<大項目> 核燃料リサイクル施設
<中項目> プルトニウム燃料
<小項目> プルトニウム燃料の利用
<タイトル>
岩石型プルトニウム燃料の研究 (04-09-02-10)

<概要>
 世界のエネルギー需給状況の緩和による高速炉の先送りと冷戦の終結にともない、現在運転中の原子炉使用済燃料や解体核兵器から、利用計画の決まっていないプルトニウム余剰プルトニウム)が生じ、世界的な関心事となっている。この余剰プルトニウムの問題を解決するため、世界的に核不拡散性、安全性及び経済性に適する新しいプルトニウム利用法の検討が進められている。中でも、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の軽水炉利用(燃焼)は、プルサーマルとして実用化が進んでいる。
 日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)では、化学的に安定な天然鉱物(岩石)に類似し、原子炉内で燃焼後の使用済み燃料も安定な化合物となる、「岩石型酸化物(ROX)燃料」によるプルトニウム燃焼を提案し研究を進めて来た。この燃料は現行の軽水炉で利用することができ、その特徴を生かすことにより、プルトニウムの燃焼率が高く使用済燃料の直接地層処分が可能な、ROX燃料−軽水炉燃焼システムを構築することができる。
<更新年月>
2004年07月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 プルトニウムは原子炉中でウラン核反応により生成する。これまで、目的により2種類のプルトニウムが製造された。原子炉級プルトニウムは、表1の例に示すように、核分裂性のプルトニウム239の濃度は約60〜70%である。世界の原子炉から取り出される使用済燃料中のプルトニウムは、1999年末で約1300トンに達し、そのうち約150トンが使用済燃料の再処理により回収されている。
 核兵器級プルトニウムは、プルトニウム239の濃度が93%と高い(表1)。冷戦中に世界で生産された核兵器級プルトニウムのうち、約100トンがアメリカとロシアの解体核兵器から取り出されることになっている。
 これら2種類の余剰プルトニウムの利用法(又は、処分法)は、安全性、核不拡散性及び経済性を考慮して検討されている。原子炉級プルトニウムについて、酸化ウランと混合し混合酸化物(MOX)燃料として軽水炉で燃焼する技術開発が進んでいる(プルサーマル利用)。核兵器級プルトニウムについては、(1)高レベル廃棄物と混合してガラス固化体(又はセラミック固化体)状の高レベル廃棄物として地層処分、又は、(2)原子炉用MOX燃料として軽水炉やガス炉等での燃焼が提案されている。
 日本原子力研究所(原研(現日本原子力研究開発機構))は、余剰プルトニウムの利用法について、(1)プルトニウムの不拡散、(2)使用済燃料の環境に対する安全性、(3)現有の技術、装置及び施設利用による経済性などの観点から、岩石と同様の結晶構造の「岩石型酸化物(ROX:Rock-like Oxide)燃料」を提案し、その軽水炉燃焼法や使用済燃料の直接地層処分まで、プルトニウムの軽水炉におけるワンススルー燃焼システムの技術開発を進めている。
2.岩石型プルトニウム燃料−軽水炉燃焼法の概念
 概念を図1に示す。燃料は現行のMOX燃料工場で現有の装置と技術を利用し製造され、現行の軽水炉に装荷される。燃料は化学的に安定で酸やアルカリに難溶なため再処理は困難となり、本質的に核拡散に対する抵抗性を持つことが期待できる。燃料中にプルトニウムの親物質であるウランを含まないので、プルトニウムの燃焼率はMOXに比べ非常に高い。
 使用済燃料も化学的安定性が失なわれないので、現行ガラス固化体と同様40〜50年冷却の後に、そのまま所定の容器に封入され地層処分される(図1)。
3.燃料概念の検討
 数百万年から数千万年にわたり風化や地質変動に耐えた鉱物や岩石を参考に、ジルコニウム(Zr)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)等の酸化物で構成される安定化ジルコニア−スピネル系の燃料を選定した。燃料中ではプルトニウムはジルコニア相に溶け込む。
 ジルコニアは、化学的安定性および原子炉内での照射安定性に優れ、プルトニウムやプルトニウムの核分裂で生成する核分裂生成物(FP)が溶け込んでもその安定性が損なわれることがないので、燃料としても、廃棄物としても優れた性質を持つ。
 スピネルは、ジルコニアの熱伝導率が現行の核燃料物質である酸化ウランに比べて低いので、それを補う目的で加えた。化学的安定性にも優れ、原子炉内での中性子の照射に対しても安定であるが、FPによって損傷を受ける。
 この問題を回避するために粒子分散型燃料概念を考案した。通常の燃料製造法では数十μm程度の大きさであるジルコニア相を、直径200〜250μm程度の大きな粒子にまとめ、スピネル相中に分散させた燃料である。スピネル中でのFPの飛程(核分裂により生じたFPがエネルギーを失って止るまでの距離)は最大10μm程度なので、ジルコニア粒子を飛び出してくるFPにスピネルが損傷を受けるのは、ジルコニア相の周囲10μmの範囲内に限られる。ジルコニア粒子の径を大きくすることで、損傷を受けるスピネルの割合を格段に減らすことができる(図2)。
4.照射安定性の検討
 1000℃以上の高温下で中性子やFPの照射を受け続ける原子炉内での核燃料の健全性は、実際に一定期間原子炉内に入れて照射を行なうことによって確認する必要がある。ROX燃料の照射安定性と粒子分散型燃料の有効性を確認するため、燃料を試作して原研(現日本原子力研究開発機構)のJRR-3とオランダ・ペッテン研究所HFRの2つの研究用原子炉で照射試験を行った。このうちJRR-3照射は、プルトニウムの代りにウランを用いて1年6ヶ月間、HFR照射は実際にプルトニウムを使って2年2ヶ月間実施した。
 照射後の各種測定(照射後試験)では、燃料ピンの変形は極めて小さく、燃料ペレットの変形、中心孔や大きなクラックの生成なども見られていない。図3はHFRで照射後のROX燃料ピン内における、セシウム(Cs)、ルテニウム(Ru)、Zr(プルトニウムの核分裂により生じた放射性Zr)などのFP核種の分布を測定した結果を示す。左図のピン軸方向のFP分布では、ペレットとペレットのすきま(左下写真に白い縦すじとして確認できる)においてFPの分布量に落ち込みが見られ、揮発性の高いCsも非揮発性のRuやZrと同様ペレット内に閉じ込められている。右図のピン径方向分布を見ても、軸方向同様Csはほとんど揮発しておらず、ペレット内に閉じ込められていることが確認された。
 図4は同じくHFR照射後のROX燃料の拡大写真である。ジルコニア粒子と周囲のスピネルマトリックスとの間のおよそ10μmの変色した相はFPとスピネルとが反応した領域と見られる。粒子の周囲に限定されており、粒子分散型燃料の概念が有効に機能している。
5.燃焼技術の検討
 ROX燃料はウランを含まないので、燃料自身が持つドップラー反応度効果(燃料温度が上がった時に原子炉の出力を下げる作用)が酸化ウランやMOXなどの一般的な原子炉燃料に比べ小さい。そのため、反応度事故(制御棒飛び出しなど、原子炉の出力を上げる作用=反応度が急激に加わる事故)時の安全性を改善する必要が生じた。
 ROX燃料軽水炉の安全性改善を目的として、(1)ROX燃料中にウラン(U)、エルビウム(Er)などを少量添加する、または(2)現行ウラン燃料軽水炉の一部にのみROX燃料集合体を装荷する、などの対策を施した。その結果、反応度事故時に燃料に発生する熱量や事故時燃料温度上昇をウラン燃料軽水炉と同程度、あるいはそれ以下に抑えられることが、コンピュータによるシミュレーション計算で示された。さらに、反応度事故時にROX燃料棒を破損に至らしめる熱量は現在の酸化ウラン燃料棒の場合とほぼ同じであることを、原研(現日本原子力研究開発機構)の研究用原子炉NSRRで実験を行ない確かめた。
 軽水炉中でのプルトニウム燃焼率(燃焼したプルトニウム量/装荷したプルトニウム量)は、燃料にウランやエルビウムを添加することにより低下するが、それでも60%(原子炉級Puの場合)から70%(核兵器級Puの場合)にすることができる。ROX燃料部分装荷炉心では、酸化ウラン燃料集合体中には新たにプルトニウムが生成するが、ROX燃料集合体だけを見れば装荷プルトニウムの80−85%を燃焼できる。
6.地質学的安定性の検討
 使用済ROX燃料の直接処分の可能性を示すために、燃料が地下水と接触した際にどれくらいの速度で燃料が溶け出すか(浸出率)を調べる必要がある。この目的で、原研(現日本原子力研究開発機構)JRR-3で実際に照射したROX燃料の試験片を摂氏90度の脱イオン水に8日から半年間浸けて、試料から溶け出す元素量を測定する浸出試験を実施している。また、オランダHFRにおいて照射済燃料についても同様の試験を計画している。この浸出試験では、燃料の構成元素(ROX燃料の場合Zr、Mg、Al)、α放射能を持つ長寿命のマイナーアクチニド(ネプツニウム(Np)、アメリシウム(Am)など)、長寿命β放射能FP(Cs、ヨウ素(I)など)の浸出率が重要となる。
 これまで得られた測定結果では、ROX燃料の主構成元素であるZrの浸出率は、高レベル廃棄物として一般的なガラス固化体の骨格元素であるケイ素(Si)の千分の一以下であることがわかった(図5)。図5中にあるZrの浸出率;10のマイナス7乗グラム/平方cm/日(1日1平方センチあたり一千万分の一グラム)とは、例えば一辺1cmのジルコニアのサイコロが溶けきるのに十万年近くが必要となる値である。またROX燃料中のCsの浸出率は、ガラス固化体の場合の百分の一ほどであり、その他の長半減期β核種もガラス固化体に比べてゆっくりと溶解することが明らかとなるなど、使用済ROX燃料は地層中でも充分に安定な廃棄物となることを示すデータが得られてきている。
<図/表>
表1 プルトニウムの同位対比の例
図1 岩石型プルトニウム燃料−軽水炉燃焼システムの概念図
図2 粒子分散型燃料の概念説明図
図3 照射済ROX燃料ピンのX線透過写真(左下)とγ線によるFP分布測定結果
図4 照射済ROX燃料中の燃料粒子の拡大写真
図5 使用済ROX燃料とガラス固化体の浸出率の比較

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<関連タイトル>
プルトニウム核種の生成 (04-09-01-01)
混合酸化物(MOX)燃料の製造加工工程 (04-09-01-07)
日本におけるプルトニウムの軽水炉での利用状況 (02-08-04-03)
カナダ型重水炉(CANDU炉) (02-01-01-05)
核兵器不拡散条約(NPT) (13-04-01-01)

<参考文献>
(1)D.Albright et al. : Plutonium and Highly Enriched Uranium 1996,World Inventories,Capabilities and Politics,SIPRI,Oxford University Press,New York(1997),p.12-25
(2)Nuclear Technology Review,IAEA General Conf. GC(44)/9,Vienna,Aug. 2000.
(3)H. Akie et al. : ”A New Fuel Material for Once-through Weapons Plutonium Burning”,Nucl. Technol.,Vol.107,p.182(1994).
(4)高野秀機ほか : 「岩石型プルトニウム燃料開発とその燃焼処理技術」、原子力工業、42(3),60(1996).
(5)T. Yamashita et al. : ”Rock-like Oxide Fuels ans Their Burning in LWRs”,J. Nucl. Sci. Technol.,Vol.39,p.865(2002).
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