<本文>
2005年6月のモスクワでのITER関係閣僚会合において、ITER交渉参加極の代表者による共同宣言及び「ITER計画におけるホスト国及び非ホスト国の役割」に関する添付共同文書が合意された。これによりITERのフランスカダラッシュへの立地が決定し、非ホスト国となった日本において、ITER建設期と合致する期間内にITER事業を支援し、核融合エネルギーの早期の実現に向けた研究開発プロジェクトである幅広いアプローチ(BA)活動を日欧共同事業として行うこととなった。2007年2月、東京において、このBA活動の運営主体となる運営委員会の設立や両締約者の責務等について定めた「核融合エネルギーの研究分野におけるより広範な取組を通じた活動の共同による実施に関する日本国政府と欧州原子力共同体との間の協定」の署名が行われ、同年6月には国会で批准されBA活動は正式に発効した。BA活動は、期間としては10年間を目処とし、その後、終了手続きがなされない場合は自動延長される(但し、ITER計画への参加継続が条件)。資源は、日欧が460億円相当ずつ負担することにより、計920億円相当を拠出する。
BA活動は、先に示したITER事業を支援し、核融合エネルギーの早期の実現に向けた研究開発プロジェクトであり(
図1)、次の3つの事業(プロジェクト)よりなる(
図2)。
(a)国際核融合材料照射施設のための工学実証及び工学設計活動(IFMIF-EVEDA)事業
(b)国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業
なお、IFERCは、さらに次の3つのサブプロジェクトからなる。
1)原型炉設計研究開発調整センター
2)計算シミュレーションセンター
3)ITER遠隔実験センター活動
(c)サテライト・トカマク(JT-60SA)事業
IFERC及びIFMIF-EVEDAについては青森県六ヶ所村で、サテライト・トカマク事業は茨城県那珂市で実施することとなった。
BA活動では、両国の代表により設立される運営委員会が、各事業への全般的な指示、監督に責任を有する。運営委員会は、事業長の指名、各事業計画、作業計画、年次報告の承認等の役割を担い、年間に欧州及び日本において相互に1回ずつ開催される。また、各プロジェクトに事業委員会が設立され、運営委員会に提出される計画案などへの助言、計画の進捗の監視、報告等を行う。事業長は、事業チームを組織し、事業の実施についての調整等を行う。事業チームは、専門家、客員科学者等から成り、実施機関職員や大学の研究者等が参加できる。実施機関は、日欧の実施機関間で事業長の承認の下、調達取決めを締結し、機器の設計、調達、組立だけでなく一部の研究開発タスク等も行う。なお、活動の実施に必要な施設の許認可申請等は日本側が行う。実施機関としては、我が国は日本原子力研究開発機構(以降、原子力機構と記す)が、EUはFusion for Energy(F4E)が指定されている。またBA活動には、日欧以外のITERへの参加極も参加できる。もしBA活動の事業への参加の希望があった場合には、当該事業長が参加の条件を事業委員会に提案し、事業委員会で協議、参加について決定することになっている。
2007年6月の協定発効後、直ちに六ヶ所のサイト整備を開始し、2008年5月に建屋の建設に着手、2010年3月にはすべての建屋が竣工した(
図3)。
IFMIF/EVEDA事業は、IFMIFの建設判断に資する基本工学設計の実施及びその裏付けとなるシステム要素の工学実証データの取得を目的としている。加速器系は主として欧州が要素技術開発を担当、日本は原型加速器として組上げ運転するための施設整備と液体リチウム試験ループを担当する。原型加速器の目的は実機の9MeVまでを製作・試験することでIFMIFの加速器システム技術を確立することにある。液体リチウム標的については、原子力機構が中心となって、実機と同じノズル断面形状を有し、流れ幅を約1/3に狭めたモデルを茨城県大洗町に建設し実験を行っている。照射実験用の照射モジュール開発も進行中である。上記の工学実証関連のタスクに並行して、工学設計活動も行われている。
IFERC事業のサブプロジェクトの一つである原型炉設計・研究開発調整センターの活動は、2030年代中葉からの核融合発電実証への道筋を確かなものにするための原型炉概念設計活動、及び日欧が共通に関心を有する主要課題における工学R&D活動を推進・調整するものである。核融合計算シミュレーションセンターの活動では、核融合用スーパーコンピューターを駆使して、既存実験装置やサテライト・トカマク及びITER等におけるシミュレーション研究、実験データ解析研究、
核融合炉材料研究、及び原型炉設計研究等を推進するとともに、これらのシミュレーション研究と核融合炉システム研究、実験データ解析研究から得られる成果を統合し、原型炉のための核融合発電プラントに向けた全ての概念の統合(統合モデル化)を行うことが最終目標である。ITER遠隔実験センターに関する活動は、ITERへの実験参加に先立ってサテライト・トカマクJT-60SA等を対象としてRECが持つ機能の完備性を実証すること、及びITERの運転の準備として用いられる核燃焼トカマクシミュレーターを開発することにある。
サテライト・トカマク事業は、大型トカマク装置JT-60の本体部を常伝導コイルから
超伝導コイルに置き換え、ITERの運転に貢献するとともに原型炉のためのデータを取得するためにJT-60SAを建設し、運転することを目的としている。JT-60SAの各機器は日欧の実施機関が分担して製作し、日本原子力研究開発機構 那珂核融合研究所(以下、那珂研)で組立が行われる。我が国の分担では、超伝導
ポロイダル磁場コイルの一部が完成するとともに、真空容器に関しては10個の40°セクターの内6セクターが完成している。真空容器内機器については、1万枚以上に及ぶ
プラズマ対向壁用の黒鉛及び炭素繊維材タイルの製作が進行中である。欧州分担機器については、超伝導トロイダル磁場コイル導体の製作が開始され、クライオスタットについては、クライオスタットベースが那珂研に搬入され、本体室での設置が開始されている。
<図/表>
<関連タイトル>
核融合炉開発の展望 (07-05-01-04)
トカマク型核融合装置の研究開発 (07-05-01-06)
国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動事業 (07-05-04-02)
国際核融合エネルギー研究センター事業 (07-05-04-03)
サテライト・トカマク事業 (07-05-04-04)
<参考文献>
(1)核融合研究開発部門編集チーム:JT-60SA計画の進捗状況(1)、エネルギーレビュー 2012-3 (2012) 52.
(2)核融合研究開発部門編集チーム:JT-60SA計画の進捗状況(2)、エネルギーレビュー 2012-4 (2012) 48.
(3)核融合研究開発部門編集チーム:IFMIF/EVEDA事業の進捗状況、エネルギーレビュー 2012-5 (2012) 52.
(4)核融合研究開発部門編集チーム:IFERC事業の進捗状況、エネルギーレビュー 2012-6 (2012) 52.
(5)二宮博正:特集 核融合発電研究開発の現状と展望 幅広いアプローチ活動の取組および研究の進展と課題、電気評論 6 (2011) 17.
(6)奥村義和、大平茂:小特集 幅広いアプローチ計画の概観と展望 2. 幅広いアプローチ(BA)活動の概要、プラズマ・核融合学会誌 86 (2010) 221.
(7)文部科学省ホームページ:
http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/iter/021.htm、
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/056/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2013/09/05/1338894_2.pdf