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<概要>
 窒化物燃料は、高い融点と熱伝導度を有するなど、高性能燃料の特性を備えていることから、金属燃料と並んで酸化物燃料の欠点を補完できる新型燃料として位置付けられ、第4世代原子炉用燃料としてなど長期的視点から開発が進められている。窒化物燃料は照射下での安定性に優れ、核分裂生成ガス放出も酸化物燃料などと比べて大幅に低減できる。ただし、開発の歴史が浅く、照射試験の実績も少ないため、高燃焼度での照射データの蓄積などが今後の課題である。使用済燃料再処理技術としては、金属燃料のために開発された溶融塩電解を主プロセスとする乾式再処理を窒化物燃料に適用する研究が進められている。
<更新年月>
2004年06月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.窒化物燃料の特徴
 アクチノイド窒化物は、ウランやプルトニウムなどのアクチノイドに窒素原子が1個結合した化合物で、同じく高速炉用新型燃料として開発されてきた炭化物と同様の岩塩型面心立方晶の結晶構造をもつ。約2780℃((U0.8Pu0.2)N、窒素1気圧の場合)の融点まで相変態もなく、安定に存在する。また、酸化物に比べて数倍から10倍程度高い熱伝導度を有し、核燃料として酸化物と金属の長所を兼ね備えたセラミックスであるといえる。これらのアクチノイド化合物は相互によく溶け合うので、炉心設計にあたり燃料組成に柔軟性をもたせることができる。そのほか、高い重元素密度の燃料であることは、増殖性能の向上にも有利であり、酸化物燃料に替わり得る高速炉用燃料または高性能新型燃料として世界各国で開発が進められてきた。さらに、近年ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムといったマイナーアクチノイドと呼ばれる元素を核変換するための燃料としても期待されている。図1には、窒化物燃料に基準化して、各種高速炉用燃料の特性を比較して示した。
 これらの燃料は優れた特徴を有する反面、製造上でいくつかの課題が残されている。窒化物燃料の場合、天然窒素(窒素14が99%以上)を使って燃料を作ると、窒化物燃料中の窒素14が原子炉内で中性子と反応してベータ崩壊核種の炭素14が生成する。炭素14は長半減期(約5730年)をもつため、窒化物燃料サイクルではこれを回収して処分するか、あるいは炭素14を殆ど生成しない窒素15(天然存在比0.365%)を濃縮して利用することが必要となる。窒化物燃料は硝酸に可溶であり、ピューレックス法による再処理も可能であるが、窒素15の回収および再利用が技術的に容易な乾式法の適用も可能である。近年は、乾式法による窒化物燃料の再処理の研究が主に行われている。しかし、窒素15の大量生産の実績はなく、炭素14の回収、窒素15の濃縮とリサイクルのための技術開発が今後に残された課題といえる。
2.窒化物燃料の製造
 窒化物燃料の製造フローを図2左に示す。窒化物燃料は、金属を原料として窒素ガスやアンモニアとの反応により作ることもできるが、経済性の観点からは酸化物を原料とすることが望ましく、この場合、炭化物燃料製造と同様に炭素熱還元法と呼ばれる反応により酸化物を窒化物に転換する。すなわち、炭素熱還元法では、酸化物と炭素の混合物を、窒素ガス気流中で約1500℃に加熱することにより、酸化物が還元され、続いて窒化されて窒化物となる。燃料ペレットを製造する場合には、炭素熱還元で得られた窒化物をボールミルなどを用いて再粉砕して、酸化物燃料と同じように成型、焼結する。アクチノイド窒化物は、特に粉末状態では化学的に活性で、空気中の酸素や水分と反応する。このため、微粉末を取扱う燃料製造工程では、アルゴンガスなどの不活性雰囲気のグローブボックスやセルが必要となる。
 高レベル放射性廃液に含まれるマイナーアクチノイドの核変換を目的として、高レベル放射性廃液を群分離して、マイナーアクチノイドの硝酸溶液から窒化物燃料を製造する場合は、同じく図2右に示したような、ゾルゲル法を用いることが検討されている。ゾルゲル法には内部ゲル化法と外部ゲル化法が検討されている。いずれの場合も、アンモニアによって生成したゲルを乾燥およびか焼することによって、炭素が分散した酸化物粒子を得ることができる。これを炭素熱還元することに窒化物粒子を製造する。この粒子をそのまま振動充填して燃料要素とするか、あるいは粒子を成型、焼結して燃料ペレットとする。ゾルゲル法は工程の自動化に適しているほか、作業員の被ばくの要因となるダストの発生も無いため、高放射性のマイナーアクチノイドを含む燃料製造に適している。
3.窒化物燃料の照射挙動
 窒化物燃料を用いる炉心では、高い熱伝導度と融点を併せもつことから、余裕のある炉心設計が可能となる。窒化物燃料の特徴を最大限に利用しようとする場合、酸化物燃料の2倍以上の線出力で照射することが可能である。これまでの欧米の照射試験では、1000-1200W/cmという高線出力での照射が行われており、その場合にも窒化物燃料が安定な燃料組織を維持できるということが確認されている。一方、酸化物燃料や金属燃料と同程度の線出力で照射する場合には、燃料温度が低く抑えられるので、物質移動による組織変化、ガス放出、燃料スエリングなどを抑制することができる(コールド燃料概念といい、EURATOM超ウラン元素研究所BLANK博士が1989年に提言した)。窒化物燃料では、生成する核分裂生成ガスの大半をプレナム(燃料要素内のガス溜め)に放出してしまう酸化物や金属燃料と異なり、燃料ペレットに保持しておくことができる。反面、高燃焼度下で燃料温度が高くなった場合には、燃料内に保持された核分裂生成ガス気泡の成長による燃料のスエリング(膨れ)に繋がる可能性があり、これは燃料と被覆管の機械的相互作用の原因となる。窒化物燃料は被覆管に用いられるステンレス鋼の化学的両立性に優れ、燃料と被覆管の化学的相互作用は問題とならないと予想されている。
 窒化物燃料の照射実績は、燃料ピンで200本程度であり、酸化物や金属燃料と比べて圧倒的に少ないほか、炭化物燃料と比べても約1/10であり、実用化のためには照射実績を積み重ねて燃料の健全性と使用限界を明確にしていく必要がある。燃焼度についても、高速炉条件では米国EBR-IIでの約9at.%がこれまでの最高であり、窒化物燃料の課題とされている被覆管との機械的相互作用が顕著になる高燃焼度での照射実績を積み上げることが重要である。わが国では日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)と核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)の共同研究により、高速実験炉「常陽」でのウラン・プルトニウム混合窒化物燃料ピン2本の照射試験が行われ、到達燃焼度は4.3at.%と低いものの、照射後試験により良好な照射挙動が確認されている。
4.窒化物燃料の再処理
 窒化物燃料は、ロシアの高速実験炉BR-10(高濃縮UN燃料)でドライバー燃料として利用された実績をもつが、工業的な規模でこの燃料の再処理が行われた例はない。ピューレックス法を用いた場合には、溶解時に窒素15や炭素14が硝酸中や空気中に拡散して回収が難しいとされている。このため、硝酸溶解工程の前に酸化処理の工程などを付加することが必要となり、経済的にも不利になるため、乾式法などの新しい再処理技術の開発が期待される。
 新しい再処理法としては、金属燃料の再処理と同じ組成の溶融塩を用いた乾式再処理の適用が有力である。原理は、塩化リチウム−塩化カリウム共晶塩を500℃に加熱して溶融状態とした媒体中で電気分解することにより核燃料物質と核分裂生成物を分離する方法で、これまで米国アルゴンヌ研究所などを中心に開発されてきた。窒化物燃料はセラミックスでありながら良好な電気電導体であるので、金属燃料と同じように再処理することができる。その概念図を図3に示すが、陽極では窒化物と塩化物の生成自由エネルギーの差に応じてアクチノイドのほか、希土類、アルカリ金属、アルカリ土類金属などの核分裂生成物が塩中に溶解する。陰極では金属燃料の場合と同様でウランは固体陰極で、プルトニウムやマイナーアクチノイドはカドミウムなどの液体陰極で回収される。陰極で回収されたアクチノイドは窒素ガスとの反応により窒化物へ転換される。窒素15を使用した窒化物燃料の場合に問題となる窒素15の回収・リサイクルについては、乾式法では技術的に容易であると考えられている。
5.窒化物燃料の開発状況
 わが国では、窒化物燃料について日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)で基盤研究が行われているほか、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)と電気事業連合会が中心に進めているFBRサイクル実用化戦略調査研究でも金属燃料とともに新型燃料として有望視されている。海外でも第4世代原子炉(高速炉)の燃料として取上げられ、研究が活性化されているほか、欧州ではわが国と同様に加速器を使ったマイナーアクチノイド核変換システム用燃料としての研究開発も行われている。
<図/表>
図1 高速炉用燃料の特性比較(窒化物を1として基準化)
図1  高速炉用燃料の特性比較(窒化物を1として基準化)
図2 窒化物及び炭化物燃料製造フロー
図2  窒化物及び炭化物燃料製造フロー
図3 窒化物燃料の溶融塩電解の原理
図3  窒化物燃料の溶融塩電解の原理

<関連タイトル>
核燃料リサイクルの技術開発[その2](平成6年原子力委員会) (10-01-04-07)
金属燃料の再処理 (04-08-01-03)
消滅処理 (05-01-04-02)

<参考文献>
(1)Hj. Matzke:”Science of Advanced LMFBR Fuels”, North-Holland (1986)
(2)H. Blank:”Nonoxide Ceramic Nuclear Fuels”,in ”Materials Science and Technology,Vol. 10A,Nuclear Materials” ed. R.W. Cahn,P. Haasen,E.J. Kramer,VCH (1994)
(3)半田宗男、福島奨、岩井孝:高速炉燃料の特性および照射挙動、日本原子力学会誌,Vol.31, No. 8, p.886-893 (1989)
(4)日本原子力学会「金属燃料サイクル技術」研究専門委員会: 金属燃料サイクル技術 (1995)
(5)鈴木康文、荒井康夫:プルトニウム燃料工学、第4章4.4 窒化物及び炭化物燃料、日本原子力学会「次世代燃料」研究専門委員会,p.260-291 (1998)
(6)荒井康夫: 最新核燃料工学−燃料高度化の現状と展望−、第8章 8.6 窒化物電解法によるリサイクル技術、日本原子力学会「高度燃料技術」研究専門委員会,p.451-457 (2001)
(7)K. Tanaka,K. Maeda,K. Katsuyama,M. Inoue,T. Iwai,Y. Arai:Fission Gas Release and Swelling in Uranium−Plutonium Mixed Nitride Fuels,J. Nucl. Mater.,p.327 (2004) 77-87.
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