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<概要>
 アジア地域では、現在、日本、韓国、中国、台湾、インド、パキスタン、インドネシアの7か国で原子力発電所の運転、建設、計画が進行している。2011年3月に発生した福島第一原子力発電所の事故をうけ、日本、台湾、インドネシア及び開発準備段階にあるタイ等の諸国で原子力政策の見直しが進められているが、アジア地域全体ではペースは若干下降するものの、原子力開発を進める気運のほうが大きい。ここでは、日本を除いたアジア地域における原子力発電開発の動向を示す。
 2012年1月現在、日本を除くアジア地域で運転中の原子力発電所の設備容量は世界全体の10.8%(日本は22.8%)、基数は15.0%(日本は26.7%)であるが、建設中の設備容量は世界全体の60.6%(合計出力4,178万kW)、計画中の設備容量は49.6%(合計出力8,182万kW)を占める。また、2000年以降に営業運転を開始した原子力発電所は、中国、日本、韓国、インドなどのアジア地域が中心である。
 原子力発電技術の国産化路線を進めていた中国及び韓国は、国際市場向けの100万kW級、140万kW級原子炉を開発し、輸出することを目指している。また、インドは2008年9月に国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れたことから、原子力供給国グループ(NSG)の原子力資機材の輸出禁止が解除され、海外からの軽水炉とウラン燃料の導入が可能になっている。
<更新年月>
2012年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 2012年1月現在、日本を除くアジア地域で運転中の原子力発電所は、64基4,140.8万kW、設備容量は世界全体の10.8%(日本は22.8%)、基数は15.0%(日本は26.7%)であるが、建設中の設備容量は世界全体の60.6%(合計出力4,178万kW)、計画中の設備容量は49.6%(合計出力8,182万kW)を占める(表1参照)。2000年以降に営業運転を開始した基数は世界全体で47基(合計出力3,924.2万kW)であるが、地域別に見ると、中国、日本、韓国、インドなどのアジア地域が33基(合計出力2,345万kW)、新たに営業運転を開始した原子力発電所は世界の約60%を占める(表2参照)。2008年以降、世界的金融危機による景気減速の中で欧米諸国が経済引き締め政策を講じる中でも、アジア地域は6〜8%の高い経済成長率を背景に原子力開発を進めている(表3参照)。なお、2011年3月の福島第一原子力発電所事故をうけ、日本、台湾、インドネシア及び開発準備段階であったタイ等の諸国で原子力政策の見直しが進められているが、アジア地域全体ではペースは若干下降するものの、原子力開発を進める気運のほうが大きい。以下、日本を除くアジア地域の原子力発電開発の動向を示す(図1参照)。
1.韓国
 韓国では2012年1月現在、古里(Kori)、月城(Wolsong)、蔚珍(Ulchin)、霊光(Yonggwang)の4サイトで21基1,871.6万kWの原子力発電所が運転中であり、5基580.0万kWが建設中である。韓国電力公社(KEPCO)が作成した2011年電力統計によると、2011年12月末現在の総発電設備容量7,881万kWに占める原子力発電の割合は23.7%であり、2010年総発電電力量4746.6億kWhに占める原子力による発電電力量の割合は31.3%に達している。2010年に策定された第5次長期電力需給基本計画では2020年までに10基程度増設する計画である。
 1980年代以降、韓国は米国のウェスチングハウス(WE)社やコンバッション・エンジニアリング社、カナダのAECL社、フランスのフラマトム社の原子力技術を国産化し、標準化を経てさらに発展させ、韓国標準型原子炉(OPR1000及びAPR1400)を開発した。100万kW級国産PWRである霊光3号機(OPR-1000)は1995年3月から運転を開始し、現在韓国国内でOPR1000は9基稼動している。また、140万kW級国産PWR新古里3号機(APR1400)は建設中で、2013年の営業運転開始を目指している。さらに、韓国水力・原子力発電会社(KHNP)は受動型補助給水系PAFSを備える海外輸出向け150万kW級、先進型第3世代原子炉APR+の開発を進めている。
 韓国の知識経済部(MKE)は、2010年1月、2030年までに原子炉80基を輸出することを目指す「原子力発電輸出産業化戦略」を発表した。既に2009年12月、韓国はアラブ首長国連邦(UAE)からAPR1400、4基の受注を獲得している。ただし、OPRやAPRはWE社の知的所有権を侵害するとし、輸出に関しては米国の承認を得る必要がある。
2.中国
 中国で稼働中の原子力発電所は、2012年1月現在、広東大亜湾(Guangdong Daya Bay)、嶺澳(Lingao)、秦山I〜III(Qinshan)、田湾(Tianwan)の6サイトで14基、発電設備容量は計1,192.8万kWで、全発電設備容量の1%、発電電力量では2%を占めるに過ぎないが、政府は2020年時点で4,000万kWの原子力発電所を商業運転し、建設中は1,800万kWにするという目標を掲げている(図2参照)。さらに2020年までの「原子力発電中長期発展計画」では、100万kW級の加圧水型原子炉(PWR)の設計から運営までの自主化を目指し、外国企業と共同で国際市場に進出するという方針も打出されている。
 中国政府は、(1)原子力技術の自力開発、(2)海外炉の改良、(3)海外炉の導入・国産化の3路線を同時に進めている。
 (1)に関してはWE社製PWRの公開設計図に基づき、独自に開発し、泰山1号(30万kW級PWR)を設計した。1994年4月に運転を開始し、2007年から30年の寿命を延ばすため、フランスのアレバ社に委託して圧力容器上蓋と制御棒駆動機構を取替え、計装制御装置を全面的に更新している。
 (2)に関しては大亜湾1・2号機(各98万kW)をフランスの電力公社(現フランス電力会社:EDF)から導入、これを2ループの60万kW級原子炉に設計変更した泰山II-1号機(CNP600)を2002年4月に運転を開始する一方、100万kW級原子炉の設計に着手した。現在は原子炉の海外輸出を念頭に中国核工業集団公司(CNNC)が開発したCP1000、広東核電集団有限公司(CGNPC)のCPR1000とその改良炉ACPR、国家核電技術公司(SNPTC)のCAP1400がある。CPR1000は大亜湾1、2号機をベースに出力を108万kWに改良したもので、1号機は嶺澳II-1号機として2010年6月に運転を開始した。知的所有権はアレバ社にあるが、中国国内では自由に建設できるため、30基以上が建設または計画されている。
 (3)の海外炉の導入・国産化においては、WE社製、受動的固有安全炉と呼ばれる100万kW級の新型炉AP1000(PWR)で、中国は三門1号(2013年8月運転開始予定)の建設を2009年4月から開始、40基以上建設する計画である。AP1000の知的所有権はWE社が持つが、技術移転を踏まえた4基以降、国内建設はSNPTCの裁量となる。さらに、AP1000をベースに135万kWを越える設計の場合、中国側に知的所有権が移るため、現在140万kW級原子炉CAP1400を開発中で、石島湾(Shidaowan)計画を進めている。中国は先ずCP1000を輸出する目標を掲げている。
3.台湾
 台湾は現在、金山1、2号機(Chinshan、BWR、各64.1万kW)、国聖1、2号機(Kousheng、BWR、各100、99万kW)、馬鞍山1、2号機(Maanshan、PWR、各96.2、96.3万kW)の計6基の原子力発電所が運転中である。建設中の原子力発電所、龍門1、2号機(Lungmen、ABWR、各135万kW)は、台湾電力が米国のゼネラルエレクトリック(GE)社と主契約を結び1999年に建設を開始したが、2000年5月に反原子力を掲げる陳水扁が総統に就任したため状況が大きく変わり、行政院は同10月に同発電所の建設を中止した。その後2001年4月に建設継続を決定したが、GE社との契約は破棄され、1号機は日立が、2号機は東芝が圧力容器を、タービン発電機は三菱重工業、土木工事は清水建設、廃棄物処理場は日立製作所がそれぞれ受注した。台湾電力公社は2005年10月、原油価格の高騰と国内経済の低迷を理由に、同発電所の営業運転開始を2012年12月と2013年12月に設定し直したが、工事は遅延気味である。2010年5月の工事進捗率は約92%(設計98%、購入99%、施工95%、試運転37%)であった。
 なお、台湾の経済部能源局が発表した99−108年長期負載預測與電源開發規劃摘要報告(2011年1月)では、2010〜2019年に新たに発電容量を1,678.3万kWに増やす計画で、原子力開発を16.1%、270.0万kWとしていたが、福島第一原子力発電所の事故を受け、原子力発電の中長期的な比重や原子炉の稼働延長、再生可能エネルギーの数値目標等について再度検討を行うものと予想される。
4.インド
 インドで運転中の原子力発電設備は、2011年1月にカイガ4号機(PHWR、22万kW)の営業運転を開始したことで、現在、20基478万kWとなった。また、ロシア製100万kW級原子炉クダンクラム1、2号機が2002年3月と7月から建設を開始しているほか、初めての国産70万kW級PHWRカクラパー3、4号機が2010年11月に、続いてラジャスタン7、8号機が2011年7月に掘削工事を始め、建設中の原子力発電所は7基530万kWである。計画中の原子力発電所はロシアのVVER1000、フランスの欧州加圧水型炉EPRなど海外からの大型軽水炉を含め、8基960万kWである。また、ジャイタプール、クダンクラム、ミティ・ビルディ、コバダ、マディヤ・プラデシュ、ハリプール6地点で24基2,600万kWが計画準備中である。
 インドは、従来、第1段階として重水炉、第2段階として高速増殖炉(FBR)の開発を進め、第3段階として国内資源トリウムを利用した新型重水炉(AHWR)の実現を目指していた。しかし、インドが国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れたことから、原子力供給国グループ(NSG)は2008年9月にインドへの原子力資機材の輸出禁止を解除。2008年10月に米国とインドとの間で原子力協定が締結され、フランス、ロシア、カザフスタン、イギリス、カナダ、モンゴル、ナミビア、アルゼンチンなどの国々とも相次いで協定が締結された。
 政府は深刻な電力不足を解消するため、原子力発電開発を拡大する方針であり、2004年に原子力庁(DAE)が発表した「電力成長戦略」では、2052年までに2億7,500万kWに拡大させる計画であったが、海外からの軽水炉とウラン燃料の導入で、2050年には最大6億5,000万kWまで拡大できると予想している。
5.パキスタン
 パキスタンでは、カラチ原子力発電所(CANDU、13万7,000kW)とチャシュマ1、2号機(PWR、各32万5,000kW)の3基が運転中で、チャシュマ3号機(PWR、34万kW)が建設中である。
 カラチ原子力発電所はカナダとの協力により1972年12月に営業運転を開始したが、西側諸国が核拡散上の懸念から、協力を中断した。その後1992年2月にパキスタン原子力委員会(PAEC)と当時の中国核工業総公司(旧CNNC)との間で原子炉供給協定が交わされ、1993年8月にはチャシュマ1号機が建設を開始、2000年9月には運転を開始した。同原子力発電所は、中国の秦山1号機(CNP300、30万kW)の改良型を採用している。
 パキスタンの原子力開発は1970年代に敵対するインドの核兵器開発に対抗する形で行なわれ、1974年以降、西欧諸国はパキスタンへの原子力資機材の輸出を禁止したが、パキスタンは国産開発体制を育成し、燃料自給技術も確立した。パキスタンは核拡散防止条約(NPT)には加盟していないが、国際原子力機関(IAEA)と世界原子力発電事業者協会(WANO)に加盟している。米国は核拡散を懸念しているが、中国及びパキスタン両国は、IAEAの保障措置下に置かれ、問題ないと主張している。なお、パキスタンは経済成長が著しく、2030年までに880万kWの原子力発電設備を増加させたい意向である。
6.北朝鮮
 朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)は、1994年の「米朝枠組み合意」に基づいて、プルトニウム生産の容易な既存の黒鉛減速炉の凍結・解体と引き換えに、北朝鮮へ100万kW級の軽水炉2基を提供するとともに、軽水炉第1基目の完成までの代替燃料として、年間50万トンの重油を供給することを目的として、1995年3月に日本、米国、韓国の3か国によって発足した(後にEUが加入)。KEDOの軽水炉建設プロジェクトは1997年8月に北朝鮮東海岸の琴湖(クムホ)サイトで基礎工事がスタートしたが、2002年10月に北朝鮮の核兵器開発疑惑が深刻化したため、2006年5月には軽水炉プロジェクトの「終了」を正式に決定した。なお、北朝鮮は2006年10月と2009年5月に咸鏡北道吉州郡の山岳地帯で地下核実験を実施している。
7.ベトナム
 ベトナムの原子力発電導入計画は、1996年に「ベトナムへの原子力発電の導入に関する総合調査プロジェクト」をもってスタートした。2009年11月には、ベトナム初の原子力発電所(4基400万kW)を中南部のニン・トゥアン(Ninh Thuan)省に建設することが国会で承認されている。2010年2月にはベトナム科学技術省の中にベトナム原子力庁を新設。3月には国家原子力安全委員会が、5月にはニン・トゥアン原子力発電プロジェクト指導委員会が設置された。2010年6月には、ズン首相が2030年までに原子力発電所14基を建設するという原子力開発基本計画を承認している。基本計画では、ニン・トゥアン省で初号機2基を2020年までに運転を開始し、2025年までに8基800万kWを、2030年までに中部地域を中心に6基700〜800万kWを開発する方針である。ベトナムとロシアは、2010年10月にニン・トゥアン省フォックジン村に100万kW級原子力発電所2基を建設することで、正式に調印した。
8.インドネシア
 インドネシアの原子力開発は1989年8月、当時のスハルト大統領が2000年以降に原子力発電を導入するための準備を開始したことに始まる。1997年後半、経済危機などにより、計画は一時棚上げされた。しかし、1997年4月には新原子力法が成立、1998年5月に新原子力規制庁(BAPETEN)を発足させ、初号機として100万kW×2基を2010年から建設開始し、2016〜2017年に運転開始、また、追加の4基を2025年までに運転開始する計画を打出した。発電所建設サイトはジャワ島中部ムリア(Muria)半島のUjung Lemah Abang、Ujung Grenggengan、Ujung Watuの3地点が有力候補であるが、休止火山であるムリア火山の噴火の可能性が2.7×10-5/(100年)であること、隣接Pati地域で1890年にM6.8の地震があったこと、福島第一原子力発電所事故の影響等で地元からの反対が強い。
<図/表>
表1 アジアの原子力発電開発の現状
表1  アジアの原子力発電開発の現状
表2 地域別運転開始基数と出力(2000年〜2011年)
表2  地域別運転開始基数と出力(2000年〜2011年)
表3 アジアで新たに営業運転を開始した原子力発電所(2000年〜2011年)
表3  アジアで新たに営業運転を開始した原子力発電所(2000年〜2011年)
図1 アジアの原子力発電所立地地点(日本を除く)
図1  アジアの原子力発電所立地地点(日本を除く)
図2 中国の原子力発電所立地地点
図2  中国の原子力発電所立地地点

<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2011年) (01-07-05-14)
朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO) (13-01-01-22)
韓国の原子力発電 (14-02-01-04)
中国の原子力発電開発 (14-02-03-03)
台湾の電力事情、発電計画、原子力発電 (14-02-04-02)
インドネシアの原子力開発と原子力施設 (14-02-06-01)
インドの原子力開発と原子力施設 (14-02-11-02)
パキスタンの原子力開発と原子力施設 (14-02-12-01)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2011年次報告 (2011年5月)
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2012年次報告(2011年10月)、アジア
(3)(社)日本原子力産業協会:躍進するアジアの原子力、
http://www.jaif.or.jp/ja/asia/
(4)(社)海外電力調査会:各国の電気事業、中国

及びインド
(5)世界原子力協会(WNA):中国、http://www.world-nuclear.org/info/inf63.html
(6)IAEA発電炉情報システム(PRIS)ホームページ:

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