<本文>
1.プロセス計装
大型の原子力プラントでは測定対象箇所が数万点にもおよぶが、特に重要なのが温度、圧力、流量、水位などである。何れのパラメータも原子炉の運転・制御と安全保護上不可欠である(
図1、BWR)、(
図2、PWR)。これらプロセス量に係るパラメータを測定するセンサーや測定法などについて述べる
1.1 温度計測
温度計測の検出器(センサー)には、熱電対(Thermocouple,TC)、測温抵抗体(Resistance Thermo Detector,RTD)が多く使われており、これらセンサーからの電気信号を指示計器で温度目盛りに変換している。
(1)熱電対
熱電対は、構造が単純で小型・長寿命、計測範囲が広く、種類が豊富で測定精度も良いなどの多くの特長を持っている。2種類の異なった金属を2か所で接続し閉回路を作り、二つの接続点に温度差を与えると、この閉回路に電流が流れる。この電流の元になる起電力が熱起電力(Thermo-ElectroMotive Force,EMF)である(
図3)。この現象は、1821年に発見したドイツの物理学者の名からゼーベック効果と呼ばれている。熱起電力は金属の種類と接点の温度差によって決まり、線の太さや長さに関係なく途中の温度にも左右されないが、一方の接点(基準接点)の温度を一定に保たないと正確な温度が測れない。実験室などでは基準接点を氷点(0℃)に保つことができるが、工業計器では電気的な方法で計器の入力点に基準を設けている。また、プラントでは実際の測定箇所と指示計器の置かれる場所は離れており、この間を同じ熱電対線で結ぶことは経済的でないため、熱起電力が同じで安価な補償導線を用いて接続している。
熱電対の種類は極めて多いが(
表1)、原子力プラントでは、K型やN型が多く使われている。使用温度範囲はK型が約1,000℃、N型が1,200℃である。実装する場合は、熱電対は金属製の保護管に収納され(
図4)、機器や配管に取り付けられる。
(2)測温抵抗体
一般に金属の電気抵抗は温度上昇とともに増加する。ある温度における電気抵抗値Rtは、温度tとの間に次の関係が成り立つ。
Rt=Rr{1+α(t−tr)}
ここで、Rrは基準温度における抵抗値、trは基準温度、αは金属の抵抗温度係数であり、これらを既知の値とすれば、Rtを知ることにより温度を知ることができる。この電気抵抗の変化を利用した温度測定法を抵抗温度計(Resistance Thermometer)と呼び、センサーが測温抵抗体(Resistance Thermo Detector)である。
抵抗値Rtの測定にはブリッジ回路(
図5)が利用される。この方法では、基準温度0℃でゼロ点を調整しておけば、ブリッジ回路の出力電圧が、そのまま測定温度を示す。
測温抵抗体の構造は、0.03〜0.1mm程度の線径の抵抗線をアルミナ枠に巻きつけ、基準の抵抗値を得ている(
図6)。抵抗線の種類は、銅または白金を用いたものが一般的で、銅−測温抵抗体は0〜120℃程度、白金−測温抵抗体では−200〜+800℃の測定範囲を、±0.3℃程度の高精度で測定できる。熱電対に比べ測定温度範囲が狭いが、低温で且つ高精度が要求される箇所に使われている。白金抵抗体の規格には、25型(0℃−25Ω)、50型(0℃−50Ω)および100型(0℃−100Ω)の3種があり、抵抗を測る際に流す電流値も50mAと100mAと定められている。
また、熱電対と同様、金属保護管に収められ実装されるが、指示計器までの長い距離を結ぶ配線の抵抗値を打ち消すため、3線式又は4線式のリード線をもつ構造としている(
図7)。
1.2 圧力計測
圧力の表し方には、真空を基準とする“絶対圧”と
大気圧を基準とする“
ゲージ圧”があり、工業界では長くゲージ圧が用いられ、単位としてkg/cm
2が使われてきた。
国際単位系(SI)では、真空を基準とする絶対圧Pa(
パスカル)が用いられ、日本の原子力プラントでも近年この表し方が採用されている。
プラントにおける圧力計測では、ポンプの吐出圧のように直接圧をプロセス量とする場合もあるが、蒸気の流量測定などでは差圧を必要とする場合もある。多くは、圧力による弾性体変位量を測定する構造であり、ブルドン管型、ダイアフラム型、ベローズ型などがある。
(1)ブルドン管型圧力計
原子力プラントでは最も多く利用されている圧力計である。断面が楕円形のパイプを半円形に曲げて一方を封じ自由端とし、固定端より内圧を加えると円形断面に近づこうとして、自由端が外側に開く作用を利用している(
図8)。弾性体には、黄銅、リン青銅、ステンレス鋼などが用いられ、300MPa程度の圧力まで直接測定できる。
(2)ダイアフラム型圧力計
受圧体に弾性薄膜(Diaphragm)を用いる圧力測定法である(
図9)。ダイアフラムの材料はブルドン管の場合と同じように、黄銅、リン青銅、ステンレス鋼などが使われる。ダイアフラムは薄く受圧面積が大きく感度が良いので低圧力や小変位の測定に用いられる。ダイアフラムの両側から圧力を加えれば、容易に差圧を求めることができる。
(3)ベローズ型圧力計
ベローズ型圧力計は、受圧体にベローズ(Bellows)を使うもので、比較的低圧の測定に向いている。ベローズへの加圧は外側から行う場合が多いが、ベローズの変位直線性があまり良くないので、スプリングを入れて平衡させることが多い(
図10)。また、内側からも加圧して差圧計としての利用方法もある。
いずれの型の圧力計でも、直接現場の指示計として使用できるが、変位を電気信号に変換すれば遠方に伝送することができ、後述の圧力伝送器の受圧素子として用いる場合が多い。
(4)圧力伝送器
原子力プラントでは、現場から離れた中央制御室で全ての情報の監視と処理を行うので、圧力変位を電気信号に変換して伝送する圧力伝送器が用いられる。ブルドン管、ダイアフラム、ベローズなどの変位を差動変圧器によって電気信号に変換され、増幅されて直流信号として制御室や制御機器の受信計器に伝送される。この信号電流は、伝送線を伝わって伝送器側の電磁コイルに戻る。電磁コイルに電流が流れるとコイルは磁石によって引きつけられ、最初に生じた変位を戻そうとし、電磁コイルの吸引力と平衡した点で静止する。このような平衡状態での伝送電流は、常に被測定圧力と比例することになる(
図11)。
1.3 流量の計測
原子力プラントにおける流量計測で重要なのは、1次系、2次系など主ループにおける冷却材や蒸気の流量測定で、安全運転と制御にとって欠かせない。
原子力プラントで用いられる主な流量計測法は、流路に絞り機構を設け、上流側と下流側の圧力差を測定する絞り流量計である。水、蒸気、ガスなどの流路に絞り機構を設けると、その部分の
断面積が狭くなり、流路の上流側と下流側に圧力差を生じる。ベルヌーイの定理によれば、差圧は流速の2乗に比例するという関係が成り立ち、圧力差を測定することで流量を求めることができる。流路に設けた絞り機構には、オリフィス(Orifice)、フローノズル(Flow-nozzle)型などがある(
図12)。オリフィスによる絞り機構では、渦の流れを生じ流路が乱れるので、これを少なくしたのがフローノズルである。
差圧の測定には、前述のダイアフラム型差圧計やベローズ型差圧計が使われ、制御室へは圧力伝送器によって信号が伝送される。
1.4 水位の計測
原子力プラントでは、水位計測が重要である。BWRの圧力容器内の水位測定、PWRの
加圧器および蒸気発生器内の水位測定などは、原子炉の安全運転に直接関係するプロセス量として重要視されている。
高温・高圧の容器内の水位測定が必要な原子力プラントでは、差圧式水位計が利用されている。容器液体中の基準レベルhにおける圧力Pと、液面上部に満たされた蒸気やガスの圧力Poとの差圧ΔPから液面Hを求める方法である。H=(ΔP/ρ)−hが成り立ち、水位Hは差圧計の指示値ΔPに比例する。高温・高圧の容器内では温度と圧力によって液体の密度ρが変わるので、注意する必要がある。
BWRの原子炉水位計は、この差圧式を用いている(
図13)。BWRでは、蒸気が基準圧(背圧)側となるので、蒸気を直接差圧計に導かず、その圧力を基準水柱を介して導いている。基準水柱が減少すると貯水槽から自動的に水が供給され、基準水柱の高さを一定に保つ仕組みとなっている。
<図/表>
<関連タイトル>
原子炉の炉心核設計概論 (03-06-01-04)
原子炉の伝熱流動(1) (03-06-02-01)
原子炉の伝熱流動(2) (03-06-02-02)
原子炉の計測(2)核計装 (03-06-05-02)
<参考文献>
(1)石森富太郎(編):原子炉工学講座6=計測制御、倍風館(1972)
(2)川口千代二、荒克之(著):原子炉の計測、幸書房(1977)
(3)電気計算:記念特集 図で説く原子力発電所とその運転、電気書院(1972)
(4)JIS規格