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<概要>
 原子力機関(NEA)と国際エネルギー機関IEA)が共同で招聘した専門家グループにより、2005年に発電開始となるベースロード電源の発電コスト予測調査が行われた。本調査に用いられた情報は、OECD 加盟14か国と非加盟5か国の政府機関と専門家により提供された。また、一般的に合意された前提条件に基づき発電コストの予測が行われ、その中には環境保護規制に関連したコストも含まれている。今回の調査では従来の調査に比べて、特に割引率が高い場合、ガス火力発電所の競争力が石炭火力発電所や原子力発電所より勝っていることが明らかにされた。また、全ての国で経済的に見て優位に立つ発電技術がないことも明らかになった。なお、水力発電は調査から除外されている。
<更新年月>
2000年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の原子力開発・燃料サイクルに関する技術経済委員会と国際エネルギー機関(OECD/IEA)の長期協力常設グループは国際原子力機関(IAEA)と国際発送配電事業者連盟(UNIPEDE)の協力を得て1998年にベースロード電源の発電コストの調査を実施した。今回の調査は、NEA単独により1983年と1986年、NEAとIEAの共同により1989年と1993年に公表されたものの第5版に当る。今回の調査で提示、議論されたコストは、調査に参加するように各国政府から要請された専門家によって提供されたデータに基づいている。ここで述べるコストは、以前の報告でも採用された一般的に合意された共通の方法で算定されている。
 今回の調査には、 表1 の回答リストにあるOECDに加盟している14か国と非加盟国5か国が参加し、2005〜2010年に運転を開始すると見られる。発電所(水力発電所は除く)に的を絞ってコスト予測を行った。したがって、今後10〜15年以内に商業的に利用できると見られる、ないしはコスト予測が信頼をもって出来る程度まで開発の進んでいるオプションが含まれている。提供された主なデータは、改良型の石炭火力発電所、コンバインドサイクル・ガス火力発電所、原子力発電所についてのものであり、コージェネレーション(電熱併給)プラントの発電コスト予測を提供したのが1か国、再生可能エネルギーを用いた発電所のコスト予測を提供したのが3か国、石油火力発電所のコスト予測を提供したのが1か国であった。また、発電所の耐用年数や割引率、燃料価格の上昇率等の主な技術的、経済的前提条件について感度解析が行われている。
 ここに示される発電コストの予測には各国で進めている環境保護規制に関連したコストも含まれている。また最近の動向である経済のグローバリゼーション、電力市場の自由化と民営化が発電コストに及ぼす影響のみならず、エネルギーの供給保障や電源の多様化に関する問題についても言及している。ただし、国際的な発電コストの比較には制約があり、発電コストを算定するための共通の前提は、各国がより適切と考えている前提とは必ずしも一致しない。したがって、ある特定のプロジェクトによって決まる正確な発電コストを示すものではなく、どの発電オプションを選択するかは、政府あるいは電力会社がそれぞれの置かれた特殊な状況を詳細に評価して決断することになると思われる。
2.調査方法、範囲、共通の前提条件
 発電コストの算定に当っては、これまでの報告書で採用されたものと同じく、貨幣価値を一定として耐用年数期間にわたってコストを「平準化する」という方法を用いている。これは代替電源を比較し、そうした電源の相対的競争力を統一して評価する上で適しているが、各国や各電力会社が発電設備の拡張計画や意思決定を行うにあたって判断材料となるような発電設備全体のコスト分析に取って代わるものではない。
 今回(1998年)の調査報告で議論されているデータは、調査に参加した各国にアンケートを送付し、2005〜2010年までに運転を開始する商業的に利用可能なあらゆる種類のベースロード発電所についての情報を求めたものである。なお、水力発電所は調査から除外された。提供を受けた情報のうち、最新のものを「カテゴリーA」また2010年までに商業利用が可能となる現在開発中の技術によるものを「カテゴリーB」とした。19か国72カ所について提供された情報は、表1のように、主として原子力、石炭火力、ガス火力の3つのオプションである。
 石炭火力発電所の単基出力は10万kWから100万kWの間にあるが、その殆どは50万kW程度の中型のもので、その正味熱効率は40%か、それより若干高い程度である。
 ガス火力発電所のコスト予測は16か国から提供されたが、その殆どが出力35万kW程度の中型のコンバインドサイクル・ガスタービンである。日本および韓国からは液化天然ガスLNG)を使ったガスタービン発電所の情報が提供された。LNGガス火力発電所の正味熱効率は一般的に50%以上であり、カテゴリーBの場合は60%程度に達している。
 原子力発電所のコスト予測は13か国から提供された。それらの仕様を 表2 に示す。原子力発電所の出力は45.5万kW〜146万kWである。フランス、日本、中国の3か国は再処理核燃料リサイクルを伴うクローズドサイクルの核燃料サイクルコストを予測しており、それ以外の国は使用済核燃料を直接処分するオープンサイクルのコストを予測している。
 今回の調査で検討した発電所の発電コストの予測に際して、共通の発電開始日を2005年1月1日とした。また共通の経済的耐用年数として40年を採用した。これより技術的な耐用年数が短いとみられる発電所では、耐用年数を40年とした場合、この間にかかる大掛かりな改修や更新のためのコストをコスト予測に算入した。コスト予測では、稼動率を75%で一定とし、全出力運転時間に関しては、運転初年度を5000時間、次年度を6000時間、それ以降は6626時間とした。
 ここで報告、議論されるコストの中には、投資、運転保守、燃料の各コストのみならず、汚染防止や廃棄物管理、健康や環境保護対策など、電気事業者が負担するあらゆるコストが含まれる。これに対し、全ての発電所に共通な間接費および送配電コスト、税金等の代替電源の相対的な競争力に影響を与えないコスト要素は除外されている。一方、発電所の種類と立地場所等によって発電所毎に異なると考えられるその発電所に固有の税金、例えば地方税とか電気事業者が支払う燃料税はコストに含まれる。
 資本投資に関連した投資は、建設中コストは勿論、これに先だってかかる各種コスト、大掛かりな改修、デコミッショニングに関連したコストが含まれる。建設中の金利については適切な割引率を用いて算定され、平準化された全発電コストの中に計上される。またその発電所の建設にとりかかる前に必要な特別な研究開発や許認可、公聴会、発電所の安全性研究、サイト調査・準備に要するコストも含まれるが、一般的な研究開発や規制当局の設立・運営に関連したコストは除かれている。
 化石燃料価格については、18か国中9か国は石炭価格を一定としているが、8か国は石炭価格が上昇するとし、米国は低下すると仮定している。予測している平均価格の上昇率は年0.3%であった。ガス価格については、10か国はガス価格が年平均0.8%で上昇するとしている。感度解析では化石燃料価格は一定としている。また回答国が報告した全てのコスト予測は1996年7月1日現在の各国の通貨単位で示されたものを、 表3 に示した為替レートを用いて同日付の米ドルに変換した。
 各国独自の前提に基づいて算定したコスト予測を提供した各国はイタリアを除いて5〜10%の割引率を採用している。今回の調査での参考のコスト予測では年5%と10%の割引率を採用した。また整合性を取るため、建設中の金利と、デコミッショニングや放射線管理にかかるコストは適切な割引率を用いて算定されている。
3.調査結果の概観
(1)投資コスト
 原子力発電所の基準建設コスト予測を 表4 中に示す。OECD加盟国の基準建設コストは、米国の$1500/kW未満から日本の$2500/kW以上とかなりの幅がある。OECD以外の国の建設基準コストは、中国のCN-N1の$1020/kWからインドの$1840/kWでその幅はOECD諸国よりも狭い。原子力発電所では平準化された全投資コストに対するデコミッショニングのコストの割合は全てのケースについて小さく、年10%の割引率では1%未満、5%の割引率で数%となっている。
 石炭火力発電所の基準建設コストは、OECD加盟国では一般的に原子力発電所より低く$1000/kW〜$1350/kWであったが、日本だけは例外で$2560/kWであった。低い方ではカナダが75万kWの4基の発電所を同一サイトに建設するとして$837/kWを、ポルトガルは$1999/kWを報告している。OECD加盟国以外では、中国の$772/kWからブラジルの$1258/kWの範囲にある。石炭火力ではデコミッショニングのコストは発電所用地の価値や再使用可能な物資の販売による利益で回収できるのでデコミッショニングコストは無視できる、としている。
 ガス火力発電所は、デンマークの蒸気タービン発電所と、米国の燃料電池発電所を除きコンバインドサイクル・ガスタービンである。ガス火力発電所の基準建設コストの予測値は僅かの例外はあるものの$800/kWより低い(日本は$1640/kW)。デコミッショニングコストは無視できる程度である。ガス火力発電所の投資コストは割引率が5%の場合でも10%の場合でも、石炭火力発電所や原子力発電所より低い。
(2)運転・保守コスト
 2005年の運転・保守コストの予測を 表5 に示す。ハンガリー、ブラジル、中国、ロシアを除くと、運転・保守コストは耐用年数期間中で一定としている。OECD加盟国の2005年時点での原子力発電所の運転・保守コストは年間$39〜62.5/kWの範囲にあると予測しているが、日本だけは例外であり、$100kW/kWを超えると予測している。
 石炭火力の運転・保守コストはOECD加盟国以外では$26〜75/kWの範囲にあると予測しているが、日本だけは$80/kWとしている。OECD加盟国以外では$17.5〜36/kWの範囲にあるとしている。
 ガス火力の運転・保守コストは$6〜50/kWと予測している。
(3)核燃料コスト
 核燃料コストを 表6 に示す。ウラン価格の予測を提供したのは6か国であった。カナダ、フランス、韓国、米国では、ウラン価格は$42〜65/kWUの範囲であり、発電所の耐用年数期間中はこのまま安定的に推移すると予測されている。フロントエンドやバックエンドを含むkWh当りの核燃料コストは、割引率が年5%の場合は 図1-1図1-2 および 図1-3 に、また割引率が年10%の場合は 図2-1図2-2 および 図2-3 に示す通りである。共通の前提条件の下で全体の平準化発電コストに占める核燃料コストの割合は、割引率が年5%の場合は軽水炉では13〜29%の間に、またPHWRの場合は8〜23%の間にある。10%の割引率では軽水炉が8〜18%の間に、PHWRでは5〜14%の間にある。
(4)発電コスト
 上記を含む共通の前提条件の下に算定した平準化された発電コストの予測を割引率が年5%の場合について図1-1図1-2および図1-3に、割引率10%の場合について図2-1図2-2および図2-3にミル/kWh(ミルはドルの1000分の1)の単位で示す。発電所の稼働率と経済的な耐用年数、燃料価格の上昇率(各国の前提条件で上昇した場合と上昇率ゼロの場合)という前提条件の変化に対して原子力発電の平準化コストがどんな影響を受けるか(感度解析結果)を割引率5%の場合について 表7 に示す。
4.議論と結論
 5%の割引率の場合、石炭火力、ガス火力、原子力、再生可能エネルギーの中で少なくとも2つの電源について報告した18か国のうちガス火力が最も低コスト(少なくとも10%の差で、以下同じ)になったのは3か国、石炭が最も低コストとなったのが3か国、原子力発電が低コストとなったのが5か国であった。最も低いコストと次に低いコストとのコスト差が10%未満であったのは7か国であった。
 割引率を10%とした場合、同様に少なくとも2つの電源について報告した18か国のうち、ガス火力を最も低コスト(少なくとも10%の差で、以下同じ)としたのが9か国、石炭火力が最も低コストになったのが1か国、原子力が最も低コストになったのが1か国、最も低コストの技術と次に低コストの技術のコスト差が10%未満になったのは8か国であった。
 こうした結果から、全ての国で明らかに優位に立っている電源はないことが分る。各国はそれぞれが置かれた特殊な状況を踏まえてもっとも経済的な電源を決めることになると思われる。しかしながら、これまでに行われた調査と比較してガス火力が有利になってきていることに注目する必要がある。これは、(1)比較的簡単で建設・保守コストが低い、(2)以前より予測される燃料コストが下がった、(3)化石燃料を用いた他の電源に比し環境保護コストが低い、などの理由による。
<図/表>
表1 回答国リスト
表1  回答国リスト
表2 原子力発電所の仕様
表2  原子力発電所の仕様
表3 為替レート
表3  為替レート
表4 割引日を運転開始日とした場合の原子力発電所の投資コスト
表4  割引日を運転開始日とした場合の原子力発電所の投資コスト
表5 2005年の運転・保守コストの予測
表5  2005年の運転・保守コストの予測
表6 燃料価格の予測(原子力)
表6  燃料価格の予測(原子力)
表7 割引率が5%の場合の感度解析(原子力発電コスト)
表7  割引率が5%の場合の感度解析(原子力発電コスト)
図1-1 年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(1/3)
図1-1  年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(1/3)
図1-2 年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(2/3)
図1-2  年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(2/3)
図1-3 年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(3/3)
図1-3  年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(3/3)
図2-1 年10%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(1/3)
図2-1  年10%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(1/3)
図2-2 年10%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(2/3)
図2-2  年10%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(2/3)
図2-3 年10%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(3/3)
図2-3  年10%の割引率で共通の前提条件に基づいて算出した平準化発電コスト(3/3)

<関連タイトル>
主要国の発電原価(1992年OECD・NEA/IEAの試算) (01-04-01-04)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編):発電コスト予測(上)−1998年版−、原子力資料第300号、日本原子力産業会議、(1999年3月)
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