<本文>
OECD(Organization for Economic Cooperation and Development:経済協力開発機構)のNEA(Nuclear Energy Agency:原子力機関)は、1983年、1986年、1989年および1992年に、原子力と石炭火力の発電原価比較を行い、将来の発電原価試算を行った。1992年に行った第4回目の報告書は、OECDのエネルギー機関であるNEAとIEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)が、International Union of Producers and Distributors of Electricity Energy(UNIPEDE:国際発送配電事業者連盟)およびIAEA(International Atomic Energy:国際原子力機関)と協力して作成した。
原子力、石炭火力、ガス火力および再生可能資源に関する発電所の予想発電原価は、OECD加盟の16カ国およびOECD非加盟の6カ国が提出したデータをもとに、標準耐用年間均等化コスト手法を使用して算出した。この研究は、2000年または2000年に近い時点で商業運転開始可能な発電所に焦点を当て、主に
沸騰水型炉(
BWR)、
加圧水型炉(
PWR)、加圧重水型炉(PHWR)、微粉炭火力発電所の資料を使用した。また流動床石炭火力発電所およびガス・コンバインドサイクル火力発電所に関する資料も多少使用した。
OECD加盟諸国のほとんどは、過去約10年間にわたって
軽水炉(LWR)、加圧型重水炉(PHWR)の発電原価想定を提出している。
原子力発電所の発電原価想定は、石炭火力の発電原価想定に比較すると非常に安定しており、
原子力発電所の発電原価想定の変化は、10%以内におさまっている。なお、これらの計算に使用した発電所の基準割引率(年間5%と仮定)、発電所の耐用年数(30年)、
設備利用率(
負荷率ともいう、load factor:75%)は変更していない。この結果を
図1 に示した。この図から、1986年以降、石炭火力の発電原価想定は急激に下がっているが、1992年時点で原子力より少し割高となっていることが分かる。
表1 および
表2 に各国の発電原価試算(基準割引率が5%と10%の場合)を示した。
表1(基準割引率が5%の場合)によると、原子力が石炭火力より安いのは、ベルギー、カナダ、中国、旧チェコスロバキア、フィンランド、フランス、ドイツ、ハンガリー、インド、日本、韓国、ロシア、英国の一部および米国の一部で、ほとんどの国で原子力発電が石炭火力発電より安いと評価していた。また
表2(基準割引率が10%の場合)によると、原子力発電が石炭火力発電より安いのは、旧チェコスロバキア、フランス、ドイツ、ハンガリー、日本、ロシア、米国の一部である。
図2 (基準割引率が5%の場合)および
図3 (基準割引率が10%の場合)に、1992年時点におけるフランス、ドイツ、イタリア、日本、英国および米国における原子力、石炭火力、ガス火力の発電原価(発電コスト)の比較を示した。
表1、
表2および
図2、
図3からわかるように、年間基準割引率の低いほうが、原子力発電が有利な結果がでている。これは、原子力発電の建設費(資本費)が火力発電より高いため、基準割引率すなわち資本報酬率が高いと発電原価も高くなるためである。
1.日本
我が国の場合、原子力発電は他の電源と比ベ、kWh当たり7円台と、経済性の優位が頭著な結果となっている。価格の低い理由は、設備利用年数が実際の運転年数相当の30年としていること等が要因であり、他電源との価格差が大きいのは、運転開始時期が2000年と将来時点としておりその間の燃料費上昇が見込まれていること等によると考えられる。なお、試算に用いた諸元は各国間で多少異なる。
我が国の試算前提条件は以下のとおりである。
・出力:石炭火力 70万kW級×4基
LNGコンバインドサイクル 70万kW級×4基
原子力 135万kW級×4基
・2000年度運転開始べース
・耐用年数:30年
・設備利用率:75%.
・為替レート:137.84円/ドル(1991年7月1日インターバンクレート)
・燃料価格見通し:石炭火力 1991年度48.4$/t
伸び率1.5%/年
LNGコンバインドサイクル 1991年度19$/bbl
伸び率4.0%/年
2.フランス
新規着工電源の選択の際の参考にするため、フランス工業省は数年に1度、将来運転開始する設備の発電原価想定を実施している。しかし、最近は、設備過剰で当分新規発注が期待できないため、調査の役割が変わってきている。すなわち、電気料金の構造、水準の妥当性をチェックするとともに、有望発電技術を探り出し、その動向をフォローするのに調査結果は利用されている。1997年調査で対象となった電源は、集中型電源では原子力(PWRN4改良型145万kW)、複合サイクル(天然ガス、65万kW)、石炭火力(循環型常圧流動床40万kW、排煙脱硫付き通審投備60万kW)、ガス・タービン(15万kW 2基)、分散型電源ではコージェネ(背圧タービン、ガスタービン、ガス・エンジン)、風力(600kW 10基、1,500kW 10基)で、設備の運転開始年は2005年である。
経済耐用年数は、原子力および石炭火力が30年、複合サイクル、ガス・タービン、背圧タービン25年、コージェネ用ガス・タービン20年、ガス・エンジン、風力15年と想定されている。
現在価値換算率は5%と8%、為替換算率は1ドル=5フランと6.6フランが採用されている。燃料価格は原油で高め、中問、低めの3種類、ガスではそれにバブルを加えた4種類のシナリオが作成された。
原子力については、廃炉、
使用済燃料の
再処理、最終処分費用が織り込まれている。試算の結果、化石燃料発電に対する原子力の経済性格差が縮小していることが判明した(
表3 )。とくにガス・コンバインドサイクル発電は近年コストが急激に低下しており、シナリオによってはベース負荷でも原子力より安くなっている。しかし、ガス・コンバインドサイクル発電では燃料費が発電原価の6割を占め、コストが大きく変動する危険性があるのに対して、原子力の発電原価はいずれのシナリオでも安定している。この他、エネルギーの自給と安定供給、環境問題、貿易収支ヘの影響などを考慮すると、原子力は着実な選択肢としての意味を失っていない、と調査では結論付けている。とはいえ、原子力が長期的に経済性を維持できるかどうかは、次期炉EPRの経済性の改善いかんにかかっていると指摘されている。
3.ドイツ
1990年以降、ドイツにおける原子力発電所の発電原価を発表した資料がないので、参考として1985年頃に発表された西独における石炭および原子力による発電原価の比較を
図4 に示した。これによると、石炭火力発電は原子力発電より6割程度高くなっている。
4.英国
英国政府は、1995年5月9日、原子力政策(ホワイトペーパー)を議会に提出した。これは、1994年に発足した原子力政策の見直し作業結果をまとめた政府案で「英国原子力政策の今後(Prospects for Nuclear Power in UK)」という題がつけられている。この中で、サイズウェルC(131万kW、2基)の生涯発電原価を試算している。英国政府は、民営会社が新規に建設する発電所への公的補助は行わないことを報告書に示している。
1995年現在、NE社(Nuclear Electric社)は、次期原子力としてサイズウェルC(131万kW,1基)を建設したい意向を示している。
上記の報告書に記載されたサイズウェルCの生涯発電原価を
表4 に示した。これによると、1993年価格で2.9ペンス/kWhと算定している。これは、資本報酬率を8%と仮定して算定しているが、ほとんどの民間発電事業者(ガス火力)に適用される報酬率は8%をこえている。NE社独自の試算では、11%を採用しており、この場合の発電原価は3.7ペンス/kWhとなる。ガス火力の発電原価は公表されていないが、一般的には3ペンス/kWh前後と推定されており、新規原子力発電所の資本報酬率が8%をこえる場合には建設することが難しくなる。その他、建設費や設備利用率などについても様々な意見があり、2.9ペンスはやや楽観的な数値とみることができる。
5.米国
原子力発電は、他電源に対し競争力を有している。1995年の原子力発電全体の平均発電コストは1.92セント/kWhだったが、これは石炭火力の1.88セント/kWhよりわずかに高いものの、天然ガス火力の2.68セント/kWh、石油火力の3.77セント/kWhよりは低い(
図5 )。原子力発電は、“隠された”コストを持たない数少ない電源の1つである。廃棄物処分コストやデコミッショニング・コストも含めた原子力発電にかかる全体コストが、原子力発電所で発電された電気料金に含まれている。
原子力発電の発電コストはすでに十分に低いが、原子力発電所を運転している電力会社は、一層の競争力強化を認識しており、電力会社個別にはもちろん、他の電力会社と共同で、あるいは原子力産業界全体で数多くの競争力強化策に取り組んでいる。原子力発電所の発電コストは、他の発電所と同様、2つの大きな要因によって左右される。つまり、
・発電コスト(運転・保守コスト+燃料費)
・資本コスト(借入金や自己資本を含めた発電所の建設費、投資利益、および
蒸気発生器の交換など運転開始後に必要となるあらゆる資本支出)
・運転・保守コストの抑制・削減策は以下のとおりである。
(1)発電電力量の増大と停止期間の短縮化
1989年には83日であった燃料交換停止期間は1995年には52日となった。
1995年までに、設備利用率が70%を超えた原子力発電所の基数は92基(全体の84%)に達し、うち63基(全体の58%)が80%を上回った。
(2)規制手続きのための管理の改善
NRC(Nuclear Regunatory Commission:米原子力規制委員会)の検討・承認を得て、原子力発電会社の多くが、コスト増につながる規制要件や、安全上ほとんど意味のない約束事を省く作業を進めている。たとえば、NRCは1995年9月、検査結果が良好な原子力発電所については、それまで10年に3回の頻度で実施されていた検査を10年に1回にできるように規則を改定した。これだけで、原子力発電会社は、今後20年間で10億ドルもの経費を節約できる。
(3)産業界規模での経験の共有
1995年からスタートしたベンチマーク計画では、最高水準の運転実績を有する内外の原子力発電所での保守やエンジニアリング、労務管理および停止期間中の管理などの実態を調査し、各種の報告書や1996年夏に開催された一連のワークショップを通じて、各原子力発電所の現場管理者の間で共有されている。
<図/表>
<関連タイトル>
電源別耐用年発電原価試算(1992年度運転開始ベースでの通商産業省の試算) (01-04-01-03)
日本の発電電力量と2010年度までの電力供給目標(1994年6月) (01-04-01-01)
各種電源の特徴と位置づけ(1995年度末) (01-04-01-02)
<参考文献>
(1)Projected Costs of Generating Electricity Update 1992,OECD NUCLEAR ENERGY AGENCY/INTERNATIONAL ENERGY AGENCY
(2)(社)日本原子力産業会議(編集発行):原子力資料3、1994,No.276(1994年3月)
(3)(社)海外電力調査会(編集発行):海外諸国の電気事業 第1編 1998年、(1998年3月)p107
(4)(社)日本原子力産業会議:米国の原子力最新事情(上) 原子力資料、No.292(1997年3月)p24
(5)資源エネルギー庁:原子力発電関係資料、(1998年1月)、p69