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1. 金属燃料の特徴と性質
高速炉には, 現在混合酸化物燃料(MOX)が用いられているが、より安全性や経済性に優れた次世代燃料として金属燃料や
窒化物燃料がある。そのなかで金属燃料は、酸化物燃料に比較して熱伝導度が約10倍良いため、Naを燃料スラグ(
燃料棒をさす)と被覆管との充填材として用いることにより、運転時の燃料温度をその溶融温度に対し裕度を持たせることができる。また過出力等の異常事象に対しても安全性の裕度が大きくなるという利点があり、これらが将来の燃料として期待される所以である。
図1 に金属燃料ピンの構造を酸化物燃料ピンと比較して示す。金属燃料の組成は、増殖炉体系で用いる場合にはU-Pu合金を用いるのが基本となるが、この2元合金系の融点が低いため開発初期にはCr,Mo,Fs(フィッシウムといい、Moや白金族を主成分とする合金)との合金も考えられたが、被覆管との両立性の観点から最終的にU-Pu-Zr合金が提案され、1980年代半ば頃から米国アルゴンヌ国立研究所(ANL)で開発が進められてきた。金属燃料の性質を高速炉用の窒化物燃料、酸化物燃料と比較して
表1 に示す。
このように熱伝導率がきわめて優れているほか、重金属密度も他の燃料物質に比較して高いことが、金属燃料では炉心径を同出力の酸化物燃料炉心に比べて小さくできる(
使用済燃料の発生量を少なくできる)ことにつながっている。
また、金属燃料の製造には通常射出成型という製造技術が適用される。これは溶融した合金成分を減圧にしたモールドという鋳型に圧力差を利用して鋳込む技術であり、一度に数十本以上の単位で燃料スラグが製造できる特徴を有しており、現在のペレット形状をした酸化物燃料の製造に比較して、プロセスが極めて簡単で大量の生産に向いており、経済性に優れている。
一方、使用済みの金属燃料の
再処理には、
高温冶金法といわれる乾式法が適用できる。この方法は、LiCl-KCl溶融塩中で電解精製や還元抽出法によってUやPuさらにはマイナーアクチニドと呼ばれるNp,Am,Cmまでを一括して回収するのに優れた技術であり、金属燃料サイクルは、
核拡散抵抗性に強いといわれる所以である。また、この方法はプロセスが単純であり、装置のコンパクト化が図れるため経済性が期待できる方法として、我が国の先進リサイクル技術開発の一つの有力なオプションとなっている。
2. 金属燃料の開発状況
金属燃料には当初、α-Uの熱サイクルや
照射による非等方的な結晶成長を抑えるため、またPuの添加による融点の低下を防ぐため、UにZr,MoやFsを添加する合金が用いられた。しかし、スウェリングが大きく燃料被覆管を破損する、融点が低く何らかの原因で
原子炉の温度が急上昇した場合に燃料が溶融する、ということが懸念されたため、世界的には酸化物燃料の技術開発へと移って行った。しかし、ANLではその後も金属燃料の持つ有利な点が捨て切れず、研究を継続した結果、スウェリングに関しては、燃料スラグの断面を被覆管断面に比較してかなり小さくする(被覆管内断面積に対する燃料スラグ断面積の比率:スメア密度といい、現在では75%程度が適値とされている)ことにより、高いスウェリング量が許容できたため
FPガス 放出が促進され、それ以上のガススウェリングが抑制されることになり、
燃焼度を10at%以上へと伸ばすことが可能となった。また、融点に関してはZr,Mo,Fsとの合金化により改良されたが、その中でも被覆管との共晶温度が比較的上昇することからZrとの合金化が選択された。しかし、それでも酸化物燃料
FBRの設計にあるような被覆管最高温度(650℃)を達成するためには、その共晶温度が懸念され、今後の実用化に当たっては共晶温度の見極めが必要である。
一方、燃料製造に関しては、これまでにANLでU-Zr燃料に関しては十数万本、U-Pu-Zr燃料に関しても数百本の試験燃料が製造され、その内約8000本のU-Zr燃料と約600本のU-Pu-Zr燃料が照射試験に供されている。その内約1800本(U-Pu-Zr燃料は約300本)が10at%以上の燃焼度を達成している。しかし、これらの照射試験も1994年4月のIFR(Integral Fast Reactor:高速炉・乾式再処理・燃料製造の一体型燃料サイクル)計画の中止と共に中断されてしまい、今後先進燃料サイクルを将来の有力燃料サイクルとして進めていく研究開発計画をもつ、わが国が期待されるところである。
さらに、燃料リサイクルの観点からの使用済み燃料の乾式再処理に関しても、ANLでは要素技術の開発を経て、使用済燃料を用いた実証試験を実施しようとしていた矢先に、米国政府のPuは積極的に利用しないという方針転換のため、その技術開発が1994年に中断された。しかし、この技術の利点に着目し、1989年から共同研究という形でIFR計画に参加していた(財)電力中央研究所では、わが国の燃料サイクルの確立が将来のエネルギーの安定確保の観点から必要とされるという方針にもとづき、中核となってこの研究開発を継続している。
<図/表>
<関連タイトル>
IFR(一体型高速炉)/MFC(金属燃料サイクル)の開発の現状 (07-02-01-04)
金属燃料の再処理 (04-08-01-03)
<参考文献>
(1)常磐井守泰ほか:「FBR金属燃料サイクル技術」、原子力工業、36(6)14-61(1990)
(2)Y.I.Chang:”Integral Fast Reactor”,Nucl.Technol.,Vol.88,p.129(1989)
(3)尾形孝成:「次世代燃料技術」、次世代燃料技術研究専門委員会、日本原子力学会 (1997)
(4)横尾健:金属燃料高速炉の設計と燃料開発、核燃料工学−現状と展望−日本原子力学会(1993年11月)、p.305-315