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東欧州(チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、スロベニア、ブルガリア、リトアニア)では、多くの旧ソ連製原子力発電所が稼働しており、現在も中心的な電源として活躍している。しかし、
チェルノブイリ事故以降、旧ソ連製原子炉に対し、安全性を危惧する声が西欧を中心に高まり、国際問題や政治問題にまで発展した。また、これら東欧7か国が欧州連合(EU)に新規加盟、または加盟準備(ルーマニアおよびブルガリア:2007年1月以降加盟予定)するため、老朽化した旧ソ連製原子炉の閉鎖や近代化を要求された国もあったことから、原子力事業は大きな転換期を迎えている。原子炉閉鎖に関しては、代替エネルギーの確保が急務であり、電力供給不足などを懸念して、原子炉の運転延長をEUへ要請する動きもある。
2005年12月末現在、東欧州諸国の運転中原子力発電所は23基・合計出力は1,402.1万kW、建設中は4基・282.4万kW、計画中は2基・200万kWとなっている(
表1参照)。
図1に東欧州諸国の原子力発電所立地点を示す。
なお、東欧州諸国はエネルギー資源に乏しく、化石燃料、核燃料とも輸入に依存している国が多い。そのため、エネルギー供給の要として、旧ソ連時代から原子力発電所が積極的に建設された(
表2参照)。2004年度における
電源構成と総発電電力量に占める原子力の発電のシェアを
図2に示す。
1.チェコ
ドコバニ1−4号機(DUKOVANY、VVER−440/V−213、各44万kW)と、テメリン1−2号機(Temelin、VVER−1000/V−320、各98.1万kW)が運転中である。テメリン1号機は2000年10月に初臨界を達成し、その後、試運転中に非原子力部分の不具合に度々見舞われ運転を停止したものの、2004年10月11日に営業運転を開始した。一方、2号機は2002年5月に初臨界を達成し、2004年10月11日に営業運転を開始している。
テメリン発電所の工事は1982年に発注、1983年7月に
着工しているが、反原子力政策を掲げる隣国のオーストリアが建設に一貫して反対して国際問題に発展した。チェコとオーストリアは、1年近い協議の後、2001年11月29日に合意。チェコはオーストリアに国内原子力発電所の高い安全性の確保に努力することを約束する一方、オーストリアはチェコのEU加盟協議においてエネルギー分野の交渉で協力することを約束した。
チェコの2005年の原子力発電電力量は232億5,500万kWh、総発電電力量に占める原子力シェアは30.52% (2004年:発電量263億kWh、シェア31.2%)。2005年の稼働率はドコバニ1−4が92.12%、91.8%、79.26%、90.52%、テメリン1−2が72.32%、82.14%。
2003年6月、貿易・産業省は(1)現行エネルギー政策の維持、(2)褐炭生産量の制限と
再生可能エネルギーの助成、2基の原子力発電所の新設、(3)石炭および天然ガス輸入の拡大を骨子とした今後30年間のエネルギー戦略を策定した。2004年3月には2030年を目標に原子力発電拡大によるエネルギー供給の自立案が政府に承認されている。これをうけ、テメリン発電所3−4号機として140万〜150万kW級の発電所の増設が検討されている。
2.スロバキア
ボフニチェ1−4号機(BOHUNICE、VVER−440、各44万kW)、モホフチェ1−2号機(MOCHOVCE、VVER−440、各44万kW)が運転中である。2005年の原子力による発電電力量は163億3,529万kWhで、原子力シェアは56.1%(2004年: 156億kWh、55.2%)。2005年の稼働率はボフニチェ1−4が64.96%、78.95%、72.4%、79.49%、モホフチェ1−2が76.46%、85.99%。
モホフチェ発電所は、1号機が1998年10月に営業運転を開始。2号機は技術面、資金難により運転開始スケジュールが遅れたが、2000年4月に営業運転を開始した。両機ともロシア製VVER−440/V−213型であるが、西側の技術を導入して改良が加えられている。
2005年2月、政府はスロバキア電力の政府保有株のうち66%をイタリア電力公社(ENEL)へ売却する契約に調印した。売却額は8億4,000万ユーロ(約10億米ドル)で、ENEL側のモホフチェ3−4号機(VVER−440/V−213型)の投資計画とスロバキア政府側のボフニチェ1−2号機の
デコミッショニングに関する法整備が条件になっている。また、ENELは2005年8月、スロバキア電力発電設備容量拡大に約23億ドルを投じ、1992年から資金難で建設を中断しているモホフチェ3−4号機の建設再開を約束した。
なお、ボフニチェ1−2号機(VVER−440/V−230)型は、EUから「EUの安全基準を満たしておらず安全性に問題がある」と指摘され、2006年12月、2008年12月にそれぞれ閉鎖される予定である。モホフチェ3−4号機の完成まで電力不足分は、火力発電所の出力増強と電力輸入などで補填される。
3.ハンガリー
ハンガリー唯一の原子力発電所であるパクシュ発電所1−4号機(PAKS)は、VVER−440 (V−213)、4基から成る。出力は各44万kWであったが、それぞれ出力増強を行ない、1号機は46.7万kW、2号機は46.8万kW、3号機は46万kW、4号機は47.1万kW、となっている。2005年の発電電力量は130億2,047万kWhで、総発電電力量に占める原子力シェアは37.2%(2004年:発電量112億kWh、シェア33.8%)。 2005年の稼働率はそれぞれ91.52%、75.83%、80.11%、91.24%であった。
ハンガリー原子力庁は2005年6月、2014年までを見据えたパクシュ発電所の長期戦略を発表した。2006年〜2009年にかけて効率改善と新型燃料集合体の実施で、1−4号機の合計出力を15万kW(8%)増強と、4機の設計寿命30年から、バックフィット作業を重ねて20年の運転期間延長が盛り込まれている。運転期間延長に関する最終決定は2006年〜2007年頃になる見通しである。なお、同発電所は欧州の原子力規制当局からなる西欧原子力規制当局連合(WENRA)により「安全レベルは、西側と同等」との結論が出されている。
4.ルーマニア
チェルナボーダ1号機(CERNAVODA−1、CANDU−6、出力70.6万kW)は、2005年に51億1,296万kWhを発電、総発電電力量に占める原子力発電の割合は8.6%となった(2004年:発電量51億kWh、シェア10.1%)。また2005年の平均設備利用率は89.11%だった。同機は2年毎に運転認可を更新することが義務付けられている。
同機はルーマニア唯一の原子力発電所で、カナダ型加圧重水型重水炉であるCANDU−6を採用しており信頼性が高い。しかし、西欧原子力規制当局連合(WENRA)は2000年10月、「チェルナボーダ1号機の抱える問題は資金難であり、これは同機の管理体制を揺るがす恐れがある」と警告した。
チェルナボーダ発電所では2−5号機が建設中だが、3−5号機の建設作業は資金難により、事実上凍結されている。残る2号機(CANDU−6、70.6万kW)の建設は継続されており、工事進捗率は86%。ルーマニアの国営電力会社Nuclearelectrica社は2001年5月、カナダ原子力公社(AECL)、イタリア・アンサルド社との間で、2号機の最終的な建設契約を締結した。契約総額は約6億8900万米ドルで、2007年4月に営業運転を開始する予定である。また、チェルナボーダ3号炉に関しては共同事業者を公募し、将来の電力売り上げと資産を担保にして、建設費の70%を調達する方針であり、2011年の運開を目指している。
5.スロベニア
スロベニアで運転中のクルスコ発電所(KRSKO、PWR、出力70.7万kW)は、米国ウェスチングハウス(WH)社製PWRを導入しており、2005年の発電電力量は56億1,366万kWh、原子力シェアは42.4%(2004年:発電量52億kWh、シェア38.8%)、稼働率97.69%。
西欧原子力規制当局連合(WENRA)は2000年10月、報告書の中で「将来的に、クロアチアとの共同所有という形に起因する組織的な問題点や、エネルギー部門の民営化過程に生じる安全管理の不安定要素は予測されるものの、クルスコ発電所の安全性は西側炉と同等」と指摘している。
クルスコ発電所はスロベニアとクロアチアの境界付近に立地し、1983年1月に営業運転を開始した。その後1991年にユーゴスラビア共和国が崩壊したことにより、発電所の帰属をめぐって両国間で争われたが、2001年12月、クルスコ発電所を両国の共同所有にすることで正式に文書に調印。これにより(1)同発電所の所有権は両国にある、(2)同発電所で発電された電力の半分はクロアチアに供給される、(3)同発電所の運転会社はクロアチア国民も雇用する義務がある、(4)デコミ基金は両国で手当てする、(5)
放射性廃棄物の処分方法は同発電所を閉鎖してから決定する、(6)所有問題が決着したことで運転会社の民営化が可能になる——等が正式に確認された。
6.ブルガリア
ブルガリアではコズロドイ発電所が運転中(KOZLODUY3−6)。同発電所は6基から構成され、1−4号機はVVER−440の中でもV−230と呼ばれる旧型炉を採用(出力は各44万kW)。5−6号機はVVER−1000/V−320型を採用している(出力は各100万kW)。2005年の原子力発電電力量は173億4,300万kWhで、原子力シェアは44.1% (2004年:発電量156億kWh、シェア41.6%)。
ブルガリア政府と
欧州委員会(EC)は1999年11月30日、ブルガリアのEU加盟への条件としてコズロドイ1−4号機の閉鎖について基本合意している。1−2号機については2002年12月31日に閉鎖。3−4号機に関しても2006年12月までの閉鎖を要求されているが、電力需給逼迫を理由に柔軟な対応を求めている。なお、2000年10月、西欧原子力規制当局連合(WENRA)の報告書では、コズロドイ1−4号機は「1次系配管での漏洩事故に対する十分な安全対策が施されていない」と指摘、安全性の改善は極めて困難として早期閉鎖が勧告されている。一方、IAEAが2002年7月に公表したレビューでは「安全格納設備付の同3−4号機の安全性は西側炉に比肩する」と結論している。
2005年4月、EUは3−4号機の代替電源として、ベレネ原子力発電所1−2号機(BELENE、PWR、各100万kW級)の建設計画再開を正式に承認し、ブルガリア電力公社が国際入札に
着手した結果、ロシア・フランスと、チェコ・米国・イタリアの2つのコンソーシアムが入札した。1号機は2011年、2号機は2013年に営業運転開始を予定している。
7.リトアニア
リトアニアでは現在イグナリナ2号機(IGNALINA2、RBMK−1500、出力150万kW) が運転中である。旧ソ連製の軽水冷却黒鉛型炉で出力は150万kWであるが、安全上の理由から出力を130万kWに落として運転している。隣接するイグナリナ1号機(RBMK−1500、出力150万kW)はEU側の要求により2004年12月31日に閉鎖した。2004年の稼働率は88.52%。
同国は、人口370万人の小国に旧ソ連時代に建設されたイグナリナ原子力発電所が残されたため、原子力シェアが極めて高い。2005年の原子力発電電力量は103億kWhで、原子力シェアは69.6%、稼働率は91.94%(2004年:発電量139億kWh、シェア72.1%)。
イグナリナ発電所は、チェルノブイリ事故を起こしたのと同型の旧ソ連製のRBMK型炉であることから、EUは安全上の観点から原子炉の閉鎖をEU加盟の条件とした。2002年6月11日、リトアニアとEUはイグナリナ発電所の閉鎖について基本合意している。リトアニアは2号機を2009年12月に閉鎖する予定で、EUは閉鎖のための広範な資金援助を行う。
リトアニアの国家エネルギー戦略では、2号機を2009年に閉鎖するが、2015年〜2017年をめどに原子力発電所の新規建設を目指している。リトアニアは電力需要の70%以上を原子力で賄うと共に、エストニアやラトビアにも電力を供給してきた。バルト三国の電力会社が2005年5月に発表した報告書によると、イグナリナ2号機が2009年に閉鎖された場合、2023年には需要が供給能力を2倍近くも上回ることになるという。イグナリナ発電所閉鎖による電力不足は、既存の化石燃料火力発電所の出力増強、ロシアからの天然ガスの輸入、ロシア等からの電力輸入で賄われる。しかし、三国は一致して脱ロシア依存型のエネルギー政策を構築する方針であり、2015年までにリトアニアの新規原子力発電所の建設に、総額30−40億ドルの投資を予定している。
なお、イグナリナ発電所廃炉計画の一環として、
欧州復興開発銀行(EBRD)の資金が提供され、ドイツのコンソーシアムによる使用済燃料乾式貯蔵施設の建設が2008年から開始される予定である。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
世界の原子力発電の動向(2005年) (01-07-05-01)
リトアニアの原子力発電開発と原子力政策 (14-06-05-02)
ブルガリアの原子力発電開発 (14-06-06-03)
チェコの原子力事情 (14-06-07-02)
スロバキアの原子力事情 (14-06-08-02)
ハンガリーの原子力発電開発 (14-06-09-04)
ルーマニアの原子力発電開発 (14-06-11-01)
スロベニアおよびクロアチアの原子力事情 (14-06-12-01)
<参考文献>
(1) 日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向、2005年次報告(2006年5月)
(2)(社)日本原子力産業会議:世界の原子力発電開発の動向、2001年次報告(2002年5月)
(3) 世界原子力協会(WNA)ホームページ:Nuclear share figures, 1995−2005、
http://www.world-nuclear.org/info/nshare.htm
(4) IAEA発電炉情報システム(PRIS)ホームページ:
(5) 米国エネルギー情報局(EIA)設備容量ホームページ: