<本文>
1.PBMRの概要
PBMRは、
図1に示すように、熱出力及び電気出力がそれぞれ400MW及び175MW、発電効率が約44%、ヘリウムガス冷却材の原子炉出口温度が900℃、ペブル型(球状)
被覆粒子燃料を用いた
黒鉛減速・熱中性子型の高温ガス炉である。
燃料については、
二酸化ウランの燃料微小球をセラミックスで4重に被覆している被覆粒子燃料(直径1mm程度)を用いており、放射性の
核分裂生成物(FP)の閉じ込め能力に優れている。このような被覆粒子燃料のFP閉じ込め性能は、わが国の高温工学試験研究炉HTTRで既に実証されている。この優れた閉じ込め性能により、
原子炉圧力容器、ガスタービン・発電機等の原子炉系は、
軽水炉のような耐圧性の
格納容器ではなく、コンファインメントと呼ばれる格納建家内に設置されており、十分な安全性を確保するとともに、施設の簡素化によって経済性の向上が図られている。装荷する燃料の濃縮度は9.6%であり、使用済みの燃料は再処理せずに、サイト内に長期間保管する計画となっている。
発電については、原子炉で加熱されたヘリウムガスで直接ガスタービンを回し、発電する直接サイクルと呼ばれる方式を採用しており、
中間熱交換器を介して二次冷却系で発電する方式を採っていない。中間熱交換器を省くこと、並びに、
再生熱交換器を用いる再生型サイクルで発電効率を高めることによって経済性を高めている。
2.PBMRの進展状況
PBMRの開発主体は、1999年に設立されたPBMR社である。このPBMR社は国内外に資本参加を募り、出資者は、南アフリカ国内では、国営電力会社のESKOM社と政府出資の産業開発公社IDC(Industrial Development Corporation)、国外からは2000年10月から2002年4月までは米国エクセロン社が出資している。また、ウェスティングハウス社は、2006年3月に当時の親会社である英国のBNFLが保有していた全株式を引き継ぎPBMR社の全株式の15%を所有することになった。2009年9月には米国の次世代原子力プラント(Next Generation Nuclear Plant:NGNP)計画を視野に入れて、出力200MW炉の検討を行い、2009年11月、米国エネルギー省に200MW炉2基のコジェネレーション型の計画を提案したが、ウェスティングハウス社が撤退したため、この提案は取り下げられた。
(1)設計の進展状況
政府へ許可申請を提出したPBMRの最初の設計では、熱出力が302MWであった。大型化によって経済性の向上を図ることができるが、事故時の燃料温度が制限されているため、当時はこの熱出力値が限界であるとされていた。この設計では、事故時の燃料最高温度低減を目的として、炉心中心に燃料を含まないダミー黒鉛球を装荷するという環状炉心概念を採用していた。炉心中心に黒鉛反射体ブロックを設置すればヘリウムガス冷却材が環状の燃料部を流れ、炉心中心には流れないため、ヘリウムガス冷却材の有効流量を確保するという観点からは望ましい。しかし、当時は黒鉛の
照射挙動に対する知見が少なく、中性子照射量の多い炉心中心に設置する黒鉛反射体の交換頻度等が明らかでなかったため、このような設計とせざるを得なかった。その後、照射挙動に対する知見を得て、黒鉛反射体ブロックを炉心中心に設置し、かつ照射による黒鉛の変形に対処するためプラント寿命中の黒鉛反射体ブロックの交換を前提とした設計に変更し、熱出力を400MWまで増大させた。(
図2)。
PBMRのガスタービンは、大型でありヘリウムガスを用いるため、世界でも例がなかった。当初の設計からの主な変更点とその理由は下記の通りである。
イ.独立した3軸方式の、ガスタービン(小型の高速回転用)/低圧圧縮機、ガスタービン(小型の高速回転用)/高圧圧縮機、並びに、ガスタービン(大型の低速回転用)/発電機をすべて1次系バウンダリ内に設置、としていた設計から、高速回転を低速回転に下げる機械式ギアボックスの採用により、低圧圧縮機、高圧圧縮機、ガスタービン(小型の高速回転用)、機械式ギアボックス、発電機の軸を共有する1軸方式に変更し、ガスタービンを1台に、また、小型の高速回転用のみとすることによって全体を小型化するとともに、回転軸部におけるヘリウムガスシールの採用により、発電機を1次系バウンダリ外に設置する設計に変更。
理由:ガスタービン負荷喪失時に、ガスタービンに許容できない温度上昇の可能性があることが分かったため。1軸方式であれば、負荷喪失時にもタービン単独でオーバースピードが生じないため、温度上昇を抑制可能。
ロ.ガスタービン系を縦置き方式から横置き方式に変更。
理由:耐震性の向上のため。
ハ.磁気軸受けから油軸受けに変更。
理由:開発要素がなく実績のある技術に変更したものと推定される。
また、PBMRの設計と並行して、系統・設備の機能確認等を目的とした実証試験も精力的に進められており、2004年には実機と同じ高温高圧条件で運転可能な大型のヘリウムガスループ設備の建設を開始し、2006年の初めに運用開始の予定となっている。
2006年6月時点で、プラントの設計をさらに変更することはないとされた。
(2)許可申請の進展状況
PBMRの建設地として、2基の軽水炉発電プラント(PWR)があるKoeberg発電所に隣接する海岸沿いの敷地が確保された。
政府の規制当局に対する環境影響評価の申請が1999年に、原子炉設置許可(すなわち
安全審査)の申請が2000年に、いずれもユーザーであるESKOM社から提出された。
環境影響評価については、2003年に環境・観光省が申請を認める決定を下したが、その後に原子力反対派の環境団体による異議申し立てが行われ、原告である環境団体やその他の利害関係者も含めた十分なパブリックヒアリングの再実施と、それに基づく環境・観光省の再判断を求める判決が2004年にケープ州の高等裁判所から下された。一方で規制庁の審査と並行して、前述のように、PBMRの熱出力が302MWから400MWに変更された。そこでESKOM社は、環境影響評価のやり直しを機会に、設計変更後のPBMRについて、再申請を2005年に提出し、再申請に対する審査が進められた。
また、原子炉設置許可のための安全審査についても、南アフリカの規制当局であるNNR(National Nuclear Regulator)によって進められた
(3)契約の進展状況とPBMR計画の中止
PBMR社では、機器・設備のメーカーとの契約を着々と進めており、2005年後半以降、以下のように、主要な機器・設備を発注した。
・原子炉炉内構造物であるCore Barrel Assemblyの基本設計と長期材料手配;日本の三菱重工業。
・炉内黒鉛構造物の長期材料手配;ドイツのSGLカーボン社。
・原子炉圧力容器を含む1次系圧力バウンダリの設計・製作;スペインのENSA社。
・ガスタービンの基本設計と研究開発;日本の三菱重工業。
・
安全保護系の基本設計;米国のウェスティングハウス社。
2008年8月には、商用規模プラントの建設のため、技術調達、建設管理について、Murray & Roberts社及びSNC Lavalin Nuclear社との契約が締結された。
なお、PBMRで使用する燃料の製造は、南アフリカの国営企業NECSA社が行うことになっており、燃料製造施設に関する設置許可も同時期にNECSA社から申請された。2008年12月には9.6%濃縮ウラン燃料の製造に成功、また、2009年9月には高温ガス炉用9.6%濃縮ぺブル燃料の製造に成功した。
しかし、2009年12月、PBMR社の現金収支状況に基づき、理事会は大幅なリストラを検討した。2010年2月にはPBMR社と三菱重工業はペブルベッド炉建設を可能にする協力を進めることで覚書に調印したが、2010年5月、理事会は知的財産の保持と会社存続のためにPBMR社の大幅縮小を受け入れた。2010年9月、南アフリカ政府は運営規模と組織を縮小し、2013年3月までPBMR社を運営することを承認した。
表1にPBMR計画に関する一連の動きをまとめた。
(前回更新:2006年8月)
<図/表>
<関連タイトル>
高温ガス炉概念の特徴 (03-03-01-02)
海外における高温ガス炉運転実績 (03-03-03-03)
新型発電用高温ガス炉の開発動向 (03-03-04-01)
海外における高温ガス炉の研究開発 (03-03-07-01)
海外における高温ガス炉開発の経過と計画 (03-03-07-02)
ペブルベッドモジュール炉(PBMR) (03-03-07-03)
<参考文献>
(1)PBMR:
(2)D. Maztner:PBMR PROJECT STATUS AND THE WAY AHEAD, HTR-2004, Beijing, China, Sep. 22-24(2004)
(3)PBMR-EIAホームページ:
(4)南アフリカNational Nuclear Regulatorホームページ:
(5)PBMR年次報告: