムプロセス研究棟(TPL)の2つの研究施設が設立された。両施設は、トリチウムの取扱い量は異なるが、本質的には同じ安全設備を有している。これまでの長期にわたって一定期間ごとに保守点検等を実施しながら、その機能・性能を設置当初のレベルに維持してきた。施設維持に加え、これまで両施設は大量かつ高濃度トリチウムの安全取扱い技術・閉じ込め技術に関して基礎及び応用の面から精力的な研究を行い、わが国におけるトリチウム研究に対する重要な役割を担ってきた。
 (独)日本原子力研究開発機構のトリチウムプロセス研究棟では、国内唯一(核融合研究では現在世界最大規模)のグラムレベル大量トリチウム取扱い施設(トリチウム貯蔵許可量は22.2 PBq=約63g)で、核融合炉燃料システムの主要プロセス(燃料精製・補修・同位体分離・貯蔵)の基本的特性を把握し、ITER等の次期核融合装置の設計に反映するとともに、15年以上にわたるトリチウム安全取扱・施設運転管理の実績を蓄積している。ブランケット増殖トリチウム回収システム開発を重点とし、トリチウムの汚染防止・除染等に関する研究にも幅広く利用されている。また、日米協力による燃料循環模擬システム(トリチウムシステム試験施設 TSTA:ITERの1/6規模)の開発、1ヶ月の連続試験によりトリチウム取り扱いの基盤技術を確立している。
<図/表>
表1 大量トリチウム取扱施設における格納概念
図1 トリチウム取扱施設におけるトリチウム格納・除去の概念図

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<関連タイトル>
核融合炉の概念 (07-05-01-02)
核融合炉工学の研究開発課題(8)トリチウム工学 (07-05-02-08)
放射性同位元素 (08-01-03-03)

<参考文献>
(1)「トリチウム その性質と挙動」:日本原子力学会誌(1972年10月)
(2)「トリチウムの化学−基礎から応用まで−」:日本原子力学会誌(1982年3月)
(3)「昭和62年度文部省科学研究費補助金研究成果報告書トリチウム資料集・1988」:核融合特別研究総合総括班事業 (1988年3月)
(4)「トリチウム大量取扱施設安全審査専門検討会報告書」: 科学技術庁原子力安全局 (1985年8月)
(5)一政祐輔、野口宏ほか:「トリチウムの影響と安全管理」、日本原子力学会誌 1997年11月号
(6)松山政夫ほか:「講座」大量トリチウム取り扱い技術開発30年の成果と今後の課題、4.トリチウム研究拠点の確保、J.Plasma Fusion Res. Vol.86, No7 (2010 )431-435、
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2010_07/jspf2010_07-431.pdf
(7)原子力委員会 核融合専門委員会:今後の核融合研究開発の推進方策について(平成17年10月26日)、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/kakuyugo2/siryo/kettei/houkoku051026/index.htm
(8)山田敏彦:トリチウム取り扱い技術の開発、シンポジウム「核融合炉の安全性とトリチウム」平成15年3月20日、

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