<本文>
1.核計装
大型の原子力プラントの運転・制御には温度、圧力、流量、水位などのプロセス量が利用され、この計測制御設備として“プロセス計装”が重要な役割を果たしている。一方、原子炉の停止状態から起動(臨界状態の確認)、全出力運転にわたって炉心の核分裂状態を監視するための設備が必要である。原子力プラント特有の“核計装”と呼ばれる設備で、段違いに広い原子炉の出力領域に対し、高速で応答し、8〜10桁以上の計測範囲をカバーする特徴を有している。主に次に示す役を担い、原子力プラントの安全保護に欠かせない設備である。
・原子炉の起動および停止
・プロセス量では測れない領域を監視する
・異常の場合はいち早く原子炉の運転を止める
・炉心に装荷された
核燃料の燃焼を平均化させる
・原子炉が安全に停止している状態を監視する
1.1 核計装用中性子検出器
核計装として原子炉の中性子を測定する場合は、
放射線の測定と違ってエネルギー情報は必要なく、原子炉の出力を表わす中性子の数(中性子束)を知ることである。一方、中性子そのものには電離能力がないため、通常の放射線計測に用いられる検出器は利用できない。中性子を受け2次的に発生する電離能力を利用する工夫がなされている。
(a)
比例計数管
核計装に使われる比例計数管で代表的なのは、BF3比例計数管(BF3 counter)である(
図1)。金属製円筒に10〜20mmHgのBF
3ガスを封入し、中心にタングステン線を張りこれに高電圧をかけ、中性子の入射によって得られるパルス信号を取り出す構造である。取り出す信号がパルスでこれを数えることから、計数管と呼んでいる。中性子に対する反応物質はボロン
10Bであり、
10B+n→
7Li+
4He+γ
の反応を利用して、
4He(
α粒子)による電離電流を計数する。
γ線による電離電流もあるが、α粒子による電離能力が大きいので、適当な大きさ以上(波高弁別)のパルスを計数すれば良い。BF3計数管は感度が良く低レベルの中性子束の場で利用される。
(b)核分裂計数管
核分裂計数管(Fission counter)の構造は、比例計数管とほぼ同じである。電極に
235Uの酸化物U
3O
8が塗布され、Arガスが封入されている。中性子によって
235Uが核分裂を起こし、それによって生じた核分裂片の
電離作用によってパルス信号を得る。
235Uは常時α線を出し測定上の問題となるが、α粒子の
飛程は核分裂片よりも長いので、電極間隔を狭くしてこれを回避することができる。
小型化が容易で、耐性も強く高レベルの中性子束の場でも連続した信号として取り出すことのできる
電離箱(Fission chamber)としてもできることから、炉心内に挿入できる超小型中性子検出器としても利用されている。
(c)電離箱
中性子に対する反応物質は、先のBF3比例計数管と同じである。感度を高めるためと、連続した直流電流を信号として取り出すため、ちょうど径の異なる茶筒を重ねて入れた平行円筒を電極に、96%ほどに濃縮した
10Bが0.2〜0.8mmg/cm
2程度の密度で塗布されている。
電離箱には、γ線補償型電離箱(Compensated Ionization Chamber,CIC)と非補償型電離箱(Uncompensated Ionization Chamber,UIC)があって、原子炉の中間出力領域から出力領域をカバーする検出器として使用される。CICは共通電極の両側に2組の電離箱がある構造で、1組にのみB10が塗布され、この電極は中性子とγ線に反応する。もう一方の電極では中性子には反応せずγ線のみ反応する。夫々の電極に対応するγ線に対する信号電流は逆なので、互いに打ち消しその影響を除去できる(
図2)。
1.2
加圧水型原子炉(PWR)の核計装
PWRの核計装には、原子炉の圧力容器外に検出器を設置した「炉外核計装」と圧力容器内の状況を監視する「炉内核計装」からなる。前者は原子炉の起動〜出力運転状態を監視し、後者は出力領域において小型中性子検出器を必要に応じて挿入し、炉心の軸方向の状態を監視する装置である。
(1)炉外核計装(
図3)
原子炉の起動から全出力運転まで出力範囲は大変広く、約11桁の中性子束を計測しなければならない。検出器のおかれる位置で中性子レベルは10
−1〜10
10n/cm
2・s(1秒間に1cm
2の
断面積を通過する中性子の数)ほどあり、この範囲を一つの計測装置では測定できない。通常3種の測定領域を持つ設備でカバーし、夫々が領域をオーバーラップさせ、連続して計測できるようにしている。
(a)
中性子源領域計装
原子炉を起動の際、種となる
中性子源が炉心に装荷されており、これが放出する中性子を利用するので、この名前がある。原子炉の起動を担うことで、起動領域計装とよぶこともある。この計装の守備範囲(検出器位置での中性子束)は、原子炉の完全停止時の10
−1〜10
5n/cm
2・sの約6桁である。BF3比例計数管を検出器としたパルス計数方式で、2チャンネルあり、夫々原子炉出力に対応する計数率(count/s)と出力上昇の割合を示す始動率(decade/min)を指示・記録する。
出力運転時となった場合は、検出器に対する中性子束が大きく計数不可能となり、検出器の劣化も懸念されることから、通常検出器への印加電圧はカットされる。
(b)中間領域計装
中間領域計装は、中性子源領域計装と約3桁のオーバーラップを持ち、2.5×10
2〜10
10n/cm
2・sの約7.5桁の中性子束領域をカバーする。CICを検出器とした直流電流方式で、2チャンネル設けられている。夫々、原子炉出力に対する対数電流値および始動率を指示・記録している。この計装は、出力運転時にも連続して使用される。
(c)出力領域計装
出力領域計装は、文字通り定格出力の約1%〜120%までを測定する。中性子束レベルとして、約10
8〜約10
10n/cm
2・sの約2桁をカバーする。この計装は直流電流方式で、線形出力が指示・記録される。検出器は炉周りに4か所に設置され、夫々が上下2本のUICが組み込まれた検出器集合体である。
(2)炉内核計装(
図4)
炉内核計装は、原子炉の出力状態において、超小型の核分裂電離箱を炉内に挿入・移動し、炉心軸方向の
出力分布を正確に把握する設備である。炉心に装荷された燃料の燃焼度管理などにも有用な計装である。必要に応じて稼動される計装で、原子炉の運転・制御には直接かかわらない。
1.3
沸騰水型原子炉(BWR)の核計装
BWRの核計装は、中性子検出器が全て炉内に設置される(
図5)。この点でPWRと異なるが、計測する領域は、中性子源領域、中間領域、局部出力領域、平均出力領域と分けられている。不必要に検出器の寿命を損耗させるのは得策でなく、中性子源領域と中間領域に対応する検出器は、その範囲を超えた場合、炉心から引き抜く設計となっていた。
最近は、中性子源領域と中間領域を一つにまとめ、検出器も炉内固定型とした起動領域計装とする改造が行われている。検出器の出力信号は中性子束の増加に応じて、パルス → 揺らぎ成分を持つ直流信号 → 直流信号と変化する。BWRでは、この揺らぎ成分の2乗平均が原子炉出力に比例することを利用し、mean square value、MSV法(又はキャンベル法)として中間領域計装が構成されていた(BWRメーカGE社の特許)。新しい“起動領域計装”は1種類の検出器で、パルス計測と揺らぎ計測を同時に行う方法で、原子炉の起動から全出力運転までをカバーできる計測設備となった。中性子に対する耐性の高い核分裂計数管により実現できたといえる。
BWRの出力領域計装用の検出器には超小型の核分裂電離箱が使用され、上下4本を一組とした検出器集合体が、炉心の大きさに対応して数十体配置されるのは現在も変わらない(460MW級で22体、760MW級で31体、1100MW級で43体)。これらの検出器により、炉心の縦方向および半径方向の中性子束分布を測定するとともに、局部的な中性子束分布を計測できる。核分裂電離箱は、有感物質である
235Uが、炉の運転とともに消耗し感度が低下するため、炉内移動型の検出器を用いて相対的に感度補正を行える仕組みになっている。これを移動出力領域計装と呼んでいる(
図6)。
<図/表>
<関連タイトル>
沸騰水型原子炉(BWR) (02-01-01-01)
加圧水型原子炉(PWR) (02-01-01-02)
原子炉の炉心核設計概論 (03-06-01-04)
原子炉の計測(1)プロセス計装 (03-06-05-01)
<参考文献>
(1)川口千代二、荒克之(著):原子炉の計測、幸書房(1977)
(2)電気計算:記念特集 図で説く原子力発電所とその運転、電気書院(1972)