<本文>
核融合発電の実現のためには、
D−T核融合反応により生成する大量の14MeVエネルギー
中性子による照射損傷に耐え、かつ、中性子による放射化を低減できる構造材料や機能性材料の開発が不可欠である。このため、
ITERの開発と並んで照射施設による材料開発を実施することが必要と考えられている。これまで、核融合発電用材料の特性が中性子照射によりどのように変化するか、
原子炉、イオン照射、また小規模の14MeV
中性子源を用いた研究開発が続けられ、いくつか有望な候補が開発されている。しかし、材料が実際に予定する期間使用可能かどうかを確実に判断するには、核融合環境をできるだけ模した中性子場による照射データが必要である。このため、1980年代からの国際協力による概念検討活動を通じて、中性子場の模擬の良否及び照射施設としての実現性の難易さを総合的に判断した結果、
表1に示すIFMIFの基本要求が定められた。この要求は今も概ね変わらないが、照射体積への要求のみ「微小試験片試験技術」を活用し照射計画を工夫することで500cm
3に縮小できるという検討結果が得られている。
IFMIFでは、
重水素ビームを加速しリチウム標的に衝突させることで中性子を発生する。加速ビームの要求仕様は40MeV、250mAであり、10MWのビーム電力となる。このためリチウムは液体にして循環させ熱交換器で冷却することになる。またわずかな厚さの隔膜でもビームを遮ると多量の熱が発生するので、リチウムは真空下(10-3Pa)で循環させる必要がある。
中性子束強度と照射体積の要求を満たすため、ビーム形状はリチウム表面で横20cm、縦5cm強の矩形とする。加速器は2台構成とし、1台あたり125mAを生成する。
図1に示すように、加速器はイオン源、低エネルギービーム輸送、高周波四重極加速、中間エネルギービーム輸送、超伝導加速、高エネルギービーム輸送からなり、液体リチウム標的の背後にある照射実験エリアは、中性子束の高いところから順に高中性子束領域(>20dpa)、中間中性子束領域(>1dpa)、低中性子束領域(0.1〜1dpa)に分け、それぞれ、照射後試験用試験片、その場照射試験、ラビット照射を主とした照射データの収集を行う。
BA活動のもとで実施中のIFMIF/EVEDA事業は、IFMIFの建設判断に資する基本工学設計の実施及びその裏付けとなるシステム要素の工学実証データの取得を目的としている。
図2に工学実証活動の目標と各協力機関の分担状況を示す。加速器系は主として欧州が要素技術開発を担当、日本は原型加速器として組上げ運転するための施設整備を担当する。加速器試験は青森県六ヶ所村のBA事業サイトに建設された試験棟で行う。原型加速器の目的は実機の9MeVまでを製作・試験することでIFMIFの加速器システム技術を確立することにある。原型加速器の特徴は連続波(CW)ビームによる大電流加速という点にあり、最大出力1,125kWは東海村にあるスポーレーション源
J-PARCをも凌駕するものである。それだけに運転時はビームによる放射化に細心の注意を払う必要がある。また、全長は短いものの大電流のイオンビーム加速を行う超伝導加速器は世界に類をみないものであり、この点でも新しい技術的知見が得られることが期待される。2013年8月現在、入射器はフランスサクレー研究所での製作・試験が終わり六ヶ所村のサイトに搬入済みで、高周波四重極加速器、超伝導
リニアックは製作中である。
液体リチウム標的については、40MeVの重水素ビームに適した厚み25mmのリチウム流をビーム照射時でも液面を安定に保ちながら流すことが最も重要であり、そのため、原子力機構が中心となって、実機と同じノズル断面形状を有し、流れ幅を約1/3に狭めたモデルを茨城県大洗町に建設した。2011年に試験ループは完成し、連続流動試験を実施している。
図3にループの全体写真を示す。
照射実験用の照射モジュール開発も進行中であり、最大の課題である照射場における試験片の照射温度制御の実証に向けてヘリウムガスループの整備、並びに照射モジュールの製作検討を実施している。また、ベルギーのBR2炉を用いた高中性子束試験モジュールのモックアップ、温度制御用組込パネルヒータ、マイクロ核分裂計数管などの中性子照射試験が2011年に開始された。
事業開始から3年間は上記の工学実証関連のタスクに注力してきたが、その後は工学設計にも重点を置いた活動も行われている。
<図/表>
<関連タイトル>
核融合炉開発の展望 (07-05-01-04)
トカマク型核融合装置の研究開発 (07-05-01-06)
国際核融合材料照射施設(IFMIF)計画の現状 (07-05-01-11)
幅広いアプローチ活動の概要 (07-05-04-01)
国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動事業 (07-05-04-02)
国際核融合エネルギー研究センター事業 (07-05-04-03)
サテライト・トカマク事業 (07-05-04-04)
<参考文献>
(1)核融合研究開発部門編集チーム:IFMIF/EVEDA事業の進捗状況、エネルギーレビュー 2012-5 (2012) 52.
(2)二宮博正:特集 核融合発電研究開発の現状と展望 幅広いアプローチ活動の取組および研究の進展と課題、電気評論 6, (2011) 17.
(3)木村晴行、他:小特集 幅広いアプローチ計画の概観と展望 3. 国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動、プラズマ・核融合学会誌 86, (2010) 223.
(4)K. Ehrlich, et al.: International strategy for fusion materials development, J. Nucl. Materials, 283?287, (2000) 79.
(5)文部科学省ホームページ:
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/iter/021.htm、
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/056/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/09/05/1338894_2.pdf