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<概要>
 米国のトロージャン(Trojan)原子力発電所は、単機117.8万kWeのPWR型原子炉であり、現在、解体撤去工事の最終段階にある。この炉は、17年間の運転後、蒸気発生器の故障を機に、経済性が他の発電施設に比べ低いとの評価に基づき、1993年に永久停止された。
 大型機器(4基の蒸気発生器、加圧器)が1995年に、さらに1999年8月には大型商業炉として世界で初めて原子炉圧力容器が、一括撤去(One-Piece Removal)工法で撤去された。圧力容器の内部にはコンクリートが充填され、輸送に必要な遮へいを取り付けられた後、処分場に輸送され、埋設された。原子炉格納建屋内のコンクリート構造物等の解体撤去が終了し、最終サーベイが2004年10月に行われた。
<更新年月>
2005年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 トロージャン原子力発電炉は、オレゴン州ポートランド市の中心から車で約1時間の所で、コロンビア河に沿った敷地に建設され、運転を1976年に開始した単機117.8万kWe(グロス)のPWR型原子炉である(図1参照)。ポートランド電力会社(PGE)は、17年間の運転後、蒸気発生器の故障をきっかけに、経済性が他の発電施設に比べ低いとの評価に基づき、1993年永久停止した。
 トロージャンの廃止措置については、米国の原子力規制委員会(NRC)が定める即時解体方式(DECON)が選択され、1994年に解体開始、2000年までに主な機器の解体撤去が終了した。サイト解放のための放射線サーベイ作業が2004年10月までに行われ、2004年12月年NRCへ報告書が提出された。最終サーベイ報告書の承認をもって、認可終了となる。原子炉建屋、冷却塔などを残し、2005年中にサイトは無制限の規制解除となる。
 トロージャン炉廃止措置の総コストは、1993年ドル換算によると、415百万ドルである。最新評価では1997年ドル換算で約468百万ドル(約500億円)であり、その内訳は、NRC規制を受ける部分の解体費(原子炉の解体、除染及び処分)235.6百万ドル、使用済み燃料管理費180.4百万ドル、サイト修復費42.2百万ドル等である。また、廃止措置全体での総被ばく線量等量は、6人・Svである。
 廃止措置に関る作業等の主な経過を表1に示す。主な工事等は、次のとおりである。
(1)蒸気発生器、加圧器の撤去、処分
 蒸気発生器(4基)及び加圧器(1基)は、一括撤去、ハンフォード処分場へ輸送、1995年11月に埋設。蒸気発生器(331トン/基)は、165トンのポーラクレーンを500トンまで吊れるように補強対策を行い、吊り上げ、格納容器の一部に開口部を設け、そこから外部に搬出。この蒸気発生器は、内部に軽量コンクリート(密度0.3〜0.4g/cm3)を充填、密封溶接し、総重量約450トンの廃棄体パッケージにして、全体で5週間を要し、陸上31マイルを特殊トレーラ、コロンビア河270マイルをバージ(船台)に乗せて、処分場まで輸送された。
(2)炉内構造物を含む原子炉圧力容器の一括撤去、処分
 1995年に廃止措置計画をNRCに提出した時点では、炉内構造物を先に解体撤去し、原子炉圧力容器のみ一括撤去する計画であった。その後の検討の結果、炉内構造物と一緒に原子炉圧力容器を一括撤去する工法が技術的に可能であり、コスト低減、工期短縮、作業者の被ばく低減、廃棄物の発生量低減などの利点が多いことから、計画が変更された。1997年1月NRCにラセンスの変更申請を行い、1998年10月認可された。
 トロージャン炉の放射能インベントリの大部分は、炉内構造物にあり、原子炉停止5年後で74ペタベクレル(約2×106Ci)である。その主要核種は、55Fe,60Co,63Niである。このうち原子炉圧力容器、クラッド(内部汚染物)、断熱材、コンクリート等の放射能インベントリは、約1ペタベクレル(3×104Ci)である。炉内構造物を含む原子炉圧力容器の一括撤去は、原子炉の放射能インベントリの大部分を1つの廃棄体パッケージにして合理的に処分する工法である。この原子炉圧力容器パッケージ(図2)は、炉内構造物を入れたまま、容器内部に軽量コンクリート(密度0.7〜1g/cm3)を充填し、炉心領域の胴部外側に5インチ、ノズル部に2インチ、下部1インチにそれぞれ鉄板による追加遮へいを溶接で取り付けた輸送容器兼廃棄体である。この結果、このパッケージは、総重量950トン、体積約226立方メートルであり、表面線量率1.7mGy/h以下、表面から2mの位置で87μGy/h以下の輸送基準を満足するものとなった。
 撤去工事は、1998年12月に始まり、特殊フレームを原子炉キャビテイの上に組み立て、原子炉圧力容器を吊り上げ、次に水平に転回させ、蒸気発生器搬出に用いた格納容器開口部より外部に搬出した。また、処分場への輸送時には、安全対策のために取り付けた遮へい板もあり、このパッケージは重量約1,020トンとなり、特殊トレーラでトロージャン・サイトの仮設の港(バージスリップ)まで輸送し、コロンビア河を蒸気発生器の場合と同様に、バージに積み込みベントンまで運ばれ、さらにハンフォード処分場に再度陸送した(図3−1)。最後に、1999年8月、NRC処分基準Cクラスとして処分場のトレンチに埋設された(図3−2)。
 ポートランド電力会社は、安全に原子炉圧力容器を一括撤去することに成功し、完了したことに対して、2000年のPMI国際プロジェクト賞を受賞した。この一括撤去プロジェクトは、国際的に注目され、撤去から輸送までの作業者の被ばく線量0.7人・Sv、またコストも21百万ドル(約25億円)と低コストで実施されたことが評価された。これに対して原子炉圧力容器を、細かく切断する方法を採用したならば、作業者の被ばく線量1.4人・Sv、コスト45百万ドルと見積もられていた。
(3)大型タンクの解体撤去
 大型タンク類(約10基)の解体撤去は、内部の汚染、大型の機器、高所作業、有害物質(鉛等)を含む塗装など、作業の特殊性からトロージャン炉の廃止措置で厄介な作業であった。この作業には、タンク底部の汚染の多い部分を先行撤去することができる“Bottom Up”工法、即ち、タンクを専用装置で吊り上げてタンク下部から切断解体する方法が採用された。切断には、主に酸素−プロパントーチを用い、また有害物質(鉛等)を含む塗料で塗装している部分はドリル等による機械的方法を用いている。放射性廃棄物受入れタンク(CWRT)及び1次冷却水貯蔵タンク(PRWST)の撤去作業の様子をそれぞれ図4及び図5に示す。
 汚染レベルの高いタンクについては、解体に先立ってDFD法によりフッ化ホウ素酸、過マンガン酸カリ等を用いた除染剤により除染された。(原子力百科事典ATOMICA構成番号 <05-02-02-04>の表1参照)
(4)原子炉格納容器内コンクリート構造物の解体及び原子炉格納容器内の最終サーベイ
 生体遮へいなどのコンクリート構造物の解体では、ポーラクレーンで吊った作業用プラットホームに遠隔操作システム搭載のキャタビラー付改造重機を使用し解体が行われた。撤去作業の様子を図6示す。この方法では、任意の位置に作業用プラットホームを移動し、油圧ハンマーや油圧せん断機を用いた(図7参照)。作業に先立ち、作業用プラットホームの安定処置、機器駆動のプログラミングを実施している。また、管理区域作業を考慮し、エンジン吸排気系の改良、長期使用可能な潤滑剤の使用、作業短宿のための遠隔操作など改善が図られた。コンクリート片は、1立方フィート(約0.03立方メートル)以下に裁断された。汚染廃棄物は約14,000立方フィート(約380立方メートル)が撤去された。
 建屋内の埋設配管の撤去、コンクリート構造物の解体撤去が終わり、格納建屋の解放のための放射線サーベイ作業(図8−1図8−2参照)が2002年5月、又NRCの確認が同8月に完了した。
(5)使用済燃料のサイト内貯蔵
 サイト内に設けられた独立使用済貯蔵施設(ISFSI)への使用済燃料の移送作業は、使用済燃料貯蔵容器に材料的な不具合があり、工程が遅れていたが2003年9月までに完了した。ISFSIの乾式コンクリート貯蔵建設の様子を図9−1図9−2に示す。今後、この使用済燃料は、米国エネルギー省(DOE)が最終的に引き取り処分するまでここに保管される。
(6)燃料・補助建屋の除染作業、
 燃料・補助建屋の埋設配管撤去は、2004年7月までに完了した。使用済燃料プールおよびキャスクピット汚染部の除去前後の様子を、それぞれ図10および図11に示す。
(7)今後のサイト最終サーベイと活用等について
 タービン、制御室の解体は、2004年7月までに完了した。サイト最終サーベイを2004年10月までに終え、最終サーベイ第5報告書が2004年12月に提出され、すべての最終サーベイ報告書をNRCが承認し、パート50ライセンスは、終了する予定である。サイトはPGE社の工業施設として、残される。なお、当初計画によると、2018〜2019年頃に原子炉格納建屋、冷却塔等の解体する予定である。
<図/表>
表1 トロージャン原子力発電所の廃止措置の主な経過
表1  トロージャン原子力発電所の廃止措置の主な経過
図1 トロージャン原子力発電所サイト外観
図1  トロージャン原子力発電所サイト外観
図2 原子炉圧力容器パッケージ(炉内構造物を含む)
図2  原子炉圧力容器パッケージ(炉内構造物を含む)
図3−1 トロージャン原子炉圧力容器パッケージの輸送・処分(1/2)
図3−1  トロージャン原子炉圧力容器パッケージの輸送・処分(1/2)
図3−2 トロージャン原子炉圧力容器パッケージの輸送・処分(2/2)
図3−2  トロージャン原子炉圧力容器パッケージの輸送・処分(2/2)
図4 トロージャンの廃棄物処理系受けタンク(CWRT)の解体
図4  トロージャンの廃棄物処理系受けタンク(CWRT)の解体
図5 トロージャンの1次系冷却水貯蔵タンク(PWST)の解体作業
図5  トロージャンの1次系冷却水貯蔵タンク(PWST)の解体作業
図6 トロージャン原子炉格納容器建屋内コンクリート構造物の解体
図6  トロージャン原子炉格納容器建屋内コンクリート構造物の解体
図7 トロージャン原子炉格納容器建屋内コンクリート構造物の解体に用いた冶具
図7  トロージャン原子炉格納容器建屋内コンクリート構造物の解体に用いた冶具
図8−1 トロージャン格納容器建屋内壁のサーベイメータによる汚染検査
図8−1  トロージャン格納容器建屋内壁のサーベイメータによる汚染検査
図8−2 トロージャン格納容器建屋内壁の最終サーベイ
図8−2  トロージャン格納容器建屋内壁の最終サーベイ
図9−1 トロージャン発電所サイト内の独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI)(1/2)
図9−1  トロージャン発電所サイト内の独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI)(1/2)
図9−2 トロージャン発電所サイト内の独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI)(2/2)
図9−2  トロージャン発電所サイト内の独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI)(2/2)
図10 使用済燃料プールのクリーンアップ状態
図10  使用済燃料プールのクリーンアップ状態
図11 安全系注入ポンプと浄化装置撤去後のクリーンアップ状態
図11  安全系注入ポンプと浄化装置撤去後のクリーンアップ状態

<関連タイトル>
米国の原子力発電所の廃止措置費用 (05-02-01-13)
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
英国における原子力発電所廃止措置計画 (05-02-03-05)
米国における発電炉廃炉計画 (05-02-03-06)

<参考文献>
(1)M.B.Lacky & M.L.Kelly:The Trojan Large-Component Removal Project,Radwaste Magazine(Jan.1999),p.11-17
(2)宮坂靖彦:トロージャン原子力発電所のデコミッショニング、デコミッショニング技報、第19号、62-68(1998年12月)
(3)Drian D. Clark,Roger M.Lewis:Radwaste Solutions(March/April.2000),p.22-31
(4)デコミニュース、第15号、12-13(2001年2月)
(5)ニュークレオニクス・ウィーク日本語版(1999年8月26日),p.18-19
(6)Nuclear News(Oct.1999),p.60-63
(7)L.G.Dusek & S.B.Nichols:DD & R,Knoxville TN.(Sep.1999)
(8)R.E.Sauer & P.A.Zlatev:DD & R,Knoxville TN.(Sep.1999)
(9)宮坂靖彦:米国の発電用原子炉デコミッショニングの最新動向、デコミッショニング技報、第21号、21-34(2000年3月)
(10)Chris Futrick:Demolition of Structures by Rubblization at Trojan Nuclear Plant and San Onofre Nuclear Generation Station Unit 1,Spectrum 2002.(2002)
(11)Stephen M. Quennoz:Trojan Decommissioning Project,Cost Performance,TLG Conference(Oct.2000)
(12)Stephen M. Quennoz:Trojan Decommissioning Status and Lessons Learned,TLG Conference(Oct.2002)
(13)ANS NEWSLTTER,(May.2001)(Oct.2001)(Oct.2003)(May 2004)(Oct.2004)
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