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<概要>
 2012年1月1日現在、世界30ヵ国で427基、合計出力は3億8,314.5万kW(前年:436基、3億9,220.3万kW)の原子力発電所が運転中である。建設中は69基、出力6,892.7万kW(前年:75基、7,573.4万kW)、計画中は144基、出力16,495万kW(前年:91基、9,974.9万kW)となった。近年、中国、インド、ベトナム、アラブ首長国連邦、トルコなどアジア・中近東諸国を中心に原子力の導入、あるいは開発規模を拡大させる動きがあるほか、欧米諸国では原子力発電所の新規建設、既存原子炉の出力増強や運転寿命の延長など、世界各国で原子力発電を重要なエネルギー源として位置づけて、その利用を推進する動きが強まっていた。
 こうした中で、2011年3月に福島第一原子力発電所で国際原子力事象尺度レベル7の事故が起こった。40年以上にわたって安全に原子力発電を利用・推進してきた日本での事故であったが故に、世界各国の衝撃は大きかった。原子炉の安全確保が一層厳しく要求される中、今後の原子力開発を巡る動きは、各国の個別のエネルギー事情、環境、経済等の多様な状況を踏まえた展開となっている。
<更新年月>
2012年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.世界の原子力発電の動向の概要
 2012年1月1日現在、世界30ヵ国で427基、合計出力(グロス電気出力)は3億8,314.5万kW(前年:436基、3億9,220.3万kW)の原子力発電所が運転中である。建設中は69基、出力6,892.7万kW(前年:75基、7,573.4万kW)、計画中は144基、出力16,495万kW(前年:91基、9,974.9万kW)となり(表1参照)、運転中の合計出力は、前年を下回る結果となった。
 2000年以降、経済の急速な成長を背景に、中国、インド、韓国を中心にアジア諸国の原子力開発は拡大し、アジア地域で運転中の原子力発電所の基数及び設備容量は世界全体の5分の1、日本を除く建設中の設備容量は世界全体の60.6%(合計出力4,178万kW)で、計画中の設備容量は49.6%(合計出力8,182万kW)である。2000年以降に営業運転を開始した原子炉でも、中国、日本、韓国、インドなどのアジア地域は世界の約60%を占めており、原子力の利用が急増しつつある(表2及び図1参照)。
 また、そのほかベトナム、インドネシア、マレーシア、タイなどの東南アジア諸国、エジプト、ヨルダン、アラブ首長国連合などの中近東諸国を中心に原子力導入の機運が高まっている。欧米の原子力利用推進国は、地球温暖化対策の観点から低炭素化エネルギー源としての原子力発電の意義を見直し、新規原子炉建設に向けた許認可手続きの再構築、既存原子炉の出力増強、寿命延長を積極的に展開してきた。しかし、新規原子炉建設は2008年以降の金融危機による景気減速、資金難などで若干停滞気味である。
 一方、ロシアでは2007年12月に民生・軍事すべての原子力分野を統括するロスアトムのもとで世界に先駆けて原子力ルネサンスが到来した。IAEA発電炉情報システム(PRIS)によると、2012年1月時点で、ロシア国内では10基、約900万kWを建設中で、インド、ブルガリアが合計10基、730万kWの原子炉を建設している。また、旧ソ連諸国(アルメニア、ベラルーシ、ウクライナ)やトルコとは協力協定を締結して、資金調達支援と原子炉建設を提供する形で計画を進めている。
 こうした中で、2011年3月11日の東日本大震災において福島第一原子力発電所事故(国際原子力事象評価尺度(INES)レベル7)が発生した。40年以上にわたって安全に原子力発電を利用・推進してきた日本での事故であったが故に、世界各国の衝撃は大きかった。
2.原子力発電所をめぐる2010〜2011年の主な動き(表3参照)
2.1 営業運転を開始した発電所
 2006年以降、営業運転を開始した原子炉は17基(合計出力1,249.7万kW)で、地域別に見ると、日本、韓国、中国、インドなどのアジア地域が14基(合計出力979.3万kW)、ロシアを含むCIS諸国が2基(合計出力200万kW)であるが、西欧・中南米諸国では新たに営業運転を開始した原子炉はない。2011年に新たに営業運転を開始した原子力発電所は、インドのカイガ4号機(PHWR、22万kW)、パキスタンのチャシュマ2号機(PWR、32.5万kW)、中国の嶺澳4号機(CPR1000(中国国産PWR)、108万kW)、韓国の新古里1号機(OPR1000(韓国国産PWR)、100万kW)で全てアジア地域であった。また、2011年には中国高速実験炉(CEFR)(FBR、2.5万kW)、イランのブシェール(VVER-1000、100万kW、2012年1月5日営業運転開始)、ロシアのカリーニン4号機(VVER-1000、100万kW)が送電を開始している。
2.2 建設工事を開始した原子力発電所
 2011年に建設を開始した原子力発電所は、パキスタンのチャシュマ3号機(PWR、34万kW)、インドのラジャスタン7・8号機(PHWR、70万kW×2基)、日本の東通1号機(東京電力)(BWR、138万5,000kW)である。東通1号機は2011年1月に建設工事を開始したが、福島第一発電所事故をうけ、東京電力は2011年5月に建設工事を中断することを発表した。
 なお、2011年に建設を開始した発電所は3基のみであるが、2010年には中国で10基、1078万kWの建設を開始している。このうち、海陽2号機は米国WE社製AP1000、腰古(台山)2号機はフランスAREVA社のEPRで、2014年〜2015年の営業運転開始を目指している。
2.3 閉鎖した原子力発電所
 2011年に閉鎖した原子力発電所は、2011年3月に事故を起こした日本の福島第一1号機〜4号機の合計出力281.2万kWのほか、英国のマグノックス炉廃止計画に基づいたオールドベリー2号機(GCR、23万KW)、福島第一事故後に脱原子力政策を進めるドイツの8基・882.1万kWである。クリュンメルを除くドイツの閉鎖した原子炉7基は、2010年に運転寿命延長を閣議決定した原子炉で、事故を起こしたBWRの運転経験が35年〜40年と設計寿命に近かったことから、原子力モラトリアム宣言で直ちに停止した。なお、クリュンメルはトラブルが続き2007年から運転を停止していた。図2に世界の原子力発電の運転経験(原子炉・年)を示す。
3.福島第一原子力発電所事故後の動向
 2011年3月に発生した福島第一原子力発電所事故は、世界各国に様々な形で影響を与えた。原子炉の安全確保がこれまで以上に厳しく要求される中で、原子力開発を巡る動きは、各国の個別のエネルギー事情、環境、経済等の多様な状況を踏まえた展開となりつつある。各国における原子力の位置付けを表す指標として、図3に総発電電力量に占める原子力の割合(原子力シェア)を示す。福島第一原子力発電所事故後の原子力利用に係る動向を、グループ別に以下に示す。
(1)原子力利用・推進国(米国・フランス・韓国・ロシア)
 エネルギー自給率向上や戦略的産業成長戦略の観点から、原子力発電を国内で積極的に開発推進し、海外への展開も積極的に行なってきた国々。これらの国々は国内原子炉施設の設計・運転の安全点検を実施、問題がないことを確認した上で、事故の教訓を生かし、安全性の向上を図る一方、原子力政策に変更がないと発表している。
 欧州連合(EU)ではEC域内の原子力発電所の安全性確認のため、14ヵ国で運転中の143基について、EU共通の安全基準を設定して、安全性総点検(ストレステスト)を6月から実施している。対象国を図4に示す。福島事故は「想定外」の規模の地震と津波により核燃料の完全溶融(メルトダウン)が起こった。そこで、ストレステストでは、従来の安全基準で定められていた以上、または以外の事象が起こった場合に、それがシビアアクシデントにまで繋がるものかどうかを検証することを目的とし、各国原発事業者の自己採点を、原発設置を認可してきた各国の監督当局が評価する方式で行われた。この結果、ドイツ、オランダ、ハンガリー、ブルガリア、フィンランド、フランス等の国々で原子力規制当局が電力事業者などに対して、地震、洪水、猛吹雪などの自然災害に対し安全性を強化するための改善措置や追加調査を要求したものの、14ヵ国いずれも「原子力発電所を閉鎖するほどの深刻な欠陥は見あたらない」とした。
(2)原子力急成長国(中国・インド)
 エネルギー需要増に応じて今後、大規模な増設を計画している国々。安全性確認のため、短期的には原子力開発ペースが遅くなるとしながらも、長期的には安全性向上を図りつつ、開発促進を継続していくと発表している。
(3)新規導入準備国(アラブ首長国連邦(UAE))、トルコ、ベトナム、インドネシア等
 元来、エネルギーの原子力依存度が低い国々であるが、今後のエネルギー需要の増加や石油などの化石燃料資源を温存させるため、原子力の導入を計画している国々。
 これらの国々の中で、具体的な建設計画が決定している新規導入国(ベトナム、トルコ、UAE、ポーランド、ヨルダン、リトアニア、ベラルーシ)では、安全性を確認しつつ、当該建設計画を進める意向であるが、その前段階の国々では原子力建設計画を中止(マレーシア、イスラエル、ベネズエラ)するか、延期(タイ)するとしている。
(4)脱原子力国(ドイツ、イタリア、スイス)
 1986年4月のチェルノブイリ事故(INESレベル7)以降、「脱原子力政策」を進めた国々。ドイツ、イタリア等では政策の転換を図っていたが、事故後、再び「脱原子力政策」を選択した。ドイツは2022年までに全ての原子力発電所を廃止することで、連立与党が合意している。スイスは2034年までに国内5基の原子炉を全て停止する国家目標を2011年5月25日に決定したほか、イタリアは2011年6月14日に原子力発電所再生の是非を問う国民投票で、新規建設計画を凍結することが決定した。
 なお、EUの執行機関である欧州委員会(EC)は2011年12月「2050年までのエネルギー・ロードマップ」を採択した。ロードマップは欧州における長期的なエネルギー対策の枠組策定の基礎となるもので、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年比で80%以上を削減する(ほぼ炭素フリーのエネルギー利用に転換する)と約束している。この目標を実現するため、a.エネルギーの効率化、b.再生可能エネルギー、c.原子力、d.CO2の回収・貯蔵という選択肢を組み合わせたシナリオを設定している。
<図/表>
表1 世界の原子力発電設備容量
表1  世界の原子力発電設備容量
表2 地域別運転開始基数と出力(2000年〜2011年)
表2  地域別運転開始基数と出力(2000年〜2011年)
表3 原子力発電所をめぐる2010-2011年の主な動き
表3  原子力発電所をめぐる2010-2011年の主な動き
図1 世界の原子力発電設備容量
図1  世界の原子力発電設備容量
図2 世界の原子力発電の運転経験(原子炉・年)
図2  世界の原子力発電の運転経験(原子炉・年)
図3 世界各国の総発電電力量に占める原子力の割合
図3  世界各国の総発電電力量に占める原子力の割合
図4 欧州連合(EU)域内の原子力施設(2010年)
図4  欧州連合(EU)域内の原子力施設(2010年)

<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
世界の原子力発電の動向・アジア(2011年) (01-07-05-15)
世界の原子力発電の動向・中近東(2011年) (01-07-05-16)
世界の原子力発電の動向・北米(2011年) (01-07-05-17)
世界の原子力発電開発の動向・CIS(2011年) (01-07-05-18)
世界の原子力発電の動向・中南米(2011年) (01-07-05-19)
世界の原子力発電の動向・西欧州(2011年) (01-07-05-20)
世界の原子力発電の動向・東欧州(2011年) (01-07-05-21)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2011年次報告(2011年5月)
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2012年版(2011年10月)
(3)IAEA発電炉情報システム(PRIS):及び
(4)世界原子力協会(WNA):http://www.world-nuclear.org/info/reactors.html
(5)(財)日本エネルギー研究所(IEEJ):福島第一事故による諸外国の原子力開発政策への影響(2011年4月)、http://eneken.ieej.or.jp/data/3770.pdf
(6)欧州委員会(EC):Nuclear Power Plants in the European Union - 2010、

(7)欧州委員会(EC):Energy Roadmap 2050、
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=IP/11/1543&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
(8)(社)日本原子力産業協会:福島事故後の世界の原子力動向(2011年8月)、
www.jaif.or.jp/ja/joho/post-fukushima_world-nuclear-trend110905.pdf
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