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<概要>
 チェコでは、南モラビアにあるドコバニ原子力発電所と南ボヘミアにあるテメリン原子力発電所が運転中である。ドコバニ原子力発電所は4基のVVER-440/V213型炉(合計出力187万kW)で構成されている(VVERはロシア型PWR)。また、テメリン原子力発電所は2基のVVER-1000/V320型炉(合計出力203万kW)で構成されている。このほか、チェコには3基の研究炉、ヤーヒモフとリトムニェジツェにある研究・医療用の放射性廃棄物処分場、ドコバニ原子力発電所で発生する使用済燃料中間貯蔵施設と低・中レベル放射性廃棄物処分施設などがある。
 チェコ電力(CEZ)は、原子力発電所を含む国内発電設備の約70%を所有し、チェコ南部と首都プラハ以外の配電の責任を負う配電会社などを子会社とするCEZグループを構成している。CEZは株式の約70%を国(財務省)が保有する株式会社である。
<更新年月>
2011年02月   

<本文>
1.原子力発電開発の動向
 チェコでは、ドコバニとテメリンの2つの原子力発電所が運転中であり、いずれもCEZが所有、運転し、政府直属の原子力安全局(SUJB:State Office for Nuclear Safety)が、原子力関係の規制を行っている。ドコバニ発電所は、旧ソ連設計第2世代のVVER-440/V213が4基(1、2、4号機は46万kW、3号機は50万kW)、テメリン発電所は、第3世代のVVER-1000/V320が2基(各101万kW)運転されている。チェコは、原子炉蒸気発生器、タービン発電機等を製造できる産業基盤を持っており、ドコバニ発電所の機器の80%は国産である。表1にチェコの原子力発電所一覧、図1に原子力発電所と原子力関連施設の所在地を示す。同国の2009年の原子力発電電力量は272億780万kWh(2008年:265億5,100万kWh)で、総発電電力量に占める原子力シェアは前年より1.3ポイント増の33.1%だった。図2にチェコの総発電電力量の推移、図3にチェコの電源別発電電力量の推移、図4にチェコの電源別発電電力量構成比、図5にチェコの電源別発電設備容量構成比を示す。
1.1 ドコバニ原子力発電所
 ドコバニ原子力発電所はVVER-440の改良型V-213が4基建設され、1985〜87年にかけて営業運転を開始した。改良型V-213にも幾つかの欠陥が指摘され、1990年以降、系統・機器の改造工事が行われた。この結果、2000年の西欧原子力規制者連合(WENRA)(注1)の評価、2001〜2003年の欧州連合(EU)の原子力問題専門調査委員会(AQG)、国際原子力機関(IAEA)の運転管理評価チーム(OSART)の評価等から、欠点はすべて改善され、他の地域の同時代の原子力発電所の安全水準と同等であると評価された。
(注1)原子力発電所を有するEU加盟国及びスイスの原子力規制機関による組織。1999年に10ヵ国が参加して設立されたが、EU拡大を前にして2003年3月に参加国は17ヵ国になった。設立当初の目的は、共通の原子力安全基準などの策定、EU加盟候補国の原子力安全の調査であったが、参加国拡大後は、経験の交換や安全上重要な事項の審議を行う場にもなっている。
 1998年からさらに安全性、信頼性を向上させるため、MORAVA(MOdernization, Reconstruction, Analyses, VAlidation)計画と称する設備改造計画が進められている。改造工事の中心は、計装・制御系のデジタル制御系への交換で、チェコのシュコダJS社(2004年からロシアの重機械メーカーOMZの子会社)が主契約者となり、原子炉保護系、原子炉制御系などについて、2002〜2009年に定検期間を利用して行われた。引き続き1次系及び2次系の制御装置の交換が2009〜2015年の予定で進められている。また、2005〜2008年に低圧タービン翼を交換し、44万kWから46万kWに出力増加した。さらに2009〜2012年に改良燃料の採用、高圧タービン翼、発電機の交換などにより、50万kWへの出力増加を図っている。
 1号機は2015年に当初の設計寿命である30年を迎える。このため、運転寿命を40、50、60年と段階的に延長する長期運転保証プロジェクト(Long Term Operation Assurance Project)が、MORAVA計画の一部を引き継いで2009年から開始された。
1.2 テメリン原子力発電所
 テメリン発電所には、当初4基のVVER-1000が設置される予定で、1987年に建設が開始されたが、建設コストの高騰や安全性への不安から1990年に2基がキャンセルされた。1993年には、着工済みの1、2号機について計装・制御系の取り替えや炉心設計の変更などの安全策を講じて完成させることが決定され、1999年5月の政府による建設継続の最終決定に基づき1号機が2002年、2号機が2003年にそれぞれ営業運転を開始した。計測・制御系は、ロシアの設計からウェスチングハウス社(米)の設計に変更した。燃料もウェスチングハウス社が供給していたが、ロシアのTVEL社は、2006年に10年間の燃料供給契約をとり、1号機は2010年から、2号機は2011年からロシア製の燃料が装荷される。テメリン発電所では、2004〜2007年に高圧タービン翼を交換し、電気出力を98万kWから101万kWに増加した。さらに低圧タービン翼を交換し2011年までに105万kWに増加する計画である。
 CEZが所有する火力発電所の大部分は1950〜70年代に建設されたもので、今後建て替え、設備更新が迫られている。このためCEZは、2007年から原子力発電所の新設を含めた新たな電源について本格的な検討を行い、テメリン発電所3、4号機の増設を決定、2008年7月に環境省に環境影響評価(EIA)の実施を要請した。また、2009年8月、PWR(100万kW以上×2基)建設の公募を行い、フランスのAREVA、米国のウェスチングハウス、ロシアのASE(シュコダJS、ロシアのギドロプレスとのコンソーシアム)が応募した。
2.放射性廃棄物管理
 1997年に制定された原子力法にしたがい、2000年1月、国内の3つの低・中レベル廃棄物処分施設の運営が国に移管された。なお、同法により設立された放射性廃棄物処分庁(SURAO:Radioactive Waste Repository Authority)が、放射性廃棄物処分の全責任を負っている。表2にチェコの低・中レベル放射性廃棄物処分施設を示す。
 これら3か所の処分施設は、ドコバニ原子力発電所サイト内にある、ドコバニ、テメリン両発電所の低・中レベル放射性廃棄物用浅地層処分施設と、リトムニェジツェ近郊のリヒャルトと、ヤーヒモフ近郊のブラトルストヴィにある旧鉱山の坑道を利用した低・中レベルの施設廃棄物(研究、医療、工業、農業などで発生した廃棄物)処分施設である。
 同国の放射性廃棄物発生者は、約250事業所に上り、SURAOが、こうした施設で発生する廃棄物をすべて安全に処分する責任を持っている。
 使用済燃料は各発電所の建屋内の貯蔵プールで貯蔵される。ドコバニ発電所では各号機に設置された貯蔵プールに貯蔵され、テメリン発電所でも同様の貯蔵プールが各号機に設けられている。貯蔵プールで5〜10年貯蔵された後、中間貯蔵施設に移されるが、ドコバニ原子力発電所の使用済燃料は、同発電所サイト内に1995年に建設された中間貯蔵施設(容量 600tHM(注2))と同施設の隣に2006年10月に完成した新たな貯蔵施設(容量1,340tHM)に移される。なお、テメリン発電所で発生する使用済燃料の中間貯蔵施設(容量1,370tHM)は、2009年3月に建設が開始され、2010年9月に1基目の乾式キャスクが置かれ試験操業が始まった。
(注2)HM:ウラン、プルトニウムなどの重金属
 使用済燃料及び高レベル廃棄物の深地層処分場の操業は、2065年頃を目処に開始することになっている。最終処分の具体的方法(直接処分、再処理等)については、それまでの期間に決めることとしている。
(前回更新:2002年10月)
<図/表>
表1 チェコの原子力発電所一覧
表1  チェコの原子力発電所一覧
表2 チェコの低・中レベル放射性廃棄物処分施設
表2  チェコの低・中レベル放射性廃棄物処分施設
図1 チェコの主要な原子力関連施設の所在地
図1  チェコの主要な原子力関連施設の所在地
図2 チェコの総発電電力量の推移
図2  チェコの総発電電力量の推移
図3 チェコの電源別発電電力量の推移
図3  チェコの電源別発電電力量の推移
図4 チェコの電源別発電電力量構成比(2009年)
図4  チェコの電源別発電電力量構成比(2009年)
図5 チェコの電源別発電設備容量構成比(2009年)
図5  チェコの電源別発電設備容量構成比(2009年)

<関連タイトル>
チェコの国情およびエネルギー事情 (14-06-07-01)
ボフニチェ原子力発電所(チェコ・スロバキア)のIAEAによる安全調査 (14-06-07-03)
スロバキアの国情およびエネルギー、電力事情 (14-06-08-01)
スロバキアの原子力事情 (14-06-08-02)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第2編 2010年版(2010年3月)、p.92-105
(2)原子力安全局(SUJB):The Czech Republic National Report under the Convention on Nuclear Safety-2010
(3)原子力安全局(SUJB)ホームページ、http://www.sujb.cz/?r_id=26
(4)CEZ Group:Nuclear Power Plants in 2009、http://www.cez.cz/edee/content/file/energie-a-zivotni-prostredi/nuclear-power-plants-report-2009.pdf
(5)OECD/NEA:Radioactive Waste Management Programmes in OECD/NEA Member Countries, Czech Republic (2008)、http://www.oecd-nea.org/rwm/profiles/Czech_Republic_profile_web.pdf
(6)放射性廃棄物処分庁(SURAO):Brochures、

(7)World Nuclear Association:Nuclear Power in Czech Republic(Updated October 2010)、http://www.world-nuclear.org/info/inf90.html
(8)IAEA:Country Nuclear Power Profiles(2010 Edition), Czech Republic(Updated July 2010)、
http://www-pub.iaea.org/MTCD/publications/PDF/CNPP2010_CD/pages/countryprofiles.htm
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