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<概要>
 OECD/NEAでは、2001年から2002年にかけて原子力発電所廃止措置に関して、国の政策、電力会社の戦略、費用について調査した。収集したデータを評価した結果、参加国間では廃止措置の国の政策が多様で、また、発電会社での廃止措置の戦略も種々の考え方で取り組んでいる。廃止措置費用に大きな影響を与える要素は、廃止措置後のサイトの条件、国の政策やサイト開放基準、廃棄物処分費用、評価の不確かさ及び費用モデル化等である。費用に影響する他の要素として、原子炉の型式と規模、サイト内の原子炉基数、原子炉の運転期間、発生廃棄物量の物理的パラメータを検討した。
 費用を決める要素が多いにも拘らず、廃止措置費用は水炉では約500米$/kWeとなったが、ガス炉は2500米$/kWeであった。また、解体と処理処分費が各々30%を占めた。その他、放射能汚染調査と保守管理、サイト浄化と緑地化、プロジェクト管理とエンジニアリングの費用は各々10%であった。
<更新年月>
2005年05月   

<本文>
 今後20年間に多くの原子力発電所が寿命に達するため、原子力発電所の廃止措置について、各国政府や発電会社等が注目している。OECD/NEAでは、2001年から2002年にかけて国の政策、電力会社の戦略、廃止措置費用について調査した(文献1、2、3)。特に、廃止措置の政策、戦略がどのように廃止措置の費用に影響を与えるかを調べるために、データを収集し、分析した。この調査の対象は、原型炉実証炉、事故を起こしたプラントを除く商用原子力発電所である。26か国から集められたデータは、世界中で運転されている原子炉の電気出力の1/3に達する原子力発電施設であり、統計分析及び全体的な評価のために十分なデータである。廃止措置費用データには、加圧水炉(PWR)、沸騰水炉(BWR)、重水加圧炉(CANDU)、ロシア型加圧炉(VVER)、ガス炉(GCR)の原子炉が取り上げられており、原子炉の規模は50MWe(ガス炉)から1450MWe(PWR)の範囲にわたっている。
1.廃止措置の政策と戦略
 廃止措置の政策とは整備された法体系と定義され、法律、規制、基準、強制的な要求を含む国が行う政策であり、廃止措置に対する基本的なルールを示している。廃止措置政策は国の間で多くの点が異なっており、特に費用に影響を与える政策(廃止措置の定義、廃止措置の終了点、期間、許認可要求、廃棄物の規制免除等)を分析している。26か国の回答の約半数が、廃止措置に対する国の規定を持っており、その半数が廃止措置の工程上の終了点を定義している。また、7か国が原子炉の廃止措置を実施するために、強制的な期間を持っており、1/3の国が開始点を定義している。また、80%の国では、原子力発電所の廃止措置に対して許認可を必要としている。放射性廃棄物の規制免除の政策を持つ国は60%にとどまる。
 一方、廃止措置の戦略とは、原子力発電施設を所有する電力会社が国の政策をどのように適用して廃止措置プロジェクトを実施するかということに関連している。国の間の戦略はもちろんのこと、同じ国でも電力会社によって戦略が異なっている。
 廃止措置の戦略に関して、約40の発電会社が考えている廃止措置の範囲についてアンケート調査(項目毎に’はい’、’いいえ’の質問に対する回答)を行った結果、サイト内の燃料貯蔵を除いて、8項目を廃止措置の活動と考えている(図1)。また、同様な方法で、廃止措置で考慮すべき項目を調査した結果、安全性、技術的可能性、廃棄物の処分、規制、費用のほか、社会的/政策的観点を含む広い観点から廃止措置の戦略を選択している(図2)。また、国毎の事情や地元の立場も選択の大きな要素となる。例えば、国の発電炉開発の現状と動向、地元の社会的条件(失業、観光産業の発展)及びサイトの再使用の期待である。さらに、運転停止後直ちに施設を解体する即時解体または停止後ある期間を置いてから解体する遅延解体のどちらを選択するかが戦略上大きな要素となる。
2.廃止措置の費用
 回答のあった原子力発電所49か所の廃止措置の費用について、2001年7月時点で換算したものを炉型別にまとめる(表1)。ガス炉は4施設のデータを平均化しているが、他の炉型に比べ著しく高い値を示している。PWRとBWRの廃止措置費用を出力規模と即時解体と遅延解体をパラメータにして整理した(図3図4)。PWRとBWRのどちらも即時解体と遅延解体の費用の差はほとんどない。PWRの場合は大半が200〜500米$/kWeの狭い範囲に入っている。なお、最も高い2か所の原子力発電所の廃止措置費用(909と769米$/kWe)は60年の運転期間の場合であり、最も低い費用(93米$/kWe)は、処分費用が安いスウェーデンの場合である。BWRの場合はデータが多くないが、スウェーデンのBWR(76米$/kWe)とフィンランドの場合(104米$/kWe)のデータを除くと、300〜550米$/kWeの範囲にある。
 廃止措置の費用のうち、解体及び廃棄物処理・処分費は大きな割合を占め(各々1/4から1/3)、この2つで全費用の60%に達する(表2)。そのほか、放射能汚染調査と保守管理は8〜13%、サイトの浄化と緑地化は5〜13%、プロジェクト管理とエンジニアリングは5〜24%である。解体に伴って発生する放射性廃棄物の量は、軽水炉が最も少なくMWeあたり約10tの放射性廃棄物を発生する(表3)。
 廃止措置は労働集約型の活動であるため、人件費が全廃止措置費用の主な要素となる。しかし、この調査で得られた費用データからは、各国の平均的な人件費と廃止措置費用の相関関係は得られなかった。これは、人件費が高い場合、作業者を多く使う代わりに経済的に有利な自動装置の導入など、電力会社の戦略の適応性の結果と考えられる。
3.廃止措置の費用に関係する要素
 廃止措置費用への影響が小さい要素は、原子炉の型式と規模(GCRを除く)、即時解体または遅延解体の選択肢、人件費単価との調査結果が得られた。一方、影響の大きな要素としては、廃止措置活動の範囲、廃棄物区分及びクリアランスレベルを含む規制基準、再使用を含むサイト条件、廃棄物の処分である。
 廃止措置の開始と終了点の期間を含む廃止措置活動の範囲は、廃止措置費用に大きな影響を与える。この廃止措置活動範囲は国の政策によって決められる。
 クリアランスレベル、作業者及び一般公衆の許容被ばく線量、環境上のNORM(自然起源の放射性物質)を含む有効な規制基準は、廃止措置活動の体制と範囲を明らかにしている。例えば、作業者の最大許容被ばく線量は、必要な人工数及び人件費に直接影響を与える。環境規制と強制的な廃止措置終了点は、廃止措置活動の範囲と期間に影響を与え、費用増加の要素になる。
 廃止措置プロジェクトの費用に影響を与えるサイト特定条件としては、同じサイトにある原子炉基数、原子炉の型式と状態、さらにはサイト再使用の予定(例、原子力施設または緑地化)などがある。このほか、解体廃棄物の量と性状も費用に影響を与える要素である。
 この分野の詳細な検討を行うためには、クリアランスレベル等の規制、廃棄物処理技術等の技術的進展、廃棄物処理施設の費用と整備の条件を分析する必要がある。
<図/表>
表1 原子力発電所の廃止措置の費用
表1  原子力発電所の廃止措置の費用
表2 廃止措置費用に占める主な項目の割合
表2  廃止措置費用に占める主な項目の割合
表3 廃止措置で発生する放射性廃棄物量
表3  廃止措置で発生する放射性廃棄物量
図1 原子力発電所の廃止措置の範囲(アンケート調査)
図1  原子力発電所の廃止措置の範囲(アンケート調査)
図2 原子力発電所の廃止措置戦略で考慮すべき要素(アンケート調査)
図2  原子力発電所の廃止措置戦略で考慮すべき要素(アンケート調査)
図3 PWRの廃止措置の費用
図3  PWRの廃止措置の費用
図4 BWRの廃止措置の費用
図4  BWRの廃止措置の費用

<関連タイトル>
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)
日本における原子力発電所解体放射性廃棄物処理処分費用の試算(1998年) (05-02-01-11)
米国の原子力発電所の廃止措置費用 (05-02-01-13)
原子力発電所の廃止措置費用評価 (05-02-01-02)

<参考文献>
(1)OECD/NEA,“Decommissioning Nuclear Power Plants,Policies,Strategies and Costs,”(2003)
(2)OECD/NEA,“Decommissioning policies,Strategies and Costs: An International Overview,”NEA News,N0.21.2(2003)
(3)“The How and How Much,”Nuclear Engineering International,December(2003)
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