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<概要>
 米国で解体中の原子力発電所廃止措置費用は、NRC規制部分(解体、除染廃棄物処理処分費)、使用済燃料管理、サイト修復を含めて、1基当り300〜500百万ドルの範囲に評価されている。
 使用済燃料の保管及び規制解除後の施設解体及びサイト修復費用がNRC規制部分の廃止措置基金に含まれないこと、また、低レベル廃棄物処分の費用上昇が続くことから、廃止措置基金の確保について種々検討が行われている。
<更新年月>
2004年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 米国で解体中の原子力発電所の概況及び廃止措置費用を表1に示す。廃止措置費用は、NRC規制部分(放射性物質の廃止措置に係る領域でNRCの規制が及ぶ範囲)、使用済燃料管理及びサイト修復を含めて、評価年、施設規模、運転期間等でまちまちであるが、表1に示すようにほぼ1基当り300百万ドルから500百万ドル(330〜550億円:110円/ドルと仮定)の範囲となっている。使用済燃料は、いずれの施設でもサイト内に設けられた独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI:Independent Spent Fuel Storage Installation)でDOEが引取り可能な時期まで保管される。以下に、米国で解体中の主な廃止措置計画の概況と費用評価を紹介する。
1.トロージャン(PWR
 ポートランド電力会社(PEG)は、トロージャン原子力発電所を、1993年経済性を理由に恒久停止し、すでに主要な構造物の解体を終え、使用済燃料の独立使用済燃料貯蔵施設(ISFSI)への移動も2003年10月までに終了した。現在、最終の残留放射能の測定中である。原子炉建屋、冷却塔など残し、2005年初めまでにサイトは規制解除される予定である。
 廃止措置の全費用は、TLGサービス社によりDOEのデコミッショニング・ハンドブック及びAIF/NESP−036のガイドラインを参考に、416百万米ドル(1993年価格)と評価された(表2)。最新の評価(1999年価格)によると、総費用は467.7百万ドルとなり、NRC規制部分235.6百万ドル、使用済燃料管理180.4百万ドル、非規制部分(燃料管理・施設解体・サイト修復)42.2百万ドル等である。NRC規制部分の費用が比較的低いのは、蒸気発生器原子炉圧力容器等の大型機器の一括撤去・処分方式の採用及びハンフォード処分場の処分費が低いことに起因している。例えば、炉内構造物を含む原子炉圧力容器の一括撤去・処分費用は、21.5百万ドルであり、当初計画の細断工法による場合(46.2百万ドル)と比べ半分以下である。
2.ヤンキーロー(PWR)
 ヤンキーアトミック電力会社(YAEC)は、ヤンキーロー原子力発電所を、1992年恒久停止し、1993年から解体を開始した。1994年には炉内構造物を解体撤去し、1996年には原子炉圧力容器を一括撤去し、バーンウェル処分場への輸送を終了し、構造物の解体撤去を完了している。プールに保管されていた533体の使用済燃料は、乾式キャスクに入れ、新たに建設されたサイト内のISFSIへの移動を2003年6月に完了し、DOEに引き渡すまで長期保管される。最後の残存作業は、建屋の解体、認可変更計画の手続、サイト修復である。2006年からサイト再利用の準備を開始するため、廃止措置作業は、2005年半ばまでに完了する計画である。
 YAEC社は、全廃止措置費用を(解体撤去費、人件費、廃棄物処分費、使用済燃料長期保管費、その他)を306百万ドル(1995年価格)と評価している。その内訳を表3に示す。その後、作業変更(プラント全体にPCBをベースとした塗料使用、汚染コンクリート範囲の増加、汚染土壌の発見・撤去、ディーゼル発電建屋でのバリウム塗料使用)による約32百万ドルの増加、使用済燃料保管関連費用の変更による55百万ドル増加及び関連料金の変更による17百万ドル減少により合わせて70万百万ドルの増加で、477百ドル(1999年価格)と評価している(文献6)。
3.メインヤンキー(PWR)
 メインヤンキーアトミック・パワー電力会社のメイン州のメインヤンキー原子力発電所(電気出力91万kWe)は、1996年12月まで約25年間平均費用2.5¢/kWhで電力を供給していたが、1997年8月NRCの基準を満たすためには大規模な改造費を要することから、経済性を理由に閉鎖を決定した。バーンウェル処分場が利用できることから即時解体撤去(DECON)方式を選択した。解体作業は1999年初めに本格化し、原子炉圧力容器を一括撤去後、バーンウェル処分場への輸送・埋設を2003年7月に終わり、2005年春までに完了する予定である。使用済燃料(約1400体)は、2004年3月までに60基の乾式キャスクに入れ、サイト内のISFSIへ移動し、2023年まで保管される。
 廃止措置費用は、解体撤去、解体廃棄物の処分、使用済燃料の長期保管費用を含め、508百万ドル(1997年価格)であり、その内訳を表4に示す。また、2000年のMaine Yankeeホームページ資料(文献8)によると、解体撤去費用及び2023年までの使用済燃料の保管費用は541百万ドル(1998年価格)と評価されている。
 メインヤンキー社は、解体撤去とサイト回復作業をストーン・ウェブス社(S&W)と250百万ドルのターンキー方式で契約している。S&W社は、サイトに約200人の作業員を送り込み解体作業を行っている。使用済燃料のサイト内保管費用は135百万ドルと評価されている。現在、200百万ドルは基金を使用できるが、まだ不足しており、プロジェクト遂行のために設備(6百万ドル相当)を売却、また、他の資産売却などの努力が続けられている。なお、不足費用は、電気利用者から徴収されるが、1999年現在、連邦エネルギー規制委員会(FERC:Federal Energy Regulatory Commission)との間で年間33.6百万ドルを徴収することで仮合意している。
4.ハダムネック(PWR)
 コネチカットヤンキーアトミック電力会社(CY)は、ハダムネック(コネチカットヤンキー)原子力発電所を、1996年12月に経済性を理由に閉鎖し、1998年5月から解体作業をが開始した。本格的な解体撤去作業については、1999年4月にベクテル社と固定価格300百万ドルのターンキー方式の契約を結び、同社は平均240人の作業員を送り込んでいた。蒸気発生器などの大型機器の撤去が2000年10月までに行われ、残りの作業を2004年までに終え、廃止措置を完了する予定であった。しかし、工期が2年半延長と大幅な費用増大が避けられなくなった。これに対して、CY社は2003年7月、ベクテル社のプロジェクト管理等に問題があるとして同社との契約を破棄し、同8月からは、原子炉圧力容器の撤去、ISFSIの建設、使用済燃料の移送及び構造物の解体を直接管理している。使用済燃料約1019体は、乾式キャスクに入れられ、2004年3月までにサイト内のISFSIへの移動を開始する。なお、CY社は、同サイトに天然ガスを用いた火力発電所の建設を検討している。
 廃止措置費用は、427百万ドル(1996年価格)と評価し、その内訳は、表5に示す。また、2000年7月現在、48百万ドルの節約をFERCと合意した。1997年から1999年までに約169百万ドルを解体及び除染に費やした。残りの廃止措置費用を354百万ドル(2000年価格)と評価している。
5.サン・オノフレ(PWR)
 南カリフォルニア・エジソン(SCE)社は、サン・オノフレ原子力発電所(1号機)を1992年に停止し、当初2013年まで安全貯蔵する予定であったが、従業員の退職により発電所に関する「知識ベース」が失われることを心配し、即時解体撤去(DECOM)に切り替え1999年から解体作業を開始した。2008年までに主要な構造物の解体撤去を完了する予定である。解体廃棄物の廃止措置費用は、460百万ドルと評価されている(表1)。解体廃棄物の処分費用は、1998年に算定した160百万ドルから200百万ドルに増加すると評価されており、サイト内に約20年間保管される。なお、同サイトの2号及び3号機は、少なくとも2022年まで運転される。1〜3号機合わせた廃止措置費用は約10億ドルと評価されている。
6.ランチョセコ(PWR)
 サクラメント地域公益電力公社は、ランチョセコ発電所を住民投票により1989年に停止することを決定した。当初は安全貯蔵(SAFSTOR)を選択したが、即時解体撤去(DECOM)に切り替え1997年に作業を開始し、2008年までに廃止措置を完了させる予定である。クラスAの高レベル放射性廃棄物は、ユタ州のエンバイロケア処分場へ、また、クラスB及びCの中・低レベル放射性廃棄物は、カリフォルニア州のウォーバレー処分場計画が取り下げられたため、サイト内の保管庫に貯蔵される。
 使用済燃料の貯蔵を含む廃止措置費用は、TLG社により340百万ドル(1994年価格)と評価されている(表1)。許認可申請した運転期間の半分の時点で運転を停止したことから電力購入者は現在も廃止措置基金に拠出しており、2000年現在の基金の額は予定の半分(96百万ドル)である。残りの廃止措置作業には254百万ドルかかると見積もられている。
7.ビック・ロックポイント(BWR
 ビックロックポイント原子力発電所は、35年間の運転後、1997年8月使命を果し恒久停止された。原子炉圧力容器は一括撤去し、バーンウェル処分場へ輸送された。また、蒸気ドラム(20万ポンド)は、2003年11月にユタ州のエンバイロケア処分場に運ばれた。乾式の使用済燃料貯蔵施設を残し、2005年までにサイトを解放することでNRCの承認が得られている。その後、2007年までに「自然状態」に戻される予定である。
 初期の廃止措置基金は、即時解体撤去で164百万ドル(1987年価格)と評価されたが、その後のインフレ、追加費用及び使用済燃料のISFSIを含め290百万ドル(1994年価格)と再評価され、さらにスケジュール完了までの期間のインフレ効果を考慮し、1997年には350.7百万ドルと評価されている。廃止措置計画のそれぞれの段階による作業内容等と費用を表6に示す。
<図/表>
表1 米国の発電用原子炉(軽水炉)廃止措置費用の概況
表1  米国の発電用原子炉(軽水炉)廃止措置費用の概況
表2 トロージャンの廃止措置費用
表2  トロージャンの廃止措置費用
表3 ヤンキーローの廃止措置費用
表3  ヤンキーローの廃止措置費用
表4 メインヤンキーの廃止措置費用
表4  メインヤンキーの廃止措置費用
表5 コネチカットヤンキーの廃止措置費用
表5  コネチカットヤンキーの廃止措置費用
表6 ビックロックポイントの廃止措置費用
表6  ビックロックポイントの廃止措置費用

<関連タイトル>
原子力発電所の廃止措置費用評価 (05-02-01-02)
米国の原子力発電所の廃止措置基金(デコミッショニング・ファンド) (05-02-01-14)

<参考文献>
(1)宮坂靖彦:米国の発電用原子炉デコミッショニングの最新動向、デコミショニング技報 第21号(2000年3月)
(2)宮坂靖彦:トロージャン原子力発電所のデコミッショニング、デコミショニング技報 第19号(1998年12月)
(3) Stephen M.Guennoz, Trojan Decommissioning Project, Cost Perfomannce, Oct.2002, TLG Decommissioning Conference.
(4)www.yankee.com/
(5)Leo P. Lessard, Benchmarking Decommissioning Costs at Yankee Nuclear Station,ANS Embedded Topical Meeting II、DD&R, Nov. 12, 1996.
(6)Michael S. Terrell, Keeping an Eye on the Bottom Line, Radwaste Solution, Sep./Oct. 2000.
(7)Maine Yankee Atomic Power Company, prepared by TLG Service, Inc.
(8)www.maineyankee.com/dismatle/cost.html
(9)Haddam Neck Plan Post Shutdown Decommissioning Activities Report(PSDAR),Aug. 22,1997, Docket No.50−213, CY−97−075.
(10)(社)日本原子力産業会議:「(米)コネチカットヤンキー原発の廃炉、ベクテル社が受注」、ニュークレオニクス・ウィーク日本語版−1999.4.8.
(11)www.connyankee.com/decom/psdar.html
(12)www.scm.com/sc3/006
(13)(社)日本原子力産業会議:「(米)ランチョセコ原発解体へ、現地サイトで貯蔵」、ニュークレオニクス・ウィーク日本語版−2002.9.5.
(14)Richard Wyniawskyi, et. Al., Cost and Schedule Strategies at Big Rock Point Restoration Project, ANS Embedded Topical Meeting II、DD&R, Sep. 12−16, 1999.
(15)(社)日本原子力産業会議:「(米)ビックロックポイント原発の廃炉計画、2003年の浄化目標が明らかに」、ニュークレオニクス・ウィーク日本語版−2002.2.4.
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