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<概要>
 東欧州諸国で原子力発電所を所有している国は、チェコ、リトアニア、ブルガリア、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、スロベニアの7ヵ国。スロベニア、ルーマニアの原子炉は欧米型で、特にルーマニアは最新のカナダ製CANDU炉を採用し、世界的にも優れた運転実績を示している。他の5ヵ国の原子炉は全て旧ソ連製で、1980年代に建造されたものが多い。なお、リトアニアのイグナリナ発電所は同国唯一の原子力発電所であったが、チェルノブイリ発電所で事故を起こした原子炉と同型の軽水冷却黒鉛減速炉(RBMK)であったことから、EU加盟を条件に運転を停止した(1号機は2004年、2号機は2009年)。
 東欧州諸国は全般的にエネルギー資源に乏しく、化石燃料、核燃料とも輸入に依存している。そのため、旧ソ連時代から、エネルギー供給の要として原子力発電所が建設され、ソ連崩壊後も燃料供給、技術指導など、ロシアが積極的に支援してきた。しかし、これらの国々が欧州連合(EU)加盟実現に向けて歩みだしたことにより、老朽化した旧ソ連製原子炉の閉鎖や近代化が求められ、原子力事業は大きな転換期を迎えている。
 2011年12月現在、東欧州諸国の運転中原子力発電所は19基・合計出力は1202.3万kWで、全発電電力量に占める原子力発電のシェアは30%〜50%と極めて高い。
<更新年月>
2011年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 東欧州諸国(チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、スロベニア、ブルガリア、リトアニア)では、多くの旧ソ連製原子力発電所が稼働しており、現在も中心的な電源として活躍している。しかし、チェルノブイリ事故以降、旧ソ連製原子炉に対し、安全性を危惧する声が西欧を中心に高まり、国際問題や政治問題にまで発展した。また、これら東欧7ヵ国が欧州連合(EU)に新規加盟するため、老朽化した旧ソ連製原子炉の閉鎖や近代化を要求された国もあったことから、原子力事業は大きな転換期を迎えている。2011年12月現在、東欧州諸国の運転中原子力発電所は19基・合計出力は1202.3万kW(表1及び図1参照)。なお、東欧州諸国はエネルギー資源に乏しく、化石燃料、核燃料とも輸入に依存している国が多いため、旧ソ連時代から原子力発電所が積極的に建設された。全発電電力量に占める原子力発電のシェア(原子力シェア)は30%〜50%と極めて高い(表2及び図2参照)。エネルギー資源の多様化、ロシアへのエネルギー依存度の低下、近隣諸国への電力輸出を目指す上で、新たな原子力発電所建設への期待は大きい。
1.チェコ
 ドコバニ(DUKOVANY)1〜4号機(VVER-440/V-213、合計194万kW)と、テメリン(Temelin)1、2号機(VVER-1000/V-320、合計202.6万kW)が運転中である。ドコバニ発電所の工事は1974年に始まり、1号機は1985年5月に営業運転を開始、2〜4号機は1986年〜87年に順次運転を開始。2005年1月には運転寿命を2025年〜27年へ10年間延長している。
 一方、テメリン発電所は1983年7月に着工したが、反原子力政策を掲げる隣国オーストリアが建設に一貫して反対する国際問題に発展した。1年近い協議の後、2001年11月に合意。チェコはオーストリアに国内原子力発電所の高い安全性の確保に努力することを約束する一方、オーストリアはチェコのEU加盟協議においてエネルギー分野の交渉で協力することを約束した。1、2号機はともに2004年10月から営業運転を開始している。
 チェコの2010年の原子力発電電力量は264億kWh、原子力シェアは33.3%(2009年:原子力発電電力量は257億kWhで、石炭59%、原子力33%、水力・再生可能エネルギー4%、天然ガス4%)。
 2003年6月、貿易・産業省は(1)現行エネルギー政策の維持、(2)褐炭生産量の制限と再生可能エネルギーの助成、2基の原子力発電所の新設、(3)石炭及び天然ガス輸入の拡大を骨子とした今後30年間のエネルギー戦略を策定した。2004年3月には2030年を目標に原子力発電拡大によるエネルギー供給の自立案が政府に承認されている。これをうけ、チェコ電力(CEZ)は2008年7月、テメリン3、4号機(各出力120万kW)の原子炉を2013年から建設し、2023年から営業運転を始める計画を発表した。また、ドコバニ発電所5号機(出力120万kW)も検討されている。
2.スロバキア
 ボフニチェ(BOHUNICE)3、4号機(VVER−440、合計98万kW)と、モホフチェ(MOCHOVCE)1、2号機(VVER-440、合計94万kW)が運転中である。2010年の原子力による発電電力量は135億kWhで、原子力シェアは51.8%(前年度比3.1%増加、シェア53.5%)で、原子力シェアは中東欧諸国で最大。稼働率は85%〜92%と好調である。なお、ボフニチェ1、2号機は度重なる事故のため西側諸国から安全性を指摘され、EUに加盟するに当たり2006年12月に1号機を、2008年12月に2号機を閉鎖した。モホフチェ発電所は、1983年に建設を開始したが、資金難から1991年に建設を中断。1、2号機はチェコ・エネルゴプロエクト社、ロシア・エネルゴプロジェクト社、仏EDF、独シーメンス社、仏フラマトム社の合同企業により、1996年に建設を再開した。両機ともロシア製VVERであるが、西側の技術改良が加えられ、1号機が1998年10月に、2号機は2000年4月に運転を開始した。3、4号機に関しても2009年6月に建設を再開。2012年から2013年の運転開始を目指している。さらに2008年4月、ボフニチェ5号機建設に向けて合弁会社JESS社が設立された。欧州加圧水型原子炉(EPR)、出力120万kW〜170万kWを2025年頃に運転を開始したい意向である。
3.ハンガリー
 ハンガリーのパクシュ発電所(PAKS)は、4基、VVER-440(V-213)型原子炉、合計出力200万kWから成る。2010年の発電電力量は147億kWh(対前年比2.8%増加)、原子力シェアは42.1%、1〜3号機の稼働率は90%を越えている。パクシュ発電所は1970年代に建設工事を開始し、1980年代に営業運転を開始した。ハンガリー原子力庁は2005年6月にパクシュ発電所の長期戦略を発表。2006年〜2009年に効率改善と新型燃料集合体の実施で、1〜4号機の合計出力を15万kW(8%)増強と、設計寿命30年を50年に延長するプロジェクトを盛り込んだ。2010年2月には2025年までの出力倍増計画を発表している。
 パクシュ発電所は欧州の原子力規制当局からなる西欧原子力規制当局連合(WENRA)により「安全レベルは、西側と同等」との結論が出されているが、システムの老朽化や国内電力消費量の30%以上を輸入に依存していることから、ハンガリー電力株式会社(MVM)は2010年1月、新規原子炉2基(各出力100-160万kW)の建設を発表した。2013年までに炉型選定を行い、5号機を2020年から、6号機を2025年から運転を開始する計画である。
4.ルーマニア
 ルーマニアではチェルナボーダ発電所(CERNAVODA)は、1、2号機(CANDU-6、合計出力141万kW)が稼動している。2010年には107億kWhを発電(前年度比0.1%減少)、原子力シェアは19.5%であった。燃料交換・保守検査の計画停止は24ヶ月に1回のため、設備利用率は90%以上である。
 カナダ型加圧重水型重水炉(CANDU炉)を導入するにあたり、ルーマニア政府は1977年にカナダ政府と原子力協定を締結し、1978年、カナダ原子力公社(AECL)との間でチェルナボーダ発電所1-5号機の建設契約に調印した。1、2号機の建設工事は1982年、1983年に開始され、1号機は1996年12月に営業運転を始めた。しかし、2号機は資金難のため、建設工事は中断。欧州委員会(EC)の融資を得てようやく建設を再開、2007年10月から営業運転を開始した。政府は2015年までに全発電量に占める原子力シェアを30%まで引き上げるエネルギー戦略を発表したことで、事実上、資金難で建設工事が凍結していた3、4号機も2015年〜2016年完成を目指して動き出している。
5.スロベニア・クロアチア
 スロベニアのクルスコ発電所(KRSKO)(PWR、出力72.7万kW)は、米国ウェスチングハウス(WH)社製PWRを導入しており、2010年の発電電力量は54億kWh(対前年比1.8%減少)、原子力シェアは37.3%、稼働率92.23%であった。同発電所はクロアチアとの共同所有であり、発電量の50%はクロアチアへ送電、同国電力需要の約20%を供給している。
 クルスコ発電所は、スロベニアとクロアチアの境界付近に立地し、1983年1月から運転を開始している。1991年にユーゴスラビア共和国が崩壊したことで、発電所の帰属をめぐって両国間で争われていたが、2001年12月、クルスコ発電所を両国の共同所有にすることで正式に文書に調印した。2009年にはスロベニア電力(GEN Energija)とクロアチア電力(HEP)の間で運転寿命2023年を20年延長させることが合意された。
6.ブルガリア
 ブルガリアのコズロドイ発電所(KOZLODU)は5、6号機が運転中(VVER-1000/V-320、合計出力200万kW)である。同発電所は6基から構成され、1-4号機はVVER-440(出力各44万kW)の中でもV-230と呼ばれる旧型炉を採用しているため、1、2号機は2002年12月末に、3、4号機は2006年12月に運転を停止した。2010年の原子力発電電力量は142億kWhで、原子力シェアは33.1%、稼働率は89.15%と84.92%であった。
 コズロドイ1-4号機の閉鎖は、1999年11月30日、ブルガリアのEU加盟への条件として欧州委員会(EC)との間で合意していたもので、2000年10月、西欧原子力規制当局連合(WENRA)は報告書の中で「1次系配管での漏洩事故に対する十分な安全対策が施されていない」と指摘、安全性の改善は極めて困難として早期閉鎖が勧告されていた。なお、3、4号機の代替電源として、2004年5月には資金難等で建設を中断していたベレネ原子力発電所1、2号機(BELENE)の建設再開が決定され、2006年10月、ブルガリア電力公社(NEK)は炉型をロシア・アトモストロイエクスポルト(ASE)のVVER-1000(AES-92)に決定した。2012年に着工する予定であるが、資金調整等で工程は遅延気味である。2011年4月に発表した2020年のエネルギー戦略によれば、5、6号機の出力増強と運転期間の延長、またはコズロドイサイト内での2基の新規原子炉の増設が検討の対象となっている。
7.リトアニア
 リトアニアではイグナリナ発電所(IGNALINA)(IGNALINA-1、-2、RBMK-1500、出力各150万kW)が国内唯一の原子力発電所であったが、チェルノブイリ発電所で事故を起こした原子炉と同型の軽水冷却黒鉛減速炉(RBMK)であったことから、1号機は2004年12月末に、2号機は2009年12月末に運転を停止した。そのため、現在運転中の原子炉は無い。
 イグナリナ2号機が閉鎖する前の2008年の発電電力量は139億kWh、その内訳は原子力:71%、天然ガス:15%、水力:7%であり、9億5,700万kWhの電力をエストニアやラトビアへ供給していた。しかし、現在は国内電力の約90%をロシアからの天然ガスに依存している。このような状況下で2009年3月、政府はイグナリナ2号機の代替電源として、イグナリナ発電所に隣接するビサギナス地区に新規発電所を建設するという法案を承認した。2018年〜2020年の運転開始を目指している。
<図/表>
表1 東欧州の原子力発電開発の現状
表1  東欧州の原子力発電開発の現状
表2 東欧州諸国の原子力発電所一覧
表2  東欧州諸国の原子力発電所一覧
図1 東欧州諸国の原子力発電所立地点
図1  東欧州諸国の原子力発電所立地点
図2 東欧州諸国の電源構成と原子力発電シェア
図2  東欧州諸国の電源構成と原子力発電シェア

<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
リトアニアの原子力発電開発と原子力政策 (14-06-05-02)
ブルガリアの原子力発電開発 (14-06-06-03)
チェコの原子力事情 (14-06-07-02)
スロバキアの原子力事情 (14-06-08-02)
ハンガリーの原子力発電開発 (14-06-09-04)
ルーマニアの原子力発電開発 (14-06-11-01)
スロベニアおよびクロアチアの原子力事情 (14-06-12-01)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向、2011年版(2011年5月)
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑2012、中東欧州諸国(2011年10月)
(3)世界原子力協会(WNA):Nuclear share figures, 2000-2010, http://world-nuclear.org/info/nshare.html 及び World Nuclear Power Reactors & Uranium Requirements, http://world-nuclear.org/info/reactors.html
(4)世界原子力協会(WNA):
チェコ(http://www.world-nuclear.org/info/inf90.html)、
スロバキア(http://www.world-nuclear.org/info/inf91.html)、
ハンガリー(http://www.world-nuclear.org/info/inf92.html)、
ルーマニア(http://www.world-nuclear.org/info/inf93.html)、
スロベニア(http://www.world-nuclear.org/info/inf114_nuclearslovenia.html)、
ブルガリア(http://www.world-nuclear.org/info/inf87.html)、
リトアニア
(5)IAEA発電炉情報システム(PRIS)ホームページ:
(6)米国エネルギー情報局(EIA)設備容量ホームページ:http://www.eia.doe.gov/emeu/international/electricitycapacity.html
(7)国際エネルギー機関(IEA):Electricity/Heat Data for Lithuania,
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