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<概要>
 反応度事故とは、制御棒の飛び出しなどの原因により原子炉出力の暴走を生じる事故であり、旧ソ連におけるチェルノブイル事故がその一例である。反応度事故に関する試験研究は、出力暴走条件下における原子炉の特性と原子炉燃料のふるまいを実験的に研究し、原子炉の安全性評価に必要な知見を得ることを目的としている。反応度事故の安全研究は各国で行われているが、日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)では、NSRR(Nuclear Safety Research Reactor)を用いて原子炉燃料のふるまいに関する広範囲の研究を行い、その成果が国の行う安全評価の判断基準に活用されている。
<更新年月>
2004年07月   

<本文>
 反応度事故(RIA: Reactivity Initiated Accident)とは、何らかの原因、例えば原子炉の出力を制御するための制御棒が異常に引き抜かれたり、あるいは、飛び出したりすることによって、原子炉の出力が異常に上昇する事故をいう。1961年に発生した米国SL−1(軍用炉)の制御棒引抜事故、1986年に発生したチェルノブイル事故が代表的なものである。反応度投入による急激な出力上昇のため、原子炉の燃料は過熱し、場合によっては被覆管の溶融や内圧による破裂あるいは燃料ペレットの急速な膨張により被覆管が押し拡げられる事(ペレット・被覆管機械的相互作用/PCMI)等の原因で燃料が破損し、放射性核分裂生成物(FP)が原子炉内に放出される。日本の軽水炉の事故では考えられないが、チェルノブイル事故のように更に厳しい事故の場合には、燃料が溶融分散して、圧力波が発生する可能性もある。
 反応度事故に関する研究は動力炉開発の初期から行われたが、SL−1事故を契機としてSPERT、SNAPTRAN、BORAX等の実験が行われた。これらの実験によって、「暴走事故時には原子炉の持つ自己制御性が働く」および「燃料が溶融分散しなければ破壊力は発生しない」ことが確かめられた。後者の燃料破損と破壊力の関係から、少数本の燃料棒への反応度投入実験で反応度事故の安全性について解析できることが判明した。
 反応度事故実験は、米国、日本、フランス、旧ソ連等で行われたが、何れも出力暴走を安全に模擬できるパルス炉を用い、1本〜数本の燃料を試験している。これらの試験条件は、施設、試料、技術、費用等の理由で実炉の環境と異なる場合が多いが、実用炉条件に換算できるように、パラメータ試験条件を選んでいる。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)がNSRR(トリガ型研究炉)を用いて実施し、得られた成果をつぎに述べる。この成果は、原子力安全委員会による「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針」(以下「RIA指針」という)の策定に活用されている。
1.反応度投入事象に対する試験研究
 図1は、反応度が投入されたときの炉の出力と燃料棒温度の時間変化の解析例であり、燃料中心や表面(被覆管)の到達温度や持続時間如何によって燃料損傷が起こる。図2は反応度投入実験後の試料外観、図3は燃料棒表面温度の時間変化を発熱量の関数として示したものである。発熱量が大きくなるに伴って被覆管の最高温度が高くなり、被覆管の酸化が増大、ついには燃料の破損や分断が生じる。さらに、非常に大きな発熱量が加えられると燃料ペレットが溶融し、バラバラになって冷却材中に分散し蒸気爆発を生じる。
 NSRR実験では、種々の燃料の条件に対して実験が行われ、その結果燃料の内圧の影響が大きいことが明らかになった。すなわち、燃料棒の内圧が外圧を上回るようになると、高温になった被覆管が破裂し「ふくれ破損」を起こし、図4に示すように、圧力差が大きくなるほどより低い発熱量で燃料破損が生じるようになる。また、ごく少ない割合ではあるが、被覆管にピンホール等が生じる等の欠陥燃料すなわち冷却水が燃料内に侵入した場合(浸水燃料)についての実験も行われた。この結果、浸水燃料は約100cal/gUO2の低い発熱量で破損し、被覆管の破裂時に圧力波を発生することが分かった。
 これらの知見を反映して、「RIA指針」では、異常な反応度投入が生じた場合(運転時の異常な過渡変化の発生)に燃料破損を防ぐための指標として、図5のような燃料許容設計限界を定めている。また、蒸気爆発などによる破壊力の発生を防止するために、制御棒の飛び出し(PWR)や落下(BWR)事故を含め、どのような厳しい反応度事故の想定でも燃料の発熱が230cal/gUO2を超えないことや、浸水燃料の存在も想定して圧力波の発生に対する評価もすることを要求している。
2.燃焼の進んだ燃料に対する試験研究
 現在、燃料の高燃焼度が進められているが、燃料の燃焼が進むと燃料ペレット内のFP蓄積が増大し、また、被覆管も長期間の照射や酸化によって脆化が進行する。このような燃焼の影響についても調べるため、燃焼の進んだ燃料による実験がNSRRやフランスのCABRI計画において進められている。その結果、高燃焼度燃料では、脆化が進んだ被覆管が、反応度事故時の燃料ペレットの急速な膨張によって割れる、いわゆる、燃料ペレット被覆管機械的相互作用(PCMI)による破損が生じ、燃焼にともなって破損しきい値が低下することが分かってきた。これらの知見を反映するため、原子力安全委員会での検討が行われ、原子炉安全基準専門部会報告書「発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象における燃焼の進んだ燃料の取扱いについて」が出された。その後も燃焼が進んだ燃料の試験は続けられており、図6は、これまでの実験の結果と、上記の報告書に示されたPCMI破損による燃料破壊しきい値を比較したものである。軽水炉の安全審査においては、従来の「RIA指針」に加え、このPCMI破損による燃料破損しきい値も考慮した評価が要求される。
 なお、図6以外では発熱量の単位をcal/gUO2とし、図6ではcal/g燃料としているが、この図では、UO2燃料の他にMOX燃料も扱っているためである。両単位は同じものと考えてよい。
<図/表>
図1 反応度投入による出力と燃料棒温度の過渡変化解析例(BWR制御棒落下事故)
図1  反応度投入による出力と燃料棒温度の過渡変化解析例(BWR制御棒落下事故)
図2 反応度投入実験後の燃料棒の外観
図2  反応度投入実験後の燃料棒の外観
図3 反応度投入による燃料棒表面温度の経時変化
図3  反応度投入による燃料棒表面温度の経時変化
図4 予加圧燃料における破損しきい値
図4  予加圧燃料における破損しきい値
図5 反応度投入事象における燃料の許容設計限界
図5  反応度投入事象における燃料の許容設計限界
図6 PCMI破損しきい値の燃焼度依存性
図6  PCMI破損しきい値の燃焼度依存性

<関連タイトル>
チェルノブイリ原子力発電所事故の概要 (02-07-04-11)
原子炉物理の基礎(10)原子炉の反応度変化 (03-06-04-10)
発電用軽水型原子炉施設の反応度投入事象に関する評価指針 (11-03-01-17)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社(1994)
(2)科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂9版 原子力安全委員会安全審査指針集、大成出版社(1998)
(3)大久保 忠恒ほか(編):軽水炉燃料のふるまい、原子力安全研究協会(1998)
(4)T. Fujishiro et al.:Light Water Reactor Fuel Response during Reactivity Initiated Accident Type Tests, TFBP−TR−246, 1977
(5)星蔦雄ほか:反応度事故条件下における未照射燃料の破損挙動、日本原子力学会誌、20(9),651(1978)
(6)P. E. MacDonald et al.:Assessment of Light−Water−Reactor Fuel Damage during a Reactivity−Initiated Accident, Nuclear Safety,21(5), 582(1980)
(7)M. Ishikawa et al.:A Study of Fuel Behavior under Reactivity Initiated Accident Conditions − Review, J. Nucl. Mat., 95,1(1980)
(8)S. Saito et al.:Effect of Rod Pre−Pressurization on Light Water Reactor, Fuel Behavior during Reactivity Initiated Accident Conditions, J. Nucl. Sci.& Technol., 19(4), 289(1982)
(9)T. Fujishiro et al.:Transient Fuel Behavior of Preirradiated PWR Fuels under Reactivity Initiated Accident Conditions, J. Nucl. Mat., 188,162(1992)
(10)更田豊志ほか:Summary of Fuel safety Reseach Meeting 2004,March 1−2,2004,JAERI−Rev. 2004−021,p.54
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