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<概要>
 高温ガス炉の起源は、1956年に英国で独特の被覆燃料粒子が開発された時点にさかのぼる。次いで、OECDとしてこの被覆燃料を基にしたブロック型燃料の実験炉ドラゴン炉が英国に建設・運転された。その後、 ペブルベッド型燃料 とブロック型燃料の高温ガス炉が開発され、ドイツでは、発電用実験炉としてAVRが、発電用原型炉としてTHTR-300が建設・運転された。また、米国では、発電用実験炉としてピーチボトム炉が、発電用原型炉としてフォートセントブレイン炉が建設・運転された。これらいずれの高温ガス炉も1989年に運転を終了している。現在は、試験研究炉が中国と日本で運転されており、中国では、2009年に着工予定の実証炉(HTR−PM)への基礎データを蓄積している。一方、日本では、高温ガス炉実用化のためのデータ蓄積として、2010年3月までに950℃の高温連続運転、冷却材喪失事故を模擬した安全性試験などを実施し、さらに高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発を進めている。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 現在までに建設・運転された高温ガス炉の主要項目を表1に、運転実績を図1に示す。
1.OECD・英国のドラゴン(Dragon)炉
 高温ガス炉開発の原点は、英国ハーウェル研究所で高温に耐える独特な被覆燃料粒子の開発に成功した1956年にさかのぼる。被覆燃料粒子の開発に伴って実験炉の建設と運転が行われるとともに、高温ガス炉の分野における研究開発を進めることを目的としたドラゴン計画が1956年に英国を中心に、欧州(OECD加盟)の11か国が参加し英国のWinfrithにおいて立ち上げられた。1960年4月にはドラゴン炉の建設が開始され、1964年8月に初臨界に達し、1966年に全出力運転に達した。
 被覆燃料粒子の開発成功は、高温ガス炉の炉心設計に大きな自由度をもたらし、その後ペブルベッド型燃料 (図2−1参照)およびブロック型燃料(図2−2参照)を採用した高温ガス炉(ペブルベッド型燃料の採用:ドイツ、中国、南アフリカ共和国、ブロック型燃料の採用:米国、日本)の設計に寄与した。
 最初の炉心は37体の燃料要素で構成し、各燃料要素は六角形の7本の黒鉛棒で構成されたが、最終的には、マルチホール型模擬ブロック燃料も試験燃料として用いられた。また、初期の装荷燃料としては、他の高温ガス炉と同様に、U−235/Th−232/U−233サイクルで転換比が約1になるように90%以上の濃縮ウランとトリウムが用いられている。ドラゴン炉の燃料要素構成と原子炉水平断面を図3−1に、原子炉垂直断面を図3−2に示す。ドラゴン炉は、1964年に初臨界後、燃料および黒鉛の開発と健全性実証のための照射試験を広範囲に行うとともに、高温ガス炉の運転保守に関する貴重な経験を積み重ねて、1976年3月に運転を終了した。
2.ドイツのAVR炉とTHTR-300炉
 ドイツでは、反射体を兼ねた炉心下部を円錐状にした黒鉛製の円筒に直径60mmの球状燃料(ペブルベッド、図2−1参照)をつめて炉心を構成する独特のペブルベッド型炉心の原子炉を開発してきた。原子炉冷却材のヘリウムガスは燃料の球と球の隙間を上向き、あるいは下向きに流れる。このタイプの特徴は、燃料球を炉心上部から装荷し自然落下させつつ燃焼させて炉心下部から取り出すことで、燃料交換のために原子炉を停止する必要がない。
 ユーリッヒ研究所に建設されたAVR炉は、電気出力15MWの発電用実験炉である。炉心は大きな負の反応度温度係数を有するので、炉出力は可変速度循環機によってガスの流量を変更するだけで、広い範囲にわたって反応度制御できる。AVR炉の燃料要素構成を図4−1に、原子炉垂直断面を図4−2に示す。
 AVRは、1967年から炉心出口ガス温度850℃の全出力運転に入り、極めて高い稼働率(1967年〜1978年で約77%)で発電用実験炉としても順調に運転され、1974年には炉心出口温度を950℃まで上げることに成功した。その後、蒸気発生器からの水漏れのため一時停止したが、再起動し全出力運転に戻った。AVRでは、ペブルベッド型炉の固有の安全特性についての運転データを蓄積してきた。その後は、THTR用燃料、低濃縮ウランを用いた燃料の照射試験に用いられ、その使命を果たし、1988年12月に20年余にわたる運転を終了し閉鎖した。
 ペブルベッド型の原子炉の概念を発展させる発電用原型プラントとして、電気出力300MWのTHTR-300が建設された。THTR-300炉の燃料要素構成と原子炉水平断面を図5−1に、原子炉垂直断面を図5−2に示す。THTR-300は1次冷却系全体を単一キャビティ(空洞)を有するPCRV(プレストレストコンクリート製原子炉圧力容器)に収容し、大口径配管のない設計となっている。THTR-300の主要な仕様を表1に示す。THTR-300は、営業運転に入ってからの稼働率は50〜60%で高温ガス炉の原型炉としての目的を果たしてきたが、1988年に高温ダクト内の断熱板のボルトの頭が破損したトラブルをきっかけに高温ガス炉電力会社HKG、州政府および連邦政府間での運転維持費の分担問題が解決せず、財政的理由から運転終了に至っている。
3.米国のピーチボトム(Peach Bottom)炉とフォートセントブレイン(Fort St. Vrain)炉
 米国における高温ガス炉の開発は、エネルギー省(DOE)の資金援助を受けながらオークリッジ国立研究所(ORNL)やGA社が主体となって進めて来ており、発電用実験炉ピーチボトム炉、発電用原型炉フォートセントブレイン(FSV)炉ともにGA社の設計により建設された。
 ピーチボトム炉は、棒状燃料を用いたプリズム型の炉心を有する高温ガス炉で、直径89mmの804本の黒鉛燃料要素から成る炉心は鋼製の圧力容器に収められた。ピーチボトム炉の燃料要素構成を図6−1に、原子炉垂直断面を図6−2に示す。ピーチボトム炉は1967年に全出力運転に入ったが、初期に燃料コンパクトの照射膨張により黒鉛スリーブにクラックが発生したため、一層の熱分解黒鉛層で被覆された燃料粒子から二重に被覆した燃料粒子(BISO)に交換された。その後は、高い稼働率で順調な運転実績を残して、1974年に運転終了しデコミッショニング(解体)された。
 ピーチボトム炉に続いて、世界で最初の高温ガス炉の原型炉としてFSV炉が建設され、1974年に初臨界に達した。FSV炉の燃料要素構成と原子炉水平断面を図7−1に、原子炉垂直断面を図7−2示す。この炉の特徴は、燃料としてマルチホール型ブロック燃料を用い、原子炉圧力容器としてPCRVを使用していることなどである。FSV炉は、出力上昇試験の過程で冷却ポンプから1次系への水の漏れ込み、炉心出口温度の変動等の初期故障などを経験した後、1979年に営業運転に入り、1981年に100%出力運転を達成し、40%近い高い熱効率を得ている。しかし、その後の稼働率が必ずしも良くないこともあり、1989年8月、運転を終了した。この間、蒸気発生器、黒鉛、燃料、1次系純化系等について得られた経験は貴重なものであり、次期のMHTGRの設計に役立てられている。
4.その他の国
 日本では高温工学試験研究炉(HTTR:High Temperature Engineering Test Reactor)が1998年11月に初臨界、2001年12月に定格熱出力30MWおよび原子炉出口ガス温度850℃に達し、2004年4月に950℃に達成することができた。その後、2010年3月までに高温ガス炉の実用化のためのデータ蓄積として、50日以上の高温(950℃)連続運転、冷却材喪失事故を模擬した安全性試験などを実施し、高温ガス炉のより高い固有の安全性など高温ガス炉の特性を実証するとともに、さらに高温ガス炉とこれによる水素製造技術の研究開発として、HTTRとISプロセス(ヨウ素(iodine)−硫黄(Sulfur)系熱化学)水素製造システムを接続した熱供給システムの設計を完了させることで研究・開発を進めている。
 中国では、重油回収や石油化学工業用の熱源として高温ガス炉利用の検討がドイツの協力の下に進められてきた。このような電力・プロセス蒸気供給炉として、また、分散型電源として、さらに石炭ガス化等高温核熱利用の熱源として高温ガス炉開発を進めるため、清華大学において、ペブルベッド型炉心をもつ実験炉HTR−10(10MWt、原子炉出口温度、最高900℃)が建設され、2000年12月に初臨界、2003年1月に定格熱出力1万kW、電気出力2,500kWおよび原子炉出口ガス温度700℃が達成された。2007年に蒸気タービンをガスタービンに交換する計画であったが工程が遅延しており、現状では、2009年に着工するものと思われる。HTR−10で得られたデータおよび今後得られるデータをもとに、2009年9月には実証炉HTR−PMを着工すべく高温ガス炉の実用化に向けた計画を着々と進めている。
<図/表>
表1 世界で建設・運転された高温ガス炉の主要項目
表1  世界で建設・運転された高温ガス炉の主要項目
図1 世界の高温ガス炉の運転実績
図1  世界の高温ガス炉の運転実績
図2−1 高温ガス炉の燃料の構造−被覆燃料粒子とペブルベッド型燃料
図2−1  高温ガス炉の燃料の構造−被覆燃料粒子とペブルベッド型燃料
図2−2 高温ガス炉の燃料の構造−ブロック型燃料(マルチホール・ブロック型燃料)
図2−2  高温ガス炉の燃料の構造−ブロック型燃料(マルチホール・ブロック型燃料)
図3−1 Dragon炉の燃料要素構成図と原子炉水平断面図
図3−1  Dragon炉の燃料要素構成図と原子炉水平断面図
図3−2 Dragon炉の原子炉垂直断面図
図3−2  Dragon炉の原子炉垂直断面図
図4−1 AVR炉の燃料要素構成図
図4−1  AVR炉の燃料要素構成図
図4−2 AVR炉の原子炉垂直断面図
図4−2  AVR炉の原子炉垂直断面図
図5−1 THTR-300炉の燃料要素構成図と原子炉水平断面図
図5−1  THTR-300炉の燃料要素構成図と原子炉水平断面図
図5−2 THTR-300炉の原子炉垂直断面図
図5−2  THTR-300炉の原子炉垂直断面図
図6−1 each Bottom炉の燃料要素構成図
図6−1  each Bottom炉の燃料要素構成図
図6−2 Peach Bottom炉の原子炉垂直断面図
図6−2  Peach Bottom炉の原子炉垂直断面図
図7−1 Fort St. Vrain炉の燃料要素構成図と原子炉水平断面図
図7−1  Fort St. Vrain炉の燃料要素構成図と原子炉水平断面図
図7−2 Fort St. Vrain炉の原子炉垂直断面図
図7−2  Fort St. Vrain炉の原子炉垂直断面図

<関連タイトル>
高温ガス炉燃料の安全性 (03-03-03-01)
高温ガス炉の安全性 (03-03-03-02)
新型発電用高温ガス炉の開発動向 (03-03-04-01)
ガス冷却型原子炉の技術的進展 (03-03-01-01)

<参考文献>
(1)IAEA:Gas−Cooled Reactors and Their Applications,IAEA−TECDOC−436(1986)
(2)M.T.Simnad:Early History of High Temperature Helium Gas−Cooled Nuclear Power Reactors,Energy,16(1/2),(1991),p.25−32
(3)A.J.Goodjohn:Summary of Gas−Cooled Reactor Programs,Energy,16(1/2),(1991),p.79−106
(4)O.M.Stansfield:Evolution of HTGR Coated Particle Fuel Design,Energy,16(1/2)(1991),p.33−45
(5)日本原子力研究所高温工学試験研究炉開発部(編):高温工学試験研究の現状 1996年、日本原子力研究所(1996年10月)
(6)IAEA:Directory of Nuclear Reactors Vol.IV Power Reactors,IAEA(1962),p.273−278
(7)IAEA:Directory of Nuclear Reactors Vol.V Research,Test an p.273−278,d Experimental Reactors,IAEA(1964),p.277−282
(8)IAEA:Directory of Nuclear Reactors Vol.X Power Reactors,IAEA(1967),p.251−258
(9)IAEA:Directory of Nuclear Reactors Vol.IX Power Reactors,IAEA(1971)p.185−192
(10)IAEA:Directory of Nuclear Reactors Vol. X Power and Research Reactors,IAEA(1976),p.305−312
(11)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑2004年版(2003年11月)、p.79−87
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