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<概要>
 スペインの核燃料サイクルに関する活動は、2つの国有公社が中心となって進められている。1つは、1972年に設立されたウラン公社(ENUSA)で、ウラン採掘、ウラン製錬、濃縮、燃料の成型加工を担当している。もう1つは、1984年に設立された放射性廃棄物管理公社(ENRESA)で、使用済燃料を含めたすべての放射性廃棄物の管理をそれぞれ行っている。なお、ENUSAは形式上、民間企業のかたちをとっているが、出資者は政府系企業2社であり、実質的に国営である。
<更新年月>
2011年01月   

<本文>
 2011年1月現在、加圧水型原子炉(PWR)が6基、沸騰水型原子炉(BWR)が2基の合計8基が稼動しており、2009年の発電電力量は約505億kWhで総発電電力量の約17.5%である。発電設備容量は758.3万kWで、全発電設備容量の約8%を占める。原子力発電所は、エンデサ社(ENDESA:Endesa Generacion, S.A.)、イベルドローラ社(ID:Iberdrola Generacion, S.A.)、ウニオン・フェノーサ社(UFG:Union FENOSA Generacion, S.A.)、ハイドロ・カンタブリコ社(HC G:Hidroeloctrica del Cantobrico Generacion, S.A.)、ニュークレノール社(NUCLENOR:Nuclenor, S.A)の5グループにより所有されている(表1及び図1参照)。
 スペインは原子炉の新規建設は行わない段階的脱原子力政策を推進している。原子力プラントは10年ごとに運転許可を更新しなければならず、運転期間は40年が目安とされている。廃止された原子炉は2基で、バンデリョス1号機(ガス冷却炉)の他、2006年4月にはホセ・カブレラ(PWR)が閉鎖されているが、サンタ・マリア・デガローニャ(BWR)に関しては2013年までの運転延長が認められ、近年、既存原子炉の運転寿命を延長する柔軟な姿勢がみられる。
 一方、スペインの核燃料サイクルに関する活動は、2つの国有公社が中心となって進められている。1つは、1972年に設立されたウラン公社(ENUSA)で、ウラン採掘、ウラン製錬、濃縮、燃料の成型加工を担当している。もう1つは、1984年に設立された放射性廃棄物管理公社(ENRESA)で、使用済燃料を含めたすべての放射性廃棄物の管理を行っている。以下、その概要を示す。
1.ウラン資源・生産
 スペインは、かつては欧州の中ではフランス、スウェーデンに次ぐウラン産出国であったが、2000年12月末以来、ウラン鉱床の採掘は中止され、現在は操業をほぼ停止中で、閉鎖に向けた作業が行われている。2000年末までの総ウラン生産量は4,961トンUであった。
 ウラン探鉱活動は1951年に西部で開始された。1957年からはサラマンカ(Salamanca)州のフェ鉱床などが発見され、1965年にグアダラハラ州のマザレテ鉱床が発見された。ウランの採鉱・製錬は1958〜1980年にかけてハエン州のアンドゥハルで、1983〜1990年にかけてバダホス州のドン・ベニートで行われた。2007年4月にはオーストラリアのバークレー(Berkeley Resources Ltd.)社がサラマンカ地方で探鉱プロジェクトを実施し、Retortillo鉱床及びZona7鉱床を発見している。なお、海外ではニジェールのCominakのAkout鉱山に10%の資本参加をしている。
 また、精錬は、1975年に操業を開始したサラマンカ州シュダー・ロドリーゴのサエリセス・エル・チコ生産センターのケルクス精錬所が、フェ鉱山での2000年12月末での採鉱終了以降、規模を縮小して生産を継続していたが、2002年11月に生産を終了した。ケルクス精錬所の年間生産能力は800トンUであるが、閉鎖前の数年間は年間255トンUの生産量に留まった。
2.転換・濃縮
 六フッ化ウランへの転換と濃縮については、国内に工場がないため、ENUSAはユーロディフ計画(EURODIF:ガス拡散法、年間生産能力10,800トンSWU)に11.1%を出資するなど、全面的に海外(米国、ロシア、フランス)に依存している。
3.成型加工
 1985年にENUSAが、米国ウエスティングハウス社(PWR用)とゼネラル・エレクトリック社(BWR用)の技術支援を受けて、サラマンカ州フスバード(Juzbado)に燃料成型加工工場を建設し、運転している。このフスバード工場では、西側諸国のPWR及びBWR向けの二酸化ウラン燃料のほかガドリニウム酸化物燃料、フィンランド・ロビーサ発電所(Loviisa)向けのVVER燃料も製造している。製造能力は年間400トンUであるが、2009年の製造実績は322トンUであった。
4.放射性廃棄物の処理・処分
 スペインでの使用済燃料を含めた低・中・高レベル全ての放射性廃棄物の処理・処分を担当しているENRESAは、1984年にENUSAのバックエンド部門が独立するかたちで設立された。事業の実施状況は放射性廃棄物総合計画(PGRR)として取りまとめられ、政府と国会の承認を受けることになっている。
 政府は1983年、ウラン需給が緩和していることから、使用済燃料の再処理オプションは放棄しないが、当面行わないことを決定した。そのため、基本的には使用済燃料を高レベル放射性廃棄物として直接処分することが計画されている。ただし、フランスから導入したバンデリョス1号機(GCR、50万kW:1990年5月に閉鎖)の使用済燃料については、フランスに再処理を依託した。
 現在、軽水炉の使用済燃料は各発電所サイト内の使用済燃料貯蔵プールまたは所内暫定貯蔵施設に貯蔵されている。トリリョ1号機所(PWR、106万6,000kW)の場合、2002年で貯蔵プールが満杯になると見積もられ、1999年7月から同発電所サイト内に所内暫定貯蔵施設として乾式貯蔵施設を建設した。また、他の発電所サイトの貯蔵プールでも2013〜22年に貯蔵プールが満杯になると見積もられている。
 スペインでは当初、地層処分を最終管理方策の基本として、処分場のサイト選定に向けた地層の検討から、望ましい地方、さらに地域へと段階的な検討が1986年から開始され、1995年2月の第4次貯蔵・処分計画では、9,000〜12,000トンの使用済燃料を処分する能力を持つ最終処分場を2020年までに完成させるとした。そして、処分場選定と処理方法についての決定を2010年以降に行うとした。この考え方は1999年7月に承認された第5次計画でも踏襲され、2010年までに集中中間貯蔵施設(ATC)を建設し、利用できるようにするとしていたが実現せず、サイト選定活動は凍結され、最終管理方策の決定を先送りすることが示された。地層処分を含む最終管理方策の決定は、2006年6月の第6次計画でも最終管理方策は先送りされているが、地層処分を有力なオプションとして位置付け、2040年に処分場の建設開始、2050年から処分場の操業開始というスケジュールが示されると同時に、集中中間貯蔵施設のサイト選定を進める必要性が示された。集中中間貯蔵施設については、2009年12月よりサイト選定に向けた公募が行われ、複数の自治体が応募を表明した。2010年2月には、これらの中から9つの自治体(アルバラ(カセレス県)、アスコ(タラゴナ県)、コンゴスト・デ・バルダビア(パレンシア県)、メルガル・デ・アリバ(バジャドリド県)、サンテルバス・デ・カンポス(バジャドリド県)、トルビア・デ・ソリア(ソリア県)、ビジャル・デ・カニャス(クエンカ県)、ジェブラ(グアダラハラ県)、サラ(バレンシア県))が正式に承認され、今後、その中からサイトが選定される見通しとなっている。スペインで計画されている集中中間貯蔵施設は、オランダの高レベル放射性廃棄物等の貯蔵施設HABOGを参考に、7,000トンの使用済燃料、一部の使用済燃料の再処理に伴う高レベル放射性廃棄物等、並びに、約1,900m3におよぶ原子力発電所の解体廃棄物が管理される予定である。
 低・中レベル廃棄物は、各発電所内の貯蔵施設に一時保管された後、コルドバ州北西部のオルナチュエロスにあるエル・カブリル処分場で処分される。
 エル・カブリル処分場は浅地層貯蔵施設で、1961年から部分操業していたが、1990年から拡張工事が行われ、1992年7月に完成。1992年10月に政府より操業許可の発給を受けて正式に操業を開始した。この施設は、回収可能な形の貯蔵方式を採用しており、現在運転中の原子力発電所からのほか、医療、工業、研究機関等から発生する低・中レベル廃棄物を受け入れているが、すでに貯蔵容量の50%以上に達しており、2020年には設備容量を超えるとみられている。エル・カブリル処分場の処分施設概要を図2に、スペインの放射性廃棄物実施体制を図3に示す。なお、高レベル放射性廃棄物処分に関わる規制行政機関は産業・観光・商務省(MITYC)であるが、原子力安全と放射線防護に係わる安全性については原子力安全審議会(CSN)が行う。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 スペインの原子力発電所
表1  スペインの原子力発電所
図1 スペインの原子力施設所在地
図1  スペインの原子力施設所在地
図2 エル・カブリル処分場の処分施設概要
図2  エル・カブリル処分場の処分施設概要
図3 スペインの放射性廃棄物実施体制
図3  スペインの放射性廃棄物実施体制

<関連タイトル>
スペインの原子力政策・計画 (14-05-13-01)
スペインの原子力発電開発 (14-05-13-02)
スペインの原子力安全規制体制 (14-05-13-03)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編 1998年(1998年3月)、p.181-199および2003年(2003年3月)、p.269-293
(2)(財)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2011年版(2010年10月)、p.225-227
(3)(財)日本原子力産業協会:世界の原子力開発の動向 2010年次報告(2010年4月)
(4)(財)原子力環境整備センター:放射性廃棄物データブック(1998年11月)、p.38
(5)Centrales Nucleares ALMARAZ-TRILLO(CNAT):
(6)Asco-Vandellos Nuclear Association(ANAV):
(7)世界原子力協会(WNA):スペイン、http://www.world-nuclear.org/info/inf85.html
(8)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について、
及び

(9)放射性廃棄物管理公社(ENRESA):
(10)NUCLENOR:スペインの原子力発電所
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