<本文>
1.台湾の電力需給
1.1 電力事情
台湾の面積は日本の九州とほぼ同じ36,190km
2、人口は2,300万人、経済規模は日本の1/7程度である。1998年以降の経済成長をみると、台湾は電気・電子機器など工業化の進展に伴う輸出の拡大や中国への積極的な海外投資などにより2007年まで年平均5%前後の経済発展を達成してきた。経済部能源局が2011年1月に発表した「99-108年長期負載預測與電源開發規劃摘要報告」では産業用電力使用量は2010年(民国年号;99年)の1,554.1億kWhから2029年(民国年号;118年)には2,662.7億kWhと、年平均3.1%で増加し、供給電力量は、2010年の2,300.2億kWhから2029年には3,762.6億kWhとなり、年平均2.8%の増加と予測している(
図1および
図2参照)。一方、国内の化石燃料、水力などエネルギー供給資源は乏しく、99%以上を輸入に依存している。このため、台湾政府は2008年6月にエネルギー分野の基本政策である「永続的エネルギー政策綱領」を策定し、有限の資源を「効率的」に、環境にやさしい「クリーン」なエネルギーを開発し、エネルギー供給の「安定」を確保することを課題として、石油の需要抑制や供給源の多様化、海外自主開発油田の確保、LNG輸入拡大、
再生可能エネルギーの利用や省エネの推進を打ち出している。
1.2
電源構成
第2次世界大戦の終結により、台湾が日本の支配から離れた直後の1947年における台湾の電源は、99%が水力であった。以後石炭火力が次第に導入され、1963年には水力40%、石炭火力60%となった。1965年頃から石炭が石油に置き換わり始め、水力の割合は減り続け、1977年には石油火力が80%に達した。1978年には商業用原子力発電所1号機の運転を開始し、1978年から1985年にかけて相次いで合計6基の原子力発電所が営業運転を始めた。高騰した石油価格による石油依存抑制努力もあって、1985年には、電力需給バランスが原子力52%、火力35%、水力12%となった。しかし1986年以降反原子力の世論が高まり、原子力開発は停滞した。増え続ける需要に対して、1990年まで休止火力の運転再開等で対応したが、1991年以降は水力や火力発電所を増強した。しかしながら、急速な経済成長に応じた電力需要の急増に供給力は追いつかず、需給関係は次第に厳しくなりつつある。
表1に発電電力量の推移を、
表2に発電設備容量の推移を示す。2010年の燃料別発電電力量は、石炭49.91%、天然ガス24.61%、原子力16.85%、石油3.83%、水力2.94%、その他再生エネルギー合計1.87%である。また、燃料別発電設備容量は、石炭36.85%、石油8.56%、天然ガス32.17%、原子力10.52%、水力9.37%、その他再生エネルギー合計2.53%となっている。企業形態別での発電電力量の比率は、台湾電力公司が66.8%、IPP(民営電力事業者)が16.8%、自家発電16.4%である。
1.3 企業形態
台湾の電気事業は、台湾全土(離島を含む)にわたり「台湾電力公司」によって、発送電から配電まで一貫して独占的に行われている。台湾における電気事業は、清朝末期の1888年に始まった。日本統治時代には「台湾電力株式会社」によって台湾全域に電気が供給されていたが、終戦後、中華民国政府によって接収され、1946年5月、新たに政府資本により「台湾電力公司」が設立された。台湾電力公司は、1977年に政府出資の株式会社として、政府経済部(日本の経済産業省)の監督下で台湾の電気事業を行ってきた。しかし、電力業界の規制緩和、自由化、民営化が進む中、電力供給の安定化や競争による発電コストの低減などのため、1994年9月には民営電力事業者(IPP)への段階的な市場開放が検討された。以来、IPPの発電量は増加を続け、2010年現在、設備容量の比率で16.9%に達したほか、電力市場への外資投資基準の上限制限が撤廃されている。なお、自家発電設備からの余剰電力・IPPの電力は電力購入協定により台湾電力に販売される。現在、台湾電力市場は、国営総合電業(台湾電力公司)1社、IPP8社、自家発電設備を有する企業(コージェネシステムが中心)で構成されている。
2.台湾の原子力発電
2.1 原子力発電設備と原子力政策
台湾はアジアで日本に次いで2番目に原子力発電を導入した国で、1978年に金山第一原子力発電所1号機の営業運転を開始した。以来、第一(金山2号)、第二(國聖1号、2号)、第三(馬鞍山1号、2号)の3サイト合計で6基の
原子炉が営業運転を開始し、設備容量は5,144MWとなった。第四(龍門)発電所の建設は、その後の景気の低迷や1986年に発生したチェルノブイリ事故の影響による反原子力世論の高まりから建設予算が凍結、事実上建設は無期延期になった。
1990年代に入ると急速な経済の発展と電力需要の伸びが深刻な電力不足を引き起こしたことから、1999年3月には行政院原子能委員会により発電所建設が認可され、1号機が同月に、2号機が2000年1月には建設を再開。1号機は2004年に運転開始を予定していたが、国民党から「非核エネルギー政策」を打出す民進党へ政権交代したことで、2000年10月に行政院が建設中止を発表。エネルギー不足が生じないことを前提に脱原発に向かうこととなった。2002年10月に閣議了承を得た「非国家推進法案」では、原子力事故がもたらす危険性と難航している
放射性廃棄物問題を理由に、2011年から2017年までに既存の3基の原子力発電所を停止し、環境負荷の低いLNGと再生可能エネルギーで代替するという方針を打ち出した。
2008年に誕生した馬英九・国民党政権では、低炭素社会を実現するため、原子力も選択肢の1つとの見解を示し、非核国家構想の見直しを進めた。第四発電所1号機の営業運転開始は2011年末、2号機は2012年とされ、既存原子炉の運転延長、第四発電所への新規建設が視野に入っていたが、2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故と国光石化科技の大型プラント計画の中止を機に石油化学産業の高度化、質的成長を加味した政策調整が予想される。
表3に原子力発電所一覧を、
図3に原子力発電所の位置図を示す。
なお、第四(龍門)発電所は台湾電力公司により1978年に台湾北部の台湾県貢寮郷塩寮地区(台北市の東約40km)に選定され、1980年10月に建設計画が提出、政府は1981年にこれを承認している。一次系の主契約者が米国のゼネラル・エレクトリック(GE)社で、日立、東芝も企業連合に参加し、機器の製造にあたっている。また、一次系以外の機器は個別に調達されており、タービン発電機の供給は三菱重工業、アーキテクト・エンジニアは米国のストーン&ウェブスター・エンジニアリング社である。
2.2 放射性廃棄物の処理・処分
放射性廃棄物の管理は原子力発電所サイトから出る放射性廃棄物は台湾電力公司が、その他の工業、医療、研究施設から出る放射性廃棄物は核能研究所が責任を持つ。
2.2.1
低レベル放射性廃棄物
当初、本島南東部にある蘭嶼(ランユ)島でドラム缶33万本を集中貯蔵する計画であったが、島民の強い反対により第一期分工事で終了した。放射性廃棄物は1982年から1996年までに搬入されたが、約9万7千本のドラム缶も撤去する方針である。そのため、台湾電力公司は低レベル放射性廃棄物最終処分場となるサイト選定作業を1992年から開始している。2002年に台湾本島の西海岸から約150km沖合(中国福建省沿岸近く)にある島が候補地になったが、中国との両岸問題や、住民感情問題のこじれなどの諸事情から断念した。2006年3月には「低レベル放射性廃棄物最終貯蔵施設設置条例」が交付され、サイト選定プロセスとスケジュールが定められた。2009年2月には実地検査、有識者によるサイト選定委員会の承認を経て「台東県建仁」と「澎湖県望安」が推薦候補地となったが、「澎湖県望安」が自然保護区に指定され、再選定となった。2010年9月に「台東県建仁南田村」と「金門県烏キュウ小キュウ村」(注:「キュウ」は土ヘンに丘と書く漢字)が経済部から公告され、住民投票を経て最終決定される。現在、蘭嶼島の放射性廃棄物は安全に管理されている状態にあり、運転中の原子炉で発生した低レベル放射性廃棄物は各発電所内で一時貯蔵されている(
表4参照)。
2.2.2
使用済燃料の管理と処分計画
使用済燃料の貯蔵については、各発電所の貯蔵プールで約40年間冷却し、乾式
中間貯蔵した後、深地層での最終処分を行う計画である。
表5に第一(金山)、第二(国聖)、第三(馬鞍山)発電所における使用済燃料貯蔵プール内の使用済燃料貯蔵状況を示す。
最終処分計画については、1986年から
深地層処分の研究を行っており、台湾の地質が深地層処分に適していることが分かっている。同時に長期技術発展計画を作成し、1999〜2007年に岩盤の特性調査と評価の実施、2008〜2018年に詳細サイト候補地の調査と決定、2019〜2023年に詳細設計と政府の許可申請対応、2024〜2032年に処分場建設と試験という4段階で作業を進める計画である。
3. 発電計画
台湾の経済部能源局が発表した99-108年長期負載預測與電源開發規劃摘要報告(2011年1月)では長期電源開発計画に対し、エネルギーおよび電力政策全体に基づき、将来の電力使用量の需要増加を満たし、予備容量率16%を達成するために、2010〜2019年に新たに発電容量を1,678.3万kWに増やす計画を発表している。内訳としては石炭が756.1万kWで45.0%、天然ガスが406.6万kWで24.2%、石油が6.3万kWで0.4%、原子力が270.0万kWで16.1%、再生エネルギーが239.4万kWで14.3%としていたが、今後、原子力リスクを鑑みた上で、エネルギー全体に占める原子力発電の中長期的な比重や現在運転中の原子炉の稼働延長、再生可能エネルギーの数値目標等が再度検討されることが予想される。
(前回更新:2004年12月)
<図/表>
<関連タイトル>
台湾のエネルギー資源、エネルギー需給、エネルギー政策 (14-02-04-01)
台湾の原子力研究開発体制、原子力安全規制体制および原子力産業 (14-02-04-03)
台湾のPA動向 (14-02-04-04)
台湾の原子力国際協力、保障措置 (14-02-04-05)
<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編2008年版(2008年10月)、p.733-767
(2)藤井晴雄・森島淳好(編):詳細原子力プラントデータブック、(株)日本原子力情報センター(1994年)、p.116、763
(3)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑2011年(2010年10月)、p.130-139
(4)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力開発の動向 2010年版(2011年5月)、p.114-115
(5)日本原子力産業会議:原産マンスリーNo.22(8)、「台湾のエネルギー事情と原子力発電開発」(1997)、p.24-29
(6)台湾行政院原子能委員会:Radioactive Waste Management、
http://www.aec.gov.tw/www/english/radwaste/article2.php?n=02,
http://www.aec.gov.tw/www/english/radwaste/article2.php?n=04 および
http://www.aec.gov.tw/www/english/radwaste/article3.php?n=01
(7)国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency):Electricity generation by fuel,
(8)台湾行政院経済部能源局:2010能源統計手冊(2011年5月)
(9)台湾行政院経済部能源局:99-108年長期負載預測與電源開發規劃摘要報告(2011年1月)