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<概要>
 日本の原子力発電所においては、放射性廃棄物の発生量、環境への放出量等の低減化対策に改良が図られ、気体廃棄物および液体廃棄物の放出量は年々低減傾向にある。
 固体廃棄物は、新技術の導入、処理技術の改良等により減容が図られている。また、廃棄体の浅地中処分のための管理が行われている。放射性気体および液体廃棄物の放出量、ドラム缶発生量、およびドラム缶累積保管量に対する2005年度までの年度別推移を示す。
<更新年月>
2007年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子力発電所の運転や定期検査に伴って発生する放射性廃棄物は、気体廃棄物、液体廃棄物および固体廃棄物に分けられる。
 これらの放射性廃棄物には核分裂生成物原子炉内で中性子照射により放射化された腐食生成物が含まれている。放射性廃棄物は、一般に放射能の高低に従って高レベルと低レベルにレベル区分されるが、このうち高レベル放射性廃棄物は主として再処理施設から発生するもので、原子力発電所の管理区域内で発生する廃棄物はすべてが低レベル放射性廃棄物として区分管理されている。
 原子力発電所における放射性廃棄物管理は、周辺環境に対する十分な安全性を確保する意味から、放射性廃棄物の発生量の抑制、環境への放出量の低減等に重点をおいて新技術の導入、技術改良等が積極的に進められてきた。
 以下、軽水炉における放射性廃棄物管理の動向として、放射性廃棄物の発生量および放出量の低減、放射性廃棄物の減容技術に重点をおいて述べる。
1.放射性廃棄物管理の動向
 わが国の原子力発電所における放射性廃棄物管理は、次のような点に技術の改良が見られる。
 1)環境への放出放射能の低減
 2)放射性廃棄物発生量の低減
 3)発生廃棄物の減容
 4)処理プロセスの信頼性向上と省力化
 以下、各項目について解説する。
1.1 環境への放出放射能の低減
 原子力発電所の運転に伴って発生するプロセス系オフガス、換気系排気および液体廃棄物の一部は、放射能濃度が基準濃度以下であることを確認した後、大気中や海洋に放出されている。
 その放出濃度は「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」に定める濃度限度を十分下回るよう配慮されてきたが、1975年の「発電用軽水型原子炉施設周辺の線量目標値に関する指針」の制定を機に、「実用可能な限り低く」(通称ALAPと呼ばれている)の設計思想に基づく大巾な改良が実施されてきた。現在は「合理的に達成できる限り低く」(ALARA)に基づく設計思想になっている。
 すなわち、気体廃棄物処理系では、タービンオフガスの処理方式のタンク貯留減衰方式(数時間減衰)から活性炭ホールドアップ方式(数10時間−30日間減衰)への変更(BWR プラント)、同様に一次系ベントガス系の処理方式の活性炭ホールドアップ方式への変更(PWR新規プラント)等が行われた。
 また、液体廃棄物処理系では、希釈放出していた一部のプロセス廃液および洗濯廃液について蒸発処理システムの導入による処理済廃液の回収リサイクル化が図られ、ゼロ放出に近い運用が可能になっている。
 環境放出量低減の傾向を示すものとして、図1に原子力発電所からの放射性気体および液体廃棄物の放出量の年度別推移を示す。
1.2 放射性廃棄物発生量の低減
 放射性廃棄物発生量の低減対策には、原子力発電所の設計にまで遡る発生源対策(前者)と、廃棄物処理システムの高性能化の対策(後者)とがある。
 前者については、燃料体の改良(一次系冷却水への核分裂生成物放出の抑制)、一次系構成材料における低コバルト材の採用、一次系冷却水の水質管理の高度化など、広範にわたる総合的な対策が実施されてきた。
 後者については、主に次のような新技術の導入による処理システムの変更等で対処している。
(1)気体廃棄物については、発生源対策でほぼ対応済みと考えられる。
(2)液体廃棄物については、廃液中の微細な懸濁質を除去する精密濾過に、濾過助材を多量に用いるプリコート式濾過器を変更して、濾過性能の向上した中空糸膜式濾過器を採用している。これによりスラッジの排出量は、変更前の数10分の1に低減した。
(3)固体廃棄物については、定期検査時の作業手順、工事方法の見直し、汚染拡大の防止器材の有効活用等、管理面の改善を行うことによって発生量の低減化が図られている。
1.3 発生廃棄物の減容
 発生した放射性廃棄物は、最終的には固体廃棄物に集約され、浅地中処分に適するコンディショニング(ドラム缶等の容器に固形化材で安定に固化すること、すなわち、廃棄体にすること)が施されて、その工程を終了する。したがって、コンディショニングの適用方法如何によって、処分の対象となる廃棄体の発生量が変わることになる。
 現在、定常的にコンディショニングが進められている濃縮廃液については、従来のセメント固化法では濃縮廃液がそのままセメントと混合、固化されてきた。そのため、廃棄体に混入できる濃縮廃液の量に制約があり、コンディショニングの過程で約2倍に容積が増加することになる。この欠点を改善するため、不要な水分を蒸発分離して固形分のみを固形化材と混合するアスファルト(均質)固化法およびプラスチック(均質)固化法が実用化されてきた。改良されたこれらの方法では、セメント固化法のそれに比べて、廃棄体の発生量をそれぞれ約3分の1、および約5分の1に低減できる。また、放射性物質の浸出もしにくくなっている。しかし、問題点として、これらの方法で処理された固化体自身は可燃性であるという欠点をもっている。最近の事例として、1997年3月11日、旧動燃事業団(核燃サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構))の再処理工場アスファルト固化施設で、火災爆発事故が発生したことは記憶に新しい。(後述の関連タイトル「東海再処理工場火災事故」参照)
 また、濃縮廃液を乾燥、粉体化し、これをペレットに成型するペレット固化法では、成型時に圧密化が図られるため減容性はさらに向上し、廃棄体発生量がセメント固化法のそれに比べて約7分の1になる。これらの方法はコンディショニングの改良の過程で順次採用され、良好な成果が得られているものである。さらに、濃縮廃液以外のスラリー廃棄物への適用についても検討が進められている。
 固体廃棄物のうち可燃物については、減容性の高い焼却処理技術が定着しているが、最近では、脱水、乾燥した廃樹脂、難燃物も焼却できる第二世代の焼却炉が開発されてきている。また、焼却炉の普及に呼応して換気系フィルタの可燃化も検討されている。
 難燃物、不燃物については、後で行う処理に都合がよいように分別し、適切な大きさに切断した上、ドラム缶に密封保管されている。その際、低い圧力で圧縮充填する場合もある。最近は、金属廃棄物を面圧1000トン以上の高い圧力で圧縮し、3分の1程度に減容して保管する高圧縮減容装置も実用化されている。現在、焼却灰、不燃物はドラム缶に密封保管されているが、溶融固化のような効率的な廃棄体製作技術も模索されている。
 一部の発電所で試用されている特殊焼却炉に高温焼却溶融炉がある。これは、不燃物の小金属片、保温材、コンクリート片等と可燃物を混合し、補助燃料とともに高温度で焼却しその灰を溶融して、減容と同時に安定なスラグに変換するもので、今後さらに技術改良によって、普及するものと思われる。
 以上の廃棄物減容技術は、原子力発電所からの放射性固体廃棄物(ドラム缶)の発生量を減少させることとなり、貯蔵設備の保管容量にも余裕をあたえる結果となっている。図2に原子力発電所からの放射性固体廃棄物(ドラム缶)発生量の年度別推移を、図3に原子力発電所における貯蔵設備容量とドラム缶累積保管量の年度別推移を示す。
1.4 処理プロセスの信頼性向上と省力化
 当初の処理プロセスでは、主に液体廃棄物処理系に支障が多く見られ、特に廃液蒸発缶(廃液濃縮器)およびその関連配管系では、腐食損傷や濃縮液配管の保温ヒーターの断線による管内閉塞等が発生していた。現在ではこれらの問題は次のような方法で解決されている。
 腐食損傷に関しては、海水熱交換器を淡水冷却方式に変更することによって廃液系への海水混入を防止するとともに、蒸発缶、配管の材質変更(接液部のチタンクラッド化(ステンレス鋼とチタンとの合せ材の使用)、従来のSUS-304からSUS-306への変更等)等を実施するなどの方策がとられている。配管閉塞に関しては新型ヒーターが採用されている。
 廃液濾過処理に関しては、当初の濾過助材を使用するプリコート型濾過器に変えて中空糸膜式濾過器を採用したことにより、プリコート操作が不要となり、全ての操作が自動化されている。
 また、最近のデジタル制御技術とコンピュータの普及により、運転操作系の改善や自動化、システム構成の合理化等が図られ、大幅な省力化も達成されている。
2.今後の技術動向
 原子力発電所に適用されている廃棄物処理プロセスの改善状況は、その建設時期によって新技術の導入時期に相違が生じており、最終処分の対象となる廃棄体の種類が多様化しているのが現状である。これについては、今後、なるべく同一の安全性評価に基づいて、廃棄体の浅地中処分が実施できるよう、体系的な整備が行われるものと思われる。
 不燃性雑固体廃棄物については、合理的な処分を可能にするため、放射性核種の組成、放射能濃度等を簡易に評価できる測定、評価手法の開発、廃棄体の標準化等の技術確立が望まれている。
 金属廃棄物等については、資源の有効利用と廃棄物低減化の観点から、旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)動力試験炉(JPDR)の廃止措置で試みられた汚染除去技術の活用、および現在試験段階にある再利用技術の実用化が期待されている。
 廃液処理系においては、高分子化学の進展による機能性膜の応用がイオン交換処理や濃縮処理等の分野で期待されている。
 上記の技術の導入、組合せ等により、放射性廃棄物量の低減化は更に進むことが期待される。
(前回更新:2004年5月)
<図/表>
図1 原子力発電所からの放射性気体および液体廃棄物の放出量の年度別推移
図1  原子力発電所からの放射性気体および液体廃棄物の放出量の年度別推移
図2 原子力発電所からの放射性固体廃棄物(ドラム缶)発生量の年度別推移
図2  原子力発電所からの放射性固体廃棄物(ドラム缶)発生量の年度別推移
図3 原子力発電所における貯蔵設備容量とドラム缶累積保管量の年度別推移
図3  原子力発電所における貯蔵設備容量とドラム缶累積保管量の年度別推移

<関連タイトル>
JPDRの解体 (05-02-04-09)
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)
再処理施設から環境へのヨウ素とトリチウムの放出低減化 (06-03-05-04)
東海再処理工場における火災爆発事故 (04-10-02-01)

<参考文献>
(1)科学技術庁原子力安全局(編):平成6年度実用発電炉施設における放射性廃棄物管理の状況及び放射線業務従事者の被ばく状況について、原子力安全委員会月報、第202号(1995年10月31日)
(2)(財)原子力環境整備センター:発電用原子炉運転廃棄物の発生と処理の変遷、原環センタートピックス,No.22(1992年3月)
(3)経済産業省原子力安全・保安院原子力安全技術基盤課(編):原子力施設運転管理年報 平成15年版(平成14年度実績)、火力原子力発電技術協会(2004年1月)
(4)原子力安全基盤機構(編集発行):原子力施設運転管理年報 平成18年度(平成17年度実績)(2006年9月)
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