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日本原子力産業会議(現日本原子力産業協会(原産))は、世界の原子力発電所の動向調査を毎年「世界の原子力発電開発の動向」として取りまとめている。今回の調査は、原産が世界33か国・地域の約90の電力会社等から得たアンケートの回答にもとづき、1998年末現在のデータを集計したものである。それによると運転中が422基(35,849万kW)、建設中が46基(3,806.8万kW)、計画中が46基(3,448.8万kW)で、合計514基(43,104.6万kW)である。
現在の主な原子力発電所の現状として、
表1 に世界の原子力発電所設備容量を、
表2−1 、
表2−2 および
表2−3 に世界の炉型別原子力発電所設備容量(運転中、建設中、計画中)を、
図1 に世界の原子力発電設備容量を、
図2 に世界の運転中原子力発電設備容量の推移を示す。
原子力発電所の設備容量と基数では、米国(10,162.1万kW、104基)、フランス(5,979.3万kW、55基)、日本(4,508.2万kW、52基)、ドイツ(2,220.9万kW、19基)、ロシア(2,125.6万kW、26基)、英国(1,417.3万kW、35基)、ウクライナ(1,281.8万kW、14基)、韓国(1,201.6万kW、14基)、カナダ(1,061.5万kW、14基)、スウェーデン(1,043.7万kW、12基)の順になっている。中国は226.8万kW、3基で18位である(
表1および
図1参照)。
一方、電力量について原子力発電の総発電に占める割合については、
IAEAが発表している世界の原子力発電所の発電電力量によると、リトアニア(77.2%)、フランス(75.8%)、ベルギー(55.2%)、スウェーデン(45.8%)、ウクライナ(45.4%)、スロバキア(43.8%)、ブルガリア(41.5%)、韓国(41.4%)、スイス(41.1%)、スロベニア(38.3%)、日本(35.9%)の順で比較的東欧が大きい。全体を見渡して、18か国において原子力発電によって供給される電力が総電力量の25%を上廻っている(
表3 参照)。
1.営業運転開始および新規
着工
1998年に新たに営業運転を開始した原子力発電所は2基(合計出力170万kW)で、韓国の月城(Wolsong)3号機(CANDU、70万kW)および蔚珍(Ulchin)3号機(
PWR、100万kW)である。韓国は、設備容量でカナダ、スウェーデンを抜きウクライナに次いで第8位となった。新たに着工したのは、日本の東北電力の東通1号機、韓国の蔚珍5、6号機、中国の泰山(QINSHAN)第3期1号機の4基である。中国の嶺澳(LINGAO)2号機(PWR、100万kW)は当初、1998年1月15日に着工予定であったが、1997年12月30日に着工したことが確認された。また、日本の志賀2号機(AVBW、135.8万kW)と浜岡5号機(AVBW、138万kW)、中国の連雲港1号機(PWR、106万kW)、インドのタラプール3,4号機(PHWR、各50万kW)、台湾の龍門1号機(AVBW、135万kW)は1999年内の着工が予定されている。
このほか、韓国では蔚珍4号機が12月14日に初臨界を達成、1999年12月の運転開始をめざす。インドのカイガ1、2号機(PHWR、各22万kW)とラジャスタン3号機(同)、パキスタンのチャシュマ(PWR、32.5万kW)でも,1999年内の初臨界が予定されている。
アジア以外では、スロバキアのモホフチェ1号機(ロシア型PWR=VVER-440、44万kW)が7月4日に送電を開始したほかは、特に大きな動きはなかった。トルコ初の原子力発電所の入札結果は当初、1998年内にも出るものと見られていたが、入札評価の遅れから決定は1999年以降にずれ込んだ。また、カザフスタンのバルハシ1〜3号機(VVER-640、各64万kW)の建設計画は、当初の予定より遅れており、1999年夏ごろに政府の最終判断が下されると見られている。
2.閉鎖および運転休止
今回の調査で閉鎖を確認したのは、日本の東海発電所(1966年運転開始)、米国のザイオン1、2号機(1号機1973年、2号機1974年運転開始)、米国のミルストン1号機(1971年運転開始)、フランスの
スーパーフェニックス(1986年運転開始)、ウクライナのチェルノブイリ1号機(1978年運転開始)の6基、506.5万kWである。日本初の
商業炉である東海発電所は、運転継続に技術的な問題はなかったが、国内唯一の炭酸ガス冷却炉であることから、発電単価や保守費等が割高なため閉鎖されることになった。米国の3基は、いずれも電力市場の自由化という流れの中で、今後、運転を継続しても発電コストの点からみて競争力が確保できないとの判断から早期閉鎖された。
高速炉(
FBR)
実証炉のスーパーフェニックスについては、1997年2月2日にフランス政府が同機の即時閉鎖を決定したことを受けて、運転停止許可が1998年12月30日に発給され、これにより同機の閉鎖措置が正式に始まった。また、ウクライナの関係閣僚は1998年11月、「チェルノブイル1号機閉鎖プログラム」を承認、これを受けて、原子力規制局が12月15日、エネルゴアトム社に対して同機の運転中止認可ならびに閉鎖準備許可を発給した。
カナダのオンタリオ・ハイドロ社は、ピッカリングA−1〜4号機とブルースA−1〜2号機に続き、ブルースA−3、4号機(CANDU、各90.4万kW)の運転を休止した。同社が1997年8月以来、5年間の予定で取り組んできている原子力発電施設効率化計画の一環である。休止した8基については、将来の市場の動向や経済性をふまえ運転再開を再検討することになっている。
一方、スウェーデン政府が、脱原発政策の実施にあたって白羽の矢を立てたバーセベック1号機(
BWR、61.5万kW)の閉鎖は訴訟問題に発展し、当初、政府がめざした1998年7月1日の閉鎖は回避された。同国の最高裁判所が1998年5月、閉鎖の執行停止を命じたためで、最終的な司法判断が下されるまで運転が継続されることになった。
3.計画中
原子力発電開発の現状を地域別に見ると、北米・西欧地域では、フランスを除き建設中・計画中は1基もない。これに対して、アジア地域では、運転中の原子力発電所は設備容量でみると世界全体の18.5%を占めるに過ぎないが、建設中は34.2%、計画中は60.8%を占めており、アジアでの原子力発電開発が加速的に進められている。
4.運転期間の延長
各国の電力会社に対して原子力発電所の運転期間延長についてアンケートを行った。それによると、運転期間を認可(ライセンス)の形で定めている国、設計寿命に基づいて制限している国、運転期限が特に定められていない国など様々であったが、各国とも運転期間の延長が具体化してきていることが明らかになった。これは、世界の原子力発電所の平均運転年数が約17年に達したことに加え、主要機器の
モニタリングを含む広範な保守作業に焦点をあてた「ライフサイクル管理」によって、運転期間の延長に問題がないとの考え方が固まってきたためと考えられる(
表4 参照)。
回答によると、運転認可や設計寿命を40年と設定している国が大半を占めている。旧ソ連型炉を採用している
CISや東欧地域では、規則により運転期間が30年と定められているが、炉型や体制の違いに関係なく、運転期間の延長が検討されていることが確認された。 米国では、当初の40年という運転認可を最長で60年まで延長することが認められているが、カルバートクリフス1、2号機(PWR、各88万kW、1号機1975年、2号機1977年運転開始)およびオコニー1〜3号機(PWR、1、2号機各88.7万kW、3号機89.3万kW、1号機1973年、2、3号機1974年運転開始)の認可を20年間更新する申請が原子力規制委員会(
NRC)に提出された。両発電所とも、更新にあたって
蒸気発生器(SG)の交換を計画している。また、サリー1、2号機やノースアナ1、2号機など、複数の発電所でも運転認可の更新へ向けて検討が行われている。こうした動きがある一方で、運転認可の更新を視野に入れていない電力会社もある。さらに、運転実績の劣った一部の原子力発電所を早期に閉鎖する動きもみられる。
このほか、スイスのベツナウ発電所やフィンランドのオルキルオト発電所でも、60年まで運転を継続することが検討されている。スペイン、スウェーデン、メキシコ、ウクライナ、ハンガリー、中国でも寿命延長が検討されているが、パキスタンやルーマニア、アルゼンチンなどでは、具体的な動きは出てきていない。また、スロベニアやリトアニア、台湾、ブラジルは、現時点では運転期間を延長する考えがないことを明らかにしている。
<図/表>
<関連タイトル>
日本の原子力発電所の現状(1999年) (02-05-01-03)
海外の原子力発電所の現状(1997年) (02-06-01-02)
世界の原子力発電の動向・アジア(2005年) (01-07-05-02)
世界の原子力発電の動向・中東(2005年) (01-07-05-03)
世界の原子力発電の動向・北米(2005年) (01-07-05-04)
世界の原子力発電開発の動向・CIS(2005年) (01-07-05-05)
世界の原子力発電の動向・中南米(2005年) (01-07-05-06)
世界の原子力発電の動向・西欧州(2005年) (01-07-05-07)
<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議(編):世界の原子力発電開発の動向 1998年次報告(1999年5月)
(2)IAEA Press Centre:IAEA Press Release, April 29, 1999,
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