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<概要>
 1966年に開発が原子力委員会により決定し、1982年に実証炉計画の推進が決定されていた新型転換炉開発計画が、1995年7月の電気事業連合会の申し入れにより同年8月に事実上中止となった。中止の理由は、実証炉の経済性が大幅に悪化する見通しであるとともに、電気事業連合会が青森県大間サイトに新型転換炉実証炉に代わって建設を計画しているフルMOX-ABWRによりプルトニウム需給バランスも保たれることによる。
 原子力委員会は、実証炉の開発中止を決定するとともに、原型炉ふげん」の運転を継続し、その他のMOX燃料加工施設を初めとする新型転換炉開発関連施設を、核燃料リサイクル開発のために有効利用する方策を講じることとした。
<更新年月>
1996年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 1995年7月11日、電気事業連合会は原子力委員会、科学技術庁(現文部科学省)、通産省(現経済産業省)等に対し、青森県大間町に電源開発(株)が計画している新型転換炉(ATR)実証炉の建設について抜本的な見直しを申し入れた。ATR実証炉に経済性が見込めないとの判断から、代わって全炉心に混合酸化物燃料を装荷する135万kWクラスのABWR(フルMOX-ABWR)を建設することを求めるものである。
 原子力委員会は、電事連から詳細な説明を受けた上、早急な判断が必要であることから専門部会や懇談会などは設置せず委員自らが中心となって検討する体制をとり、原子炉メーカーその他関係者からも意見を聴取した上、同年8月25日の臨時会合で、先の電事連の申し入れにほぼ沿った形で、ATR実証炉に代わってフルMOX-ABWRを建設することが妥当であるとの決定を行った。委員会決定の概要はつぎの通りである。
1. 新型転換炉実証炉建設計画
・経済性
 1995年3月の見直しの結果、建設費が当初(1984年)見積りの3,960億円から5,800億円に、発電原価軽水炉の約3倍に増加した。建設費の増加は主に労務費の上昇によるが、実証炉はその性格上コスト高となるものであり、また10年間にわたって1年ごとに計画が延伸したため抜本的かつ効果的な合理化設計を実施できなかった( 表1表2表3 および 表4 参照)。
核燃料サイクルを巡る情勢
 ATRはプルトニウム等を柔軟かつ効率的に利用でき、かつMOX燃料利用の世界的な実績を有するものの、軽水炉によるMOX利用計画の進捗等により代替しうる見通しとなった( 表5 参照)。
・地元との関係
 これまで協力を得てきた青森県大間町下北半島等との関係を配慮して、国の政策上意義のある計画を当該地点で早急に立ち上げることが求められている。
2. 新型転換炉実証炉計画の代替計画
 フルMOX-ABWRは、(1) 中期的な核燃料サイクルの中核的担い手である軽水炉によるMOX燃料利用計画の柔軟性を拡げる、(2) 現在建設中のABWRの基本仕様の変更を伴わないで実施可能との技術的見通しを有しかつフルMOXについて新型転換炉の研究開発で得られた成果を活用できる、(3) 全炉心にMOX燃料を装荷することにより新型転換炉実証炉の2倍強のプルトニウム利用が可能であり、プルトニウム需給バランスも確保される。これの建設は電源開発(株)が地元の理解を得つつ実施主体として責任を持って取り組んでいくべきものであるが、国及び電気事業者の適切な支援により、円滑かつ確実に実施されることを期待する( 表6 参照)。
3. 新型転換炉関連の研究開発
 今後の新型転換炉研究開発は、具体的な実用化計画を念頭に置いた開発を継続することは適当でない。ただし、将来の核燃料の需給動向の変化に備え、プルトニウム、回収ウラン等を柔軟かつ効率的に利用できるとの新型転換炉の特長を活かしていくための調査・研究については、核燃料開発の進展に資する研究開発の一環として進めていくことが適当である。
 原型炉「ふげん」については、地元との信頼関係を確保しながら、特徴を活かし、プルトニウム利用技術開発施設、国際的共同研究施設として利用していくことが適当であり、その際発生する電力も有効利用していく。
 その他の新型転換炉関連施設も、核燃料リサイクル計画の具体化の為の研究開発に活用していくことが重要である。特に、MOX燃料加工施設については、MOX燃料の加工技術等の民間への円滑な移転を目的とする官民共同の技術開発の場として利用することも含め、今後の活用方策について関係者間で検討を進める。
 原子力委員会は、以上の建設計画見直し( 表7 参照)の結論に続いて、今後の原子力開発利用の推進についての留意事項としてつぎのように述べている。
4. 核燃料リサイクルの基本の堅持
 長期計画に示しているように、我が国の将来のエネルギーセキュリティを考えるとき、核燃料リサイクルを着実に展開していくことが重要である。
 特に、今回の新型転換炉実証炉建設計画の見直しに伴って、核燃料リサイクルを具体化していく上で当面の重要課題となる軽水炉によるMOX燃料利用、さらに将来の核燃料リサイクル体系の中核となる高速増殖炉の開発およびそれらを支える再処理等の計画に対しては、長期計画の方針に従って、官民総力をあげて着実に取り組んでいくことが不可欠である。
5. 大型技術開発の実用化までの進め方
 今回の新型転換炉実証炉建設計画の見直しの経験を踏まえ、今後大型技術開発の実用化を進めるに当たっては、
・経済性向上のための研究開発を含め関連の開発活動を研究開発主体と建設・運転主体とが一体となって実施する体制を整備すること
・進捗状況に応じて計画を評価し、所用の措置を適時適確に講じていくための体制を構築すること−等が重要であると考えられる。
 従って、これらについて、今後関係機関の努力を求めるとともに、原子力委員会としても適切に対応していくこととする。
<図/表>
表1 ATR実証炉の建設費及び発電原価
表1  ATR実証炉の建設費及び発電原価
表2 他電源の発電原価動向
表2  他電源の発電原価動向
表3 ATR実証炉の現行/今回見直し建設費
表3  ATR実証炉の現行/今回見直し建設費
表4 ATR実証炉の建設費増加要因
表4  ATR実証炉の建設費増加要因
表5 新型転換炉実証炉計画見直しに対応した我が国のプルトニウム需給見通し
表5  新型転換炉実証炉計画見直しに対応した我が国のプルトニウム需給見通し
表6 フルMOX-ABWRの経済性及び技術的見通し
表6  フルMOX-ABWRの経済性及び技術的見通し
表7 新型転換炉の政策的位置づけの変遷及び開発及び建設計画見直しの経緯
表7  新型転換炉の政策的位置づけの変遷及び開発及び建設計画見直しの経緯

<関連タイトル>
新型転換炉開発の経緯 (03-02-06-01)
新型転換炉実証炉計画 (03-02-06-02)
新型転換炉の研究開発 (03-02-06-04)

<参考文献>
(1) 科学技術庁(編集):原子力委員会月報467号、第40巻第7号、大蔵省印刷局(1995年12月26日)
(2) 科学技術庁(編集):原子力委員会月報468号、第40巻第8号、大蔵省印刷局(1996年3月11日)
(3) 原子力委員会(決定):新型転換炉実証炉建設計画の見直しについて、原産マンスリー、No.1(1995年9月18日)
(4) 原子力産業会議:原子力産業新聞 1995年7月13日
(5) 原子力産業会議:原子力産業新聞 1995年7月20日
(6) 原子力産業会議:原子力産業新聞 1995年7月27日
(7) 原子力産業会議:原子力産業新聞 1995年8月 3日
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