<本文>
1.平成4年度耐用年
発電原価試算
通商産業省(現経済産業省)が行った、各電源毎のモデル・プラントが平成4年(1992年)度から運転を開始する場合の、我が国における電源別発電原価の試算結果が
表1 である。1キロワット時あたりの発電原価は、原子力発電で9円程度、一般水力発電で13円程度、石油及び石炭火力発電で10円程度、LNG 発電で9円程度になっている。モデルプラントとしては、一般水力発電所として1〜4万kW級、石油火力発電所として60万kW級4基、石炭火力発電所として60万kW級4基(海外炭使用)、LNG火力発電所として60万kW級4基、
原子力発電所として110万kW級4基を想定していて、
設備利用率を70%(一般水力は45%)としている。また燃料価格は原油を
CIF 価格(運賃、保険料込み価格)19ドル/
バーレル程度、海外炭価格をCIF 48ドル/トン程度、LNG価格をCIF187ドル/バーレル程度としている。2010年の見通しについては、石油は30ドル/バーレル程度、LNGは313ドル/バーレル程度に、石炭は年1〜1.5%の価格上昇、原子力については年 0〜 0.1%の価格上昇を想定している。
キロワット当たりの建設単価は、一般水力が非常に高く、60万円程度、原子力が31万程度、石炭火力が30万円程度、LNG 火力が20万円程度、石油火力が19万円程度である。燃料費の発電原価に占める割合をみると、石油火力は 6割程度、石炭火力は 3割程度、LNG火力は 5割程度、原子力は 2割程度である。この様に原子力発電は発電原価に占める燃料費の割合が他の発電方式より非常に小さいが、建設単価は他よりも高くなっているので、原子力発電所はベース負荷運転として稼働させるようにした方が、電力全体の発電原価としては経済的になる。そのため、発電電力量の電源別比率に占める原子力発電の位置は、発電設備容量のなかのそれより、かなり高くなっている。
2.発電原価のシミュレーション
発電原価に影響を与える要因とその影響度は、電源の種類によって異なり、建設費等の固定費のウエイトの高い原子力、石炭火力や一般水力は、設備利用率や建設単価に大きく影響される固定費集約型の電源であり、LNG火力や石油火力は、燃料費のウエイトが高く、燃料価格や為替レートの変動に大きく影響される変動費集約型の電源である。
1.の耐用年発電原価試算(ベース運用)を基にして、燃料価格、設備利用年数、
電源構成における位置づけ(設備利用率)の各要因に対する発電原価の影響度をはかるためのシミュレーション計算を行った。結果を
図1 、
図2 、
図3 に示す。各要因についての評価は次のとおりである。
(1)燃料価格
現在では石油、石炭,LNGの各燃料価格は低位安定で推移しているが、今後の燃料価格の動向が各電源の経済性に大きく影響することから、今後燃料価格の変動の度合いに対する発電原価の変化を試算した。
この結果、燃料費のウエイトの高い石油火力,LNG火力は燃料価格変動に大きく影響し、次いで石炭火力への影響が大きく、原子力への影響は小さい傾向となった。
原子力は燃料価格が長期的にも安定しており、燃料費のウエイトが小さいため、長期的な発電コストの安定性が期待される。一方、火力電源は、燃料価格の将来見通しの不透明性が高いことを勘案してシミュレーションの結果を踏まえると、発電コストの長期安定性は相対的に低い。
(2)設備利用年数
固定費集約型の電源(原子力、石炭火力)は、設備利用年数が長くなると着実に発電コストが低減する傾向を示し、実際の設備利用年数として想定される30年から40年といった長期的観点からみると、他電源に対するコスト上の優位が顕著となる。一方、変動費集約型電源(LNG火力、石油火力)は、固定費の低減と燃料費の増大とが相殺する傾向を示している。
(3)設備利用率(年間の稼働時間の割合)
原子力や石炭火力の固定費集約型電源は、設備利用率の高い条件(ベース電源)で運転すると、変動費集約型の電源と比べ経済的に優位であり、他方LNG火力や石油火力の変動費集約型の電源は、設備利用率が低い条件下(ミドルまたはピーク電源)で固定費集約型電源よりも経済的に優位な傾向を示している。
3.
OECD/NEAによる1992年耐用年発電原価試算
1993年12月にOECD/NEAでは、1992年ベースの各主要国における耐用年発電原価試算の結果をまとめた。これは、原子力、石炭火力、天然ガスコンバインドサイクル発電について、各国毎にモデルプラントを設定し、共通の手法で試算したものである。OECD/NEAによる1992年の我が国の発電原価試算を
表2 に、各国の試算結果を
図4 に示す。
我が国の場合、原子力発電は他の電源に比べ、kWh当たり7円台と、経済性の優位が顕著となった。価格の低い理由は、設備利用年数が実際の運転年数相当としていること等が要因であり、他電源との価格差が大きいのは、運転開始時期を2000年の将来時点としており、その間の燃料費上昇が見込まれていること等によると考えられる。
<図/表>
<関連タイトル>
主要国の発電原価(1992年OECD・NEA/IEAの試算) (01-04-01-04)
日本の発電電力量と2010年度までの電力供給目標(1994年6月) (01-04-01-01)
各種電源の特徴と位置づけ(1995年度末) (01-04-01-02)
<参考文献>
(1)資源エネルギー庁:原子力発電関係資料(1994年12月)
(2)科学技術庁原子力局(監修):原子力ポケットブック1994年版、(社)日本原子力産業会議(1994年3月)