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<概要>
 原子力発電火力発電および水力発電による発電原価の試算結果が、平成11年12月16日に開かれた総合エネルギー調査会原子力部会の会合において通商産業省(現経済産業省)(以下通産省)から発表された。これによると、1kWhの発電を行うためのコストは、原子力が5.9円、LNG 火力が6.4円、石炭火力が6.5円、石油火力が10.2円、水力が13.6円であり、原子力発電の経済性が他の電源との比較において遜色がないことが明らかになった。
 通産省はこれまでも発電原価の試算を行ってきており、最近では平成6年に電気事業審議会需給部会(当時)で原子力発電の原価を1kWh当たり約9円と試算し、他の電源と比較して遜色はないとの評価を下していた。今回は、これまでの計算の前提条件を実勢に合わせて見直すとともに、資本費の算出方法を経済耐用年数から実際の運転年数に変更するなど、試算の方法を大幅に改定したものである。
<更新年月>
2000年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 通商産業省(現経済産業省)(以下通産省)資源エネルギー庁は、平成11年12月16日に開かれた総合エネルギー調査会原子力部会(現総合資源エネルギー調査会電気事業分科会原子力部会)の第70回会合で、原子力発電、火力発電および水力発電による発電原価の試算結果を発表した。
 資源エネルギー庁はこれまでも幾度か発電原価の試算を行ってきており、最近では平成6年に電気事業審議会需給部会(当時)で試算結果を発表した。それによると、各電源の1kWh当たりの発電原価は原子力とLNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)火力が9円、石炭火力と石油火力が10円、水力が13円程度であり、化石燃料が低価格で推移する中でも原子力発電の経済性は他の電源に比べて遜色がないとの評価が下された。
 今回の試算はその後の状況変化、すなわち、国内電気事業者のデータを用いたより実勢に近い燃料費の試算が最近行われたこと、設備利用率の実績が平成6年試算の前提から乖離してきていること、金利や為替レート等の経済性指標が変化したことを踏まえて、実状に即したコスト試算を行うことを目的としたものである。
1.試算方法と前提条件
 OECD(Organization for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)が採用している運転年数均等化発電原価計算法が使用された。この方法は、一定の運転年数にわたって毎年発生する費用を評価時点(運転開始時点)の価格に換算して合計した総費用と、発電によって得られる毎年の収入(=年間発電量×電力価格)を評価時点(同上)の価格に換算して合計した総収入とを計算し、電力価格が発電原価のときにこの両者が等しくなることを利用して、運転年数にわたって均等化された発電原価を求める方法である。
 試算に際しては、平成10年度運転開始のモデルプラントが想定された。モデルプラントの特性は 表1 に示すとおりである。原子力および火力発電プラントの運転年数に関しては、平成6年試算ではプラント設備の償却年数(原子力16年、火力15年)が用いられたが、今回の試算ではOECDの検討で一般的に用いられている技術的な耐用年数が採用され、水力を含めて全モデルプラントの運転年数が40年とされた。また、原子力の設備利用率は最近の実績を踏まえて80%とされ、火力発電に関しては、石油火力とLNG火力の実績が 表2 に示すようにこれよりかなり低いものの、原子力との比較のために一律に80%と仮定された(表2)。
 原子力発電のモデルプラントについても、最近の高燃焼度化、熱効率の向上を踏まえて、 表3 に示すように諸元が改訂された。核燃料サイクルについては平成10年度に燃料を装荷、発電後に再処理、高レベル放射性廃棄物処分等が行われることが想定された。 表4 に示すように、核燃料サイクルのフロントエンドに関しては、過去数年間の実績価格を基に設定が行われ、また、再処理とバックエンド費用に関しては、平成6年試算においてはOECD/NEA(Organization for Economic Co-operation and Development/Nuclear Energy Agency:経済協力開発機構/原子力機関)のデータが使用されたが、今回は国内電気事業者のデータが採用された。火力発電に用いる石油、LNGおよび石炭の将来価格については、国際エネルギー機関(IEA:International Energy Agency)の「WORLD ENERGY OUTLOOK」の予測値が使用された。
2.試算結果
 標準的条件として、平成10年度平均の為替レート(128.02円/$)、割引率3%、初年度燃料費に平成10年度平均の燃料価格を用いた場合の発電原価が試算され、 表5 に示すように、1kWhの発電を行うためのコストは原子力が5.9円、LNG火力が6.4円、石炭火力が6.5円、石油火力が10.2円、水力が13.6円となった。なお、前提条件の中で燃料価格の上昇率、設備利用率、運転年数、為替レートが変化した場合の発電原価についても試算が行われた。
 原子力の発電原価は、 表6 に示すように1kWh当たり総費用5.9円のうち、資本費が2.3円、運転維持費が1.9円、燃料費が1.7円であり、燃料費が全体の28%を占めている。また、燃料費の内訳は、フロントエンド(ウラン鉱石調達から燃料成型加工まで)が0.74円、再処理が0.63円、バックエンド(使用済燃料中間貯蔵と廃棄物処理・処分)が0.29円であり、再処理費が燃料費の38%を占めている。
 上記の試算は平成10年度に運転開始する発電プラントの運転年数にわたる発電原価であるが、参考のために、過去に建設されてこれまで運転を行ってきた原子力発電と火力発電の費用についても計算が行われた。具体的には損益計算書の電源別営業費用を各々の電源別発電電力量で除して毎年の発電単価が計算され、原子力発電と火力発電の発電単価の推移が 図1 に示すように求められた。
 1973年と1979年の2度にわたる石油危機を経て化石燃料の価格が高騰し、火力発電のコストは原子力に比べてきわめて高くなった。その後、1980年代半ばに需給緩和に伴う石油価格の低下と急激な円高によって化石燃料の国内価格が下落し、火力と原子力とは同程度のコストとなったが、最近では設備利用率の改善などで原子力の発電単価は徐々に低下し、火力よりも概ね低い水準で推移していることが示されている。
 なお、上記の発電原価の試算では発電所で電気を発生するために必要な直接的経費のみが対象とされ、電源三法交付金、地元協力金、原子力関係予算は発電コストに算入されていない。これらは発電所の建設および運転に伴って発生する費用ではあるが、発電所地域住民等国民に還元されているため、発電に要する費用に含めるのは適当ではないとの判断によるものである。
 資源エネルギー庁は、原子力および他の電源の発電原価に関する今回の試算結果から、原子力発電の経済性は平成6年に試算した際の結論と同様に、引き続き、他の電源との比較において遜色がないと考えられるとの結論を示した。併せて、経済性の向上は重要な課題ではあるが、わが国のエネルギー政策の基本は、エネルギー安定供給、環境保全および経済成長の同時達成であり、原子力発電については、経済性の評価だけでなく、セキュリティ確保、地球環境保全等様々な観点からその重要性を確認することが必要であるとの考えを示した。
<図/表>
表1 モデルプラントの特性
表1  モデルプラントの特性
表2 設備利用率の推移
表2  設備利用率の推移
表3 原子炉プラントの諸元
表3  原子炉プラントの諸元
表4 核燃料サイクルコスト計算の前提条件
表4  核燃料サイクルコスト計算の前提条件
表5 運転年発電原価の試算結果
表5  運転年発電原価の試算結果
表6 原子力発電コストの内訳
表6  原子力発電コストの内訳
図1 電力会社の発電単価(営業費ベース)推移
図1  電力会社の発電単価(営業費ベース)推移

<関連タイトル>
電源別耐用年発電原価試算(1992年度運転開始ベースでの通商産業省の試算) (01-04-01-03)
主要国の発電原価(1992年OECD・NEA/IEAの試算) (01-04-01-04)
2005年運転開始発電所の発電コスト比較(1998年OECD・NEA/IEAの予測) (01-04-01-08)

<参考文献>
(1)総合エネルギー調査会原子力部会(第70回)資料3:原子力発電の経済性について(平成11年12月)
(2)日本原子力産業会議:原子力産業新聞(1999年12月23日/第2018号)
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