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<概要>
ミュオン触媒核融合及び常温核融合のようないわゆる高温を要しない低温核融合反応をエネルギ−生産技術として利用するための基礎研究が進められている。現段階では両者とも単独の核融合炉を構成するようなものでないことが結論されている。ミュオン触媒核融合反応には熱核融合炉の点火手段としての適用、あるいはハイブリッド/共生炉における利用、等が提案されている。常温核融合反応については、エネルギ−源となり得るような高い確率の反応は有り得ないとの認識が大勢を占めている。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 ミュオン触媒核融合及び常温核融合のようないわゆる高温を要しない低温核融合反応をエネルギ−生産技術として利用するためには、原理的に又工学的に数多くの課題を乗り越えなければならない。両者がはたしてエネルギ−生産プロセスに適用し得るか否か、研究の現状を踏まえて概説する。

 <ミュオン触媒核融合反応>
 1950年代後半に、ミュオン触媒核融合の実用についてエネルギ−増倍率の評価をもとにその適用性が試されたが、その時点では結局エネルギ−源にはならないことが結論された(Ref.1)。その後の基礎研究を通じて、Vesmanが提唱した共鳴分子生成理論(Ref.2)が確認されるに至って再びミュオン触媒核融合利用の夢が再燃し、エネルギ−生産技術にも関連した研究が展開されている。
 現在のデ−タと理論上の評価に基づく限りでは、入力エネルギーを超えるエネルギー出力が得られる条件は達成されておらず、ミュオン触媒核融合は純核融合炉としては成り立ち得ないと考えられている。
 ただし、熱核融合炉の点火手段としてミュオン触媒核融合を利用する方式の提案もなされている(Ref.3)。この場合の最大の課題はミュオンの収束と減速とを効果的に行い、必要な領域で集中的に反応を起こさせる方法を開発することである。しかし現状ではこれも著しく困難であると考えられている。
 これに対して現行の核分裂炉によるエネルギ−生産システムにおいて、核融合反応を大いに活用しようとする概念がある。例えば、核融合反応で発生する大量の中性子を利用してブランケット内でウランプルトニウムなどの核分裂をおこさせ、そのエネルギーを得ようとするもの、あるいは同様にしてプルトニウムなどの分裂炉用の核燃料を生産してこれを利用しようとするものなどがその例である。核分裂、核融合を同一の炉中または別々の炉でおこさせるハイブリッド炉や、別々の炉でおこさせる共生炉などが提案されている。これらが現行のミュオン触媒核融合炉概念の主体である。
 現在のミュオン触媒核融合の研究は基礎過程の理解を目指すことを中心としているが、今後応用面での進展を図るために次のような課題が重要であろう。
 (1)高効率加速器の開発、パイオンの発生及びミュオン変換効率の向上、ミュオンの効率的輸送等によるミュオンコストの低減化、
 (2)高温、高圧、高密度、高純度のDT燃料を取扱うミュオン触媒核融合反応部の開発、などである。

 <常温核融合反応>
 パラジウム等を陰極とする重水電解法においてDD核融合に起因する過剰発熱が得られるという常温核融合反応は、特別な大型装置を必要としない新しいエネルギ−源の出現として大きな注目を集めた。Fleischmann−Ponsらが発表し(Ref.6)、さらにテキサス農鉱大の研究グル−プ(Ref.7)、オ−クリッジ国立研究所の研究グル−プ(Ref.8)らによって確認され報告された過剰発熱量、即ちパラジウム1cc当たり10〜20Wにも及ぶ発熱量に基づく限り、その熱出力密度は原子力発電所燃料棒の熱出力密度にも匹敵するものである。
 しかしその後の検証実験によって、彼らの実験における熱測定法及び解析法の問題点が指摘され、さらにデ−タの再現性が極めて乏しいことから、このような過剰発熱を伴うような常温核融合反応はその存在についてさえ否定的な見方が大勢を占めている現状にある。
したがって、常温核融合反応のエネルギ−生産プロセスとしての適用性評価は、今後多くの基礎デ−タの蓄積を待たなければならない。ただし、もしこの種の高い反応確率の常温核融合反応が存在し得るとすればという前提に立って、エネルギ−源としての常温核融合反応の利用に関する提案も幾つかなされている。なお、Jonesらによって発表された微量の中性子発生を伴うような常温核融合反応(Ref.9)については、当初よりエネルギ−源としての可能性はないと結論されている。
<関連タイトル>
核融合反応の分類 (07-05-06-01)
常温核融合研究騒動 (07-05-06-02)
ミューオン触媒核融合の原理と現状 (07-05-06-04)

<参考文献>
(1) J. D. Jackson, Phys. Rev., 106(1957)330.
(2) E. A. Vesman, Sov. Phys. JETP Lett., 5(1967)91.
(3) W. P. S. Tan, Nature, 263(1976)656.
(4) S. Eliezer, et. al., Nucl. Fusion, 27(1987)527.
(5) Yu. V. Petov, Muon Catalyzed Fusion, 1(1987)351.
(6) M. Fleischmann, et. al., J. Electroanal. Chem., 261(1989)301.
(7) Proc. Workshop on Cold Fusion Phenomena (Santa Fe, May, 1989).
(8) C. D. Scott, et. al., Fusion Technol., 18(1990)103.
(9) S.E.Jones, et. al., Nature, 338(1989)737.
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