<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 世界の原子力発電
<タイトル>
世界の原子力発電の動向・中近東(2011年) (01-07-05-16)

<概要>
 中近東地域では現在稼働中の原子力発電所はないが、電力需要の伸びが大きいことから、トルコ、イラン、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)およびエジプトで原子力発電計画が進められている。
 かつて経済的な理由により原子力発電所建設計画は凍結されていたトルコのアックユ発電所にはロシアのASE社がAES-2006(VVER-1200)4基を建設する計画である。イランでは、核兵器開発を懸念する米国の強い反対はあるが、ロシアとの協力でブシェール原子力発電所1号機の建設を進め、2012年の営業運転開始を目指している。イラク、イスラエルに関しては政治的情勢から足踏み状態にある。なお、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)およびエジプトに関しては、近年の電力需要の増加に対応して2020年頃の運転開始を目指した新規の原子力発電所導入計画が浮上している。
<更新年月>
2011年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.中東
 図1に中東およびエジプトの建設中または計画中の原子力発電所立地点を、表1に中近東の原子力発電開発の現状を、表2に中東の原子力発電所の一覧を示す。
1.1 トルコ
 トルコの経済は、1999年の大地震や2001年および2008年の金融危機を経て若干鈍化したものの、2009年後半から回復傾向が見られ、各種経済指標も改善、2010年には実質GDP8.9%の成長を果たした。トルコ送電公社(TEIAS)のトルコ電源開発10ヵ年計画(Turkish Electrical Energy 10-Year Generation Capacity Projection 2010)によると2010年〜2020年の電力需要は年率の7.9%と予測され、発電設備容量を2010年の49,524MWから2020年には66,611MWまで拡大させる計画である。また、中長期的には2030年までに800〜1,000万kWの原子力発電設備を建設して、電力需要の25%を賄う計画である。2010年の発電電力量は1,981億kWh、総発電設備容量は49,524MW、その内訳は天然ガス32.53%、水力31.97%、再生可能エネルギー3.05%で、現在、トルコには稼働中の原子炉は無い。トルコは自国の天然資源を持たないが、地理的位置上、中央アジアから欧州への石油・天然ガスパイプラインのエネルギー輸送の要衝として注目を集めている。
 トルコの原子力発電所開発計画は1968年から開始されている。国営電力のトルコ発送電公社(TEAS)は、地中海沿岸のアックユと、黒海沿岸のシノップに発電所を建設することを計画したが、立地サイトや財政上の問題で計画を凍結した。しかし、2006年に政府が原子力発電所の建設計画を発表したのを機に、2007年には原子力法を制定。原子力プラント建設の入札方法、原子力安全規制機関の創設、デコミショニングや放射性廃棄物処分のファンドの創設などを既定した。2008年1月、天然エネルギー省(MENR)が480万KWの建設プロジェクトを発表すると、ロシアのアトムエネルゴプロム傘下の原子力輸出部門調整会社アトムストロイエクスポルト(ASE)社がアックユにロシア型PWR、AES-2006(VVER-1200)4基の建設を提案。2010年5月には協力合意文書に調印した。総工費の200億ドルはロシア側が全額出資し、所有・運転はロシア中心のコンソーシアムが行う。2018年に運転を開始する予定である。トルコはシノップおよびそれに続く第3のサイトである黒海沿岸のイグネアダでの原子力発電所の建設に関しても意欲的である。
1.2 イラン
 イランは豊富な石油資源を有し、2010年末のBP統計では石油確認埋蔵量は世界第3位、1,370億バーレル(世界の9.9%)であり、天然ガス埋蔵量はロシアに次いで世界第2位、29兆6,000億m3(世界の15.8%)が存在している。これらの天然資源を背景に発電システムはガス火力が中心で、2008年の発電電力量は2,145億kWh、電源別の内訳は、ガス火力が80.8%で最も多く、石油が16.6%、水力は2.3%となっている。既設電力発電容量は34,000MWで、毎年7〜8%の増加が今後見込まれており、2015年までに少なくとも70,000MWの発電容量が必要になると推定されている。当面必要な電力は水力とコンバインドサイクルの開発で賄われる見通しであるが、イラン原子力庁(AEOI)は今後20年間で2,000万kWの原子力発電所を運転開始する方針である。
 ペルシャ湾北岸のブシェール発電所はパーレビ国王体制下でイラン初の原子力発電所として建設が計画された。当時の西ドイツのKWU社(後にシーメンス社KWU事業部)が受注し、1976年にPWR2基・129万3,000kWの建設を開始した。1979年のイスラム革命により、西ドイツが建設中止命令を出して撤退。工事進捗率は当時、1号機が80%、2号機が60%であった。さらにイラン・イラク戦争(1980年9月〜1988年8月)でブシェール発電所は爆撃にあい、ひどく破損した。
 1995年1月、イラン政府はロシア政府との間で、ブシェール原子力発電所建設協力契約を締結。1996年1月にロシア原子力省(MINATOM)傘下のザルベツアトムエネルゴストロイ(ZAES)社により先ず1号機の工事を再開した。1号機はロシア製のPWRであるVVER-1000(100万kW)へ設計変更がなされた。2006年に営業運転を開始する予定であったが、設計変更から生じた設計の複雑さや機器供給の遅れ、新旧機器の調整等から建設は大幅に遅延した。2011年9月に送電を開始、2012年1月から営業運転を開始する予定である。
 また、イランは新たにイラン独自のPWR、IR-360を採用したダールホヴェイン発電所の建設を計画入りさせている。なお、イランは核不拡散条約に調印しており、2003年12月、国際原子力機関IAEAの査察を認める追加議定書に調印している。
1.3 イラク
 イラクは1960年代に原子力開発を始めた。しかし、イランとの8年戦争(1980年9月)後、化学兵器、地対地ミサイルの開発に着手したため、イスラエルは1981年6月、オシラク研究炉(タンムズ-2号)を爆撃。以来、原子力発電所開発のプログラムは休止状態になった。また、1991年湾岸戦争での空爆により所有する3基(実質2基)の研究炉などの原子力関連施設は、ほとんどが崩壊した。国連安全保障理事会は、制裁措置として1991年からイラク石油収入の国際管理や原子力開発の凍結を行っていたが、2010年に解除している。
1.4 イスラエル
 イスラエルはフランスの支援を得て原子炉開発を始め、1957年には南部のネゲブ砂漠のディモナ(Dimona)に建設した原子力発電施設および小規模研究炉(テルアビブ南部)のほか原子力発電所は存在しない。2002年2月、インフラ省はネゲブ砂漠のシブタ地域に原子力発電所(出力1,200MW)を建設するための現地調査を実施する計画を発表した。イスラエル電力公社(IEC)は1995年以降、60万kW級の発電所の導入の可能性について調査を行っているが、イスラエルは核不拡散条約に加盟していないこと、パレスチナとの軍事衝突など、現状では原子力機器や核物質を購入できる状況にはない。IECでは当面、中東和平の進展など政治情勢を見守るかたちである。2009年時点、総発電電力量は553.1億kWhで、92.3%石炭が火力発電による。消費電力量は494.7億kWh、2000年〜2009年における増加率は2.7%と電力需要は増加傾向にある。増設はガス火力で賄うことを目標に、石油、ディーゼル油火力からの転換を図っている。
1.5 アラブ首長国連邦(UAE)
 UAE連邦政府は、2008年4月、「原子力平和利用の評価と将来の開発可能性に関するUAEの政策」を発表し、2020年に4,000万kWの電力需要を見込み、約2,200万kWが不足すると試算した。これをもとに、原子力発電の新規導入に向けた計画を策定、2017年の初号機運転開始を目標に原子力開発を進めている。UAEは原子力発電の導入にあたって、国営の原子力公社(ENEC:Emirates Nuclear Energy Corporation)を立上げ、ENECと外国企業との合弁会社を設立して原子炉の建設運転を行う計画で、導入する原子炉は一つの技術に統一する方針を示した。また、連邦原子力規制庁(FANR)の設置など、核不拡散・原子力安全・核防護・インフラ基盤整備も進められた。2009年10月には「原子力の平和利用に関する連邦法」を発効。ウラン濃縮、再処理、重水製造、プルトニウムを含む燃料の製造を禁じたため、燃料は海外から供給される。2009年12月、韓国企業連合(韓国電力公社(KEPCO)・現代建設・サムスンC&T・斗山重工業など)が受注競争を勝ち抜き、総額400億ドル規模の契約を獲得した。2020年までに1,400MW級のPWR型原子炉4機の完成を目指している。発電所サイトは2010年4月にUAE西部、ペルシャ湾岸のブラカ(Braka)に決定しており、2011年3月岩盤基礎工事を開始した。
1.6 ヨルダン
 ヨルダンは国内に石油・石炭・天然ガスなどのエネルギー資源がほとんど無く、95%を近隣のアラブ諸国から輸入している。一方、ウランの確認埋蔵量は111,800tUと世界の2%を占める(レッドブック「ウラニウム2009」)。国内ウランの資源化とエネルギーとしての活用は国策であり、2007年には原子力法を改定し、体制を整えるとともに原子力発電導入へのプログラムを策定した。ヨルダン原子力委員会は今後30年間に1,000MW級規模の原子炉4基を建設し、2018年までに初号機を、数年後に2号機の運転開始を目指している。サイト候補地として2010年12月に首都アンマンの北東40kmサムラ・マジュダル地区が選定され、現在、立地調査および環境調査が行われている。炉型は日仏合同のATMEA-1、ロシアのVVER-1000またはカナダの新型CANDU-6から選定される見込みである。なお、ウラン資源開発は海外資本を導入してウラン埋蔵地域の探査・採掘を推進する方針で、2008年から仏アレバ社や中国を中心に協定を結んでいる。
2.北アフリカ
2.1 エジプト
 エジプトは1955年から原子力委員会(翌年、原子力庁へ昇格)を設置し、体制を整えるとともに原子力導入の検討を開始。1978年には10年間で10基の商業用原子炉の建設計画が発表されたが、チェルノブイリ原子力発電所の事故を受けて原子力発電計画を中断した経緯がある。しかし、近年の電力需要の増加に対処するため、2007年、ムバラク大統領(当時)が「エジプト原子力発電事業計画(2007年改定版)」を発表。2010年には地中海に面した港湾都市アレクサンドリア(Alexandria)の西に位置するダバー(Dabaa)を建設予定地として発表。2025年までに4,000Mに相当する4つの原子力発電所を建設する計画を推進するとした。入札公示は2011年1月〜2月頃を予定されていたが、一連の政府への抗議デモを受け、現在一時的に入札公示を延期している。なお、首都カイロの北60kmにあるインシャス原子力研究センター(Inshas)には研究炉としてETRR-1(出力2MW、旧ソ連から1961年提供)およびETRR-2(出力22MW、アルゼンチンINVAP社から1997年提供)があり、ロシアの支援を受けて運転している。
<図/表>
表1 中近東の原子力発電開発の現状
表2 中東の原子力発電所一覧表
図1 中近東の原子力発電所立地点

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<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
原子力を利用した海水淡水化の世界の動向 (01-04-03-04)
イランの原子力開発と原子力施設 (14-07-01-01)
イラクの原子力開発と原子力施設 (14-07-02-01)
イスラエルの原子力開発と原子力施設 (14-07-03-01)
トルコの原子力開発 (14-07-04-01)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2011年版(2011年5月)
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑2012(2011年11月)、中東およびトルコ
(3)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編(2010年3月)、中近東
(4)世界原子力協会(WNA):イラン(http://www.world-nuclear.org/info/inf119_nucleariran.html)、トルコ(http://www.world-nuclear.org/info/inf128-nuclear_power_in_turkey.html)、アラブ首長国連邦(http://www.world-nuclear.org/info/UAE_nuclear_power_inf123.html)、Emerging Nuclear Energy Countries(http://www.world-nuclear.org/info/inf102.html
(5)米国エネルギー情報局・中東諸国ホームページ:トルコ(http://www.eia.gov/countries/cab.cfm?fips=TU)、イラン、イラク、中東および北アフリカ
(6)トルコ発電会社(EUAS):
(7)(社)日本原子力産業協会:ウラン資源量と生産量(レッドブック「ウラニウム2009」)http://www.jaif.or.jp/ja/joho/press-kit20100826-1.pdf
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