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<概要>
 固有のエネルギー源に乏しいわが国において、一つの電源に頼ることは極めて大きなリスクを負うことになる。電力供給資源として、エネルギー・セキュリティ、経済性、環境保全の観点から、一長一短のある各電源をバランスよく組み合わせた「エネルギーのベストミックス」を図ることが望ましい。
 石炭は、他の化石燃料に比べて資源量が豊富である。地域的に見ても、偏在する石油、天然ガス、ウラン資源に比べ、石炭は、産出地が世界各地に分布するという利点がある。経済性を考えたとき、石炭はコスト面でも大きなメリットもつ。しかし、大気汚染物質(NOx、SOx、煤じん)や炭酸ガスの排出など、環境保全に関しては極めて問題が大きい。
 2004年現在、石油、天然ガス価格の高騰とともに、米国では石炭火力発電所の建設計画が相次ぎ、低価格で安定調達できる石炭が見直されている。
 このような状況下に、石炭火力発電所として東京電力(株)常陸那珂火力発電所1号機(出力100万kW)が2003年12月に誕生した。環境保全問題を技術改良でクリアした、この火力発電所を例に最新鋭石炭火力発電所を紹介する。
<更新年月>
2004年06月   

<本文>
1.はじめに
 固有のエネルギー源に乏しいわが国において、一つの電源に頼ることは極めて大きなリスクを負うことになる。かつてのオイルショック、そして2002年の東京電力(株)原子力発電所における不正問題に端を発した不祥事による原子力発電所17基すべての停止が教えてくれている。供給安定性(エネルギー・セキュリティ)、経済性、環境保全の観点から、一長一短のある各電源をバランスよく組み合わせた「エネルギーのベストミックス」を図ることが望ましい所以である。
 石炭は、可採年数230年(図1)と他の化石燃料に比べて断然の長さを誇る。地域的に見ても、偏在する石油、天然ガス、ウラン資源に比べ、石炭は、欧州、アジア、オセアニア、北米と産出地が世界各地に分布するという利点がある。経済性を考えたとき、石炭はコスト面でも大きなメリットもつ。しかし、NOx、SOx、煤じん、炭酸ガスの排出など、環境負荷が大きい。
 2004年現在、米国では天然ガス価格が高騰しているため、石炭火力発電所の建設計画が相次いでいる。低価格で安定調達できる石炭が見直され、全米の新設計画は100基を超し、2010年前後の稼動を目指しているという。
 このような状況下に、石炭火力発電所として東京電力(株)常陸那珂火力発電所1号機(出力100万kW)が2003年12月に誕生した。環境保全問題を技術改良でクリアした、この火力発電所を例に最新鋭石炭火力発電所を紹介する。なお、表1に常陸那珂火力発電所の仕様を示す。
2.石炭火力発電所のしくみ
 石炭火力発電所のしくみと環境保全対策を図2に示す。
 発電所の燃料となる石炭は、海外から船で運ばれ、発電所の石炭船専用桟橋(揚炭バース)のアンローダで陸揚げされ、貯炭場に保管される。貯炭場の石炭は、貯炭場のリクレーマでベルトコンベアに乗せられ、ボイラ前にあるバンカーまで運ばれる。バンカーの石炭は、計量給炭機を経て微粉炭機へ送られる。数mmから数cmの大きさの受け入れ炭は、ここで粒径約40μm(小麦粉の大きさ)の微粉炭に圧砕されると同時に乾燥され、数本の微粉炭管に分配され、気流搬送でボイラヘ送り込まれ燃焼する。このような方法を直接式微粉炭燃焼方式といい、制御性に優れ、どのような石炭でも効率よく燃やせるが、消費電力は大きい。
 ボイラの中で、微粉炭の燃焼により水が高温高圧(600℃、245気圧)の蒸気になり、その蒸気の力でタービンを回転させ、発電するしくみとなっている。熱の有効利用を図りながら燃料を安定に完全に燃焼させるための様々な工夫がなされている。
3.環境保全技術
 1960年ころから高度経済成長に伴う電力需要の急増で、電源開発の主体は水力から火力発電へ移行してきた。しかし、環境問題の重要性が認識されるに伴い、火力発電の環境保全に対する要求も強くなり、種々の技術対策が講じられてきている。
 火力発電所から排出される大気汚染物質としては、粒子状物質(煤じん)、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)などが主な対象となっている。クリーンで燃焼しやすい天然ガスは別として、重油や石炭を燃料とした場合は、これらの汚染物質すべてについて対策が必要となる。また、大気汚染物質の排出抑制以外に、環境保全上配慮される因子として、排煙や温排水の拡散並びに排出物の処理があげられる。
 これら大気汚染物質に対しては、以下に述べるような対策技術がとられている。
 なお、温室効果ガスの二酸化炭素ガス(CO2)の排出は、ウランを除いて炭素含有物質を燃料としているでは避けられない。原子力、水力に比べてCO2排出量は20倍以上と大きい。これに対しては、最新鋭の技術や設備を導入し、石炭火力としては最高レベルの熱効率を確保し、より少ない燃料でより多くの電気をつくり、結果的にCO2排出量を少なくしている。
(1)窒素酸化物(NOx)の低減
 NOxの対策としては、窒素分含有率の少ない燃料の使用、燃焼法の改善による発生量の抑制、および脱硝装置によるNOxの分解、低減があげられる。これらの方策を組み合わせてNOx排出量の低減を図っている。
 燃料の燃焼により発生するNOxは、燃料中に含まれる窒素分の酸化によるFuel NOxと空気成分の窒素の酸化によるThermal NOxに分類される。Fuel NOxは、燃焼方法により大きく影響されるので、燃焼条件の調整だけで新たな排煙処理装置を設置せずに、NOx排出量を低減できる。Thermal NOxは、高温下で生成し、燃焼温度の影響を強く受ける。石炭の燃焼では、NOx発生量のうち80%程度がFuel NOxである。天然ガスの燃焼の場合NOx生成抑制法は異なる。
 NOx生成抑制方法としては、全体の空気混合比は極端に下げずに、NOxの生成に影響が大きいバーナー回りの空気比のみを下げてNOxの生成を抑制する技術の二段階燃焼法、およびバーナー部で生成するNOxを低減することを目的とした低NOxバーナーの採用などがある。
 わが国の厳しい環境規制を満足するためには、低NOx燃焼に加えて脱硝装置が必要となる。燃料中の窒素分含有率が最も多い石炭火力においては、脱硝装置設置率は80%程度に達している。
 現在、主流となっている脱硝法は、排ガス中にアンモニア(NH3)を吹き込み、触媒上でNOxと反応させて窒素(N2)と水(H2O)に分解する選択接触還元法である。脱硝効率は80〜90%である。(図3参照)
(2)粒子状物質(煤じん)の低減
 重油・原油燃焼時の未燃焼炭素を主体とした煤じんや、石炭燃焼時の未燃焼炭素を主体とした煤じんやフライアッシュ(石炭灰)を捕集する技術として、圧力損失が低く、メインテナンスが容易な電気式集じん装置(ESP:Electrostatic Precipitator)が、すべての火力発電所に設置されている。
 ESPの原理はつぎのとおり。両極は、針状の放電極(負極)と板状の集じん極(正極、接地極)からなり、放電極は二枚の集じん極間の中央に設置される。この放電極に直流高電圧を印加するとコロナ放電が生じる。発生した負イオンは集じん極に向かって流れ、気流中の粒子にそのイオンが付着する。これによって、粒子も集じん極に向かって移動するようになり分離される(図3参照)。
(3)硫黄酸化物(SOx)の低減
 SOxは、燃料中の硫黄分が酸化されて生成し、その排出濃度は燃料中の硫黄分含有率でほぼ定まる。わが国の厳しい環境規制を満足するためには、全硫黄分が0.5%の石炭を用いた場合でも、排ガス中のSOx濃度は400ppm程度にもなり、排煙脱硫装置を設置することが必要である。全硫黄分0.1%以下の燃料を使用している石油火力では、脱硫装置は設置されていない。硫黄含有率の高い石炭火力では、脱硫装置設置率は90%以上に達している。
 微粉炭火力発電所のほとんで採用されている脱硫法は、水と混ぜた石灰石(CaCO3)スラリーと排ガス中のSOxを反応させ、硫黄分を石こう(CaSO4・2H2O)として回収する湿式脱硫法である(図3参照)。
 脱硫装置で生成された石こうは脱水され、セメント材料や石こうボードの材料として有効利用される。脱水後の排水は、脱硫装置に戻されるとともに石灰石スラリーの製造に利用されるが、循環利用すると様々な成分が吸収液に蓄積し、石こうの品質および脱硫性能の低下を引き起こすため、一部抜き出して排水処理される。
(4)排ガス規制および温排水の拡散
 2000年の大気汚染防止法に基づく規制として、SOxに関しては地域や煙突の高さにより規制値が異なるK値規制が課せられ、煤じん、NOxについては表2に示す濃度規制が課せられている。しかし、実際には地方自治体との総量規制に基づく協定値が定められている。常陸那珂火力発電所の場合、排ガスは高さ230mの煙突から排出されており、これに適用される。茨城県の公害防止協定の内容(抜粋)を表3に示す。
 このような厳しい規制の結果、わが国の環境対策は世界的に最も進んだ技術となっており、図4に示すようにSOx、NOx発電電力量あたりの排出量は、ほかの主要国の1/10程度と低くなっている。
 発電所の排水には、生活排水、含油排水、一般排水および脱硫排水がある。これらの排水は、石こう、フライアッシュなどの浮遊物質や油、重金属などそれぞれ含む物質が異なっているため、排水毎に個別に処理された後、最終的に総合排水処理装置を経て放水される(表3参照)。
 温排水対策としては、発電所で使用する冷却水を水深の深い所から冷たい海水を取り入れ、放水する海水の温度を低く抑える対策が講じられている。温排水の拡散範囲や漁業資源への影響などについては、環境アセスメントが行われている。
 微粉炭火力発電所から発生する石炭灰は、石炭消費量の約一割、その量は年間約23万トンに上る(常陸那珂火力発電所)。ボイラの下に落下するボトムアッシュ(クリンカ)とボイラから気流とともに排出し、電気集じん器で捕集されるフライアッシュに大別される。灰のほとんどはフライアッシュであり、陸上や海岸の灰捨て場に埋め立て処分されるものと、セメント原料に有効利用されるものとがあり、年々有効利用される割合が増えている。常陸那珂火力発電所の場合、常陸那珂港中央ふ頭地区、ついで南ふ頭地区の土地造成用(埋立材)に利用されている。
<図/表>
表1 常陸那珂火力発電所の仕様
表1  常陸那珂火力発電所の仕様
表2 煤じん、NOx排出濃度規制値
表2  煤じん、NOx排出濃度規制値
表3 茨城県公害防止協定の内容(抜粋)
表3  茨城県公害防止協定の内容(抜粋)
図1 エネルギー資源確認可採埋蔵量および可採年数
図1  エネルギー資源確認可採埋蔵量および可採年数
図2 石炭火力発電のしくみと環境保全対策
図2  石炭火力発電のしくみと環境保全対策
図3 大気汚染物質除去のしくみ
図3  大気汚染物質除去のしくみ
図4 SOx、NOx排出原単位の国際比較
図4  SOx、NOx排出原単位の国際比較

<関連タイトル>
火力発電 (01-03-07-01)

<参考文献>
(1)東京電力:パンフレット「常陸那珂火力発電所」(2004.3)
(2)東京電力:パンフレット「TEPCO環境ハイライト、2003」
(3)瀬間徹(監修):火力発電総論、(財)電気学会出版事業委員会(2002年10月)、p.78−82, 93−117
(4)茨城県企画部ひたちなか整備課:パンフレット「火力発電所の概要」(2004.3)
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