<本文>
原子力発電にともなって発生する高レベル放射性廃棄物(*1)は、高レベル放射性廃液の形で分離された後、ガラス原料と混ぜて高温で溶かし、ステンレス鋼製の容器(
キャニスター(*2)に流し込み、冷やして固める(
ガラス固化)。こうしてできたガラス
固化体(*3)は、30年から50年間程度冷却しながら(放射能の減衰とその
崩壊熱の冷却を待つため)貯蔵した後、地下数百から千メートルの安定した地層中に埋設し、処分(地層処分(*4))することになっている(
図1参照)。
1.高レベル放射性廃棄物の地層処分の概念
高レベル放射性廃棄物は、長期にわたり高い放射能レベルが続くので人間の生活環境から安全に隔離する必要があり、その方法については、長年、各国および国際機関において様々な可能性が検討されてきた(参考文献1参照)。その結果、最も好ましい方策として地層処分が共通の考え方になっている(USAEC 1974年、OECD/NEA 1977年)。
わが国では、
原子力発電所から出てくる
使用済燃料は、
再処理されウランや
プルトニウムを取り出す。その際に、高レベル放射性廃棄物は高レベル放射性廃液の形で分離される(
図2参照)。この廃液を安定で取扱いを容易な形態にするため、ガラス原料と混ぜて高温で溶かし、ステンレス鋼製の容器(キャニスター)に流し込み、冷やして固める(ガラス固化)(
図3参照)。ガラス固化体は製造時に1本当たりアメリシウム、キュリウムなどの
アルファ線を放出する
放射性物質では3.5×10
14ベクレル、セシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルファ線を放出しない放射性物質では4.5×10
16ベクレル程度の放射能が含まれ、熱発生量は2.0kWである。ガラス固化体の表面温度は約280℃、中心温度は約410℃に達する。ガラス固化体中の放射能は時間の経過とともに減衰し、1,000年後には数千分の1に低下する。その後は、
半減期の長い
核種による放射能が長期にわたって残存するため、長期にわたって人間の生活環境から安全に隔離しておく必要がある。
図4にモデルガラス固化体の放射能の経時変化を、
図5にモデルガラス固化体の発熱量の経時変化を、
表1にモデル固化体の概要を示す。このためガラス固化体は、30年から50年間程度冷却しながら貯蔵した後、
オーバーパックという頑強な炭素鋼容器等に封入し、さらにその周囲には緩衝材という低透水性の粘土を充填するなどの工学的な対策を施して、地下数百メートル以深の安定な地層に処分することにより安全を確保することとしている。(
図6参照)。
2.高レベル放射性廃棄物処分の技術と制度
高レベル放射性廃棄物処分を進めるにあたっては、社会的な理解を得る必要がある。そのためには、広く国民各層の間に議論が行われ、認識が広がることが必要である。また、処分地の選定や処分場の建設・操業の過程における安全確保など、実施主体の事業活動については透明性の確保が重要である。
情報の公開に当たっては、わかりやすい情報の提供、求められている情報の提供が重要である。情報伝達の手段としては、情報へのアクセスの多様化に対応した情報伝達体制の充実を図ることが肝要である。情報伝達を支える仕組みとして、国民の疑問・質問への迅速な対応、的確・迅速な情報開示、実施主体や関係機関が国民や住民との双方向の情報交流、マスメディアにおける議論の支援などが必要がある。また、提供した情報に基づいて的確な判断を期待するためには、情報の内容を理解するための基礎的な知識の普及が必要であることから、学校教育における学習教材や専門家派遣の機会を提供すること、および多様な人々への教育や学習の機会を設けることが必要である。
処分技術については、1997年4月に、原子力バックエンド対策専門部会が取りまとめた報告書「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発等の今後の進め方について」の方針に従い、1999年11月に核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)により「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性について」が取りまとめられ、地層処分の安全性やサイト選定および安全基準の策定に資する技術的拠り所が示されたところである(
図7参照)。本報告書で取りまとめられた技術は、現在計画が進めらている深地層の研究施設等において検証されることになっている。深地層の研究施設は、研究開発状況の伝達、深地層の環境の直接的な体験等を通じて社会の理解と信頼を得ていく上でも重要な役割をもっている。
処分制度については、2000年6月に「
特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定され、実施主体「原子力発電環境整備機構」が設立されるとともに、最終処分積立金が定められ、その拠出金は電力消費者が電力料金の原価への算入を通じて負担し、発電用原子炉設置者が納付することになった。
2007年6月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律等の一部を改正する法律」が制定され、原子力発電環境整備機構の最終処分の対象にTRU廃棄物および代替取得により返還される高レベル放射性廃棄物が追加されるとともに、TRU廃棄物の処分費用に充てる拠出金の拠出義務を、新たに再処理施設等設置者(日本原燃(株)および独立行政法人日本原子力研究開発機構)に義務づけられた。
実施主体は、国の廃棄物処分政策に沿って処分事業を遂行するものであり、最も重視しなければならないのが国民にとっての信頼性と安全性の確保である。処分場を立地するに当たっては、処分事業により便益を受ける電力消費者一般が、廃棄物処分を自らの問題と捉え、参加意識を持ち、立地地域に対する理解を深めることなしには処分事業が円滑に進むことは困難である。このように、立地地域と処分事業との共生、立地地域と電力大消費地などその他地域との共生と連帯をいかに図っていくかが今後の取り組みにあたって重要である。
3.処分地選定プロセス
処分場の立地に当たっては、処分地選定プロセスの明確化、国、実施主体、電気事業者等の関係機関の協力、選定プロセスの透明性確保と情報公開、関係自治体や関係住民の意見の反映、国・地域レベルでの検討・調整が重要である。
特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律に基づき、経済産業省が定めた告示「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」では、「原子力発電環境整備機構は、設立後、文献調査を実施した後、概要調査を実施し、平成20年代前半を目途に精密調査地区を選定し、平成30年代後半を目途に最終処分施設建設地を選定する」としており、原子力発電環境整備機構は、この告示に従い最終処分に関する実施計画を定め、現在、立地調査を進めている。立地選定プロセスの各段階で国による確認が行われることになっている。
[用語解説]
(*1)高レベル放射性廃棄物:
使用済燃料を再処理する過程で生じる、
核分裂生成物およびアクチニドを含む廃棄物。放射能レベルは非常に高いためこう呼ばれる。
(*2)キャニスター:
高レベル放射性廃棄物処分のためのガラス固化体を収納する容器のこと。ガラス製造過程において、溶融したガラスはキャニスター中で冷却・固化される。日本原燃では高温でも高い機械的強度を有する耐熱ステンレス鋼製容器を使用している。
(*3)ガラス固化:
高レベル放射性廃棄物の固化法の一つで、ガラスの中に放射性廃棄物を分散固定しようとするものである。
(*4)地層処分:
放射性廃棄物を地下数百メートル以深の安定な地層中に建設される処分施設に、再び地表に取り出す意図なしに、永久に収納し、人間による管理からはずした状態におくことをいう。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
再処理施設からの放射性廃棄物の処理 (05-01-02-03)
高レベル廃液ガラス固化処理の研究開発 (05-01-02-04)
わが国における高レベル放射性廃棄物の処分についてのシナリオ (05-01-03-06)
高レベル放射性廃棄物の処理対策の概要 (11-02-04-03)
原子力発電環境整備機構 (13-02-01-10)
<参考文献>
(1)核燃料サイクル開発機構:わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性、JNC TN1400−024(1999年11月)
(2)原子力委員会 高レベル放射性廃棄物処分懇談会:高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方(1998年5月)
(3)原子力委員会 原子力バックエンド対策専門部会:高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発等の今後の進め方(1997年)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo97/siryo26/siryo32.htm
(4)原子力委員会(編):原子力の研究、開発および利用に関する長期計画(平成12年11月24日)、
http://www.rwmc.or.jp/law/file/2-14.pdf
(5)通商産業省:特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律、法律第117号(平成12年6月7日)、(最終改正:平成19年6月13日、法律第84号)