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<概要>
 解体対象の原子炉施設内には、燃料を取り出した後でも運転中に中性子照射により放射化された構造物や一次冷却系を通じて汚染された設備、機器等に放射能が残存している。原子炉施設を解体することは、これらの放射性機器、構造物等を放射線環境下で安全に撤去し、発生した放射性廃棄物を適切に処理することである。
 原子力施設の解体における安全性の確保では、一般安全対策は勿論のこと、放射性粉じん等の原子力施設外への放出低減対策および作業者の被ばく低減対策が重要である。このことを念頭において、解体手順、工程等の解体計画を立案しなければならない。
<更新年月>
2007年07月   

<本文>
 廃止措置における安全性の確保については、日本原子力研究所(現、日本原子力研究開発機構)の動力試験炉(JPDR)の解体に当たって、原子力安全委員会から指針「原子炉施設の解体に係わる安全確保の基本的考え方」が示され(昭和60年12月)、その後、東海発電所の廃止措置開始前に見直しされた(平成13年8月)が基本的に変更されていない。
 原子炉等規制法が2005年に改正され、原子力施設の廃止措置について認可制度が制定された。日本原子力学会は、廃止措置計画の認可に参考となる学会標準「原子力施設の廃止措置の計画と実施:2006」をまとめている。この標準は、原子炉、核燃料施設等の廃止措置について、計画立案から実施・終了に至るまでの基本的考え方、廃止措置を計画立案するための技術的要求事項および実施するための手引きを定めている。廃止措置の各段階における放射線被ばくリスクに応じて、安全確保のために必要な機能を明確にする必要がある。
 実用発電用原子炉施設および核燃料サイクル施設の廃止措置における安全確保の考え方を、それぞれ表1−1表1−2および表2−1表2−2に示す。また、放射線安全に加えて、高所作業対策、アスベスト・PCB等有害廃棄物対策、防火対策、感電防止対策、粉じん障害対策、閉所・酸欠防止対策、騒音対策等の安全にも十分配慮する必要がある。特に、ホットワーク(溶接、切断、研磨等)が増加し、それに可燃性廃棄物が増加するので火災対策を十分に考慮する必要がある。
 以下に、指針「原子炉施設の解体に係わる安全確保の基本的考え方」を紹介する。
1.安全確保上重要事項
 原子炉の運転を恒久的に停止した後には、原子炉施設内には核燃料のみならず、放射性機器・構造物等が残されている。原子炉施設の解体は、すなわちこれらの核燃料および放射性機器・構造物を放射線環境下で順次撤去し、放射性廃棄物を分類処理することであって、以下のような特徴を持っている。
 a.炉内構造物等の比較的放射能レベルの高い廃棄物が発生する。
 b.遮へいコンクリ−ト等から放射能レベルの低い廃棄物が大量に発生する。
 c.解体の進行に伴って施設内の放射線レベルが変動する。
 d.解体の進行に伴って施設の保安に必要な設備等の状況が変化する。
 原子炉の解体においては、ALARAの考え方(すべての被ばくは、経済的、社会的要因を考慮し合理的に達成可能な限り低くおさえなければならない)に基づき安全確保を図るべきである。上記の特徴を踏まえ、次に掲げる安全確保上重要事項について具体的に考慮した計画を立案する必要がある。
 a.解体中における保安のために必要な原子炉施設の適切な維持管理の方法。
 b.公衆および作業者等の放射線被ばくの低減対策。
 c.放射性廃棄物の処理等の方法。
 特に、公衆および作業者等の放射線被ばくの低減を図るためには、適切な解体撤去工法および解体撤去手順を採用するとともに、あらかじめ被ばく線量を適切に評価する必要がある。なお、解体の実施に当たっては、責任体制の明確化、解体中の原子炉施設の管理、作業内容の確認等のための品質保証計画の整備について配慮しなければならない。
2.解体中の原子炉施設の維持管理
 原子炉の機能を停止した後には相当量の放射性物質が当該施設内に残存する。したがって、解体中の放射性物質の処理および各種作業の実施において、安全確保上必要な設備、機器については、必要な期間、所要の性能を維持管理することが重要である。解体中の原子炉施設の維持管理には、次の事項に十分留意して行うものとする。
 a.保安のために必要な措置
 (a)施設への第三者の不法な接近等を防止すること、系統内に残存する放射性物質の漏れ防止および誤操作防止対策を講ずること。
 (b)運転中の原子炉と同様に施設からの放出管理および周辺環境に対する放射線モニタリングを適切に行うこと。
 b.建家、構築物の維持管理
  放射化および汚染された機器が撤去されるまで、外部への汚染拡大防止のため障壁および放射線遮へい体としての機能を適切に維持管理すること。
 c.核燃料の取扱いおよび貯蔵施設の維持管理
  新燃料および使用済燃料が貯蔵施設で保管されている間は、運転中と同様の管理をすること。
 d.放射性廃棄物の廃棄施設の維持管理
 (a)気体状および液体状の放射性廃棄物を廃棄する施設は、原子炉解体の最終段階まで使用されるので、それまでの間は、運転中と同様の機能を保つよう維持管理すること、また、解体に当たって設置した処理施設も同様に管理すること
 (b)固体廃棄物施設が解体の対象となる場合には、前もって発生した固体廃棄物の処分方法を決定しておくこと。
 e.放射線管理施設の維持管理
 施設内外の放射線監視、環境への放射性物質の放出管理および作業者の被ばく管理に係る設備等は、いずれも運転中と同様に維持管理すること、特に、解体においては、解体の進行に伴って施設内の放射線レベルが変化するので、その状況に応じて測定機器の配置、計測範囲等について十分考慮すること。
 f.保安のために必要な設備の維持管理
 排気設備、電源設備、照明、防火設備等は、解体作業終了間際まで機能および性能を維持するよう適切な頻度で試験、点検すること。
3.解体撤去作業における安全確保
 原子炉施設に残存する放射能は、原子炉冷却材、機器配管内に付着した放射性腐食生成物、中性子照射を受けた原子炉周辺構造物の誘導放射能等としてプラント内に分布している。解体撤去作業において安全を確保するには、これらの放射線源に囲まれた環境下で放射線被ばくの低減と環境への放射性物質の放出の防止、放射性廃棄物の低減等を考慮することが重要である。適切な解体工法および手順を採用するには、施設内に残存している放射性物質の核種、量、分布の評価が必要である。
 a.放射性物質の評価
 放射性物質の評価にあたっては、計算と実測値を組合せて正確に評価しなければならない。
 b.公衆および作業者等の放射線被ばくの低減対策
  放射線被ばくの低減と環境への放射性物質の放出の防止および放射性廃棄物の低減については、次の事項に十分留意しなければならない。
 (a)放射線被ばくの低減対策
  (1)解体作業に先行して燃料、冷却材等をあらかじめ撤去し、再循環系等の系統除染を行い放射線源を除去する。
  (2)解体作業時に対象物以外からの被ばく防止のため必要に応じ一時的遮へいをし、高レベル線源を最初に解体撤去する。解体に伴って発生するちり・ほこり等を局在化するためグリンハウス等を設置し、作業環境を最良の状態に維持する。
  (3)実証された遠隔自動操作の解体用機器を採用しトラブルの発生を回避する。
  (4)狭い場所での作業は粗断程度とし、設備の充実したスペ−スの広い場所で最終解体を行うなど、適切な条件下で解体作業を実施する。
  (5)放射能の時間的減衰効果を利用した解体工程とする。
  (6)作業者の教育、訓練、放射線管理を徹底する。
 (b)放射性物質の環境への放出防止、放射性廃棄物の低減対策
  (1)機器の解体では、低レベル放射性機器、高レベル放射性機器の順に解体を進め、建家の解体では、放射性コンクリ−トの解体撤去は、外壁、屋根の撤去に先行して進め、汚染の拡大防止を図ることにより放射性物質の環境への放出を防止する。
  (2)廃棄物は、放射能レベル、種類ごとに分類し、運搬を考慮した形状、重量に解体する。
  (3)新たな機器の持込みは避け、照明、換気空調、クレ−ン、電源、廃棄物処理設備等は既存設備を最大限利用する。
 c.解体工法、解体手順
 (a)鋼構造物の解体
  (1)炉内構造物、圧力容器等の高放射化物は、作業者の外部および内部被ばくを考慮して、遠隔操作による水中切断を採用する。
  (2)線量当量率が問題とならない構造物は、汚染拡大防止(特に空気汚染の防止)を考慮して、グリンハウスの設置や局所換気装置を採用する。
 (b)コンクリ−ト構造物の解体
  (1)放射線遮へい体の一部には長時間作業者が接近して直接作業できない部分がある。この部分の解体には、作業者の外部被ばくおよび粉じんによる空気汚染の拡大防止を考慮して、湿式で遠隔操作による解体工法を採用することが望ましい。
  (2)建家の解体に先だって行う床、壁、天井等のコンクリ−ト表面のはく離作業では、表面を薄くはく離する工法は粉じん対策がなされているが、数センチメ−トル以上のはく離を行う場合にはグリンハウス等を設置する必要がある。
 d.建家の解体順位
 施設解体中に利用する系統は解体工事の最終段階とし、低レベルから高レベルの放射性設備の順に解体し、最後に廃棄物処理建家を解体するのが一般的である。しかし、作業者の被ばく低減を考慮し、部分的に放射能がもっとも多く残存している原子炉本体部を最初に解体する場合もある。これは、解体時期、各建家の位置的条件、作業場所の広さ等を総合的に判断して決められる。
4.放射性廃棄物の処理等の方法
 a.気体廃棄物および液体廃棄物
 廃棄物処理建家の解体に着手するまでは、既存の施設により原子炉運転中における取扱い方法に準じて処理・処分する。廃棄物処理建家の解体に当たっては、解体される廃棄物処理建家の規模に応じて発生する廃棄物を処理できる能力を持った設備を臨時に設置する。臨時に設置される設備は、既存の設備と同じ性能を有していなければならない。
 b.固体廃棄物
 固体廃棄物は、これを種類別、放射能レベル別に分類し処分する。詳細についてATOMICA「解体廃棄物の放射能レベル区分」<05−02−01−04>、「解体に伴う廃棄物の処理・処分の方法」<05−02−01−07>ほかを参照。
(前回更新:1996年03月)
<図/表>
表1−1 実用発電用原子炉施設の廃止措置における安全確保の考え方(1/2)
表1−1  実用発電用原子炉施設の廃止措置における安全確保の考え方(1/2)
表1−2 実用発電用原子炉施設の廃止措置における安全確保の考え方(2/2)
表1−2  実用発電用原子炉施設の廃止措置における安全確保の考え方(2/2)
表2−1 核燃料サイクル施設の廃止措置における安全確保の考え方(1/2)
表2−1  核燃料サイクル施設の廃止措置における安全確保の考え方(1/2)
表2−2 核燃料サイクル施設の廃止措置における安全確保の考え方(2/2)
表2−2  核燃料サイクル施設の廃止措置における安全確保の考え方(2/2)

<関連タイトル>
原子力発電所からの放射性廃棄物の処理 (05-01-02-02)
原子力施設の廃止によって発生する大量の放射性廃棄物の処理処分対策 (05-01-04-06)
JPDRの解体 (05-02-04-09)
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)
日本のクリアランス制度 (11-03-04-10)

<参考文献>
(1)原子力規制関係法令研究会(編著):原子力規制関係法令集2006年、大成出版社(2005年11月)
(2)原子力安全委員会、科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):原子炉施設の解体に係わる安全確保の基本的考え方(昭和60年12月19日決定、一部改訂平成13年8月6日)、原子力安全委員会指針集
(3)日本原子力学会、標準委員会:原子力施設の廃止措置の計画と実施:2006(2006年)
(4)NRC規制指針ドラフトDG−1069「廃止措置中および恒久停止原子力発電所の防火
プログラム」(1998年7月)
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